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蒼空とプールと夏のお嬢さん。あと、カメ

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蒼空とプールと夏のお嬢さん。あと、カメ
蒼空とプールと夏のお嬢さん。あと、カメ 蒼空とプールと夏のお嬢さん。あと、カメ

リアクション

 SCENE 08

「うくっ……不覚……!」
 ジーナ・フロイライン(じいな・ふろいらいん)のセクシーな水着姿に、緒方 章(おがた・あきら)は思わず鼻血が出そうになった。
「う……ぶばっ!」
 振り返って林田 樹(はやしだ・いつき)に眼を向け、ついに大量出血! 前門の虎後門の狼ならぬ、前門&後門のセクシーガール! 二人はまるで、プールサイドに咲いた二輪の華なのだ。とはいえ彼女らを意識していることを懸命に隠して、
「……っとと、久々に健康的なイベントに参加したものだから、太陽が暑すぎてのぼせてしまったようだな」
 などと咳き込みながら章はタオルで血を拭うのだ。
「おいおい情けねぇな、どれ、止血してやるから見せてみろ」
 そんな事情にとんと気づかず、樹はたわわな双つの果実を揺らしながら章に近づく。ジーナに与えられて(押しつけられて?)着た水着だ。胸元にフリフリのついている黒ビキニ、こういう胸を強調する服は樹の好みではないし、なにより、動くと胸がたゆん揺れるのが邪魔でしょうがない。しかし『一般のプールなので学校指定水着は御法度』と言われて仕方なく着ているのだ。
 ともかく、林田樹がそのダイナマイトバディで迫ってくるのは、章にとってはガスタンクが転倒するようなピンチといえよう。そのココロは、どちらも招くのは大爆発! お粗末。
「あー、こんな餅はいいんですよ。ほらあんころ餅、出血する元気があるんなら献血でもしてきやがれですよー」
 ていん、と章に回し蹴りを入れて追しのけ、ジーナはうふふと彼女の水着姿に目を向けた。上からしたまで、舐めるような視線で鑑賞する。
「ああ、樹様、そのお姿、予想以上に素敵です♪」
「なあ、洪庵は放っておいていいのか?」
「あれは血が余っているだけのアホです。ご心配には及びませんよ♪」
「なんだとこのカラクリ娘がー! お前の重さじゃ、プール入っても速攻で沈むのがオ……」
 ぐぼ、と声を発して章は膝を折って崩れ落ちた。ジーナが彼の水月(みぞおち)に蹴りを見舞って悶絶させたからである。
 仲良く(?)ケンカする章とジーナを見て首をすくめ、改めて樹は問うた。
「……それはそうとジーナ、こうして見ると会場内に指定水着の姿もちらほらあるんだが? たしか禁止では?」
「え、えーと、それは……あっ、カメカメ! あそこにいるのが例のカメですよ!」
 ジーナは手を叩いて強引に話題転換する。そう、カメなのだ。彼らは巨大カメを移動させるべくここに集まったのだった。
「かめー! かめかめかめかめうらしまたりょう〜」
 と叫んで飛び出たその子は林田 コタロー(はやしだ・こたろう)、カエル姿のゆる族である。童謡を歌いながら林田樹のところまできてぴょんぴょん跳ねる。
「ねーたんねーたん、かめしゃんたすけたら、こた、りゅーぐーじょーにいけるんれすよ」
「竜宮城?」
「そうれす! おっきーかめしゃんらから、おっきーりゅーぐーじょーにいけるお!!」
「……はぁ、まあ、かまわんが、おぼれるなよ。家の風呂でさえ、深くて恐いって言っているからなぁ」
 どこで学んだのかコタローは、浦島太郎の昔話を真実と信じて疑っていないらしい。はやくはやくー、と声を上げてカメのいる方向へ走る。
 かくて、聞きしに勝る巨大カメの眼前にたどり着いた。
 確かに巨大だ。聞いていた通りのサイズであり、重量感も圧倒的だ。こういう遊具なのかと勘違いしてしまいそうなべらぼうさである。しかも強烈に目つきが悪い。これでは一般の従業員にはとても手が出せないだろう。
 すると出し抜けに樹は、
「コタロー、骨は拾ってやる」
 と一声言い残し、コタローを担いで放り投げた!
「はうー?」
 浦島太郎気分だったコタローは、目を丸くしてカメの前に着水し、
「はう、かめしゃん、こんにちは……あうっ!」
 見事、カメの突進を喰らって吹き飛んでしまったのである!
