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リアクション
「うわあ……いるいる」
村の中で動き回る賊の多さに、ヨルは驚いた。
どうやら建物の多い東だけではなく、南や北方面の倉庫も狙っているようだ。
「まずは薬を撒いている人を探しましょう」
空飛ぶ箒に乗った未憂がヨルの方へ近づいてくる。
「あの辺り。盗み始めてるから、散布は終わったんじゃないかな」
ヨルが盗賊達の姿が多く見られる方向を指差した。
「風向きを考えると……あちらの方でしょうか」
風下に向って撒いている可能性が高いと考え、未憂はヨルと分かれると、リンと一緒に目星をつけた方向へと飛ぶ。
「カティ、えっと、そこから南の方向の民家に集団で入り込んだ人達がいるよ。腰に剣を下げてる」
ヨルはすぐに、携帯電話で地上にいるカティに連絡を入れた。
「いたいたー」
ディテクトエビルで探っていたリンが、噴射機のようなものを背負っている男を発見する。2人組だ。
未憂は、すぐにプリムを通してゼスタに連絡を入れ、直後に下降して噴射機の噴射口に向かって氷術を放つ。
「なっ」
もう1人の男は、未憂に向かって薬を放ってくる。
「みゆうー!」
リンが智杖を男に振り下ろす。
「村人じゃないな。構わない、やっちまおう」
男達は剣を抜くと、2人に飛びかかってくる。
未憂は息を止めた状態で、智杖を振り回し、男達の剣を防いでいく。しかし、動き回っている状態で長く息を止めていることはできず、空気と薬を吸い込んでしまう。
(大丈夫、耐えられます!)
軽い眠気に襲われたが、意思をしっかりと持って、杖を振るいリンと共に男達を打ち倒す。
そして倒れた男達を素早く縄で拘束していく。
「食べ物の恨みはこわいって知ってるよねー」
リンが雷術を放つ。男達には当てず、地面にだ。
そうして、男達を脅し、盗賊団の人数と目的を聞き出していき、ゼスタへ連絡を入れるのだった。
ゼスタから届いた『処分は任せる。埋めるなり好きにしていいぜ』という言葉に、未憂は軽く息をついた。
彼はどうも、未憂には理解しにくい人のようだ。
「スイーツ愛好会にドーナツ恐怖症って……あんたら足して割ればちょうどいいんじゃねぇの?」
ゼスタとブラヌ達にカティがそう言った。
「スイーツは好きなんだよ!」
ブラヌがそう答える。
「けどブラヌ、ドーナツには穴がないのもあるの、知ってるか?
「やーめーろー。悪夢が蘇る」
ブラヌが頭を抱える。
「あ、言葉もダメなのか。まあ、頑張れ」
ぽむ、とカティがブラヌの肩に手を乗せる。
そんな雑談をしていたカティの元に、ヨルから連絡が届いた。
「南方面の民家に盗賊が入り込んでいるそうだ。行くぞ! ま、眠った時には助けてやるし」
「お、おうっ。俺も契約者になれれば、こんなのへっちゃらなんだけどな!」
あくびを1つした後、ブラヌは分校生達と共に民家の方へと走る。
「ガキが一匹倒れてるぜ」
途中でブラヌが獣人の子供を発見する。
「あの家から盗賊達が出てくるようですわ!」
ジュリエットが武器を手に家から飛び出してきた盗賊達に気付く。
「総員、その子を中心に『ドーナツ状に』円陣を組むのですわ!」
「ま、待て! 寄るな。ここは扇形でいいだろう! そうしよう、そうしようぜっ!」
即、ブラヌが反発する。円状は嫌みたいだ、円状は絶対嫌みたいだ、円状はどうしても受け付けないようだ。まして、くっついいて円状なんて……。
「うっかり禁句を言ってしまいました。仕方ありませんわね……。それでは、扇状に組みますわよ!」
うっかり言ってしまったとはいえ、ジュリエットといえど、彼等や村人を犠牲にしたいわけではない。
叱咤激励して急いで体制を整えていく。
「よぉぉし! 行くぞ!」
ジュリエットが発した禁句のお陰で、ブラヌ達の眠気はふっとんでいた。
(思わぬ効果ですわね。寧ろこのままドーナツ苦手でいてくれた方が、何かと便利なのでは……)
などと内心思いつつも、盗賊に備えてジュリエットも身構える。
「隙を見て、その子抱えて入り口の方に逃げるぞ」
カティの言葉に、ブラヌと舎弟達が「おお」と返事をする。
