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【相方たずねて三千里】西シャンバラ一人旅(第2歩/全3歩)

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【相方たずねて三千里】西シャンバラ一人旅(第2歩/全3歩)

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3 ツァンダ

 ツァンダでは本郷翔(ほんごう・かける)がトレルを待っていた。
「お待ちしておりました。ここからは私がご案内させていただきます」
 美形の天使を探しに行ってしまった椿に代わり、案内兼護衛をしようというらしい。こんなところに来ても執事と関わることになろうとは、トレルは思ってもみなかった。
 その好意は素直に嬉しいので、トレルはすぐに翔と共に歩き始めた。
 街の中に入ってから、また見知った顔と出逢う。
「ようこそ、ツァンダへ」
 ソール・アンヴィル(そーる・あんう゛ぃる)だ。
 元はといえば、ソールが掲示板で情報を入手してきたのが始まりだった。トレルの護衛をするとか何とか言いだして、毎度のことながら翔はソールを監視するためにもトレルのそばに付くことにしていた。
「一人旅は辛いだろう? ここではゆっくりしていきなよ」
 と、ソールがにっこり笑う。トレルは素直に頷き返した。
「うん」
 ツァンダの街は空京や葦原とは違った賑わいを見せていた。その影響力を物語るように、蒼空学園の制服を着た学生たちが多く見える。
「どこか行きたいところはございますか?」
「特にない」
 守護天使の姿も見かけはするが、トレルの想像とはかけはなれていた。確かにみんな美しいが、何か違う。
「昼食はもう食べたかい?」
 と、ソールに言われてはっとした。
「忘れてた」
「じゃあ、まずは腹ごしらえをしよう」
 ソールの提案に翔も頷く。
「ああ、あと、忘れないうちにこれを」
 と、ソールが何かを取り出してトレルへ差し出す。
「禁猟区のお守りだ。旅の無事を祈るぜ」
 一人旅を心配されているのは少し嫌だったが、トレルはそれを受け取った。

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13 :彩:2020/10/14(水) 13:11:50 ID:1roD0rI
ツァンダのファミレスで、空色のショートカットの子、見ました!
女の子の顔は見逃さないのさ!
せっかくだから、案内してあげようかな。

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 ちょうどお昼時だったこともあり、店は混んでいた。
「そうですね、確かにツァンダには守護天使が多くいますが、契約とは簡単に出来るものでもないですし」
「だよね。あー、でも美男美女が良い」
「あんまり理想を追いかけすぎるのも良くないと思いますよ」
「そうだな。出逢いなんてどこにあるか分からないしな」
「……だよね」
 がやがやと騒々しい店内で、筑摩彩(ちくま・いろどり)は他人の会話を聞いていた。
「でも気長に待ってもいられないんだよ」
 どうやら、その人はパートナーを探しているらしい。空色のショートカットという姿に、彩はふと思い出す。
「どうしましたの、彩?」
 と、イグテシア・ミュドリャゼンカ(いぐてしあ・みゅどりゃぜんか)が携帯電話を取り出した彩へ尋ねる。
「あの子が噂のトレルちゃんみたい」
 と、掲示板をイグテシアへ見せる。すでに何件かの書き込みがされていて、彩もすぐに書き込みを入れた。
「ああ、やはり少女でしたのね」
「そうみたいね」
 と、トレルを眺める二人。男装してはいるが、会話の声からして女性であることがバレバレだ。
 すでに食事を終えていた彩たちは、トレルたちの食事が終わる頃を見計らって声をかけた。
「あなた、パートナー探してるんだって?」
「良ければご一緒させていただけませんこと?」
 にこにこしている彩と高飛車で偉そうなイグテシア。トレルは少し戸惑ったが、悪い人ではなさそうだと判断する。万が一悪い人でも、翔とソールがいるから平気だろう。
「うん。すごく羨ましい」
 会計を済ませて外へ出ると、イグテシアは彩へ言った。
「彩、わたくしたちが初めて会った時のこと、覚えていまして?」
「えっと、あたしがイグーと会ったのは……蒼空の高校に入るちょっと前、だったかな?」
 曖昧な記憶を辿る彩。トレルは何も言わずに続きを待つ。
「走ってきた彩が、街の散策をしていたわたくしにぶつかってきたのでしたわね」
「そうそう。遅刻しかけて、ちこくちこくーって口にパンくわえて走ってたら、角でぶつかっちゃったの」
 王道である。
「大丈夫? って声かけたけど、その時はイグー、ぷんって横向いちゃって。あたしも急いでたから、ごめんねって言って行っちゃったんだけど、その日の帰りにファーストフードの前で偶然また会えたの!」
「地面に座り込んで相手をよく見ましたら、身長は少し高めでしたけれど、清楚なボディラインをした少女でしたの。わたくし、穢れのない少女が好きなものですから、これはもう、運命的な出逢いだと思いましたのよ」
「あたしは、ちっちゃくて可愛いけど、落ち着いた感じの女の子だと思ったなぁ」
「その上、午後に偶然の再会。これが決定打になりましたわね」
 やはり出逢いというのは運命的なものなのだろう。
「だから、出逢いなんてどこにあるか分からないよ」
 と、彩がにっこり笑う。自分も出来れば早く出逢いたいものだ、とトレルは思った。

