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秋野 向日葵誘拐事件・ダークサイズ登場の巻

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秋野 向日葵誘拐事件・ダークサイズ登場の巻

リアクション

「何か今日、無駄に忙しいね、ハッチャン」
「うん。ホントに出演する予定じゃなかったのにね」
「つーか、みんな俺たちをいじりたがりすぎだよ……」

 ダークサイズの総帥と大幹部の二人は急遽、ゆるラジ! ダークサイドの収録のため、スタジオのブースに入る。
 二人がブースのドアを開けると、椅子にデンと腰掛けた男と、その脇に立っているドラゴニュートが一人。

「待っていたよ」

と、椅子に腰かけた黒崎 天音(くろさき・あまね)が、二人に声をかける。
 その脇のブルーズ・アッシュワース(ぶるーず・あっしゅわーす)は、乗り気でない表情で、天音を見る。

(まったく、一体何をするつもりだ、天音……)

「あれ、どなた?」

 天音はそんなハッチャンの問いにフッと笑い、

「ま、ダークサイズの一ファンとでも名乗らせてもらおうかな」
「素直にダークサイド大好きだと言ったらどうだ」

 ブルーズは天音の本音を、それとはなしにささやく。

「そんな恥ずかしいこと言うもんか」

 二人がこそこそしゃべっているところに、クマチャンが、

「あのう、収録しなきゃいけないんで、どいてもらえるかな……」

 天音はさらにフフと笑い、

「いや、僕がどく必要はない。なぜなら次回からのダークサイドメインパーソナリティは、僕だからだ」
「は、え、はぁ?」

 突拍子もない答えに、二人は間抜けな動揺をする。

「どういうこと?」
「そんなのIちゃんから聞いてないよ」

 天音は余裕たっぷりに、

「そのディレクターと話をつけたのさ……ダークサイズの脅しに屈するなって!」
「え? あんた、Iちゃんと直接交渉したのか! Iちゃんどこ行った?」

 二人は驚きを露わにする。

「今日は早退よ。代わりにワタシがディレクターをやってあげるわ」

 ハッチャンとクマチャンが振り返ると、そこには白雪 魔姫(しらゆき・まき)が立っている。

「ええ!?」
「安心して、いつもよりきっと、大幅に面白い番組になるわよ」
「おはようございまっす! ダークサイズ構成作家担当、日下部 社(くさかべ・やしろ)ですわ! がんばりますさかい、よろしゅう!」
「こ、構成作家ぁ?」

 社は二人に強引に握手し、

「いやあ、ちょっとした夢やったんですわ、構成作家。縁の下の力持ち! 気張らしてもらいますわ!」

(ダークサイズめ……向日葵さんを人質やと? うらやま、いや、許せんわい。今日はばっちり懲らしめたるでぇ)

 向日葵救出のためもぐりこんだ社は、心でにやりと笑みを作る。

「パーソナリティもディレクターも作家も変わったら、もはやダークサイドじゃないじゃん」
「ふふふ、大丈夫よ。今日はあなたたちをパーソナリティに使ってあげる」

 魔姫は、ポンと二人の肩に手を置く。

「ね、天音?」

 魔姫が天音に顔を振ると、天音はやれやれ、と両手を掲げ、

「仕方がない、ただし条件がある」

と、ハッチャンとクマチャンを見る。

「いや、条件って言われても、そもそもあんたが勝手に」
「その条件とは……僕に幹部の椅子を一つ用意してほしいってことさ」

 天音は、二人の反論を無視して要求を突きつけた。

「幹部?」
「そうさ、とびっきりいいやつをね」

(天音め、そういうことか……)

 ブルーズはため息をつく。
 ハッチャンとクマチャンは顔を見合せ、

「どうする?」
「まあ、いいんじゃない? それで番組が返ってくるなら」

 それを聞いて、天音はようやく椅子を立ち、

「よし、決まりだ。かっこいいやつを頼むよ。ブルーズ、行こう」
「何? もういいのか?」

 天音はすたすたとブースを出る。ブルーズは慌てて追いかけ、

「おい、幹部の椅子を得るために、わざわざ番組を乗っ取ったのか? ややこしいな」
「いいじゃないか」
「素直にダークサイズに入りたいと言えばいいだろう」
「僕がそんな性格じゃないことは、君が一番よく分かってるはずだ」
「む、それはそうだが」
「それに……あの台本でパーソナリティはやりたくないしね」
「?」
「ま、何だかんだで僕が一番楽して幹部になれたんじゃない?」
「うーむ。そう考えると……いや、しかし……」