「おっと噂は本当らしいな。よし洪庵、出番だ!」
「ここだけの話だが樹ちゃん、似合ってる。その水着、学校指定水着の百倍似合ってるよ!」
「あんころ餅ぃ! どさくさに紛れて樹様を口説いてるんじゃねーですよ!」
 章を蹴り飛ばして水に落とし、ジーナもプールに飛び込む。
「かめしゃん、ごきげんなおしてくだしゃいれすー」
 吹っ飛ばされても元気なコタローも復帰、プールを泳いでカメに近づくのだ。
 カメはカメとして、デート気分満点のジーナ、そんな彼女と張り合うようにしてカメに吹き飛ばされる章、そしてやっぱり浦島気分のコタローに、ずっとマイペースの林田樹――四人チームはでこぼこな個性ながらも、カメの足止めに成功している。
「よし、カメは彼らが足止めしてくれてるね。次に大切なのはリラックスさせること……なんとかして緊張を解かないとっ!」
 このときのために、久世 沙幸(くぜ・さゆき)が用意してきたものがある。それは売店で購入したカメ、もとい、カメ型の浮き輪だ。子ども用なので少々きついが、小柄な沙幸ゆえなんとか胴に通すことができた。頭に四肢、しっぽまでついているカムフラージュアイテム(?)である。
「仲間がいるって言うことが判れば少なからず安心するんじゃないかなっ! よし、装着完了!」
 四人組がカメとどたばたやっている間に、プールにつかってゆらゆらと前進する。
「待っててよ、カメ太郎君、お友達を連れていくからねー」
 仮にカメをオスと仮定し、名前もつけて沙幸はゆっくりと近づくのだ。
「どうやらウミガメの仲間らしいな……スッポンとかいう種類だったら鍋に出来たんだが。残念だ」
 などと言うルース・リー(るーす・りー)に、ズィーベン・ズューデン(ずぃーべん・ずゅーでん)は冷たい目を向けた。
「ちょっと……不謹慎じゃない?」
「な、何言ってんだ冗談に決まってるだろ冗談、痩せても枯れても俺は侠だ。そんな野蛮なことはしねーよ」
 思わずしどろもどろになる。
「本当〜? プールに浮かれて、バカンス気分になっちゃってるんじゃない?」
「バカ言うな、仕事モードだ仕事モードっ! なら言うがそういうズィーベンこそバカンス全開だろーが、その格好っ!」
 本日、ズィーベンはフリフリのワンピース水着なのである。腰にはハイビスカス柄のパレオを巻き、髪も赤いリボンでくくっている。
「なんでボクだけこんな水着なんだYO! ……って違う違う! これしか水着がなかったんだっての! ナナが真剣なんだから僕だって真剣だよっ!」
「嘘つけ、全力で遊ぶ気だろーが」
「いや、だから真剣にとっとと解決して、終わらせてから遊ぶのっ! ほら、もう行くからっ!」
「……頼んだぞ」
「ルースもね」
 言い争いはしばしばだが、心の底では互いを信じ合っているルースとズィーベンである。ズィーベンは魔法の箒にまたがり、ルースは一輪台車を手で押してカメに向かう。
 先にカメに到達したのはルースだ。
「さてと、ナナとズィーベンのために時間を稼にゃな。お前の相手はこっちだっ!」
 ドラゴンアーツで水面を叩き、水柱を上げて注意を……惹いたはいいが直後、カメに突進されて錐揉みしながらすっ飛んでいった。だがこれでいいのだ。
 一方ズィーベンは空中で、同じく箒に乗って飛ぶナナ・ノルデン(なな・のるでん)と合流する。
「じゃあナナ、手はず通りに」
「はい、ではカメさんの真上に降りますよ」
 金髪のナナ、白銀の髪のズィーベン、二人は交差してそれぞれ、カメの背の広い甲羅に着地した。ルースが身を張ってカメに隙を作ったので難なく着地する。
「カメの甲羅のミゾは神経が通ってたりするんだ。だから、こうする事で気持ちよくなってリラックスするはずなんだよ」
「ならばメイドの力の見せ所ですね♪」
 またがってきた箒を逆さにすると、ナナは早速掃き掃除を開始する。
「カメさんカメさん、気持ち良くしますよ〜」
 恐ろしい巨大生物の背であることを忘れたかのように、鼻歌まじりに箒をふるうのだ。ズィーベンは目を丸くしていた。
(「いやはや、ナナってまったくお人よしだよね……カメなんて誰かが何とかしてくれるだろうに」)
 しかしそんなズィーベン自身、ナナと協力して掃除を行っているのだ。本当はズィーベンも心優しいのである。もっとも、そんなことを指摘されようものなら、「さっさとナナと遊びたいから、仕方なく手伝ってるだけだよ!」と即否定されそうだが。
