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秋野 向日葵誘拐事件・ダークサイズ登場の巻

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秋野 向日葵誘拐事件・ダークサイズ登場の巻

リアクション


#3





 自己紹介の演出のためとはいえ、空京放送局の防犯シャッターが閉じてしまい、一時的に局内全体は密室となってしまった。
 逆に考えると、ダークサイズは放送局内でしばらく安全を確保したことになる。あくまで結果的に、ではあるが……
 局内に集まっていた面々は、とりあえず各々の目的を果たすため、動き始めた。


 郁乃たちとのやり取りの後、いつの間にかダイソウは姿を消した。
 人がごった返してダイソウに追いつけなかった久世 沙幸(くぜ・さゆき)は、どうやってダイソウを探そうか、まごまごしていた。

「あああー、見失っちゃった……これじゃあダイソウトウにサイン、いや、説得ができないよ」

 沙幸がキョロキョロ周りを見ながら歩いていると、


どんっ


と、人にぶつかって転んでしまった。

「いたた……もう、私ってばドジ……」
「おっと、大丈夫ですか?」

と声をかけてきたのは、ぶつかられた風森 巽(かぜもり・たつみ)
 巽は沙幸に手を差し出して、立たせてあげる。

「あれ? 貴公は陽太さんの作戦説明の時にいた方ですよね?」

 巽は影野陽太が、救出作戦を提案した時に見た顔だと思い出した。

「え? うん、そうだよ。君もそうなの?」
「ええ。ということは、あなたはダークサイズ説得グループですか?」
「うん! 久世沙幸っていうんだよ」
「我は風森巽です。ここで何を?」
「早速ダイソウトウを説得に行こうとしたんだけどね、見失っちゃったー」

 沙幸はてれてれと頭をかく。

「ああ。でしたら一緒に行きましょう。私も今から向かおうとしたところです」
「本当? やったぁ! いっぱい人がいた方が心強いもんねっ」

 沙幸は巽の手を握り、ぶんぶんと握手をする。

「あの〜、もしかして陽太ちゃん達と一緒にいた人たちですかぁ?」

 二人のもとに、間延びした声がかかる。

「そうですよ。おや、あなたも」
「ボク、ヴァーナー・ヴォネガット(う゛ぁーなー・う゛ぉねがっと)です。ボクもダイソウおじちゃんに、文句をに来たです。ラジオはみんなのラジオです。独り占めなんてだめですっ」
「そうだよねっ! こんなことしたら番組がつぶされちゃって、ダークサイド聴けなくなっちゃうよ」

 沙幸の相の手に、巽は

(ん?)

と違和感を覚えながらも、

「とにかく、どうやって彼の居場所を探しましょう?」

と二人に問いかける。

 沙幸はそれについてはすでに結論が出ているらしく、

「よく分かんないから、片っ端からドア開けて探しちゃおう! 一階からローラー作戦だよっ」

 沙幸は拳をぐんと上につきだして伸びあがる。マイクロミニのスカートが、まくれそうだ。

「そのスカートかわいー!」

 ヴァーナーは全力で沙幸のスカートに食いつく。

「えへへー。いいでしょー。お気に入りだもんねー」

 ヴァーナーはわき目も振らず、沙幸の太ももをさわさわする。

「やぁっ、もうヴァーナー! くすぐったいよー」
「サイドテールもかわいー」

 ヴァーナーは構わず沙幸の頭を触ったり、あげく抱きしめたりしている。
 すっかり目のやり場に困った巽は、

「さあ、ほら早く、行きましょう」

 と二人を促して、放送局の奥へと進んでいった。



★☆★☆★



 ダイソウトウは、今回の事件の拠点を、ビル7階の広間に置いていた。
 そこには彼を見逃さずについてきた多くの入団希望者のうち、側近志望者が集っている。
 ミヒャエル・ゲルデラー博士(みひゃえる・げるでらー)は、生来の目立ちたがり屋な性格から、他の誰よりも早く、ダイソウトウに意見を言い始めた。

「閣下。今日より私も閣下と呼ばせていただきます。閣下! 何ですかあの演説は!」

 ミヒャエルはのっけからダイソウを叱り始める。

「シャンバラはおろか、パラミタ大陸征服を目指す、その意気や良しッ! そのために放送を押さえる。その着眼点や良しですぞ。しかしながらそれを最大限利用するために必要なのは、言葉の力ですぞ。であるからには、人前で気分で話されるのは困りますな。我々ダークサイズは正当な悪の組織を目指すべきであり、つまり今後の空京放送局にてプロパガンダを行うべきなのです。我々の存在をシャンバラに示し、ダイソウトウ閣下! あなたはもっと影に隠れ、謎の存在となっていくべきです! そのおぜん立ては我々が行いましょうッ! あなたは組織の最も奥、かつ頂点に超然として泰然となさるべきなのですッ!」

