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【学校紹介】超能力体験イベント「でるた1」の謎

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【学校紹介】超能力体験イベント「でるた1」の謎

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第12章 鏖殺寺院

「ふう。一時はどうなることかと思ったぜ」
 運営委員たちは、冷や汗をぬぐう。
 会場中心で突如暴走を始めたKAORIは、いまや動きを止め、直立不動の姿に戻っている。
 プログラムが暴走したとわかるのは運営委員だけなので、一般参加者からみると、KAORIはまさに人格を取得したようにみえたに違いない。
 何人かの参加者たちは、ショックを隠しきれない表情でKAORIを凝視している。
 騒動の元凶となったパラ実生たちは、エリカに率いられて会場から退出していく。
「しかし、パラ実の奴らはあのエリカって子に頭が上がらないようだな。意外と、自分たちを受け入れてくる美少女には弱いみたいだな」
「ああ。エリカって子には、相手を包み込むような癒しを感じるな。横山ミツエとは少し違うようだ」
「いや、それはそうだが、『少し』どころじゃないと思うぜ? パラ実では、あの子を巡ってかなりの抗争が起きてそうな気もするな」
 運営委員たちは、いちいち的確な発言をしながら、瓦礫の転がる会場中心部の片付けを始める。
 そのとき。
 ピンポンパンポーン
 メロディとともに、会場内にアナウンスが流れる。
「これは、学院上層部からの放送だ!!」
 運営委員に緊張がはしる。
「イベントに参加のみなさん、大変お騒がせしました。少し演出が過激でしたが、ただいまのKAORIの動作は、超能力体験イベントを盛り上げるための余興として企画されたものです。引き続き、超能力体験の素晴らしさをご堪能下さい。繰り返します。……」
 放送は終わった。
「何だ、いまのは! 嘘もいいところだ! 表現もおかしい。『少し』どころじゃないぞ!」
「一般参加者の誰も『なるほど。そうか』といってないぞ」
「まあ、上層部としては『余興』ということにして、事態の収拾をはかるしかないんだろうな」
 放送の内容に運営委員は不平たらたらだったが、それでも、一般参加者のショックを和らげるには、いま流れた「公式見解」を主張することが一番であるように思えた。
 そのとき。
 ある委員が、気づいた。
「あれ? そういえば、さっき飛び回っていた無数のパンツは、精製時間の限界に達して、もとのサイコ粒子に戻ったようだな」
 別の委員がうなずく。
「ガラスの壁が崩壊したせいもあって、あちこちにサイコ粒子が飛び散ってるな」
 その状況が「危険」だと気づかない委員たちは、サイコ粒子も少しずつ回収しようなどと考えた。
「KAORI。辛かっただろう。よく、怒りをおさめてくれた。イベントはまだ続くが、終わったら、徹夜でメンテしてやるからな」
 月夜見望は、微動だにしなくなったKAORIをみつめて、心からの思いやりの言葉を述べていた。
 月夜見の後ろにも、多数のメンテナンス要員たちが控えていて、KAORIをいたわる言葉を投げかけている。
 何が起きようと、KAORIは彼らの青春であり、変わることのない永遠の「友」なのだ!
 だが、そのとき!
 天原神無は、一般参加者の一部が不審な動きをしていることに気づいた。
「望! あれをみて!」
「うん? 何をしているんだ?」
 天原の指摘した方向をみて、月夜見も怪訝そうに眉をひそめた。
 参加者の一部が、ビニール袋に砂鉄のようなものを拾い集めていた。
「あれは、サイコ粒子! 待ってくれ! それは、イベントの展示用で!」
 月夜見は、大きな声で、サイコ粒子を回収する参加者に呼びかけて、走り寄っていく。
 その瞬間。
 ピピピピピ
 KAORI内部から、電子音が鳴り響いた。
「すみませんが……って、うわー! 何をする!」
 月夜見は悲鳴をあげた。
 サイコ粒子のほとんどを回収したとみられるその参加者は、無言のまま、ショットガンを月夜見に向けたのだ!
「あれは、爆炎弾! 危ない! 望!」
 天原は、駆け出していた。
 だが、間に合わない。
 ドキューン!
 会場に銃声が走る。
 誰もが、撃たれて倒れる月夜見の姿を連想した。
 だが。
 実際に撃たれたのは、一瞬のうちに月夜見の前に移動したKAORIだった!
「な……そんなバカな! KAORI、なぜ動いたんだ!」
 月夜見は必死の形相で、KAORIの身体をかき寄せようとする。
「望、ダメ! 爆発するよ!」
 しかし、天原は望をKAORIから引き離していた。
 次の瞬間。
 ぼおおおおお!
 KAORIの全身が、炎に包まれる。
 爆炎弾が、爆発したのだ。
「う、うわー! KAORI! みんな、消火を!」
 月夜見は他の委員たちに声をかける。
「よし、いまのうちだ!」
 サイコ粒子を回収した一般参加者は、銃を構えたまま逃走を始める。
 他に、数人の参加者も彼とともに逃走を始めた。
 そこまできて、警備員の一人であるグロリアーナ・ライザ・ブーリン・テューダー(ぐろりあーならいざ・ぶーりんてゅーだー)は、気づいた。
「皆の者! あれは、鏖殺寺院のスパイであるぞ! 追うのだ!」
 グロリアーナの叫びに、委員たちははっとする。
「まったく、ローザめ! イングランド女王たるわらわに警備の替え玉をさせるだけでも不遜な行いだが、よりによってわらわの警備中に鏖殺寺院が現れるとは! ええい、かくなるうえは、わらわの誇りにかけて、あのスパイをとらえ、かりそめとはいえ警備の職責をまっとうせん!」
 グロリアーナは、鏖殺寺院のスパイを追って駆け出していた。
「はっ、気づくのが遅いんだよ、平和ボケの学生さんたち!」
 回収したサイコ粒子の袋を大事に脇の下に抱えて走りながら、ランディ・ハーケンは毒づく。
「そなた、聞こえておるぞ! わらわを他の学生と同じにするとは、この屈辱、許してはおけぬぞ!」
 グロリアーナは恐るべきスピードで移動した。
「うん? ニンジャか!」
 ランディは、ショットガンをグロリアーナにぶっ放す。
「たわけたことを! 素人ならいざ知らず、わらわがそのようなものに当たると思っているのか!」
 弾丸をかわして、グロリアーナはランディに急迫する。
「あ〜、海はやっぱりいいわね〜! グロリアーナ、そろそろ交替よ」
 ランディを追うグロリアーナの側の扉を開けて、グロリアーナと瓜二つの外見をしたローザマリア・クライツァール(ろーざまりあ・くらいつぁーる)が、海水に濡れた頭をタオルで拭きながら現れた。
「ローザ! 警備を抜け出してダイビングなどやっとる場合ではないぞ! みろ、鏖殺寺院がサイコ粒子を奪って逃走しておる!」
 のん気な顔のローザマリアに、グロリアーナは怒鳴りつけた。
「えっ、嘘!? マジ、どうしよう! 追わなきゃ!」
 ローザマリアは慌ててグロリアーナと一緒に走り始める。
「おお、何だあれは! そっくりさんの警備員が並んで走っているぞ!」
 周囲の生徒たちが驚きの声をあげる。
「やだ、もう! 替え玉やってたのバレちゃうじゃない!」
 ローザマリアは走りながらぼやく。
「仕方なかろう。いまはそんなことを話している場合ではないぞ!」
 グロリアーナが怒鳴る。
「わかったわよ。撃つわよ!」
 ローザマリアは、警備員用に渡されていた銃を走りながら乱射し、逃走する鏖殺寺院を足止めしようとする。
「はっ! 銃撃戦はお手のものだ!」
 ランディたちも、逃げながらショットガンを撃って応戦する。
 流れ弾に当たるまいと、周囲の生徒たちは大わらわだ。
 向こうでは、炎に包まれるKAORIの消火作業が行われている。
 会場内は、阿鼻叫喚の大騒ぎだ。