「ドーナ……いや、子供を守るブラヌ達を逃がすぞ」
圭一が分校生達に声をかける。
千佳も恐る恐る、圭一の後に従っている。
「寝るんじゃねェぞ、てめぇら!」
声を上げて、バットを振り上げて竜司が盗賊達に殴りこんでいく。
突如現れた、竜司と十数人の不良の姿に、盗賊達は一瞬怯む。
「うおおおっ!」
竜司は男の肩にバットを振り下ろす。
「なんだ、てめぇらは! くたばれ!」
「こっちのセリフだぜ」
剣を振り下ろしてきた別の男には、鳩尾に拳を叩き込んでいく。
「きたねぇ手段を使うやつらだぜ!」
「堂々と盗めっての!」
分校生達も次々に武器を盗賊に叩き込んでいく。
「盗んだもの、置いていってもらおうかしら。全てはドーナツの為に!」
などといいながら、ヴェルチェも竜司達の後に続き、ドラゴンアーツで盗賊をボコっていく。
「うぐぅ……退くぞ!」
ブラヌは苦悶の表情を浮かべながら、意識を失っている子供を抱えて、舎弟と共にゼスタ達が待機している方へと走るのだった。
「振り向かないで駆け抜けてくださいませ」
後方を守るために、ジュリエットもくすりと笑みを浮かべながら後に続いた。
「若葉分校の活動、素晴らしいと思いますわ。それなのに……行きましょう、シリウス」
「いくぜ相棒、村を守るぞ!」
分校に興味を持ち、今回の活動に参加をしたリーブラ・オルタナティヴ(りーぶら・おるたなてぃぶ)とシリウス・バイナリスタ(しりうす・ばいなりすた)は、竜司達とは反対の方向――北方向に向かうことにした。
広範囲で盗賊達は盗みを働いているらしい。家の中にも潜んでいるだろう、油断は出来ない。
「えーん、えええーん」
子供の泣く声が2人の耳に入る。
急ぎ声の方へと向かう。
「あの家か!?」
「急ぎますわよ、シリウス!」
軽装の男が窓から中に入っていく。
シリウスとリーブラも急いで家に近づき、割れた窓から中に入る。
「うぐっ、ううっ」
子供が苦しそうな声を上げている。
男が幼子の口に猿轡をかませているところだった。
「子供から離れろ!」
シリウスがドアに向けて、サンダーブラストを放ち威嚇する。
「その子をどうするつもりですか!?」
リーブラは高周波ブレードを手に、男に飛びかかる。
「邪魔が入ったか」
男は子供を放り出すと、焦げたドアをぶち破るように開けて、外へと逃げていく。
シリウスとリーブラは子供の救助を優先する。
「外してやるからな。でも騒ぐなよ?」
「あ……眠ってしまいましたわ。怪我はないようですわね」
子供は眠りに落ちていった。
これまでは密室だったせいで、薬の影響を受けていなかったらしい。
リーブラはキュアポイゾンで念のため子供を癒した後、抱き上げてシリウスの背に下ろす。
シリウスは子供を背負って立ち上がり、村の外に避難するためリーブラと一緒に家から飛び出す。
「こっちだ、頑張って。村は大丈夫だから」
若葉分校に時々顔を出している和原 樹(なぎはら・いつき)がパートナー達と、老人や子供を誘導している。
「安全な所に着くまで意識を失わないで下さい」
セーフェル・ラジエール(せーふぇる・らじえーる)は目を擦っている子供に、そう声をかけ、キュアポイゾンで癒していく。
「来るぞ」
ディテクトエビルで警戒をしていたフォルクス・カーネリア(ふぉるくす・かーねりあ)が声を上げる。
ばたばた駆ける音が響き、武器を携えた盗賊が3人姿を現す。
「全員で寝た振り……は無理そうか」
フォルクスは素早く氷術を放ち、盗賊1人の足を凍らせる。
「急いで。村から出れば、眠っても大丈夫だから。頑張って」
連れている老人と子供達を守りながら戦うのはかなり厳しい。
樹は村人達を励ましながら腕を引っ張り、子供は抱き上げて、村の外へと急ぐ。
「家の中からも、来ます」
殺気看破で警戒していたセーフェルが、家の中から飛び出してくる盗賊に気付く。
即座に、氷術で盗賊の接近を阻む。
「急ぐぞ!」
その後から、幼子を背負ったシリウスとリーブラが飛び出し、樹達と合流をする。
「向かってくるのであれば……容赦はできませんわよ」
リーブラが大剣型の光条兵器オルタナティヴ7(ズィーベント)を取り出す。
