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秋だ! 祭りだ! 曳き山笠だ!

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秋だ! 祭りだ! 曳き山笠だ!

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第二直線

 
 
「さあ、山笠は第二直線へと入ってきました。現在の順位は、雪だるま、ドラゴン、お月見、深緑、雪の下、百合園、くうきょう、ゴージャスの順となっております」
 
    ★    ★    ★
 
「このまま、ぶっちぎりです」
「お任せを、クロセル殿」
 トップを突っ走る雪だるま山笠が、作戦通り道路を凍らせていく。
「てやんでえ。そう何度も同じ手にゃ、この桜吹雪が引っかからないんでえ」
 ガイアス・ミスファーンが、桜吹雪を見せつつ叫んだ。
「みんな、頑張って」
 ジーナ・ユキノシタの言葉に、ペットたちが突然全力疾走してアイスバーンに突っ込んでいった。その勢いのまま氷の上をすべって山笠を引っぱっていく。当然、安定しないで山笠が左右に倒れそうになるが、その都度七尾蒼也とジーナ・ユキノシタがサイコキネシスで立てなおした。そのまま、みごとにアイスパーン地帯を抜け出る。
「逃がさないわよ」
 カレン・クレスティアが、今度はドラゴン山笠に狙いを定めて天のいかづちを放った。
「まだ狼藉を働く者がおるかあ。この桜吹雪が……」
 叫びつつ、殺気を看破したガイアス・ミスファーンが、全力で山笠を引っぱった。間一髪、いかづちの狙いが外れる。
「さあ、各山笠、ここが中盤の勝負と考えつつ、トップとの差を詰めつつもラストスパートにむけて力を温存している模様です」
 大型の山笠が前半で潰し合いをしたため、中盤の戦いは比較的静かに見えた。
 
 
第二大曲

 
 
「さあ、最後の難関、第二大曲です。はたして、ここで何が起きるのでしょうか。ここに来て、トップの雪だるま山笠に二位のドラゴン山笠が追いつきつつあります。どうやら、雪だるま山笠、無理な運用がたたって、補強に必死のようです。対して、ドラゴン山笠はペットを総動員しているため、スタミナにまだ余裕が見られます。続いて、ちょっと焦げたけれどもまだ元気です、深緑山笠。もはやゾンビしか載っていません、お月見山笠。地味に安定した走りを見せている、雪の下山笠。はたして最後まで校長像を守りきれるのか、百合園山笠。同じく、くうきょうの像はまだ無傷の、くうきょう山笠。ちょっとよたつきながらも、奇蹟とも言えるチームワークで未だ健在の、ゴージャス山笠と続いています」
 
    ★    ★    ★
 
「師匠は、大惨事が起きないように任せるって言ってたッスけど、そんな兆しはないッスねえ」
 アレックス・キャッツアイが、第二大曲で待機しながら言った。
「キツネさんは大丈夫なのかなあ。そういえば、リカインとも連絡つかなくなってるんだよね。何でだろ」
 サンドラ・キャッツアイが、確かに不安だとちょっと顔を曇らせた。
「おっ、来たッスよ」
 先頭グループの雪だるま山笠とドラゴン山笠の姿を見て、アレックス・キャッツアイが言った。
「そう簡単にゴールさせはしないんだよね。手加減は、なしだからね!」(V)
 三番手につけたカレン・クレスティアが、ここが勝負とばかりに、雪だるま山笠にくっつくようにして大曲に入りつつあったドラゴン山笠に天のいかづちを連打した。
「ああっ!」
 さすがに、今度は命中する。痺れて転倒していく剣竜たちを見てジーナ・ユキノシタが悲鳴をあげた。さすがに七尾蒼也とのサイコキネシスでも立てなおすことができずにドラゴン山笠が倒れて砕け散る。同時に、転がった剣竜の子供たちが後ろから雪だるま山笠に次々と激しくぶつかっていった。
「うわあ!」
 パラソルを開いて減速しようとしていたコルセスカ・ラックスタインが、防御する間もなく剣竜に弾き飛ばされる。そのまま、勢いのついた雪だるま山笠が観客に突っ込むコースをとった。
「マジッスか。防いでみせるッス。吹き飛べッス!」
 アレックス・キャッツアイが、突っ込む前に雪だるま山笠を破壊しようと轟雷閃を放った。同時に、サンドラ・キャッツアイが奈落の鉄鎖で雪だるま山笠を押さえつけて止めようとする。その上からの力に、ついに耐えられなくなった雪だるまのフレームが、童話スノーマンごとひしゃげて潰れた。また、轟雷閃の直撃を受けたクロセル・ラインツァートが、身体の自由を失ってもろに倒れ込んだ。
 もうほとんど原形を保っていない雪だるま山笠は、曳き手も倒れてそのままリタイヤかと思われたが、ただ一人、ルイ・フリードだけは元気であった。
「はははは、このまま一気にゴールしますよー」
 もはや台車部分しか残っていない山笠を曳いて、ルイ・フリードが最後の直線に猛スピードで入っていく。
「仕留め損なったの。でも負けないんだもん」
 カレン・クレスティアの深緑山笠がその後を追っていった。
 続くお月見山笠が散々たる事故現場を通り抜けようとしたしたとき、散乱する残骸が笹咲来紗昏のロンTに引っかかった。
「もう、動きにくい。こんな物……」
 ロンTに手をかけると、笹咲来紗昏は躊躇することもなくそれを脱ぎ捨てた。
「えっ!?」
「兄貴ったら、何見てるのよ!」
 唖然と笹咲来紗昏の姿に見とれるアレックス・キャッツアイの目を両手で押さえると、サンドラ・キャッツアイがそのまま思いっきり後ろに引いて背骨折りの体勢に入った。
「うぎゃあ、何をするッス」
 ふいをつかれたアレックス・キャッツアイが悲鳴をあげる。彼がぼーっとしてしまったのも無理はない。あろうことか、ロンTを脱いだ笹咲来紗昏はすっぽんぽんだったのだ。だが、彼女には一片の迷いもない。むしろ、すがすがしい顔でそのまま走り続けていった。
「あれっていいのか?」
 無難な位置をキープしつつ、雪ノ下悪食丸の雪の下山笠がその後に続く。
「さすがに、祭りとはいえ、あそこまではまねできないのう」
「まねしないでいいですから!」
 ちょっと残念そうに言う本能寺揚羽に突っ込みながら、姫宮みことは無事に大曲を回っていった

 
    ★    ★    ★
 
「皆の者、もっとスピードを上げなさい。ええい、少なくとも、前を走るあのふざけた像の山笠だけは潰すのよ」
 ビリとはいえ、善戦しているゴージャス山笠の上でお嬢様が叫んだ。
「仕方ないですねえ。ほんとにわがままなんだから」
 凄くめんどくさそうに、メイドちゃんがどこから取り出したのかたくさんの皿の山を左手に載せ持った。それを手裏剣かフライングディスクよろしく前を走る空京稲荷狐樹廊のくうきょう山笠にむかって投げつけていく。
「うおっ、なんということをするのですか、ばちあたり者。今すぐやめなさい。やーめーてー」
 ドスドスッと音をたてて背後のくうきょう像に突き刺さっていく何枚もの皿に気づいて、空京稲荷狐樹廊が悲鳴をあげた。それでも、なんとか距離を保ちつつ、二つの山笠とも最終直線に入っていく。