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雲のヌシ釣り~対決! ナラカのヌシ!~

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雲のヌシ釣り~対決! ナラカのヌシ!~

リアクション

「やー絶好の釣り日和ですね!」
パートナーであるルルーゼ・ルファインド(るるーぜ・るふぁいんど)ハンニバル・バルカ(はんにばる・ばるか)を竿に縛り、ぽぽいっと雲海に放り込んだクド・ストレイフ(くど・すとれいふ)は、マリオンの傍に座り込むとニコニコと話しかけた。
「その小さな手で大きな竿を抱え込むのは大変じゃないですか? 是非! この俺がお手伝いしまさぁ!」
「あっ、クドさん。こんにちは!」
「うんうん、こんにちは! 流石挨拶もしっかりしてらっしゃる! お兄さん感動っ」
「うるさいですよ、ロリコンが」
今にもマリオンに抱きつこうとしたクドをにべもなく切り捨てながら後ろから蹴り飛ばしたのは坂上 来栖(さかがみ・くるす)だ。
「あっ来栖さん! 来栖さんも来たんですね。ちなみに下着の色は……」
「黙らないと釣り針ぶっ刺しますよ」
きらりと光る釣り張りの切っ先を見せてにっこりと微笑する来栖に、クドは口角を引きつらせてホールドアップの姿勢をとった。
それを視認すると来栖はパートナーであるナナ・シエルス(なな・しえるす)に向き直りぐるぐると釣り糸を巻きつける。
「あの……来栖? どうして私に針つけてやがるんです?」
「あなたがエサだからです」
「あなたがエサになればいいでしょう、何で私が」
「ヌシ釣って宴会するためですよ」
「いや意味が分かりませんし、コーヒーに砂糖とミルク異常に入れてる奴が何を……」
「いってらっしゃい」
言葉途中で来栖に押され、ナナは雲海の中へ。
竿を支えながら吐息まじりに雲海を見下ろした来栖に、クドは首を傾げた。
「来栖さんコーヒー苦手なんですか?」
「……いつも飲んでますがあまり得意ではないですね」
「そりゃまたどうしてですか?」
「……それはなんか……カッコいいからです」
マリオンの問いに応える小さな声に、クドは途端相好を崩した。
「何ですかそれっ! ああもう、背伸びしちゃって!きゃわいいっ! 抱きしめちゃいた――がっ!」
思わずクドの口から零れた言葉は、終わる前に来栖に鉄拳制裁を喰らう。
そんな二人を見ていたマリオンは、思い出したように「あ」と声を上げてポケットを探った。
「あのぅ、これお父さんからクドさんにって」
クドの言葉をよそにマリオンが差し出した手紙に、クドは首を傾げてそれを受け取った。
「何ですか? まっ、まさか! ルイさんからの『娘をヨロシクぅ☆』とか言う手紙じゃ……!」
そう大げさな身振りで言いながら開いた手紙には、
『――クドさんへ
マリーに手を出したらナラカ送りですからね☆
くれぐれも注意する様に』
「…………」
その手紙を読んだ瞬間、さわやか過ぎるルイの笑顔が浮かんだ気がしてクドはぶるぶると頭を振った。
「……身から出た錆、ってやつですか。日頃の行いのせいですよ」
来栖の言葉をどこかで聞きながら、引きつった笑顔を浮かべて自分の竿をしっかり握りしめる。
「大物が釣れるといいっすね!」
「はい!」
そんなクドのぎこちない笑顔にも気付かずに、マリオンは可愛らしい笑顔と元気いっぱいの返事を返したのだった。

「――クド公め……何故ボクがエサなのだ……」
ぐるぐると簀巻き状態にされながら、ハンニバルはむぅと唇を尖らせた。
「私も同意ですハンニバル……」
同じように吊るされた状態で同意しながらルルーゼもため息をつく。
「貴重な男手だからと釣り人になるのはわかりますが……私たち二人ともエサにしてしまったら誰がクドの暴走を止めるのでしょうか……」
何かあってからでは遅いと言うのに、とルルーゼは嘆く。
が、それを聞き咎めたらしいルイが、ポージングの手を休めて振り返った。
「それなら心配ありませんよ。マリーに忠告の手紙を持たせておきました」
「ルイさん……」
「うん、大丈夫だと思う。それにほら」
傍にいたセラも頷き、頭上を指す。
「ったく、あのクソ神父っ」
と、悪態をつきながらナナが降りてきた。
「ナナさん、がエサということは」
「上には来栖もいるのか」
「ならば少しは安心ですね……」
「え、あ、どーも。えっとはじめまして、バカ神父がお世話になってます」
来栖に対して何かを言いたそうにしていたナナだったが、皆の姿を認めるとぺこりと頭を下げた。
そして軽く挨拶を交わすと、ふーっとため息をつく。
「バカ神父に付き合うのはいい気がしませんけど、せっかくだから大物が釣れるといいですね」
「ええ、さっさと釣ってみんなで宴会でもしましょう」
そう言って頷き合う皆の耳に、ぽつぽつと呟きが聞こえてきた。
何事かと思って辺りを見回すと、そこにはぶらりとつられた二人のエサの姿が。
秋月 桃花(あきづき・とうか)荀 灌(じゅん・かん)だった。
「……ふふ、郁乃様、餌にしたことは許しましょう。しかし、水着で衆人環視の元に晒した挙句に可愛い妹の荀灌ちゃんまで巻き込むとは……」
「桃花さん……」
「荀灌ちゃん、必ず仇はとってあげるからね」
呟いている桃花におそるおそる灌が話しかけると、それはそれは綺麗な笑顔で桃花が答えた。
「は、はい」
怒ってる、これはめちゃくちゃ怒ってるよ、と灌が内心冷や汗をかいていることなど知る由もない桃花は、うふふふふふふふと不穏な笑みを浮かべている。
その笑みは周りにいる人間が凍てつくような、氷の微笑だった。

