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秋だ! 祭りだ! 曳き山笠だ!

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秋だ! 祭りだ! 曳き山笠だ!

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「次は、……これはずいぶんと厳つい山笠ですね。ヴォルフィッシュ・ヴォルフィン? さんのパラ実山笠です」
「ふっ、この山笠に対抗できる物など、存在しねえぜ」
 ヴォルフィッシュ・ヴォルフィンと名乗ってエントリーしたジャジラッド・ボゴル(じゃじらっど・ぼごる)は、重装甲の大きな山笠を手で撫でて悦に入っていた。なにしろ、あちこちでやばいことをしている上に脱獄犯なので、こういった公共の場にはあまり顔を出せないので身分を偽っている。
 山笠はポータラカの金属片で装甲を強化し、左右に突き出た各種の牙や角で武装していた。もはや山笠と言うよりはローマ時代のチャリオットを思わせるそれは、参加者の中でも一番凶悪なシルエットをしている。
「それで、約束のブツはちゃんと用意してあるんだろうねえ」
 レッサーワイバーンを山笠にしっかりと繋いできたブルタ・バルチャ(ぶるた・ばるちゃ)が、ジャジラッド・ボゴルに小声で確認した。
「もちろんだ。ちゃんと御神体として山笠の中に入れてある。優勝したら好きにするがいいぜ」
 ジャジラッド・ボゴルは答えたが、嘘である。エリザベート・ワルプルギスの生写真を餌にブルタ・バルチャを協力させたわけだが、協力さえさせれば後のことなど知ったことではない。もし、ブルタ・バルチャが深緑山笠の御神体が本物のエリザベート・ワルプルギスの恥ずかしい写真だと知ったらどう出るのだろうか。
「オレたちの他にもドラゴンを使っている山笠があるみたいであるな。めざわりであろう。潰すか?」
 ジャジラッド・ボゴルのレッサーワイバーンであるドルチェットを山笠に繋ぎながら、ゲシュタール・ドワルスキー(げしゅたーる・どわるすきー)が仮面の下でつぶやいた。
「順番に潰していこうぜ」
 巨体をのばして他の参加者の山笠を物色しながら、鬼巌鉄 雷桜(きがんてつ・らいおう)がニタリと笑った。
 
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「さて、こちらは姫宮 みこと(ひめみや・みこと)さんの百合園山笠です。うっ、こちらも水半被に締め込み型の褌です。会場のカメコが一斉にシャッターを切ります。最近の子は大胆で……あれっ? どうやらちゃんと下に肌色のろくりんピックユニフォームを着ているようです。うまいことごまかしやがっ……こほん、失礼しました。しかし、ぺったんことたっゆんは隠しきれません。姫宮みことさん、パートナーの本能寺 揚羽(ほんのうじ・あげは)さんとは好対照な体型です」
「やっぱり、この格好は恥ずかしすぎだったんじゃ……」
「大丈夫、他にも正式なお祭りの格好をしているチームもあるようじゃが、ぜーんぶ女子じゃ。ふっ、昨今の草食系男子のまっこと情けないものよのう。おのこのくせして、褌一つ締められないとは。それどころか、仮面をつけたり、着ぐるみを着たり……」
「それは、ゆる族の人たちだから……」
 話の方向がおかしいと、姫宮みことが本能寺揚羽に言った。
「どっちにしても、この桜井 静香(さくらい・しずか)校長の像を載せた人形山笠で完走を目指すのじゃ」
 本能寺揚羽が、二人と同じ水半被と締め込み姿の桜井校長の人形をパンパンと叩いて言った。こちらは人形なのでアンダーなど着てはいない。すっぽんぽんの人形に締め込みを締めて水半被を着せただけである。思いっきり後で問題になりそうだが、幸いなことに手作り人形なので、あまりリアルでないことに少し救われていた。
 
