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【学校紹介】鏖殺の空母

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【学校紹介】鏖殺の空母
【学校紹介】鏖殺の空母 【学校紹介】鏖殺の空母

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1:出撃前……それぞれの想い

「山葉、御神楽校長と交渉して次のものを揃えてくれ。1に破壊工作用のプラスチック爆弾。2に閃光手榴弾。3にヘッドセット型無線機だ」
 飄々とした感じの男閃崎 静麻(せんざき・しずま)が<根回し>、として環菜と直接の接点がある涼司に物資の調達を頼む。
「それから、暗視ゴーグルも欲しいな。潜入班の人数分。すまないけどよろしく頼む」
 まだ若さが残るが軍人のような容姿をした湊川 亮一(みなとがわ・りょういち)も涼司に要望する。
「わかった。なんとか調達する。任せとけ」
 山葉 涼司(やまは・りょうじ)はそう答えると、校長のところに交渉に行った。
「大丈夫かな?」
「大丈夫だろう?」
 静麻と亮一は言葉を交わし合い、そして笑った。


 ――その結果
「喜べ、許可が出たぞ。必要な物資はすべて調達するとさ。作戦に必要なものがあったらいってくれ、俺がナシ付ける」
 涼司はそう言って戻ってきた。しばらくしてから蒼空学園から大量の物資が届いた。プラスチック爆弾、閃光手榴弾、無線、暗視ゴーグル、それからなぜかアルミ箔も含まれていた。
「アルミ? こんなの何に使うんだ?」
 涼司がそう言うと一人の女子生徒がやってきた。それは見事な赤髪ロングと赤い瞳を持つ少女オリガ・カラーシュニコフだった。
「チャフを作るのですわ。第二次大戦頃の原始的なものにしかならないでしょうけど、それでもレーダーはある程度ごまかせるはずですわ」
 オリガはそう言うと大量のアルミ箔を受け取った。ロマノフ朝第8代女帝にしてパートナーのエカチェリーナ・アレクセーエヴナやチャフ作りを手伝うという乳白金の髪を後ろで束ねた輝燐宮 文貴もアルミ箔を受け取って運ぶ。
 しかしそこに活発そうな黒髪ショートの少女、茅野 茉莉がやってきて、こう言った。
「ねえ、あんた、イコンにはチャフやECMが装備されてるわよ。確かにそれだけ大量のアルミをばらまいたら、単純にチャフを使うよりは広い空間に効果あるだろうけど……」
「正直、面倒くさそうだの……」
 そう言ったのは茉莉のパートナーのかつての天才発明家レオナルド・ダヴィンチであった。
「まあ、面白そうだから手伝おうか?」
 気まぐれで茉莉はそう言ってダヴィンチに「面倒だろうが」と言われたが、天御柱学院の生徒を巻き込んでのチャフづくりのきっかけとなるのだった。
「ありがとうございます」
 茉莉の提案に乗って集まってきた生徒たちにオリガはそう礼を言った。
「通信部で勉強した内容ですが、チャフを作るには相手のレーダ情報が必須です。ステルス艇があるということはレーダ情報もあるはずですわ。レーダー情報をいただけないかしら?」
 オリガは涼司にそう言うととりあえずアルミ箔の運搬作業を行った。
「なんで女帝がこんなこともしなければならないのだ……」
 とぼやくのはエカチェリーナである。
「まあまあ、エカチェリーナさん、これも作戦のうちですよ。辛抱あるのみです」
 文貴はそう言ってエカチェリーナをなだめると、パートナーの羌 蚩尤にもアルミ箔を運ぶのを手伝わさせる。蚩尤は白髪で黒の瞳をしている。
 そうして何往復かしているうちに他の天御柱学院の生徒も手伝いにやってきた。
「おーい、レーダーの情報手に入ったぜ」
 涼司のその言葉にオリガは「待っていましたわ」と答える。
「それでは皆さん、チャフ作りを始めましょう」
「おー!」
 こうして自機の整備をしている生徒以外のほとんどがチャフ作りに参加することになったのであった。