 ミヒャエルは、ここぞとばかりにこれまで学んできた広報宣伝への思いをぶちまける。テンションの上がりきった彼はようやく我に返り、

「はっ、オホン、失礼。つい興奮を。で、ついでに私の幹部名ですが」

 ミヒャエルは自分の立場の確保も忘れない。

「ホーホー卿、的なものがよろしいかと」

 彼の話を聞いているか聞いてないか分からない表情をしていたダイソウは、ようやくミヒャエルの話に興味を持つ。

「ほう、ウィリアム・ジョイスか」
「おおっ、左様でございます、閣下」

 ダイソウの即答に、ミヒャエルは快感を覚える。ダイソウは少し考えて、

「どうせならゲッベルス的なものにしよう」

 と提案する。

「ゲ、ゲッベルスですとッ!」

(スポークスマンのつもりが、伝説の宣伝相ヨーゼフ・ゲッベルス! こ、こんなにも私を買ってくださるのかッ)

「よし、お前はゲッベホー卿プロパガンダ―だ」

 結局ダイソウは、ごちゃまぜの幹部名をミヒャエルに与えた。

「くはぁっ! 全部ないまぜにしてくださるとわッ!」

 ミヒャエルは悦に浸っている。

「ぺっぺけ豊胸プロパンガスぅ?」

 神代 明日香(かみしろ・あすか)は、トレイにお茶を乗せてカチャカチャと可愛らしく歩いてくる。彼女にはミヒャエルの幹部名はさっぱりピンと来ないようだ。

「まあ、今のは確実に違いますね」

 明日香に優しく突っ込みながら、一緒に食事を運んできたのは、神楽坂 翡翠(かぐらざか・ひすい)と、パートナーのフォルトゥーナ・アルタディス(ふぉる・あるたでぃす)

「はぁい、ダイソウトウさまぁ。お茶を淹れたですぅ。ちゃんと苦くないお茶ですよぉ」
「うむ。御苦労」
「さあみなさん、食事にしましょう。秋野向日葵さんを取り返そうという輩がいつ攻めてくるとも限りません。英気を養うことにしましょう」

 明日香とフォルトゥーナは、手際よくテーブルを並べてクロスをかけ、即席で貴族の食事会のような、見事な食卓をこしらえる。
 上座にはダイソウトウ。それに従って、ダークサイズのメンバーがずらりと並ぶ。人数だけ見れば、なかなかどうして、いっぱしの悪の組織の幹部会のようである。

「ダイソウトウさまぁ、向日葵さんにフルボッコにされたお怪我は大丈夫ですかぁ? 私に見せてください〜」

 明日香は小さな手で、ダイソウの顔をさわさわする。
 フォルトゥーナはそれを聞いて思い出したように、

「そういえば向日葵はどこなの? せっかくちょっと遊んであげようと思ってたのに……」

と、周りを見渡し、口元で、フフ、と妖しく笑う。
 ダイソウは明日香に触られるのもそのままに、

「彼女は別室だ。なかなか手を焼く娘だ。私を殴るのも、『顔はよしなよ、ボディにしなボディに』などと言いながら……」

と、腹部をさする。

「ダイソウトウさまぁ、お腹ですかぁ? それはイタイイタイですねぇ」

 明日香はダイソウの腹をさする。
 それを見咎めたのは、ミヒャエルのパートナーロドリーゴ・ボルジア(ろどりーご・ぼるじあ)

「むっ、閣下殿! 貴殿、顔を赤らめて何とする!」

 ロドリーゴはここぞとばかりにダイソウを叱る。

「あ! ほんとだぁ。ダイソウトウさま、かわいいですぅ」

 明日香は、ちょっと赤くなったダイソウの顔を見て、にこにこ笑う。

「貴殿! 組織の頂点に立つ者が、そのようなことで動揺してどうするか!」

 ロドリーゴは、少し理不尽なくらいに言葉を荒げる。

「だって、恥ずかしいではないか」

 ダイソウは臆面もなく言い訳。

「だって、ですとっ! まったく、そのような平易な言葉遣いでいかにするか!」
「それほどでも」

 ダイソウは無表情で頭をかく。

「褒めておらぬ! 頭をかくな! かわいい仕草をしてどうするっ!」

と、ロドリーゴは業を煮やして、悪の組織のトップにあるべき所作の指導をし始める。

「あはははっ! いいわねぇ。ついでにあたしも悪の在り方ってものを、あなたに教えてあげるわ」

 食事の席で様子を見ていたメニエス・レイン(めにえす・れいん)が席を立つ。

「最初の放送だと心配だったけど、あなたはなかなか面白いリーダーだわ。でも! あたしたち『悪』ってのは、もっとえげつない側面がなきゃだめよ! 鏖殺寺院のあたしが講義してあげるんだから感謝なさい!」

 メニエスは、向日葵をさらにきつく束縛するために持参していたロープを取り出し、ピンッっと目の前で張る。