「はー……釣れないねぇ」
一方その頃それぞれに竿を手にした芦原 郁乃(あはら・いくの)蒼天の書 マビノギオン(そうてんのしょ・まびのぎおん)は、芳しくない釣果にため息をついた。
ヌシどころかクモサンマすらかからないのだ。
「何でかなー? みんながいるから此処なら釣れると思ったんだけど」
「うーん……どうしてでしょうね。他の方は釣れているようですし、魚がいないということはないと思うのですけれど」
あたりを見回したマビノギオンはそう言いながらエサが繋がっている釣り糸の先に視線を落とした。
「そうだよねぇ、エサも極上のナイスバデーとロリバデーな二人を用意してるのにな……」
おっかしーなーと郁乃は窺うように竿を揺らした。
「二人とも大丈夫かなー、ちょっと上げてみよっか」
「ええ……」
そう言って郁乃がひょーいっ、と竿を持ち上げようとした瞬間。
「あ、待ってください郁乃さん……っ」
「桃かんコンビー、魚いるー?」
マビノギオンの制止がかかる、が一歩及ばず。
桃花がかかっているはずの竿が地上へと引き上げられた。
――と。
「いーくーのーさーまー?」
静かな、けれど地を這うような声が背を向けたまま引き上げられた桃花から発せられた。
ひくり、と郁乃が危険を察知して頬を引きつらせた瞬間。
くるうり。桃花が二人を振り向く。
――そして、声にならない断末魔と共に、郁乃とマビノギオンは桃花と灌の代わりに雲海に沈んだのだった。
「……誤解を招くナレーションですね。エサ役を交代しただけなのに」
「……大丈夫かなぁ」
「大丈夫よ、荀灌ちゃん。きっと二人なら大物を釣ってくれるわ」
灌もまた、桃花のそのさわやかな笑顔に何も言えずに頷いたのだった。

「……エサにされてしまいましたね」
ぶらりと吊り下げられながらマビノギオンは嘆いた。
「あの、大丈夫ですか?」
ルルーゼが恐る恐る問いかけると、マビノギオンは苦笑した。
「ええ、すみませんお騒がせして」
「そっちも大変ですね」
「いえ、お恥ずかしい…」
「うう……水着で縛られるのって結構恥ずかしいよぉ……」
「そうですね……」
「大丈夫だよ。ルイなんて赤褌だよ」
「ええと」
「セラさん一緒にしては、ええと」
セラの言葉に一同はもごもごと口ごもる。
「そ、そうだよね!こうなったら何としてでもヌシを釣るぞ!」
郁乃がぱっと顔を上げて意気込んだ瞬間、視界の上方に何かが飛び込んできた。
仰ぎ見ると、簀巻きにされた一人の青年がゆっくりと落ちてくる。
「あ、またエサの人だ」
「そんなハムの人みたいな……」
「寝てるのかな?」
「気を失っているようですよ」
「ああ……また無理に連れてこられたクチかって、切ではないか」
ハンニバルの言葉によく見ると、確かに七刀 切(しちとう・きり)だった。
おそらくパートナーである黒之衣 音穏(くろのい・ねおん)に問答無用で吊られたのだろう。
「不憫なやつだな……」
「不憫と言うか気の毒というか……」
「……ん?」
そんなことを話していると、切がうっすらと目を開いた。
「ぬお……此処は?」
「雲海ですよ」
「はぁ?」
「まぁ、かくかくしかじかで」
「ぱくぱくうまうまそういうことか」
「いや、わからないでしょう」
わけのわからないやりとりで納得しようとした切に突っ込みを入れつつ、ルルーゼがかいつまんで説明する。
今度こそわかった、と頷いた切は、それより、と笑みを浮かべた。
「いやぁ、エサにされたのは不本意だけどこんなに綺麗な女性陣が揃っているなら万々歳だねぇ」
「えっ」
「せっかくですから一緒にヌシに飲まれようじゃないですか」
「え、あのぅ……」
「やめた方がいいと思うけどな」
セラがぽつりと呟く。それを聞いた切が反論しようと振り返ると、頷く面々の後ろにいい笑顔でポーズをとるルイが見えた。
「あ、あー……ははは。もちろん今のはほら、あれですよ! ヌシ釣りには協力が必要ということを言いたかったわけで……」
乾いた笑いと共に不自由ながらすすすす……っと手を引く切に呆れたようなため息をつく面々。
「……釣る気があるのか?」
呆れ顔でそう問うたのは、武神 牙竜(たけがみ・がりゅう)だった。
一同が振り返ると、同じくエサ役らしい牙竜はその身を立派な衣装に包んでいた。
――立派な、クモサンマの着ぐるみに。
「……いや、お前こそ釣りる気があるのかよ」
「着ぐるみ、ですか……」
「すっ、好きで着てるわけじゃない!」
「騒がしいのぉ」
言い合いを始めようとした皆をアーデルハイト・ワルプルギス(あーでるはいと・わるぷるぎす)がのんびりとした声で遮る。
「釣りは静かに待たねば釣れる魚も逃げてしまうぞ?」
「う……」
「大ババ様の言うとおりでしょうね。のんびり待ちましょう」
ザカコ・グーメル(ざかこ・ぐーめる)も頷き、辺りを見回す。
「考え方を変えてこの景色を空中遊泳できると思えば、エサも悪くないんじゃないですか?」
「そう、かもしれないが……」
「何にせよ魚が来なければ何もしようがないのですから、ゆっくり待つとしましょうか……」
そう、ルルーゼもため息まじりに頷いて、獲物がかかるのをゆるりと待つことにしたのだった。