精神力は救護に必要な為、身体能力も上げず真っ向から接近戦で敵に挑む。
「変ッ……身!」
シリウスは変身!の能力で姿を変える。
「魔法少女、シリウスッ!」
魔法少女というより、ヒーローの名乗り、背には幼子を背負った状態で、敵に向かってサンダーブラスト。
急変する事態に混乱していた敵に直撃。直後に、リーブラの光条兵器が盗賊達の体を切り裂いて倒す。
「後もう少しだから」
子供を一人抱えながら、倒れそうな子の手を樹が必死に引っ張る。
「仕方ない。行くぞ……もう寝てもいい」
フォルクスが倒れそうな子を抱き上げる。
じきに入り口側で待機しているゼスタの姿、そして駆けつける少女達の姿が見えてきた。
村の入り口側で、百合園女学院生徒会執行部、通称『白百合団』副団長代理のティリア・イリアーノは、若葉分校生とゼスタ・レイラン(ぜすた・れいらん)と合流を果たす。
ティリアは団長の桜谷 鈴子(さくらたに・すずこ)とパートナー達がこの村に来ていることを分校生、及びゼスタに話し、ゼスタは報告が入っている状況についてティリアに話していく。
「桜谷鈴子団長がいらしているのですかぁ〜。それは大変ですぅ」
白百合団側の話を聞いたキャラ(伽羅)はすぐに現場の分校生達への伝達に走る。
「神楽崎もこっちに向かってんのか。何か伝えることある?」
「状況はお伝えしたいところですが、携帯電話が繋がりませんので。副団長が到着する前の解決を目指します」
ゼスタにそう答えて、ティリアは白百合団員達に指示を出す。
ここで救護活動を行う救護班の他に、盗賊が強盗行為を行っていると思われる、東、西、北に分かれての住民救助、倉庫の護衛を行う班に隊員を分ける。また、特殊班のメンバーには、特務隊として鈴子とパートナーの救出を最優先に行うようにと指示を出していく。
「あ、優子チャン〜。こっちは分校生と副団長代理の勇ましい女の子が頑張ってるから茶でもしながら、ゆっくり来て大丈夫だぜー」
そんな中、陽気な声でゼスタは電話をしている。
指示を終えたティリアは怪訝そうな目を彼に向ける。
電話を終えたゼスタは、ティリアに軽い笑みを向ける。
「神楽崎優子のパートナー、薔薇学のゼスタ・レイランだ。ヨロシク!」
「……は、はあ……」
ティリアは微妙な顔を見せた。
副団長の神楽崎 優子(かぐらざき・ゆうこ)がタシガン貴族と契約をしたという話は耳にしていたが、まだ紹介は受けていなかった。
「テントはこの辺りに張ればよろしいでしょうか?」
「眠っている方は起こすべきですか?」
そうしている間にも、白百合団員達が指示を求めてくる。
「テントはここに。更に避難させる必要が出てくる可能性があるわ。眠っている方々は起こして、一所に」
ティリアはてきぱき指示を出していく。
「この子達もお願い」
樹が子供を背負い、老人の手を引いて現れる。
フォルクスとセーフェルもそれぞれ、子供や老人を連れて駆け込んできた。
「樹兄さん……」
ゼスタ達と一緒に待機していた樹のもう1人のパートナーショコラッテ・ブラウニー(しょこらって・ぶらうにー)が心配そうな目を向けてくる。
「ショコラちゃんはここの人達と治療をお願い」
樹は連絡係として残っている分校生や白百合団員にショコラッテのことを頼んでいく。
「樹兄さん、フォル兄、セーフェル」
一人ひとりの名前を呼んで、ショコラッテはアリスキッスで3人を癒していく。
「もう一度行くの?」
「ありがとう。村の中に沢山人残っているから、行ってくる。皆を頼んだよ、でも無理はしないで」
そう答える樹にショコラッテはこくりと頷いた。
「……私は大丈夫。兄さん達も、無理はしないで」
「なに、大した相手ではない」
「早く終わらせて、マスターの友人方にきちんと挨拶したいものです」
フォルクス、セーフェルはそう言葉を発すると、樹と共に再び村の中へと入っていく。
「樹兄さん、フォル兄……気をつけてね。……セーフェルも」
そう言って、送り出した後、ショコラッテは運び込まれた村人達の治療を手伝っていく。
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