「それにしても、今回もチャフがあれば奇襲の役に立つのにね。とオリガに言ったのが運の尽きだったわね……」
 エカチェリーナはそうぼやきながらちまちまとアルミ箔を切る作業をしていた。
「それにしても電子戦はやっぱり重要よね。電子戦機開発されないかしら?」
 そんなエカチェリーナの言葉に端正な顔立ちの天司 御空が答える。
「今現在、鋭意開発中……らしいよ。まあ、噂だけどね。電子管制機が開発されれば楽になるだろうねー確かに」
「そうなのですわ。最初からバリエーションとして開発してくださってればよろしいですのに」
 オリガがその言葉に続いていった。
「まあ、無いものねだりをしても仕方がないさ。今はチャフを作ろう……」
 御空がそう言ってアルミ箔をちまちまと切る。
「御空、なぜ私までこんなことをしなければならないのです?」
 白髪赤眼の白滝 奏音がそんな事を言いながらもちまちまと作業をしている。
「作戦だからね。この大量のチャフをばらまいて空母のレーダーを殺したあとでコームラントで砲撃する。そうでしょう?」
「確かにそうですけど……御空、私はお腹がすきました」
 御空は呆れた表情をするとこう言った。
「俺のバックに戦闘食料II型があるから食べてもいいよ」
 奏音は非常に燃費が悪い少女だ。だから御空は常に食料を常備していた。
「んぐんぐ……戦闘食料は……もぐもぐ……やはり日本のものが一番ですね……」
「奏音、食べるか喋るかのどっちかにしなよ」
 奏音が食べながら喋るので御空は完全にあきれ果てている。
「お二人は仲がよろしいですのねえ」
 オリガがそう茶化す。
「そういう関係じゃないです……ただパートナーなだけ……もぐもぐ……」
「ま、パートナーは大事だな」
 黒のショートヘアと蒼い瞳を持つ少年、榊 孝明がちまちまと作業をしながらそう云う。
「孝明……あたしも大事なのか?」
 黒髪と赤眼の益田 椿がそう尋ねる。彼女からはどこか不安定な様子が感じられる。
「そりゃ当然だ。あ、他意はないぜ」
 孝明はそう言って照れる。
 その言葉で彼女の不安定な様子は少し安らいだようだった。
「あー、お茶、どうぞ? 戦闘食料だけじゃ味が濃いでしょ」
 文貴はそう言って奏音にお茶を勧める。
「ありがとう……もぐもぐ……ズズーッ……美味しい」
「それは良かった。っと、そこの少女、設楽 カノン(したら・かのん)さんじゃない?」
「うふふ……そうだけどどうしたの?」
 文貴の言葉にタレ目のカノンは笑いながら答える。
「一緒にお茶飲みながらチャフ作りしない? 結構楽しいよ」
「あはは……どうしてあたしがそんな下らないことしなくちゃいけないの? 悪いけど失礼します」
 そう言ってカノンは立ち去ろうとするが、そこに奏音が割り込んだ。
「待ちなさいカノン。あなたに話があります」
 カノンを天敵と狙う奏音の口調には刺があった。
「なに? 手短に済ませてくださいね」
「作戦に必要なのです。手伝いなさい」
「あら、何を言うかと思えば。でもいいです、あなたからそんな言葉が聞けるなら手伝いましょう」
 カノンはそう言うと席についた。そしてハサミとアルミ箔を手にとる。
「それで、どうすればいいの?」
「これくらいの大きさに切ってくださいませんこと?」
「それが鏖殺の空母のレーダー波長に合うらしいのよね」
 オリガとエカチェリーナがそれぞれ口を開く。
「わかりました。では見本を……ありがとう」
 カノンは見本を受け取るとそのとおりに作っていく。
「しかし、実戦か……しかも初めての。敵も人間だし、味方もできるだけ殺したくないな」
 黒い髪を後ろで束ね、赤い瞳を持つ月夜見 望が作業をしながら言う。
「あはは、何を甘いことを言っているのかしら。これは戦争よ。テロリストとの戦争。敵は殺す。味方も死ぬ。それは当たり前よ」
「それでも! 俺は殺したくない!!」
 カノンの言葉に望が反論する。
「まあ、その心がけは立派さ」
 孝明がそう言って望を抑える。
「でも、そんな甘いことでは自分が死んじゃいますよ」