 この行動は大きな効果を発揮した。あれほど荒れ狂っていたカメの目が、半月型から円形に形を変えたのである。
 そこに、ちょうどいいタイミングで沙幸が到着する。
「ほら、カメ太郎君、お友達だよー」
 一か八かであるが躊躇するような沙幸ではない。カメの顔面に身を寄せて声をかけたのだ。
「随分暴れたね、でも、私たちは敵じゃないよ。カメ太郎君と仲良くなりたいだけ」
 カメの目玉が沙幸をとらえた。
 さしもの沙幸も緊張する。樹らもいるとはいえこの距離だ。突進されればただでは済むまい。あの大きな口に呑み込まれる畏れもある。
 しかしそれは杞憂に終わった。カメはむずがゆそうに首を捻ったのである。
「カメ太郎君、それは……っ!」
 沙幸は息を呑んだ。突然、カメの首と甲羅の隙間から、バスケットボールほどもある虫が飛び出したのだ。ノミに似た姿で長い棘状の口をしている。
「かめしゃんのふきげんのりゆーがわかったお!」
 わるいむしだお、と言うが早いかコタローは、腰だめにした火炎放射器から一条の炎を噴き出して巨大ノミを焼いた。
 これを見て、甲羅の上にてズィーベンは手を叩くのだ。
「お、これがホントの『おぶつは焼毒だー!』だね」
「前から思ってたんだけどそれ、どういう意味なんです……?」
 ナナは不思議そうな顔をしている。
 他にも小さい虫が数匹出てくるが、
「大きな事件に見えても原因は些細なことだったりするものだな。害虫駆除と行くか!」
 と林田樹がショットガンで撃ち抜き事なきを得ている。
 カメの傷ついた部分をすかさず、ジーナがナーシングにて癒す。
「他には虫の形跡はなし……と、かくて、カメを苦しめた原因は取り除かれたようだね」
 甲羅の内側を調べて章は、もう大丈夫、と太鼓判を押したのである。
 沙幸が手を伸ばすと、カメは頭を垂れて瞼を半ばまで閉じた。
「良かったねカメ太郎君」
 カメの頭は、長の年月を波にさらされた岩のような手触りだ。
「こんなところで一人ぼっちにされて大変だったな? ま、こいつでも食べて楽にしてくれ」
 と、カメの口元に一輪台車を持ってくるのはルースなのである。台車の上にはカメの餌が山と積まれていた。
「うわ、よくそれだけのエサが用意できたね。持ってきたの?」
 沙幸が問うもルースは首を振る。
「いや、そこの飲食店で偶然売っていた。運が良かったようだな」
 なおこのエサは、現在もミルディア・ディスティンの店で好評発売中である。
 エサをモソモソと食べるカメは、もうあの危険な動物ではない。
「わーいわーい、かめしゃんのせなか、ひろいれす。ひろいれすー」
 コタローが背に乗っても悠然としている。
「あーあーあーマイクのテスト中マイクのテスト中、聞こえますかー」
 そのときプールの対岸から、マイクを通した音声が聞こえてきた。ただ、ボリュームが安定しないらしく、声は大きくなったり小さくなったりを繰り返しぐにゃぐにゃしている。
「調整中調整中、よし、ちょっと落ち着いてきたな……」
 ようやく通りがよくなってきたらしく、マイクを片手にその人物はカメとその周囲の人々に呼びかけるのである。
「えー、こちら、勝手ながら司会担当をつとめる如月 正悟(きさらぎ・しょうご)と申します。聞こえている方は拍手を、聞こえていない方も盛大な拍手でお返事ください。……ってそりゃ無理だ」
 自己ツッコミしながらも拍手を浴びて、正悟はひょいとカメの甲羅に上がる。
「遅れてすまない。放送器具を使えるようになるまで時間がかかってね。及ばずながら、俺が誘導を担当するよ」
 再度マイクを手に、観光ガイドよろしく名調子で正悟はマイク語りをするのである。
「緊急放送です、現在空気のごとくフラグを立てる人が侵入したとの知らせがありました。流れるプール方面の方々は大変お手数ですが、避難してくださいませ。ちなみにリア充組は爆発してください……リア充なんて、リア充なんてフィクションなんだー! ……失礼しました」
 どこまで本気かわからぬものの、正悟はこうやってカメの進路から人々を去らせ、
「よし、じゃあこのまま誘導するとしようか。カメ太郎の旦那よ」
 ルースが台車で先導すると、カメは水から上がり、のそのそとその後に続いた。
 かくて巨大カメは甲羅の上に、メイドや司会者や浦島太郎(?)等々を乗せたまま、ゆっくりとスプラッシュヘブンから退場の運びとなった。