 翌朝、宿屋の外で翔たちが来るのを待っていたトレルに誰かが声をかけてきた。
「トレルっていうのはお前か?」
「……誰?」
 人目を気にしながら、日比谷皐月(ひびや・さつき)は言った。
「オレは日比谷皐月だ。ヒラニプラまで送ってやるよ」
 皐月の隣にいたマルクス・アウレリウス(まるくす・あうれりうす)もその気なのか、トレルを守るような態度を見せる。
 困ったな、と思いながら、トレルは周囲を見回す。翔たちが来る気配はまだないし、朝が早いこともあって辺りは静かだ。
「あー、でも人待ってるんで」
 と、トレルが断ると、皐月は言った。
「いいから乗れ」

「え、ちょ、うわっ――!?」
 静かなツァンダの街に響いた声に、真白雪白(ましろ・ゆきしろ)がはっと顔を上げた。
「あっちから声がしたよ、事件かも!」
 アルハザード ギュスターブ(あるはざーど・ぎゅすたーぶ)は嫌々ながらもバイクの方向を変える。今日は非番だったので、厄介事に巻き込まれるのは好ましくないのだ。
「あ、あれ!」
 と、真黒由二黒(まくろ・ゆにくろ)が空を指さした。空色の髪をした何者かを載せた小型飛空艇アルバトロスが慌ただしくヒラニプラ方面へ向かっていった。
「誘拐!?」
「助けた方が良さそうね」
「あれは……」
 と、ギュスターブが速度を上げる。サイドカーに乗っている雪白と由二黒は知らない様子だが、ギュスターブは空色の髪に覚えがあった。記憶が間違えていなければ、あれは目賀家の令嬢のはずだ。
 事件の香りが強く漂ってきた。犯人が何をしようとしているかは分からないが、軍人として見逃すわけにはいかない。

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18 :大佐:2020/10/15(木) 08:00:01 ID:BusUZiMa
トレルが何者かに誘拐された模様。
小型飛空挺に無理やり乗せられ、現在、ヒラニプラ方面に向かって連行されている。
で、その後を追う軍人らしきバイクに三名。

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「皐月、すでに追われているぞ」
「ああ、分かってる」
 マルクスは追手が軍人であることを知ると、何かしようとは思わずにトレルの安全を第一に考え出す。
「追いつかれるようなら、彼らに引き渡すのも有りだろう」
「ってゆーか、あの」
 ちらりと皐月がトレルへ目をやる。
「怖いです、いろいろ」
 と、地上を指さすトレル。急に飛空挺に乗せられたかと思えば、空を飛んでいる。それも見知らぬ二人に連れられて。
「まあ、楽しめよ。すごく良い景色じゃねーか」
 と、皐月。
「そう言われても……」
 トレルは苦笑した。天気は晴天とは言いにくく、まるで今の自分の状態を示すかのように灰色だ。
 ――困ったなぁ。

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19 :園井:2020/10/15(木) 08:02:15 ID:Sh1TSuji
あなたは何をしてるんですか、助けて下さいよ!

