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秋だ! 祭りだ! 曳き山笠だ!

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秋だ! 祭りだ! 曳き山笠だ!

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第一大曲

 
 
「さあ、そろそろ各山笠に差が出てきました。第一大曲前、順位は、雪だるま、パラ実、白熊、お月見、百合園、深緑、ドラゴン、雪の下、くうきょう、ゴージャスという順になっています」
 
「もっと力を込めて、ダァーッシュです。私の勢いを止められるなら止めてみせなさい! このお祭りに興奮した私の情熱はちょっとやそっとじゃ鎮火できませんよ!」
 大曲直前だというのに、ルイ・フリードは速度を落とさなかった。
 巨大な雪だるま山笠のこと、このままでは大曲を曲がれずに自爆大破だ。
「ブ、ブレーキだぜ!」
 コルセスカ・ラックスタインが、ビーチパラソルを開いた。突然の空気抵抗でわずかにスピードが弱まるが、どのみち、このままでは激突大破だ。
「曲がりやすくするでござるよ。後はクロセル殿、任せたでござる」
 童話スノーマンが、あえて大曲付近をブリザードで凍らせる。
「いっきますよお!」
 クロセル・ラインツァートが、山笠の左側の山鉾の内側で幻槍モノケロスを地面に突き立てた。ターンピックの役目を果たす槍に、山鉾の左側が引っかかる形となり、凍った地面の効果も相まってものすごいスピードで左に回転した。思わず振り落とされないようにと、童話スノーマンが必死でしがみつく。
「よっしゃあ!!」
 直角に曲がったところで、クロセル・ラインツァートがドラゴンアーツを使って槍を地面から引き抜いた。後部が振れるのを、力業で無理矢理立てなおして第二直線へと飛び込んでいく。
 
    ★    ★    ★
 
「逃げ隠れしても無駄だぞ。さあ、薙ぎ払え!」(V)
 白熊山笠の上で、悠久ノカナタが高笑いをあげながらソア・ウェンボリスに命じ続けた。
「やばい……、完全にブラックカナタだ、こりゃ」
 内心に寒い物を感じながら緋桜ケイはつぶやいた。こうなっては、何も起こらないことを祈るしかないが、絶対に何も起こらないはずがない。
「おのれ、調子にのりやがって!」
 さすがにジャジラッド・ボゴルがキレた。
「回頭してして踏みつぶせ!」
 ジャジラッド・ボゴルの命令で、大曲手前で二匹のワイバーンがパラ実山笠に急制動をかけて反転しようとした。
「隙、見つけた〜っ! さっきのお返しなんだもん!」(V)
 好機と見たカレン・クレスティアが、天のいかづちをパラ実山笠にお見舞いする。
 感電したワイバーンたちが墜落して動きが止まり、パラ実山笠が横をむいた形で停止した。
「まずいぞ、回避して大曲を先に……」
 それを見てとった緋桜ケイが、まともにやり合うのを避けるように叫んだ。
「突っ込めー!!」
「わっかりやした、親方ー!!」
 緋桜ケイを無視して、悠久ノカナタと雪国ベアがノリノリで行動する。
「おーい、カナタ、ベア!!」
「えっ、なになに、どうしたんです?」
 緋桜ケイが悲鳴をあげる中、パワードレーザーを操作していたソア・ウェンボリスが、状況がつかめずに右往左往する。
「普通、突っ込んでくるかあ!」
 ゲシュタール・ドワルスキーの叫びをかき消すようにして二つの山笠が激突した。激しく、大小の破片が周囲に飛び散る。
 激突でも白熊山笠の勢いは止まらず、パラ実山笠を押し込むようにして大曲に張られた氷の上をすべらせていった。
「わらわに敵対したこと、後悔するがよい」
 興奮の極地にあった悠久ノカナタが、崩壊するパラ実山笠の上に飛び乗って上からマジカルスタッフで山笠を粉砕し始めた。
「やめー、カナタ、やめー!!」
 緋桜ケイの制止がこだまする中、二つの山笠が人垣目指してすべっていく。
「ほんとに突っ込んでくるなんて、なんて非常識な」
 一応、こんな事態を想定はして待ち構えていたリカイン・フェルマータだったが、実際に大曲を曲がれないで突っ込んでくる山笠――それも一度に二つもなどというのは想定外だった。
「こないでー!!」
 突っ込んでくる山笠を、リカイン・フェルマータがシールドバッシュで弾き返そうとしたが、勢いをそぐのが精一杯だった。このままでは多数の怪我人が出るかと思われたとき、突然ブンと野球のバットが唸って二つの山笠を上下二つに分割した。
 
