シャンバラ教導団へ

百合園女学院

校長室

薔薇の学舎へ

蒼空とプールと夏のお嬢さん。あと、カメ

リアクション公開中!

蒼空とプールと夏のお嬢さん。あと、カメ
蒼空とプールと夏のお嬢さん。あと、カメ 蒼空とプールと夏のお嬢さん。あと、カメ

リアクション

 SCENE 10

 九条 風天(くじょう・ふうてん)はれっきとした男子である。それなのにときどき女性に間違われる。なぜか『彼』ではなく『彼女』と呼称されることも少なくない。容貌が端正すぎるからだろうか、物腰が柔和なためだろうか。だが今日は確実に間違われることはないだろう。なぜなら男物の水着だからだ。しかし、どことなくなまめかしい。
「このプールは……?」
 さてそんな風天が、椰子の木陰に発見したのは妙に小さなプールだった。美しい水をたたえているが、どことなく雰囲気が怪しい。子ども用……にしては深いし、うっすらと桃色で、椰子や植え込みで絶妙に隠されている。これは何だろう、入ってみようか。
「小さいけど、水が冷たくて気持ちいいですね」
 入ったすぐにところに腰掛けられるようになっている。座って目を閉じると、絶妙のリラックスポイントであることに風天は気づいた。椰子の葉がそよそよと揺れ、木漏れ日も優しい。
 そういえば、連れの二人はどうしたのだろう。屋台で何か買ってくる、と言っていたから、戻る頃までには上がって外に出ておきたいものだが。
(「……あ、でも眠ってしまいそうです……」)
 これぞリゾートというものだ。うつらうつらしはじめた風天である。
 ところが、
(「風天めこんなところにいたか。ほうほう、どうやらカップル用プールに入っているようだな……」)
 かさ、と茂みから白絹 セレナ(しらきぬ・せれな)の首が現れた。両手にはよく冷えたジュースの缶がある。
 狐であるが猫のように音を立てず、黒いビキニのセレナはひたひたと風天に近づく。半ば眠っているらしく、彼は彼女に気づく様子がなかった。
(「カップル用ならば、相手役が入ってやらねば格好が付かないだろう」)
 ニヤっと笑うとセレナはジュースを置き、するりとプールに身を降ろした。
「あの……」
 風天もさすがにこれに気づいて目を開けた。息がかかるほどの距離にセレナの顔がある。彼の体にのしかかるようにして身を寄せていた。
「狭いのですけれど」
「ん? ああ、狭いな。まぁそういうモノらしいからな」
 ニヤニヤしながらセレナは両腕を、風天の脇の下に通した。抱き合うような格好となる。
「それに、何か色々当たっていますし……」
 さもあろう、このプールは二人で使用する限り絶妙に密着を強いる構造になっているのだ。ところがセレナはますます笑み崩れて、
「はっはっは、それは私が当ててるからな。どうだ? お姉さんの魅力に気が付いたか? ん?」
 うりうり、と風天の裸の胸に、薄い布越しのやわらかな膨らみを押してくるのだった。それだけではない、脚と脚を絡め、縦に横にとすりつけたりもする。
「まさかこのプールの設計意図を知らなかったわけではあるまい? これぞカップル用プールの正しい使い方なのだよ。私を待っていたのだろう? 正直に言うが良い」
「いえそんな……カップル用プールだったとは……。まあ、白姉は昔から一緒ですし慣れてるので、密着されても構いませんけれど」
 うそぶく風天にやる気が刺激されたのか、セレナは半目になって、
「ほーう、そうか。なら仕方がないな。もっと色々と……」
 密着の度合いを強め、絡み合ったまま風天の耳元に唇を寄せ、切ない吐息すら上げはじめたではないか。
「わ、わわ分かりました。嘘です! 嘘でした! だから早く離れて下さいよっ」
「素直なのは結構、だがこうなってくるとますます気分が乗ってきてなぁ」
 危うし風天! な展開だがここで、あらあらしく茂みをかきわけ、ふりふり付き白ビキニの坂崎 今宵(さかざき・こよい)が姿を見せたのである。
「炭酸五倍の強烈コーラを買いに行っていたもので手間取って……あ、ジュースを買いに行っている隙に……!」
 今宵の手から二本の缶が転がり落ちた。目の前では風天とセレナが何やら秘め事(?)を繰り広げているではないか!
「姉さま、殿の独り占めはずるいですっ! 私も入らせて頂きます!」
 言うが早いか今宵はプールに飛び込んだのである。
「ちょっ……! 今宵、もうここは定員オーバーです!」
 ただでさえ狭いプールに三人は無理がある。快適だった水中はやにわにおしくらまんじゅうの会場へと変化した! 当然、絡み合う腕と脚も二倍、風天に押しつけられるものも二倍である。
「二人のむ、胸で……息ができな……ごぼごぼ」
 風天は……悶絶した。

