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それぞれの里帰り

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それぞれの里帰り

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「山葉君!!」
 駆け寄ろうとした終夏に、山葉は掌を広げて、それを制した。
 歩みを戻して、山葉は奴らの前に再びに立った。
「ヤッシー!!」
「言うな、メガネが決めた事や…」
「そんな! だってこのままじゃ!」
 山葉がもう一発を顔に食らった。それをじっと見つめる陽太も、握った拳を震わせていた。
「陽太… 考ぇついたか?」
「もちろん… いつでもイケますよ」
「ええ返事や。行くで」
 陽太は素早く皆に伝令を済ませると、皆、一様に目の色を変えた。
 4発目の殴撃にも倒れない。山葉に並んで御剣 紫音(みつるぎ・しおん)綾小路 風花(あやのこうじ・ふうか)が立った。
「あァ? 何だ? 今更止めろってか?」
「いぃえ、俺たちは忠告にきたんだよ」
「は?」
「そろそろ発動する頃や、思います。皆はん、逃げはった方が良ろしいですよ」
「お前、ら… 下が、ってろって…」
「退け。山葉の奴が、もっと殴ってくれって泣いて待ってるだろ、なァ山葉ァ?」
 歩み寄る族野郎の足の前、正面に紫音は立った。
「良いのか? 涼司がなぜ蒼空学園に入学したのか、その理由が関係しているのだがな」
「あん?」
「始まったみたいやねぇ、呪いの発作」
「呪いの発作?」
 族の野郎共が視線を向けた時、山葉は全身を震わせていた。それはもぅ、異常だと言わんやという程に。そうさせたのは風花のサイコキネシスなのだが…… やりすぎたか?
「おわァぁァあ、アイツっ、光ってるぞっ」
 白目を剥いている山葉が全身を震わせながらに−−− 全身から光を放っていたっ! それはもう気味が悪いほどに。
「ひぃぃィィィ、キモイィィィィ!!」
 山葉の脇の袖から火村 加夜(ひむら・かや)が 『神の目』 を発動して強力な光を発して、そう見せていた。加えて終夏が空へ向けて光術を放ち、アルス・ノトリア(あるす・のとりあ)が雷術を散らした事で、キモイ恐怖が超常現象的な恐怖へと昇華されつつあった。
 更に、ルカルカ・ルー(るかるか・るー)がグリントフンガムンガで、また朝倉 千歳(あさくら・ちとせ)は雅刀を手に、族共に認識できない身のこなしとスピードでタイヤを斬り裂いて回った事が、山葉の 『発作』 に不気味な色を加えていた。
「お、おぃ、い、いったい何なんだコレはァぁ!!」
「やっぱりアイツ、バケモンだったんだぁ!!」
「おぉぉい、こんなんにもう関わりたくねぇよ」
「ズラカレぇ! オィ、早く!!」
 族の無勢が逃げてゆく。パンクさせられたバイクが多々ある事に加え、自分たちで車道を詰めただけに、逃げ様もモタくといった醜態をさらしたが、カノンの家前は程なくして静寂を取り戻した。
「お、ぃ…… こ、れ、もう止、めて、く、れ」
「あぁっ、ご、ごめんなさいです」
「あれ? 山葉君、意識あったんだ?」
 加夜終夏山葉を支えた。
 サイコキネシスが解かれると、山葉は崩れるように膝をついた。疲労と反動により今も体が微かにも震えている山葉に、久遠乃 リーナ(くおんの・りーな)は静かにヒールを唱え始めた。
「はぁ。暖っかい」
 ホッとしてしまった、と気付き思ったのだろうか。山葉は、すぐに顔を強ばらせたが、殴られた箇所が痛んだのか、今度は呻きをあげて歪めた。
 リーナ山葉の頬に、そっと手のひらを添えた。
「殴られて、心は晴れましたか?」
「……………… いや」
「では、また殴られますか? それとも、彼女の事故現場で同じ車に同じようにハネられてみますか?」
「……………… あぁ、それも有りか−−−」
「身投げでもして瀕死状態になって、天御柱学院で強化人間になる手術を受けてみますか?」
「………………」
「あなたが記憶や人格を失えば、カノンさんに近づけるのですか? 彼女への償いになるのですか?」
「………… いや。どうだろうな」
「違います。あなたが自分をどれだけ傷つけても、自分を責めたとしても、何も変わらない」
「それでも、あいつを元に戻すには、昔のカノンを知る俺が…… 俺が何とか、何か方法を見つけるしかないんだ」
 そっと顔を背ける山葉に、帰省を共にした者たちが互いに労を労っている姿が見えた。
「大成功、ですよね?」
「あぁ、上手くいったな」
「さすがはテクノクラートの策や」
「いぇいぇ、みなさんが頑張ってくれたおかげです」
「まぁ、相手が相手だったけどね」
「お化けでも見たみたいな逃げ方だったね、おっかしかった〜」
「走って逃げるのも居たよね〜、よっぽど怖かったんだね」
 誰も傷を負っていない、その様に、山葉はホッと胸を撫で下ろした。
「みなさんはもちろん、相手の方達にもケガをした人は居ないはずですよ、あなた以外は」
「………… あれだけ居たのに。すごいな」
「そうですよ。みなさんで力を合わせたから、できたんです。頼もしいでしょう?」
「あぁ。そうだな」
「私も、剣の花嫁です。花音さんの面影が山葉さんを苦しめると思いましたから、今まで出来るだけ静かにしていました。そう思ってパートナーの方を同行させていない方も、きっといるはずですよ」
「………… そうか。みんなに気を遣わせちゃったな」
「あなたの力になりたいんです、だから帰省にも同行したんです、それなのに。あなたは」
「でもあれは俺の問題で−−−」
「一人の問題を悩みを傷を、みんなで解決する。それが 『仲間』 ではありませんか?」
 仲間…。人の帰省にゾロゾロとついてきて、ボケ倒して、ワイワイ騒ぎ騒ぐ………… 仲間たち。
「おせっかいな奴らだ」
「えぇ。それが 『仲間』 ですよ」
 顔の痛みが引いてゆく。少しだけ笑えたら、心なしか気持ちも軽くなってゆくように感じたのだった。