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【学校紹介】超能力体験イベント「でるた1」の謎

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【学校紹介】超能力体験イベント「でるた1」の謎

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第10章 超能力バトル

 イベントの、午後の部に入ったころ。
「ヒャッハー! おい、お前ら、どけ!」
「KAORIだよ、KAORI! KAORIのところまで、道を開けろやー!」
 モヒカン頭で、筋肉質の身体に鎖を巻きつけた男子生徒たちが、会場に乱入してきた。
 午前中いっぱいかけてダラダラと海京まで移動し、昼食を食べて体力を回復させたパラ実生たちが、ついに暴れ始めたのだ。
 驚いた他の参加者たちが、いっせいに身をひく。
 警備員たちが駆けつけ、パラ実生の何人かを取り押さえるが、数人はKAORIのところに行きつく。
 みれば、会場の玄関から次々にパラ実生たちが押し寄せてくる。
「しまった! 午前中何もないから大丈夫だと思ったが、こういう奴らはダラダラくるから、午後に集中するんだ!」
 運営委員は、認識の甘さを痛感することになる。
 予想以上の盛況となった強化人間X(彼を海人と呼ぶ者が増えてきていた)との精神感応体験に、人員の多くをさかれていた運営委員である。
 急に現れたパラ実生たちへの対応が、遅れることとなった。
「おお、あれがKAORIか! かわいいじゃねーか! おら、そのヘルメット貸せやー!」
 パラ実生たちは、超能力の体験中だった一般の参加者を恫喝して、ヘルメット型の超感覚増幅器をもぎとる。
「おんどりゃー! 『力』使ったるぞ! KAORI! みせてもらうぞ、お前のスカートの中の神秘を!」
 血走った目で叫び、増幅器を頭にかぶると、パラ実生たちは野獣の本能の赴くまま、念じ始める。
 ピピピピピピ
 すさまじい「力」が、KAORIにかかり始めた。
 それらの「力」は、KAORIの身体の一点、スカートの裾の部分に集中する。
 念動により、スカートが少しずつまくれ始める。
「うおお、これは、興奮するぜー!」
 口を大きく開けて舌をレロレロさせ、よだれをたらしてパラ実生たちが叫ぶ。
「やめて! KAORIのスカートは、誰にもまくらせないわ!」
 葛葉杏(くずのは・あん)は、パラ実生の魔の手から逃れた超感覚増幅器のひとつを装着すると、一心に念じ始めた。
「はあああああ!」
 思わず手を突き出して、葛葉は念を強くする。
 ピピピピピ
 KAORIは、パラ実生たちのかける強い「力」に拮抗する、もうひとつの「力」を検出した。
 まくれ始めていたKAORIのスカートの裾が、徐々に下がっていく。
「何じゃー! 俺らの楽しみ邪魔すんじゃねーよ! 負けねーかんなー!」
 パラ実生たちは、葛葉の抵抗に負けじと、スカートをまくろうとする念を強くする。
 ふわふわふわ
 一度下がり始めたKAORIのスカートの裾が、再びまくれ上がり始めた。
「ふひゃひゃひゃひゃ! お前一人に何ができる!」
 葛葉を嘲笑うパラ実生たち。
「くっ、このままでは、KAORIのスカートが! 負けられないわ!」
 葛葉の目に、炎がともる。
 一心に念じる葛葉の鼻から、鼻血が流れ始めた。
「KAORIを想うみんな! 私にKAORIのスカートを守る『力』をわけて!」
 葛葉は、絶叫する。
 すると。
「ふわっ!? あ、あれ」
 学院の宿舎でのんびりしていた橘早苗(たちばな・さなえ)は、葛葉の叫びを耳にしたように思った。
「あ、杏さん? いったい何があったんですか?」
 呟いたが、しかし、橘は悟っていた。
 KAORIのスカートを守るため念じている葛葉の姿が、脳裏に浮かんだのだ。
 そう。
 葛葉は、一瞬とはいえ、橘との精神感応に成功したのである!
「待ってて下さい。私も行きます!」
 橘は、部屋から飛び出して、イベント会場へと向かう。
 イベントに興味がなかったので、運営委員をしていたパートナーとは別行動、と思ったらそうもいかないようだ。
「入れて下さい! 私も……運営委員ということで!」
 イベント会場に何とか入り込むと、橘は葛葉の側に駆けていった。
「橘さん? 声が聞こえたの!?」
 葛葉は、橘の姿をみて驚いていた。
「杏さん! 私は強化人間です! 一緒に念じましょう!」
 橘も超感覚増幅器を装着し、葛葉とともに念じ始める。
 気がつくと、橘だけでなく、葛葉の叫びを聞いていた周囲の生徒たちも、超感覚増幅器の有無に関わらず、KAORIを守るために念じ始めていた。
「よーし! みんなの力があわさって、百人力だわ!」
 勇気づけられた葛葉は、ここぞとばかりに念じる。
 だが。
「ヒャッハー! ざけんじゃねーよ! KAORIのスカートの中身をみるためだったら、俺たち、死んでも構わねーんだ!」
「そうだ、そうだ!」
 パラ実生たちのスケベ根性は、常軌を逸していた。
 世界広しといえども、スカートをまくるのに本気で生命まで賭けるのはパラ実生だけであろう。
 それほどまでに、「パンツを履いていない人形」は彼らにとって魅力的なのである。
 ……って、アホか!
「くっ、ダメだわ! すごい力! ああっ!」
 しかし、すさまじい執念の前に、葛葉たちは押されてゆく。
 ついに。
 ドゴーン!
 葛葉の超感覚増幅器が煙を上げて爆発し、葛葉たちは吹っ飛ばされて、倒れ込んでしまった。
「ゲホゲホッ! KAORIのスカートが! みんな、守って!」
 真っ黒こげになりながら、葛葉は他の仲間たちに叫ぶ。