 いろいろ考察するブルーズをよそに、天音は、いつものように、飄々と歩いていく。

「やー兄ぃ、やー兄ぃ、今からお仕事?」

 社から決して離れようとしない日下部 千尋(くさかべ・ちひろ)は、社の裾を引っ張りながら尋ねる。
 社はしゃがんで千尋の肩に手を置き、

「せやで、ちー。今日は俺の記念すべき作家デビューの日や。スタッフの身内の特権やさかい、今日はたっぷり見学していってな」
「わーい! すごいね、やー兄! がんばってねー」
「おう! まかしとき!」

 魔姫はブース内に向かい、

「じゃあ早速本番行くわよ」

と、二人をブースの席に放り込む。

「え? 打ち合わせは?」
「あなたたちプロでしょ。そんなの必要ないわ」

 魔姫は強引に本番のカウントダウンを始める。

「いやいや、必要だよ! プロとかアマとか関係ないよ!」
「これ、今日の台本や」
「はい、スタート!」
「わあ、始まっちゃった! えっと、今日も空京放送局は闇に包まれない。あれ?」
「我々は、謎の、並の、間抜けな、ひみちゅの、なんだこれ!」

 社が執筆した台本は、ばっちりおかしな改編をされたものだ。

(ぎゃははは! ダークサイズめ、慌てとるわい)

 社は心の中で笑いが止まらない。

「社!」
「はいよディレクター」
「グッジョブ!」
「あざっす!」

 社と魔姫のタッグは、ダークサイズに追い打ちをかける。

「最初のコーナーは何?」
「シュークリーム(全部からし入り)のロシアンルーレットや」

 魔姫と社はシュークリームを運び入れる。

「さあ、食べなさい」
「え? ただ食うだけなの?」
「ええからええから!」

と、強引にシュークリームを二人の口に押し込む。

「ぎゃああああ! 全部からし入ってるー!」
「わー! あの人おもしろーい。変な顔してるよー」

 千尋は手を叩いて喜んでいる。

「あーっ! 掃除したそばから汚してんじゃねえよ!」

 遠くからトライブが文句を言っている。
 魔姫はそんなクレームお構いなしに、

「よし、次は?」
「お便りコーナー、いきまひょ」
「それならば! ワテのお便り読んで欲しいであります!」

 チャンスをうかがっていたマリー・ランカスター(まりー・らんかすたー)が名乗りを上げる。

「向こうでは、透乃ちゃんが秋葉原四十八星華のアピールのために、番組作りをしているであります。ここはワテもアイドルの一員として、アピールに貢献するでありますよ!」

 マリーは用意していたお便りを、ブースに投げ込む。
 それを、口を押さえながら拾い上げるハッチャン。

「はひ、じゃあお便り読みます。秋葉原四十八星華マリー・ランカスターさんから」
「よしっ! 秋葉原四十八星華の名前が電波に乗ったでありますっ」

と、マリーはガッツポーズ。

「『総帥大幹部いつも楽しく番組を聴いていて同時に私はお洗濯をしたり食事を作ったりしており秋葉原四十八星華の活動のため歌を作ったり歌ったり活動方針を話し合ったりしてメンバーを集めるために日々頑張っているであります。』一文が長えー!」
「次のお便りであります!」
「えっと、『今日はきゅーこーほうきょうきょくで』」
「うわ、噛んだ!」
「違う違う! そう書いてあるの」
「嘘だ。噛んだでしょー」
「違うって書いてあるんだって!」

 二人のやり取りを聞きながら、魔姫もガッツポーズ。

「いいわっ! ダメダメっぷりが120パーセント発揮されてるわ! よし、次!」
「じゃあ、カナリーちゃんのお便りも呼んで欲しいよぉ」

と、マリーのパートナーカナリー・スポルコフ(かなりー・すぽるこふ)もお便りを投げ込む。

「USO? ホント? のコーナー。あれ? これダークサイド宛てじゃないんじゃないの?」

 戸惑うクマチャンに、

「いいからいいから、読んじゃって!」

 テンポよく番組を進めるように指示を出す魔姫。

「秋野向日葵ちゃんが持ってる、ストラップでジャランジャランになってるケータイ。あのメモ帳機能には、恥ずかしくて乙女なポエムが詰まっている」
「うわ! うちに向日葵ネタぶっこむなよ! あいつ怒らせると怖えんだから!」