 このカップル用プールは他にも数カ所ある。
 和原 樹(なぎはら・いつき)フォルクス・カーネリア(ふぉるくす・かーねりあ)も、遊んでいるうちにその一つに入ってしまう。無論、入ってすぐに、このプールの本来の目的に気づいたわけだが、示した反応はまるで異なる。
「ちょ、ちょっとまってちょっと待って、これ、絶対違うと思うんだ。狭いし遊べないし……男二人が水着で密着状態だとか、いくらなんでもイタい…!」
 そう、和原樹は男の子、そして、
「ということはつまり、噂に聞いたカップル用プールってやつか。ふふ、ショコラッテたちが離れた隙にこんなところに連れ込むとは、大胆だな樹」
 フォルクス・カーネリアも男の子なのだ。
 和原樹は身悶えして逃れようとし、フォルクスはそんな彼を、蜘蛛の巣にかかった獲物のように捕らえて放さない。
「誤解だ。違うんだ、俺は本当に日陰を探してただけなんだ! 入ったのは暑かったからで、ちょっと涼んだら他の場所に行くつもりで……」
「照れなくてもいい……俺なら、覚悟はできてる」
「何の覚悟だ!」
 だが問答無用、フォルクスは右手でぐいと、樹の両腕を頭上に押さえ込んでいた。
「そういえば直接肌に触れたことはあまりなかった、と思ってな。お互い、この機会に少し慣らしておくか……」
「だ、だから話を聞け……こら、変なとこ触るな……撫で回すな!」
「感じやすいんだな、お前は。ただ撫でているだけだというのに」
 ちなみに本当にフォルクスは、彼の首筋を指先でなぞっているだけである。変な想像をしないように。
 冗談か本気か、フォルクスはくすくすと笑って告げた。
「それとも、もっとデリケートなところに触れた方がいいのか? こんな感じで」
「そ、そんなことされたら俺、ダメだ……もう無理……っ」
 これも、くすぐったくて我慢できない、というだけの意味なので誤解なきよう。
 しかしそのとき、
「マスター、助けてください!」
 と転がるようにして二人の前に、半泣きの表情でセーフェル・ラジエール(せーふぇる・らじえーる)が姿を見せた。
「あ、セーフェルいいところに。助けてくれっ」
「マスターこそお助けをっ」
 セーフェルは事情に気づかぬまま、プールにから樹をひっぱりあげてしがみつく。ところがここに第二の闖入者あり、
「セーフェル、2人の邪魔したらダメ!」
 とてとてと駆けてきたのは、水着姿のショコラッテ・ブラウニー(しょこらって・ぶらうにー)だ。
「ああっ、恐怖の大王が来ました!」
 セーフェルはすくみあがった。
「セーフェル、それ、どういう意味」
 と述べてショコラッテが迫り来る。なんだか話が混乱してきた。
「ちょっと待って、みんな、話を整理しよう! なんかもう大変だぞ……っ」
 というわけで和原樹が両手を振って全員をそこに座らせたのである。
 やはり恐怖が消えないのか、セーフェルは樹の背後に隠れながら述べた。
「……つまり、ショコラッテは……あの殺人的なウォータースライダーや波のプールに私を突き落とそうとしたのですっ」
「なるほど、でもショコラちゃん……いくらカナヅチを直すためでも、やりすぎじゃないか?」
 樹が指摘するも、
「ショック療法で水に対する恐怖を克服できると思ったの」
 かく応えるショコラッテの瞳は純粋な色彩を湛えていた。偽らざる本心だろう。
「それで、お二人は何を?」
 今度はセーフェルが問う番だった。
「ふざけていただけだ。別にたいしたことはしていないぞ。樹の言い方がエロいだけだ」
 フォルクスはちと憮然とした表情である。樹がセーフェルを気遣って肩を撫でてやりながらも、自分からはじりじりと距離を取っているのが微妙に気に入らないのだ。しかし樹は納得しない。
「誰がエロだっ、この変態痴漢男!」
「そのわりには多少、悦んでいたようにも思うぞ」
「悦んでない! 断じて悦んでない!」
 ばきっ、と樹の拳が飛ぶのである。
 そんな中、一人冷静なのがショコラッテだ。
「樹兄さん、フォル兄もまあその辺で。休憩といきましょう」
 と言って、セーフェルを追いながら屋台で買ってきたものを披露した。
「これ。たこ焼き。それから、明石焼きに箸焼き。焼きそば。焼き鳥とケバブ。お茶とラムネとアイスティー。フランクフルトにポップコーン……」
 次々ものを出してくる。
「ショコラちゃんそれ全部買ったの?」
「いいえ」
 ショコラッテは首を振った。
「まだ『全部』、じゃない。これで半分くらい」
 普段見ない食べ物もあったから、つい、と言うショコラッテである。
 なんにせよ、食べていれば皆ご機嫌、ここでしばし歓談といこう。

 セレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)セレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす)も、二人っきりの時間のクライマックスをこの場所で迎えていた。
「ねえ、この小さなプールって?」
 花柄のトライアングルビキニ、やや上気した顔でセレンフィリティが問う。
「カップル用プールというもののようね」
 パライバブルーのチューブビキニ、冷静なセレアナは興味なさげに言った。
「入ってみる?」
「私は、こういう狭いのは好きじゃないわ」
「そっか、じゃあ屋台にでも……」
 と背を向けようとするセレンに、さりげなく、実にさり気なくセレアナは言うのである。
「別に、嫌って言ったわけじゃないけど」
「じゃあ入ろうか、二人で!」
「ちょっと、何考えてるのよ? 入るだけよ入るだけ」
 意識的にプールのほうを見ないようにしてセレアナは断じるのである。けれどセレンはわかっている、これがツンデレというものだと。
(「セレナだって本当は興味あるくせに……可愛い」)
 そして二人はプールに入った。
 形の良い眉をややしかめて、セレアナは窮屈そうな顔をした。
「ねぇ、ちょっと狭すぎない?」
「そう? あたしは好きだな……セレアナの体温が感じられて」
「体温、って……水が冷たいだけじゃない」
 セレアナはクールに応えたつもりだろうが、無理をしているのがセレンには筒抜けだ。なぜって、その鼓動が高まったのが腕に伝わってきたから。
「セレアナって、良い匂いするよね」
「そう……自分ではわからないわ」
 彼女の黒髪に、セレンは顔を押しつけて、
「うん。とっても良い匂い。あたし、好きだな」
「おだてても何も出ないよ」
 と述べるセレアナの頬に、淡い笑みが浮かんでいるのをセレンは確認した。
「……キス、しよっか」
 セレンの言葉に、セレアナは言葉を返さなかった。
 唇で応じた。
 小鳥がついばむような数度の軽いキスが、抱き合い求め合うディープキスに変わるのに、それほど長い時間は要しなかった。
 椰子の葉が二人を覆い隠す。
 セレンの長い指が茂みから現れ、ブルーのブラをそっと床に置くのが見えた。