「よし、ここは俺に任せろ!」
 騒ぎをみるにみかねたエヴァルト・マルトリッツ(えう゛ぁると・まるとりっつ)が、KAORIに向かって走り出す。
 いったい、何をするつもりなのか?
「とおっ!」
 エヴァルトは天井すれすれまで跳躍すると、KAORIがいるガラス張りの壁の中に入り込んでいた。
「んだー! オメー! 何するつもりだー!」
「帰れー!」
 本能的にエヴァルトを「邪魔者」と認識したパラ実生たちから、帰れコールが起きる。
「やれやれ。相変わらずだな、パラ実生たちは」
 エヴァルトは呆れながら、まくれあがろうとしていたKAORIのスカートを、手で押さえた。
 途端に、パラ実生たちの怒りが爆発する。
「野郎! 許さねえ!」
「おう、やっていいことと悪いことがあるよな!」
 パラ実生たちの執念は、エヴァルトの排除に向けられた。
「なにっ、身体が!! 動かない!!」
 超感覚増幅器によって強化されたパラ実生たちの「力」がエヴァルトの全身に作用し、自由を封じる。
「うりゃー! 死ねやー!」
 続いて、パラ実生たちはKAORIのいるホールの床の上の武器を宙に浮かせ、エヴァルトを襲わせた!
 ぐさぐさっ
 ぶしゅー
 ものすごい勢いで飛んできた剣がエヴァルトの装甲を突き破り、血を噴き出させる。
「ぐ、ぐわー! こ、根性!!」
 エヴァルトは必死で痛みに耐えるが、その後も槍や斧といった武器が次々に襲いかかってきた。
「う、うおお! 『女性に優しく』が俺のモットー! 相手が人形でも変わりはない! 俺は、俺の信念のために闘う! うおー」
 叫びながら、エヴァルトは倒れた。

「エヴァルトちゃん! あなたの死は無駄にしないよ!」
 KAORIの警備担当である秋月葵(あきづき・あおい)が、スカートをまくろうと念じ続けているパラ実生たちに襲いかかる。
 倒れたエヴァルトから、「まだ死んでないぞ!」という叫びが上がるが、秋月には聞こえない。
「なんじゃー! おっ、お前もかわいいな。食ってやろうかー!」
 秋月に牙を剥きかかったパラ実生が、一転、よだれを垂らしてつかみかかってくる。
「もう、やらしい人たち、許せないよ!」
 秋月は、パラ実生たちに念じた。
 秋月の「力」が、つかみかかってきたパラ実生の動きを止め、突き飛ばす。
「な、なに!? 超能力者か!!」
 宙を舞って床に身体を叩きつけられたパラ実生たちは、悶絶する。
「ちっ! ことを急げ!」
 秋月の活躍に舌を巻いたパラ実生たちは、KAORIのスカートまくりあげを早急に行おうとする。
 ポンポン
 そんなパラ実生たちの一人の肩を、あるコンパニオンが叩いた。
「何だ? いま、取り込み中なんだよ!」
 ムッとしてコンパニオンに牙を剥くパラ実生。
「お客様、そのようなことはご遠慮していただけますか?」
 コンパニオンに扮装したニーナ・ノイマン(にーな・のいまん)が、ニッコリ笑う。
 次の瞬間。
「ニーナちゃんに手を出すなー!!」
 ニーナに牙を剥いたパラ実生は、秋月の「力」で宙に投げ飛ばされていた。
 ドゴー!
「な、なんだコラァ。ひっかけやがって。うぐっ!」
 床に身体を叩きつけられたパラ実生はうめいて、失神する。