 ブースの二人は戦々恐々としている。
 魔姫は、カナリーに、親指を立て、

「グッジョブ!」
「よっしゃ、次のコーナーいこか! 近くのコンビニに、何秒で買い出し行って帰ってこれるか競争! 二人同時にいくで!」
「うおい! 二人抜けたら放送事故だろ!」

 もはや、クマチャンとハッチャンは彼らのおもちゃと化している。

「てええいっ! ダークサイズ! 空京放送局を全部乗っ取ろうなんて許さないぞっ!」

 そこにブースのドアを蹴り開けて、小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)がなんと本番中に乱入。

「うおい! 今本番中だぞ!」
「うるさいっ! 『りかまる元気MORISOばっ!』は絶対に渡さないもん!」

 美羽は有無を言わさず、早速強硬手段に出る。

「ディ、ディレクター! これ大丈夫かいな!」

 さすがの社も慌てる。
 魔姫は腕を組んで一瞬考えたが、

「続行!」

と、ゴーサイン。

「えーいっ!」

 美羽は気合い一発、許すまじダークサイズに、怒りの鉄拳をぶつける。

「君らがッ!」


バキッ


「泣くまでッ!」


ドガッ


「殴るのをやめないッ!」


ズガァッ!


「ぎゃああー! こんなの放送できねえよー!」
「あ。りかまる元気MORISOBAばっ! みんな聞いてね」

 美羽は目ざとく空いたマイクに、一言。

「うちでりかまるの宣伝すなー!」
「いいッ! これいいわ! ゾクゾクする!」

 魔姫は自分の采配にすっかり満足している。



 ダークサイドの本番は、大混乱である。
 寛太は独りブースに篭り、ぶつぶつと録音をしている。
 だいぶ興奮しているようで息も少し荒いが、内容は絶対に公開できないことばかりだ。
 透乃たちは、秋葉原四十八星華の宣伝番組と作ろうと奮闘中だが、緊張のためか上手くしゃべれていない。
 ダイソウは、そんな様子を眺め、

「いいぞっ。我々ダークサイズは、なかなか愛されているようだ」

と、なぜかご満悦である。

「な、なんだか盛り上がってるですぅ……私の出る幕は……」

 咲夜 由宇(さくや・ゆう)は自前のエレキギターを抱え、一人呆然とスタジオの隅にたたずんでいる。

(せっかくここまで来たんですしぃ……演奏してみたいですぅ)

 おろおろする由宇を見て、ダイソウが声をかける。

「そこの者」
「は、はひっ!」
「ギターを弾くのか?」
「はぃ、私、メイドなミュージシャンを目指してるですぅ」
「ほう、ダークサイズでは、ミュージシャン枠はまだ空いているぞ」
「ええっ、も、もしかしてスカウトですかぁ……?」
「スカウト? ダークサイズは甘くないっ」

 ダイソウはなぜか由宇にキレる。

「ひぇっ」
「ではオーディションだ。一曲演奏してみろ」

 突然ダークサイズのミュージシャン枠に誘われた上、オーディションと言われて、由宇は急に緊張してきた。

「な、何を弾きますかぁ?」
「では、私の好きなラクリモサをリクエストしよう」
「ふえぇっ、エレキギターでモーツァルトですかぁ?」

 とにもかくにも、演奏できるチャンスができたので、由宇はエレキギターを構える。
 ギターの少し歪んだ音に乗って、悲哀に満ちたメロディが流れる。
 エメが、その演奏を中継する。
 そこへ、クロスが情報部として報告に来る。目に入るのは、エレキギターのモーツァルトと、スタジオで繰り広げられる、あまりにミスマッチな狂乱。

(ずいぶん面白い感じになってますね……)

 クロスはダイソウに向かい、

「閣下、大変です。秋野向日葵を奪還しようとする者たちが、攻めてきました」
「む、シャッターはどうした」
「局内に潜り込んでいた者が、内側から開けたようですね」
「そうか。戦闘は面倒くさいのであまりやりたくないが、仕方がない……」

 ダイソウは一つ息を吐いて、

「聞けいっ! ダークサイズ総員、戦闘配置!!」