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リアクション
「ありすちゃん、ミルミちゃんいない、どこ、どこ……っ」
牛皮消 アルコリア(いけま・あるこりあ)は、入り口に残してきた樂紗坂 眞綾(らくしゃさか・まあや)に電話をかけ、状況を確認する。
亜璃珠や特務隊員達が、桜谷鈴子とパートナーのミルミ・ルリマーレン(みるみ・るりまーれん)、ライナ・クラッキルを探してはいるが、未だ見付かっていないようだった。
特務隊が探している場所、探したと報告のあった場所を省いて――。
「隠れているとしたら、モノ無さそうな所よね……」
鈴子は兎も角、ミルミはきっとそういう場所にいる。
「きゃふっ……イタイイタイ戦場まだぁ? ふふ、たのしみ……」
纏っているレザーアーマー――魔鎧のラズン・カプリッチオ(らずん・かぷりっちお)が声を上げる。
アルコリアは、彼女に『とびっきり危ない所に連れてってあげる』といって、連れてきた。
だけれど、危険であって欲しくない。
自分とラズンはそれで良くても。
「ミルミちゃん、どこっ?」
アルコリアは骨の翼を広げて、空高く飛びあがり建物を探していく。
今日だけは、化け物と呼ばれていい。
魔物と呼ばれていい。
人である必要はない。彼女を救う力が欲しい。
スカーフで口と鼻を覆い、人の限界を越えるほどのスキルを用いる。
「あそこ、きっと……っ」
ベルフラマントで気配を消し、神速で見えた小屋へと、一直線に飛んだ。
小さな、小さな嗚咽が響いている。
風となったアルコリアは、ドアを吹き飛ばして入り込んで。
涙にぬれた少女を両手で掻き抱く。
途中、盗賊の姿も目に映った。略奪行為も目に映った。
だけれど一直線に、アルコリアは彼女だけを目指し、両腕で包み込んだ。
この腕が、抱きしめるための腕でなければ。
自分の腕はずっとこの先、殺して、壊して、奪い取るためだけの腕にしかならなくなるから……。
「アルちゃん、アルちゃん……っ」
ミルミは声を上げて泣き出した。
「子供がいるぞ、こっちだ」
途端、外に男の声と足音が響き出す。
「ふえええーん、ライナちゃん守らないと。ミルミ、外出て、戦わない、と……っ。ふ、えええーーん」
光の結界に守られて眠っている小さな女の子――ライナ・クラッキル(らいな・くらっきる)の姿がそこにあった。
「わかった、行こう」
アルコリアはミルミを抱きしめたまま、外へと出る。
壊したドアの代わりになり、侵入を防ぐために。
彼女の前で、殺してしまったら。
ズタズタに引き裂いてしまったら。
壊して、しまったら。
彼女の心まで一緒に、壊してしまうかもしれないから。
アルコリアはミルミを自分の後ろに隠した後、魔道銃を地面へと撃ち、盗賊達を威嚇する。
「なんだ……妙な女がいる」
「売れそうもないなら、殺せ」
アルコリアに気付いた盗賊達が、ナイフを放ってくる。
「きゃふっ、気持ちイイ ふふ、もっと、もっとぉ」
攻撃を受けたラズンが声を上げる。
「退きなさい」
アルコリアは動じず、身動き1つせず、ナイフをその身で受けながら、威嚇攻撃を続ける。
「なんだ、この女……」
彼女の迫力に、盗賊達が怯みを見せたその時――。
「!?」
アルコリアを狙っていた男が、次々に転倒する。
「もう1人中にいるんだね」
シーリングランスで盗賊の足を切り裂き、バーストダッシュでコハク・ソーロッド(こはく・そーろっど)が飛び込んでくる。
更に、獣の足音が響き、突如現れた魔獣が盗賊達を蹴り、踏み倒していった。
「状態は? 鈴子さんもいる?」
野性の蹂躙で盗賊達を蹴散らした亜璃珠が、ベルフラマントを外してアルコリアに近づく。
「ミルミちゃんとライナちゃんだけ。2人共無事」
それだけ言うと、アルコリアは泣いているミルミを、愛しげにぎゅっと抱きしめる。
「そう」
大地の祝福でアルコリアを癒し、亜璃珠はマリカに連絡を入れる。
「……上空の方は薬の影響ないみたい。飛んで逃げられる?」
「もちろん」
ミルミを抱きしめながら、アルコリアが答える。
「ライナは僕に任せて」
コハクが結界の中のライナに手を伸ばして、その小さな体を抱き上げた。
「それじゃ、頼んだわ。私はこの辺りの敵を抑える。……行って!」
亜璃珠は忘却の槍を振るい、起き上がる盗賊達に向かっていく。
「ありすちゃん、お願いね」
