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リアクション
序の一 屋上にて
ピノ・リージュンと別れたチェリー・メーヴィスは売店の陰から半身を出してターゲットを狙っていた。ブラックコートに身を包み、静かにスコープを覗く。彼女の持つバズーカ光線に『剣の花嫁』以外の種族に対する影響は無い。仮に攻撃を外しても大した問題にはならないのだが、まあ、気分というものである。
屋上には小型飛空挺を停められる駐挺場や子供用の遊具、簡単な食事が出来るテーブルなどがある。そこに蓋のついたジュースの紙コップを置き、ローザマリア・クライツァール(ろーざまりあ・くらいつぁーる)とグロリアーナ・ライザ・ブーリン・テューダー(ぐろりあーならいざ・ぶーりんてゅーだー)、エシク・ジョーザ・ボルチェ(えしくじょーざ・ぼるちぇ)が会話に華を咲かせている。チェリーは、その中の紫色のパワードスーツの少女に狙いを定めた。頭部にも同色のヘルメットを被っていたが身体の線から女性と分かる。
チェリーは、引き金に指をかけた。
直後、エシクに異変が現れた。ぴたりと動きを止めて、身体を縮こめる。
「……ダメ……」
「どうしたのだ? ジョー」
グロリアーナがそれに気付いてエシクに怪訝な顔を向ける。
「ダメ……今、此処で……は」
エシクはふらふらと席を立つと、覚束ない足取りで駐挺場へ歩いていった。譫言のように繰り返す「……ダメ……」という声からは焦燥すら感じられる。彼女は小型飛空挺に乗り込むと、素早くそれを発進させた。
「ジョー!」
ローザマリアが急いで追いかけ、屋上の手すりに足を乗せる。空中に身を晒すと、デパートを離れつつある小型飛空挺の淵に手を掛けた。
「……!」
滑りそうになるのを何とか堪え、必死にしがみ付く。ローザマリアをぶら下げたまま、小型飛空挺は速度を上げていく。
「これは……!」
グロリアーナも自らの飛空挺を駆って追いかける。2人の姿は、既にかなり小さくなっていた。
「どこに行くつもりだ……!」
「うーん、風が気持ちいいねー」
のびのびと腕を伸ばし、白銀 司(しろがね・つかさ)は軽い足取りで屋上を駆けていく。
「元気だな。下でも散々はしゃぎまわってたってのに……俺はつ……」
疲れた、と言いかけたセアト・ウィンダリア(せあと・うぃんだりあ)の言葉が止まる。
「つ?」
中途半端な所で声が聞こえなくなり、司は振り向く。
(あれ? セアトくん、いきなり黙り込んじゃった……なぜに?)
セアトは売店の方に目を向けていた。だるそうでやる気の無いいつもの様子と、ちょっと違う。
「どうしたの? セアトくん……」
そこで司はぴんと来て、彼に明るく言った。
「……あ、そっか。ソフトクリームが食べたいんだね! もう、それならそうと……って、あれ?」
「…………」
それはオマエだろ的なツッコミが来ると予想していた司は目をぱちくりとさせて改めてセアトを覗き込んだ。
「……もしかして、体調が良くない?」
訊いてみるが反応は無い。それどころか、セアトは司の隣を素通りしてゆっくりと歩き出した。何かふらふらしているような……。
「セアトくん、こっち!」
とりあえずベンチで休ませようと彼の手を取る。しかし、即座にそれは振り払われた。
「俺に触れるな、俗物が」
「ぞぞぞ俗物ッ!? それは流石にひどいよ……」
司は振り払われた手を押さえて悲しそうな顔をした。
(何だろう、本当に様子がおかしいよ……)
周りを見ると、他にも幾つかの場所で騒ぎが起こっているようだ。手すりの向こうではアクション映画めいた追走劇も展開されていた。
(何かが起きてるのかな……?)
その時、セアトが光条兵器の剣を抜いた。彼の目には、地球人――コントラクターに対する不信感と嫌悪感があった。
「せ、せせせセアトくんっ!?」
「パートナーなど必要ない……。死ね」
繰り出される攻撃をかわし、司は言う。
「突然どうしちゃったの!? まずは話を聞かせてよ!」
◇◇◇◇◇◇
買い物をしたり談笑したり彼女に付き合わされてお疲れ気味だったり、今日も今日とて、空京のデパートには様々な表情が溢れている。そんな中、オッドアイの少年緋桜 霞憐(ひざくら・かれん)は退屈そうにフロアを歩いていた。緋桜 遙遠(ひざくら・ようえん)と一緒に来たのだが、時間を区切って別行動しようということで今は1人だ。
「色々周ってみたけど飽きてきたなぁ。まだ集合時間まで30分あるし……デパートって言ってもあんまり見るものがないんだよなぁ」
商品を流し見ながら、これまで行ってみた場所を思い返す。
「……あと行ってないのは屋上位か? うーん、何にもないだろうけどここまで来たらとりあえず全部周ってしまうか……」
主要な売り場の殆どに立ち寄っていた霞憐は、何の気なしに屋上へ足を向けた。
「……次はあの子だな」
ふらりとやってきた霞憐に光線を浴びせ、チェリーは立ち上がる。計4人。そろそろ場所を変えてもいいだろう。
「おまえの鼻は本当に便利なんだな。バズーカには剣の花嫁を識別する機能までは無いからして」
「鼻だけではない。全身で感じるんだ。私は、剣の花嫁の放つ気配なら嫌というほどに感じてきたからな」
「便利なことに変わりはないんだな。別のフロアに行くんだな」
山田 太郎はそう言うと、こそこそと移動を始めた。
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