「カノン!」
 奏音がテーブルをバンと叩いて立ち上がる。
「なにかしら? 事実よ」
「……ふん」
 奏音は視線をそらすと乱暴に椅子に座る。
「望くんが危なかったら……あたしは迷わず敵を撃つよ」
 天原 神無がそう言って望を見つめる。赤髪と赤眼の色っぽい少女だ。
「神無、その気持は嬉しい。でも、殺しちゃ駄目だ」
「例え、それで望くんに責められることになっても……あたしはそんな有象無象共よりも望くんが大切なの」
「神無……」
 二人の空間が出来上がる。だがそれを壊すものがいた。
「ヒューヒュー、お二人さん熱いねえ」
 精悍な外見を持つ和泉 直哉だった。
「あ……」
 神無は慌てて望から視線を外す。
「兄さん、そんな事しちゃだめだよ」
 妹の和泉 結奈が兄を諭す。妹の方は可愛くはかなげな印象である。
「ちょっとからかってみただけだよ。ごめんな」
 直哉が謝ると、神無は気にしないでといった。
「まあ、イコン乗りとしての実践。そりゃ、敵空母を攻め落として手柄を立てたいってのが一般的な考えかもしれねぇけどよ、俺達は別に勲章が欲しくて戦かう訳じゃないからな、手柄が欲しければ頑張って攻め落とせば良い……ただし、死ぬんじゃねぇよ? お前たちは皆『仲間』なんだからな!」
 白い髪に金色の瞳の東風谷 白虎がちまちまとアルミ箔を切りながらそう叫んだ。
「白虎、熱いね。でも、言っていることは間違っていないと思うよ」
 マスターの玉風 やませがそう云う。やませは銀髪に青の瞳、そしてかわいらしさを持った13歳前後の少女だ。
「仲間か……いい響きだな」
 直哉が素直にそう言うと、妹の結奈が
「お兄ちゃん珍しいこと言うね」
 と笑った。
「うっせーバーカ」
「あ、馬鹿っていったほうがばかなのよ」
「ふん」
 直哉はそっぽを向く。
「兄妹仲良くていいねえ。そういえばシミュレーターでやってたとおり、イコンって「攻撃担当」と「そのほか」の操作分担であってるんだよね?」
 やませの言葉にカノンが頷く。
「強化人間は一人でも操縦できますけど、分担する場合は主にそういう方式になるわね。まあ、ビームライフルとビームサーベルの持っている腕を別々に操作するということも不可能ではないわ」
「そうなんだ。ありがと」
 カノンの説明にやませは納得したようだった。
「それにしてもこの作業かったりーな」
 活発そうな印象を受ける少女天王寺 沙耶がそう言いながらハサミとアルミ箔を放り投げる。
「だめだよ沙耶。そんな簡単に投げ出しちゃ。これは作戦で重要なんだから」
 パートナーのアルマ・オルソンが沙耶をたしなめる。アルマは小柄で子どもっぽいハーフ・フェアリーの少女だ。
「そんな事は言ってもさー。まあいいや、続きやろう」
 沙耶はそう言って作業を再開する。
「それにしても、支援機コームラントの射撃で空戦機動を行うイーグリットの支援はありえないと思います。戦闘機とイコンは別物と言われそうですが、空間戦闘における三次元機動は一緒です」
 精悍で強そうな印象を受ける茶髪のイレイン・ハーストが作業をしながらそう言うとパートナーの薄茶色の髪をオールバックにした少女近衛 涼子が同意した。
「対機動兵器の空間制圧、いわゆる戦闘機的立場がイーグリットと解釈します。支援機コームラントは大火力を生かした攻撃機と解釈。敵イコンも装備から空間制圧の戦闘機と解釈。戦闘機同士の戦いに攻撃機で支援はありえません」
 それに対してはカノンがこう言った。
「あら、それは違うわ、イコン戦はもっと原始的。コームラントが大砲をもった砲兵、イーグリットが銃と剣を持った歩兵と考えるのがいいわよ。鏖殺寺院のイコンは機関銃を持った兵士ね。砲兵の支援のもとに歩兵が突撃する。これは間違った戦術ではないわ。問題は、イーグリットと敵イコンの火器の差が、WW1の銃とWW2の銃ぐらい違いがあるといったことかしら。そう考えるとコームラントは自走砲といったほうがいいのかもしれないわね」
「しかし空間機動においては……」