20 :大佐:2020/10/16(木) 08:05:28 ID:BusUZiMa
助ける?
見てる方が面白いと思うんだがね。

21 :園井:2020/10/16(木) 08:06:14 ID:Sh1TSuji
そういう問題じゃないです!
ああ、どうかお嬢様、ご無事でありますように!!

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「もうすぐで追いつくぞ」
 荒野の悪路を必死に走り抜けていく軍用バイク。
 小型飛空挺の主はこちらに気がついているのかいないのか、先ほどよりも速度を緩めた。
 チャンスとばかりに、一気に距離を詰めていく。

「俺、実は高所恐怖症なんだよね」
「は?」
「あと、人見知り」
 皐月はゆっくりとスピードを落とし始める。
「というわけで、降ろして」
 と、トレルが言う。すっかり疲れきっているようで、普段の強気な態度はどこにもない。親しい者と一緒であれば高いところにいても幾分か気が紛れるのだが、今の状態は怖いだけだった。
 マルクスが溜め息をつき、皐月は小型飛空挺アルバトロスを安定した地面の上に停めた。
「悪いね、せっかくの好意を無駄にして」
 と、トレルはおぼつかない足取りで飛空挺から降りる。
「いや、こっちこそ何も知らずに悪かった」
「どちらにせよ、結果はあまり変わらないな」
 そう言ったマルクスの視線の先には、ギュスターブの運転する軍用バイクがあった。
「大丈夫か!?」
 と、近くにバイクを止めるなり、駆け寄ってくる三人。
 トレルは溜め息をつくと、皐月たちから離れた。
「軍人さん? ちょっと疲れたから、ヒラニプラまで送ってって」
 由二黒が何かを感じて、すぐさまトレルをサイドカーへ連れて行く。
「大変な目にあってさぞお疲れでしょう? これをどうぞ」
 と、トレルへ妖精スイーツを差し出す。雪白もすぐにそばへ寄って勝手に事情聴取を始めた。
「いったい、何があったの?」
「え? よく分からない」
「あの人たちは?」
「知らない人」
 ギュスターブはしばらく皐月たちを見ていたが、面倒事は嫌なので何も言わずにバイクへ戻った。
 皐月とマルクスは顔を合わせると、お互いに気まずいものを感じてそっぽを向いた。やがて、軍用バイクが目の前を通り過ぎていく。

「お家がラーメン屋さんで忙しくて、お兄ちゃんたちも部活で忙しいからって誰も相手をしてくれなかったの。それで、寂しくて泣いてたらクロクロが現れたの」
 と、荒野を走るサイドカーの中で雪白は言う。
「ギュスターブはね、私が教導団に入ろうとして向かったんだけど、扉が重くて開けられなかったの。ドアが開けられるようになったらまた来てねって言われちゃって」
 その時のことを思い出したのか、悔しげな表情になる雪白。
「でも諦めきれなくて、建物の前で座り込んでたの」
「その内に夜になっちゃって、私は帰ろうって言ったんだけど、頑固で」
「そうしたら、たまたま土木工事に来てたギュスターブと出会って、契約できちゃったんだ。力がね、わーって沸いてきて、ドアを蹴り破って団長に直談判したら、入団を認めてもらえたの!」
 ギュスターブは彼女たちの声に耳を傾けていたが、口出しはしなかった。
「だからこんなちっちゃい子でも、軍人やってるのか」
 と、トレルは言うと、雪白の頭を軽く撫でた。
「でっかい女になれよ」
「……うん!」