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五機精の目覚め ――翠蒼の双児――

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五機精の目覚め ――翠蒼の双児――

リアクション


・邂逅 二


 地下二階、外周の一角。
「これは先月の私の推論を発展させた物なんだけど」
 クリムリッテ・フォン・ミストリカ(くりむりって・ふぉんみすとりか)が遺跡内を探索しながら、駿河 北斗(するが・ほくと)に説明し始める。
「何故今になってジェネシスの遺跡が連続して発見されているか、先月出た傀儡師って言うのから一つの仮説を立てる事が出来るの」
「請負人って事だったよな」
「そう。その人物が遺跡の場所を知っていたってことはつまり、誰かが『ワザと』発見させてるってね。これは逆説、私達よりジェネシスに詳しい何者かの存在を示唆してるわ」
 請負人は誰かの依頼があって初めて動く。だから彼女は考えたのだ。
 その依頼主が全ての元凶であると。
「……つっても本当に黒幕なんざ居るのかよー?」
 北斗は懐疑的だ。ただでさえそのほとんどを自身と助手で進めていたような節のあるワーズワースを詳しく知る人間なんてのがいるものだろうか。
「分かんない? 私達は今ジェネシスの遺産ってどういう物か。その全貌すら掴んでない。五精機以外はね。でもそいつなら、私達が使える様な『力』の存在を証明してくれるかもしれない訳よ」
 と、クリムリッテが北斗を諭す。
「『力』か……」
 彼の脳裏には守護者ノインの姿が焼き付いていた。あれほどの力を得られれば、もはや敵になるものはいない。
 納得したのか、北斗は傀儡師を探す事にした。とはいえ、すぐに見つかるものではない。外見的特徴も、十二歳くらいの少年だったという事くらいしか分かっていないからだ。
「ん、あれは?」
 そんな時、彼の眼前にある光景が飛び込んできた。

            * * *

「五機精ですか。あのガーネットとやらの力を先程見ましたが、力を抑えられた状態であれとは――実に素晴らしい」
 地下一階にて、PASD本隊の後方から戦闘の様子を観察していた東園寺 雄軒(とうえんじ・ゆうけん)は、歓喜していた。
 五機精ガーネットの強さ。そしてエミカの持つ紫電槍・改の威力。もっとも、後者はそれでも本来の魔力融合型デバイスには遥かに劣るのだが、それでも試作型星槍よりは大分強いようだった。
「おや、どうかしましたか?」
 パートナーのバルト・ロドリクス(ばると・ろどりくす)を見遣る雄軒。幻槍モノケロスを構え警戒している事から、何者かの気配を殺気看破で感じ取ったようだ。
 その方向にいるのは、一つの影。
「おや、早速出くわしちゃったか」
 その人物が口を開く。彼らには見えていなかったが、距離を置いて注意深くついて来ている者達がいる。
「見たところ、あなたはPASDの一員ではなさそうですね」
 雄軒が口を開いた。
「うん、見ての通りだよ。どうする? 三人でかかってくるかい?」
「いや、PASDでないならその必要はありませんよ、傀儡師さん」
 カマをかける。
「おっと、この姿にはあんまり意味はないみたいだね」
「やはりそうでしたか。五機精がこんな上にいるとは思えませんから」
 公開情報を閲覧した雄軒は、五機精や有機型機晶姫がいるのはもっと深い場所だと認識していた。
「単刀直入に言います。貴方達に協力させて下さい」
「また……? こうもたくさん来られると、何だか僕を罠に嵌めようとしてそうで怖いなー」
 からかうような感じの口調である。
「たくさん?」
「そう。まあ、いくら僕がこの身体で来たといっても、油断は出来ないからね。人手は多くても困らないし。もっとも、怪しい動きをしたらすぐに処分するからいいんだけどさ」
 背後に視線を送る傀儡師。
「バルト、ミスティーア、武器を下ろして下さい」
「……はい」
 バルトともう一人のパートナー、ミスティーア・シャルレント(みすてぃーあ・しゃるれんと)が武器の構えを解く。
「戦う意思はない、ってことでいいみたいだね」
 雄軒はそうだが、パートナーの二人が必ずしもそうだったわけではない。だが、彼は気付いていた。
 ――周囲を張り巡らす糸の結界に。
 下手に動いたらその場で細切れにされていてもおかしくはない。しかも、バルトに至っては機晶姫だ。操られてもおかしくはない。
「私は知識が欲しいのです。ジェネシス・ワーズワースの知識が。おそらくあなたを雇った人は、それを持ち合わせているのでしょう」
「へえ……鋭いね、君。まあ、その知識とやらは依頼主と交渉してとしか言えないけどさ」
 まだ背後の人物については口に出さない。
「じゃあ、君にはサファイア・フュンフの回収を手伝ってもらうよ」
 まずは仕事を手伝え、という意思のようだった。
「……それで、そこで僕らの会話を聞いてる君らはどうしたいのかな?」
 傀儡師の視線の先には、北斗とクリムリッテの姿があった。
「なに、俺も目的はそっちの人と同じようなもんだ」
 屈託のない笑顔で傀儡師に話しかける。近付かないのは、下手に動くと糸に触れるからだ。
「俺は単に知りてえだけなんだ。ジェネシスってのは単なる狂科学者だったのか、それとも犠牲を出してでも成し遂げたい何かがあったのか。でもって、俺にそれを得る資格があんのかって事をな」
「それも、依頼主に聞いてとしか言えないな。うん……」
 傀儡師は何事か考えているようだった。
「俺はジェネシスの遺跡の守護者ってのを倒した事も、ダークヴァルキリーを斬った事だってある。買っといて損はねえと思うぜ」
 魔導力連動システムの欠陥を見抜き、数十人掛かりだったとはいえ、彼が決定打を与えた一人である事は事実である。
「まあ、向こうは心配いらないか。それに……なるほど、それだけの力があるならこっちとしても仕事がやりやすくなるね」
 糸の結界が解ける。
「みんな、出てきていいよ」
 道中傀儡師に協力を申し出た面々が揃う。総勢十人。
「こんな大所帯になるとは思ってなかったよ。とりあえず、最優先はサファイア・フュンフの確保。それだけ手伝ってくれればあとは好きにしてくれて構わない。あくまで、請け負ってるのは僕だからね」
 それだけ言うと、天井の一部を糸で破壊する。ここまで降りてきたのと同じように、通気口のような場所があり、そこを伝う事でさらに下へも行けるようだ。
「このルートを通るなら、引っ張り上げるよ」
 勿論、傀儡師の糸によって、だが。
 PASDの人間に警戒されないためにも、この場は全員が傀儡師に続く事になった。
「じゃあ、行こう」

            * * *

(あれが傀儡師……ねぇ)
 高崎 悠司(たかさき・ゆうじ)は、傀儡師達のやり取りの一部を目撃していた。気付かれなかったのは、かなりの距離を保っていたからだ。
(でも、報告では十代前半の少年だったよな。違うって事は、今回は本体なのか? まあ、あれも人形かもしれないが……)
 悠司もまた、傀儡師の姿に違和感を覚えていた。
(もう少し早ければな。仕方ない、五機精のいるらしい最深部まで向かうとするか)
 隠れ身を使いつつ、遺跡内を進んでいく。
(ヤツの裏にいるのは一体何者だ? あのリヴァルトに関係した人物な気はするが……)
 リヴァルトがワーズワースであるという疑いはほとんど晴れてこそいるが、彼には気になっている事があった。
(そういえばニ十世紀最後の天才科学者、なんて謳われてたのがなんとかノーツって名前だった気がするんだよな。まさかなぁ)