 イレインがそう反論しようとすると、カノンはさらに言葉を続けた。
「確かにイコンは戦闘機より最高速度では劣るけど、機動性ではより曲芸的な動きを出来るわ。でも、やはり戦闘機とは別の運用視点が必要だわ。もっと原始的にならなきゃ、イコンの戦略的な運用はできないわよ。戦闘機なんかとは違ってもっと血生臭い戦闘方法なのよぅ」
 カノンがうっとりしながらそう言うと二人は黙った。
 その沈黙を埋めるように知的そうな外見の榊 孝明(さかき・たかあき)が口を開いた。
「オリガ、チャフの散布のタイミングは重要だからな。頼むぜ」
「わかってますわ。このオリガ、しくじるような真似はいたしません」
「それは結構。さて、それで、どういう作戦で行くんだろう、イコン部隊は」
「わからないわね。リーダーがつくはずだけどそのリーダーの姿がどこにもないし。一応オリガさんの作戦は承認されているはずですけど」
 孝明の質問にやませがそう答える。
「そうか。めんどうだな」
「しかし、設楽くん、キミの言うことが本当なら、コームラントとイーグリットは弓兵と歩兵という関係でもいいんじゃないのか?」
「そうね。でも、コームラントのキャノンは曲射が効かないから、正確に何と例えるのは難しいわね。空間戦なら3次元的に部隊を配置できるからイーグリットの隙間からコームラントが支援砲撃をすればいいとしても、陸戦の場合はそう、イコンには足があるのだから陸戦もするわね。陸戦の場合はイーグリットを壁にしてその間にコームラントを配置することになるのかしら。どちらにしても研究が必要ね」
 カノンがそう言うと涼子がこう言った。
「陸戦では完全にイーグリット部隊とコームラント部隊を分けるのではないかしら? その場合コームラントは戦車と言い換えればいいのではなくて? 曲車も聞かないのなら戦車でしょう。イーグリットは軽戦車と言った具合かしら?」
「そうね。それもいいかもしれないわね。とにかくコームラントは空母や要塞のような大型の目標を落とすことに向いているの。イーグリットの<ビームライフル>はコームラントの<大型ビームキャノン>に比べたら拳銃みたいなものだけど、それでも中距離戦で戦えるという点においてライフルの影響は大きいわ」
「ふむ。そんな難しくかんが言えるものなのかな? イコンというのは」
 レオナルドがそう尋ねると、カノンは
「そこまで考える必要はないわよ。今のはただの知的遊戯。イコンの戦略的運用における考え方の披露の場よ」
 と答えた。
「そうか。ボクもかつては天才発明家と言われた身。なんとかその論戦の場に参加したいものだな」
「だったら、今回の作戦を考えてみましょう? オリガがチャフをまき、敵のレーダーを殺したところをコームラントで砲撃を仕掛け敵の対イコン兵器の数を減らす。この作戦の問題点は?」
「こちらのレーダーも効かなくなる。あとチャフで視界も遮られるから正確な砲撃は難しいだろうよ」
「そうね。それに対する対策は?」
「予め空母の形状を把握しておく。そして射撃ポイントをしっかりと頭に、あるいはイコンのコンピューターに叩き込むことだ」
「正解。それが唯一の答えね。と言うことでコームラントパイロットの皆さん、頑張ってくださいな。あはははは」
 そう言うとカノンは笑った。
「さて、この作業もそろそろ終了だな。作戦時間だ」
 出発の三十分前。オリガたちはチャフを大きな袋に詰め込むと。全員で協力して運搬しイコンデッキへと持っていった。
「殿、殿も真面目に運んでください……」
 薄茶色の髪をシャギーにした端正な顔立ちの少女、富永 佐那が茶色の髪を角刈りにした、武将の英霊とは思えない外見をもつパートナーの北条 氏康に説教をする。
「ふん、うるさいのう。力をいれればよいのだろう。せいっとな」
 氏康が力を入れると他のメンバーの負担は軽くなった。
「まあ、これも戦いのためだ。仕方あるまいて」
「そのとおりですよ、殿」
 血気にはやる氏康を佐那がなんとかコントロールする。これはこれで良いパートナーだ。