「秋月さんのおかげで、こっちの態勢が立て直されてきました。自分たちもいきますよ」
 赤嶺霜月は、他のKAORI担当警備員たちに声をかけ、自らパラ実生たちに特攻をしかけた。
「たー!」
 霜月の居合斬りが、パラ実生たちの額を割る。
 ぶしゅうう
「ち、ちべちべ! ぴゃっ」
 血を噴き出しながら、倒れるパラ実生たち。
「お兄ちゃん、強い! 卯月もやる!」
 赤嶺卯月(あかみね・うき)も、兄に負けじとパラ実生たちに特攻。
「卯月も、簡単な精神感応ならできる! ほら、キミ、パラ実生ですね!」
 卯月は、精神感応を使って、スカートをまくりあげようとしているパラ実生を探り当て、声をかけた。
 別に、精神感応を使わなくてもわかるような気もするが……。
「んだ、コラー! ひゃ? かわいいじゃん。舐めてやる!」
 腰を揺らしながら卯月に襲いかかるパラ実生。
 だが。
「貴様、卯月に手を出すとは! 許さん!」
 ドゴォ!
 怒りに我を忘れた口調の霜月が、すさまじい居合いの一撃をパラ実生の顔面に叩き込んでいた!
「あっ、あがっ!」
 口から血の泡を吹きながら、卯月を襲おうとしたパラ実生は倒れ込んだ。
「お兄ちゃん、つよーい!」
 卯月は、あらためて感動している。
「やれやれ。騒がしいことじゃのう」
 床に座って書物を広げていたグラフ・ガルベルグ著 『深海祭祀書』(ぐらふがるべるぐちょ・しんかいさいししょ)は、足もとに倒れ込んだパラ実生をみて、眉根を寄せる。
「ああ、ほれ。こっちにはくるでない」
 深海祭祀書は、自分に近寄ってきたパラ実生たちに雷術を使用した。
 ピカッ! ビリビリビリ!
「うぎゃ〜」
 深海祭祀書の雷術をくらったパラ実生たちが、黒こげになっていく。
「先生。イベント会場で雷術を使うのはやめてくれませんか?」
 冷静さをとりもどした霜月が、静かにいった。