「さあさ、シャーロットはちょっとあっちに行きましょうね」
「どうしたんですか、フィリッパさん?」
 フィリッパ・アヴェーヌに大曲から離れた場所に連れてこられて、シャーロット・スターリングがちょっと不思議がった。
「こっちに、美味しいクレープ屋さんを見つけたんですよ」
「わーい。行きまーす。あれ? メイベルさんたちは?」
「先に行ったのではないでしょうか。私たちも急ぎましょう」
 そう言って、フィリッパ・アヴェーヌは、完全にシャーロット・スターリングを大曲から遠ざけた。
「バラミタ撲殺天使、降臨♪」(V)
 メイベル・ポーターとセシリア・ライトが声を揃えて叫んだ。
「うううううううう……」
 潰された二つの山笠の下から、曳き手たちの声が聞こえてくる。リカイン・フェルマータもしっかりと巻き込まれていた。
「大変ですぅ。早く助け出しましょう」
 まるで自然災害であったかのようにメイベル・ポーターが言った。
「それには、上の瓦礫を取り除かなくちゃね。えーいっ」(V)
 かつて山笠であった物を野球のバットでがんがん叩きながら、セシリア・ライトが言う。
「うわわわ、た、助けて……」
 鳴り止まぬ悲鳴が周囲に響き渡った。
「ちょ、ちょっと、何よこれ!」
 トップに追いつこうとしていたミルディア・ディスティンが、飛び散ってくる山笠の破片を避けようとして凍った地面に足をとられた。そのまま瓦礫の山と化した山笠の残骸にスライディングして突っ込んでいく。
「ふう、危なく白熊の敷物にされるところだった……ぐあっ!」
 奇跡的に自力で残骸から這い出してきた雪国ベアであったが、突っ込んできたミルディア・ディスティンのキックをまともに食らって、そのまま大地に沈んでいった。
 
    ★    ★    ★
 
「来るな……、来るな……、来るな!」
 笹咲来紗昏が飛んでくる破片をサイコキネシスで弾き飛ばしながら、お月見山笠が大曲を曲がっていく。
 その後を追うようにして、姫宮みことの百合園山笠が、本能寺揚羽の巧みな動きで地面に散乱した破片を避けて大曲を回っていった。
「派手にクラッシュしやがって。ジーナ、反対側を頼んだぞ」
「はい。そちら側は任せます」
 破片に車輪を取られつつ、七尾蒼也とジーナ・ユキノシタが、その都度傾いた山笠をサイコキネシスでなんとか立てなおしながら大曲を抜けていった。
「やったね、仕留めたわよ。えっへへーん。これでまた撃破マークが増えたよー」
「容赦ないのだな……」
 パラ実山笠のクラッシュを喜ぶカレン・クレスティアをすっと目を細めて見ながら、ジュレール・リーヴェンディがつぶやいた。
「カーブの立ち上がりが勝負所だ」
 無事に大曲を抜けていく深緑山笠の後を、地味に雪の下山笠が追いあげていく。
「また二つ。さあ、どんどん潰し合うのです」
 くうきょう山笠を曳く空京稲荷狐樹廊が、また自分の順位が上がったと喜んだ。
「しかし、追いあげられても困りますから、後ろの山笠にも退場願いましょうか」
 じりじりと追いあげてくるゴージャス山笠をチラチラと見て、空京稲荷狐樹廊がさざれ石の短刀を仕込んだ扇子を取り出した。
「カーブは任せろ。ミカエラ、左だ!」
「分かってるわよ!」
 テノーリオ・メイベアに言われて、ミカエラ・ウォーレンシュタットが持っていたむしろを山笠の左の車輪の前に投げ出して広げた。凍った地面の上でそれがほどよい抵抗となり、右の車輪が氷で勢いよくすべってカーブを曲がっていく。
「この舞い、少々高くつきますよ。ちょい」(V)
 ゴージャス山笠が立ち上がりで直線に入ろうとするところを、並んだ空京稲荷狐樹廊がさざれ石の短刀で車輪を突いた。とたんに、ゴージャス山笠の木でできた車輪の一つが石化する。
「ああ、ごめんなさいですぅ。やられちゃったですぅ」(V)
 しまったと、ヴァーナー・ヴォネガットが叫んだ。ゴージャス山笠の動きが、石化した車輪のせいで不安定になる。
「大丈夫。曳く力を左に偏らせてください。壊されたわけではありませんから、まだ走れます」
 素早く状況を確認して、魯粛子敬が言った。
「よーし、あのおいなり様を踏みつぶすのよ!」
 あわてて逃げていく空京稲荷狐樹廊を指さして、お嬢様が叫んだ。
「お任せください、お嬢様」
 執事君が、張り切って答えた。