「美羽も無理しないで……」
少し離れた位置で奮闘しているパートナーを想いながら、コハクは外へと出る。
そしてアルコリアはミルミを、コハクはライナを抱きかかえて空へと飛び立った。
木の陰に隠れて、美羽は盗賊を狙っていた。
アルコリアとコハクが、ミルミとライナを抱えて上空へ飛んでいく姿を確認して、ほっと息をついた瞬間に背後に盗賊に回り込まれてしまう。
足を撃ちぬき倒した盗賊達も、仲間の治療を受けて動き出したり、倒れたままの態勢でこちらを狙っている。
そろそろ、自分も逃げないと……そう思った直後。
ジリリリリリリリリリリー
辺りに大きな音が鳴り響いた。
目覚まし時計の音だ。
「どこだ?」
「止めろ」
盗賊達は音の発生源に向かっていく。
残った数人の盗賊達の足を撃ち抜いて、美羽はその場を切り抜ける――。
「小鳥遊美羽さん」
民家の脇に差し掛かった美羽は呼び止められて足を止める。
物陰から現れたのは、特務隊として動いているステラ・宗像(すてら・むなかた)だった。
その後ろに、パートナーのイルマ・ヴィンジ(いるま・う゛ぃんじ)、陳 到(ちん・とう)の姿もある。
「桜谷鈴子団長を探しています。見かけませんでしたか?」
「民家の方に向かったみたいだよ」
美羽は鈴子が向かったと思われる方面を指差す。
「ありがとうございます。村の入り口で白百合団が救護活動を行っていますので、そちらで休まれてください」
「うん」
ステラ達と美羽は簡単に情報を交換しあって、分かれた。
「桜谷鈴子団長は沼近くの民家の方に向かったようです。そちらは?」
『ミルミとライナが到着したのじゃ』
連絡係として隊長の側で待機している景戒 日本現報善悪霊異記(けいかい・にほんこくげんほうぜんあくりょういき)と連絡を取りながら、ステラ達は鈴子を探していく。
『あと、神楽崎優子副団長がそろそろ到着するようじゃが、そっちは大丈夫そうじゃろか!?』
「そうですね、入り口で待機していていただいた方が良いのではないでしょうか」
『了解なのじゃ!』
ステラは通話を終えると、身を隠しながら民家に近づく。
物音が聞こえる。
広い庭と庫を持つその民家には盗賊も入り込んでいるようだった。
「自分が行こう」
小声で言い、イルマが塀を飛び越えて敷地の中へと入る。
ステラと陳到は、裏門から敷地内に入り込んだ。
「子供がいます。お帰り下さい」
「その子を奪いにきたんだぜ?」
「この女も売れそうだ」
女性――鈴子の声、そして盗賊のものと思われる声が聞こえてくる。
「帰るのは、団長の方もだ」
庭に向かったイルマは、対峙している両者の間に下りる。
「面倒だ、やっちまえ」
途端、盗賊は武器を手にイルマに斬り込んでくる。
イルマはバスタードソードを振るい、盗賊を打ち飛ばす。
続いて、バーストダッシュでステラが飛び込み、鈴子を抱えてその場から離れる。
「パートナー達を保護したと連絡が入っています。東の入り口に集合していますので、団長も早く合流を」
「私も救助を……いえ、戻るべきですね」
迷いを見せるも、鈴子はステラの言葉に従って外へ向かおうとする。
「帰らせてもらいましょうか」
陳到が薙刀を振るい、近づく盗賊の足を傷つけていく。
「大人しくしていてもらおう」
よろめいた盗賊にイルマがバスタードソードで叩き付ける。
「民家に押し込まれては厄介ですからね」
陳到は立て続けに薙刀を突き刺し、盗賊の足をズタズタにしていく。
「団長を保護しました」
ステラは電話で連絡をし、鈴子と共に敷地の外へ駆け出た。
「団長、こちらへ」
特務隊の冬山 小夜子(ふゆやま・さよこ)が合流し、鈴子達を誘導する。
『エレンさんも合流されました。風向きなどの状況から沼側、建物の側は避けてこちらからの指示通りに避難してください、とのことです』
パートナーのエンデ・フォルモント(えんで・ふぉるもんと)経由で小夜子は安全なルートを確認していく。
「お怪我はありませんか?」
小夜子は誘導しながら、鈴子の状態を確認する。
「ええ、大丈夫です……」
鈴子は浮かない表情だった。状況が状況なので当然ではあるが……。
「戻らずに、このまま村人の避難誘導に動ければと思うのですが。あの家にも子供がいました。あちらに倒れている方も……」
鈴子は民家の方、倒れている村人達にしきりに目を向ける。
「では、私がそちらに動きます。団長はお戻り下さい」