「おい、こっちだ!」
 クリストファー・モーガンは、非常用の出口の扉を開けて、逃げ惑うランディたちを促した。
「内通者か! こいつは助かる!」
 ランディたちは、扉の中に潜り込む。
「この先の開口部から外に出られる。そこからは、海岸まで近いぞ。速攻でいけ!」
 警備員たちが入れないように扉に鍵をかけて、ランディが叫ぶ。
「正直助かるが、なぜこんな危険を犯す? お前の姿はみられていないとは思うが」
 ランディが尋ねる。
「俺も正直、今回のあんたらの任務は知らないが、情勢が変わったいまも、寺院との接触は維持しておきたいんだ」
 ランディはいった。
「そうか。じゃ、あんたのことは伝えておくぜ! あばよ!」
 ランディたちは、クリストファーに礼をいって、駆け出していく。
「クリストファー、あの人のいったとおりだよ。わざわざ危険を犯す意味はあるの? Xさんも同じことをいってたんでしょう?」
 クリスティー・モーガン(くりすてぃー・もーがん)が、クリストファーを気遣わしげにみていった。
「ああ、あいつも同じことをいっていたさ。だがな、クリスティー、小学生の子供じゃあるまいし、一度覚悟を決めたことを、『危ないからやめようね」といわれてあっさりやめるバカが、どこにいる?」
 クリストファーは、クリスティーを睨みつけた。
「でも、Xさんはクリストファーのやったことをバラすかもしれないよ? それに、Xさんは多分、ボクたちの秘密にも気づいているよ?」
 クリスティーの言葉に、クリストファーは内心ギクッとしたが、それでも強気を崩さない。
「大丈夫だ。多分、あいつは話さないだろう」
「どうして、そうわかるの?」
「それは、あいつが、甘い奴だからさ」
 クリストファーは、X(海人)との精神感応において、海人の人格がだいたいどういうものか、何となく感じ取っていたのだ。