「うおー!」
「ぎゃー!」
 秋月、そして赤嶺の活躍により、勢いを盛り返した警備員たちが、KAORIに群がるパラ実生たちを血祭りにあげてゆく。
 だが。
 この世は、運営委員が予想しえない不確定要素に満ちているものなのである!
「みなさん、楽しそうですね」
 天津のどか(あまつ・のどか)が、騒ぎを眺めて、いやらしい笑みを浮かべていた。
「まったくもって、スカートさんはうらやましいです。私も、みなさんからエッチな目で見られたいですね」
 天津は、男子生徒の破廉恥な視線に貫かれる自分を想像して、思わず身悶えした。
「ふふふ。フィギュアと人間、どっちがいいでしょうか?」
 邪悪な笑みを浮かべながら、周囲の女生徒たちに目を向ける。
「さあ、祭りの第2ステージです! そーれっまるみえーはれんちー」
 天津は、サイコキネシスで女生徒たちのスカートを大きくまくりあげた!
「きゃ、きゃああああ!」
 スカートが見事なまでにまくれあがった女生徒から、悲鳴があがる。
 情報公開された下着に、男子生徒の目が釘づけになった。
「いいですよねー。青春ですよねー」
 笑いながら天津は駆けまわり、超能力で次々に女子のスカートをまくっていく。
「女の子は、男の子を簡単にノックアウトできるんですよー」
 天津の笑いは、やむことがない。
「な、何だ!? 女生徒のスカートがまくれあがりだしている!!」
 運営委員たちは、露出した下着から視線をそらそうと苦戦しながら、どうすべきか考える。
 原因はわからないが、被害者たちを早急に保護する必要がある。
 このままでは、パラ実生たちが「超能力で人間のスカートをめくっちゃえばいいんだ」と気づきかねない。
 そうなったら、収拾がつかなくなる。
 運営委員たちはパラ実生を殴る拳をおさめて、泣き叫ぶ女生徒たちに近寄り、まくれあがったスカートを次々に常態へと回復させる。
 だが、そうした努力のために、今度はパラ実生たちを抑えきれなくなってしまった。
「ヒャッハー! いまだ、やれー!」
 再びKAORIに群がるパラ実生たち。
 何度殴られても起き上がってくる彼らは、まさに不死身であった。
「さーて、そろそろ、私をご覧下さいね」
 天津は、今度は自分のスカートをサイコキネシスでまくり始めた。
「ほら、みえそうでみえない、このチラリズム!」
 確かに、太ももは露出するものの、まくれあがったスカートは際どいところで常態に回帰していく。
「これだけじゃ、興奮しませんか? でもね、みなさん、実は私、パンツ履いてないんですよ!?」
 天津の叫びに、多くの男子生徒が振り返った。
「さー、チラリでみせまくりですねー」
 天津が興奮に顔を真っ赤にして、チラリを連発しようとしたとき。
「学院の生徒だね? きみ、ちょっときてもらおうか」
「えっ!?」
 天御柱学院の教官たちが、天津の肩をおさえて連行しようとする。
「せ、先生たち! いまごろ出てきて何ですか、私よりも対応すべき相手がいるでしょう!?」
「他校の生徒はともかく、学院の生徒が風紀を乱すのは放っておけん。それに、きみは、運営委員のふりをしてイベントにまぎれこんだ。そのやり方に、学院の上層部もかんかんだよ」
 教官たちは強い口調でいって、天津を連れていく。
「ちょっ、ちょっと、やめて下さい〜。はれんちなことをするつもりでしょう。変態ですね〜きゃ〜」
 どこか嬉しそうな天津の声が、次第に小さくなっていた。
 
「これは、いかん。いろいろ大混乱であるぞ」
 リリ・スノーウォーカー(りり・すのーうぉーかー)は、天津の活躍(?)で混沌ぶりに拍車がかかったKAORI周辺の大騒動を目前にして、危機感を露にした。
「いかにも。あの技を、使うといたしましょう」
 ロゼ・『薔薇の封印書』断章(ろぜ・ばらのふういんしょだんしょう)は、パラ実生を撃退する奇策を実行に移す決心をした。
「はあああああ」
 超感覚増幅器を装着し、ひたすら念じるロゼ。
 KAORIのいるホールの床に撒かれていたサイコ粒子が、敏感な反応を示す。
 しゅるるるるるる
 渦を巻いた粒子が、光を放ったかと思うと、次の瞬間、無数のパンツに姿を変えていた!
「おお。実に素晴らしい」
 リリは、ロゼの「力」の起こす奇跡に感嘆の吐息をもらした。
「舞え、布の天使たちよ!」
 ロゼの叫びと同時に、サイコ粒子で精製された無数のパンツが、ガラス張りのホールの中を飛び回りはじめる。
「うおお!? な、何だ!?」
 KAORIのスカートをまくろうとしていたパラ実生たちは戸惑う。
「さあ、どうする? 使用済みも混ざっているかもしれんぞ?」
 ロゼは笑みを浮かべて、さらに念じる。
 ばっさばっさ
 ホールの中を飛びまわっていたパンツが、ひときわ高く舞い上がったかと思うと、ガラスの壁を超えて、生徒たちのすぐ上空を飛びまわり始めた。
「う、うおー! パンツー!」
 パンツの艶やかさに目がくらんだパラ実生たちは、飛び回るパンツを追って右往左往する。
「おい、あんなの、回収しろ!」
 運営委員たちは、慌ててパンツをつかまえようとし、同じように駆けまわるパラ実生たちと衝突して倒れ込むなどした。
「ぱんちゅー!」
「ダメだ、運営委員によこせ!」
 怒号が飛びかうイベント会場。
「むう。これは、かえって混乱が増したのではないか?」
 リリは愕然としていた。
「そうですか。長い目でみなければ、わからないことですよ」
 ロゼは、自信に満ちていた。