小夜子はそう言って、民家の方へと向かった。
「団長にはステラさんが付き添います。ルートの指示は景戒さんにお願いします。私はこの辺りの村人の避難誘導を行いますので、サポートをお願いします」
『わかりました。隊長に伝えます。小夜子様、お気をつけて……』
携帯電話から、自分を案じるエンデの声が響く。
彼女は小夜子との同行を望んでいたけれど、力不足と自分で判断し、小夜子の頼みである連絡係という任務を引き受けてくれた。
「そちらもお願いしますね」
そう、優しく声をかけ、小夜子は通話を終える。
「いやっ」
民家の方から女性の悲鳴が響いてくる。
小夜子はすぐに、神速で駆けつける。
「離れていただきます!」
そして少女を捕まえようとする盗賊を、鳳凰の拳で打ち倒す。
「あ、ああ……っ」
少女は小さな声を上げながら、がたがたと震えている。
そこには少女だけではなく、切り伏せられた兄と思われる青年の姿もあった。
「大丈夫です、息はあります」
小夜子はヒールで青年を癒し、息をつく。
多分、この兄妹は鈴子が起こし、癒したのだと思われる。
眠っていたら、青年は怪我をしなかっただろう。
こういった緊急事態では、その場、その場の判断で失われる命も出てしまう。
団長は全体の方針を決める人物として、相応しい、大切な人ではあるけれど……。
だからこそ、特殊班員となった自分達、戦いを知る者達がしっかりしなければならないと、思うのだった。
「農園の倉庫に避難していただいています。さ、急いで」
2人を小夜子は護衛して比較的近場の班長達が守護している倉庫へと誘導する。
シャレで持ってきていた悪魔の目覚まし時計で盗賊をひきつけた国頭 武尊(くにがみ・たける)は、光学迷彩と隠形の術で、姿を消して物陰でチャンスを見計らう。
農園内の開けた場所に、盗賊達が集まっていく。
周囲を探して、切り株の後ろにあった時計に気付いたその瞬間に、武尊はしびれ薬を撒き散らした。
「う……っ、なんだ……」
「ぎゃっ」
「ぐふっ」
「うがっ」
盗賊達の動きが鈍った途端に、姿を消したまま武尊は則天去私で盗賊を一網打尽にしていく。
訳のわからぬまま、盗賊達はその場に倒れていく。
その数5人。
「このままにしておくわけにもいかないよな」
縄などは持っていない為、服を掴んで近くにあった物置小屋に盗賊達を引き摺っていき、どさどさ投げ込んでいく。
「よし、こんなモンだろ。これで美味くドーナツが食えるか」
パンパンと手を叩いて、武尊は東に戻ろうとする。
「百合園の白百合団も来てるみたいだよな。盗賊が出没するって言ってたあの体育教師、神楽崎のパートナーだっていうしな……」
白百合団は、優子からの連絡でゼスタの援護に駆けつけたのだろうか。優子も来ているのだろか。
そんなことを考えながら、東屋風の休憩所の側を通りかかった武尊は……思わず足を止める。
パンツいっちょな男達が、蔓でぐるぐるに縛られて、ぼっこぼこにされた状態で休憩室につるされていたのだ。
「……た、助けてくれ……」
「下ろしてくれ……」
男達は情けない声を上げている。
彼等の下には服が散らばっており、それは明らかに盗賊達の服と装備品だ。
「……見なかったことにしておこう」
その姿に軽く同情してしまった武尊は、顔を背けてそっとその場を去ったのだった。
「二人とも、やりすぎだと思うんですが……怖い……」
遠くに見える休憩所にちらりと目を向けてアリスは軽く震えた。
「つけとけよ」
盗賊から奪った防毒マスクを、輪廻はアリスに渡した。
「一応、これだけ派手にやれば敵も集まるし警戒もされるから動きも鈍る、そういう意味もある」
そして、冷ややかな目を吊るした男達に向ける。
ハンドガンで足を撃ち抜いた後、泣くまで殴った上に半裸にして吊るしたのだ。
「あ、なるほどー」
「まぁ、個人的な恨みもあるけどな」
輪廻は冷たい笑みを浮かべる。
「やっぱり怖い〜」
アリスはぶるっと震える。
「ふふ……ふふふふふ……」
遠い目をしながら、白矢も盗賊達に目を向ける。
白矢は噛み付いて動きを奪った後、トラウマになりかねないほど、それは良い笑顔でぼっこぼこのぼっこぼこにしたのだった。
そうして吊るされた男2人には、その後に現れた白百合団の乙女達は決して近づこうとしなかった。
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