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「さあ、最後の山笠です。笹咲来 紗昏(さささくら・さくら)さんのお月見山笠がスタート地点にやってきました。こちらは風景を模した岩山笠でテーマはお月見のはずなのですが……。すみません、放送できません。笹咲来さんもそのへんを分かっているのか、自主的に山笠自体に光学モザイクをかけておいたようです。なんでも、大量のお月見団子に混ざって干し首やゾンビが飾られているらしいです。もう納涼は終わったと思うのですが……」
 肝心の山笠は、他の二輪や四輪の物とは違って、一輪の物だった。台車やリヤカーと言うよりも、工事現場にある猫車に近い。
 笹咲来紗昏の格好は、ロングTシャツ型ワンビース一つという感じで、裾からは細すぎる脚がひょろりとのびている。
「紗昏がんばる。手伝ってくれたら、紗昏の、初めて……あげる」
 首輪に繋がった鎖を指先でクルクルと弄びながら、笹咲来紗昏が携帯であちこちに連絡をしていた。E級四天王である彼女は、コースの近くに集まっているパラ実生たちに、パラ実式応援をするように根回ししていたのだった。もちろん、初めてというのは、初めて捕獲したゾンビのことである。
「やれやれ。こんなに一癖も二癖もあるチームが集まっていて、サクラは大丈夫なんですかねえ」
 小型飛空艇で上空に待機したヨハン・サンアンジュ(よはん・さんあんじゅ)は、パートナーである笹咲来紗昏の姿を見下ろしてつぶやいた。
「それにしても、なんですか、あの山笠は……。また変な物を拾ってきて、所構わず載せたりするものだから……。周囲の人たち、完全にドン引いちゃってますね」
 それはそれとして、参加者外から妨害されることを懸念して、ヨハン・サンアンジュは上空からパトロールを続けた。なんだかんだ言っても、パートナーのことが心配で面倒見はいいのである。ただし、純粋なペット扱いではあるが。
 
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「わあ、これがお祭りなんですね。私、始めて見ました」
 メイベル・ポーター(めいべる・ぽーたー)たちと一緒に人混みをかき分けながら、シャーロット・スターリング(しゃーろっと・すたーりんぐ)が言った。
「私も話には聞いてましたけどぉ、見るのは初めてなんですぅ」
 メイベル・ポーターが楽しそうに言った。
 そろそろ曳き山笠が始まるというので、メイベル・ポーターたちはシャンバラ宮殿前からスタート地点へと移動している途中である。けれども、思ったよりも人が多くて、このままではスタートまでに空京大学へは辿り着けそうもない。
「スタートは見られそうもないけど、盛りあがるのはカーブの所の方だよね。そこで見ようよ」
 縁日のお菓子をかかえたセシリア・ライト(せしりあ・らいと)が言った。もちろん、撲殺天使としては標準装備である野球のバットは、メイベル・ポーターたちと共にしっかりと持ってきている。
「あのー、一つ疑問なんですが、なんでメイベルさんたちは野球のバットなどお持ちになっているのですか?」
 撲殺天使に属さないパンピーであるシャーロット・スターリングが、不思議そうに訊ねた。
「えっと、ですぅ……」
「まあ、なんだよね……」
 メイベル・ポーターとセシリア・ライトが思わず口籠もる。彼女たちが撲殺天使であり、七不思議であり、さ迷う武器たちのお友達であることはシャーロット・スターリングには内緒ということになっていた。
「それはですね、さっき縁日のお店の輪投げでみごと取ってきたのですわ」
 フィリッパ・アヴェーヌ(ふぃりっぱ・あべーぬ)が、さらりと理由をでっちあげた。
「凄いです、フィリッパさん。三本も取っちゃったんですか!?」
 素直である。シャーロット・スターリングは、フィリッパ・アヴェーヌの言葉に微塵も疑いを持たなかった。
「ええ。棒のように立ててあったので簡単でした」
 凄い凄いと手を合わせて喜ぶシャーロット・スターリングに、フィリッパ・アヴェーヌは凄く自然にそう答えていた。