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雲のヌシ釣り~対決! ナラカのヌシ!~

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雲のヌシ釣り~対決! ナラカのヌシ!~

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えてしてその言葉は、どちらも本当になった。
暫くの間はそれこそエサの方が魚をとってきていたものの、次第に魚自体が寄り付かなくなってしまったのだ。
「おおっ、またきたねぇ!」
代わりにそばで釣っていた御弾 知恵子(みたま・ちえこ)の竿に獲物がかかる。
「おいっ、こんだけ釣れてんだから俺いらねぇだろ!?」
釣り上げたクモサンマを地上に放した四番型魔装 帝(よんばんがたまそう・みかど)は、ハンゲルグ・ツェルヴ(はんげるぐ・つぇるう゛)を下ろそうとしている知恵子に声をかけた。
「もう一匹くらい釣ってきておくれよ。クモサンマはまだ一匹だけだろ?」
そう、知恵子の言うとおり、いくらか釣れたとはいえそれはほとんどがウンカイガニ。クモサンマはまだ一匹しかつれていなかった。
「というわけで、行っておいで!」
アタリが多くて上機嫌の知恵子は、帝をまた雲海へ放り込んだ。
「ハンゲルグも、頼むよ」
「はっ、行ってまいります」
「にゃああああ魚の気配にゃ!」
「まだ食べ足りないのですよっ」
が、そこへ怒涛の勢いで乱入してきたのはフェルにサクラコ。
釣り手である司やショウが慌てて止めようとしながらも引きずられてくる。
彼女たちが来たということは当然、魚たちは逃げるわけで。
あっという間にまた、しけてしまうのだった。
「ああもうっ! せっかく調子よかったのにどういうことだい」
まったく辺りが来なくなってしまった竿を持ち上げて、知恵子は憤慨しながら辺りを見回した。
「他に釣れそうなところは……」
「――次はこのへんかしら」
「じゃねーかな。クモサンマもいるし狙い目だぜ」
そんな知恵子の視線の先にやってきたのはグリムゲーテ・ブラックワンス(ぐりむげーて・ぶらっくわんす)メガエラ・エリーニュエス(めがえら・えりーにゅえす)
グリムゲーテが手にしている竿には四谷 大助(しや・だいすけ)が括られていた。
「それにしてもヌシはどこに逃げたのかしら……」
黒いコートに身を窶した四谷 七乃(しや・ななの)を纏った大助を雲海へ降ろしながら、グリムゲーテは一人ごちる。
「さぁな。でも、こっちの方向に逃げたってのは確かだぜ」
「それはいいからお前ら……いい加減俺が縛られてる理由を説明してくれないか」
「ヌシ釣りよ!」
「そんなこと聞いてるんじゃない。何でわざわざ睡眠薬を使ってまでこんなことしたかって聞いてるんだよ!」
「なんでって、ストレートに頼んだって貴方絶対断るじゃない」
「当り前だ!」
「いいからほら、次は絶対このへんにヌシが来るはずなんだから」
「ちょ、うわっ」
「早くいけよ! 一匹も釣れなかったらお前のせいだかんな!」
「お、お前ら覚えてろよ! いつか絶対再封印してやるからな!」
メガエラに蹴り飛ばされて落ちていきながらも、大助は叫ぶ。
「だ、だいじょぶですマスター! マスターの身は、わたしが守ります!」
七乃のどこかずれたような声を聞きながら、大助はいい笑顔で竿を構える二人を睨みつける。
「ったく、お前らはっ」
「ぬおおおおおおおおおおおああああああああああああ!!!!!!」
そんな大助の恨みごとをかき消すほどの、エヴァルト・マルトリッツ(えう゛ぁると・まるとりっつ)のすさまじい悲鳴が聞こえたと思った次の瞬間、ロートラウト・エッカート(ろーとらうと・えっかーと)は雲海にいた。
ぱちくり、と瞬きをして、上に向かって声を上げる。
「ねー、どーしたのー?」
「今度はお前がエサだ!」
「えー……って……ああ、あの人のせいかー」
ロートラウトの視界の先にはジュゲム・レフタルトシュタイン(じゅげむ・れふたるとしゅたいん)の姿が。
「しょーがないなぁ。ボクがエサをしますかね! ミュリエルちゃーん! エヴァルトをよろしくねー」
「は、はーい!」
ミュリエル・クロンティリス(みゅりえる・くろんてぃりす)の返事を聞いて満足そうに頷くと、ロートラウトは気合いを入れ直した。
「よーっし、釣るぞー!」
「へぇ〜、ここが雲海かぁ」
「本当に大きな魚ばかりね撮り甲斐があるわ」
のんびりとした声に振り返ると、霧雨 透乃(きりさめ・とうの)月美 芽美(つきみ・めいみ)が漂いながら辺りを見回していた。
カメラを構えた芽美に、透乃がポーズをとったりナレーションをしたり。
エサというよりは海中遊覧でもしているような二人を呆然と見ていると、ふっと影が落ちた。
はっと顔を上げると、見えたのは巨大な魚の口。クモサンマだ。
――飲み込まれる!
そう思った時にはすでに口の中だった。
「攻撃しなきゃ! これは確かに大物だから、是が非でも釣らないとね!」
と、ぐっと拳を握って振りかぶるも、視線の先では芽美がカメラを回していた。
「ええと……」
このまま攻撃すれば芽美のカメラが壊れてしまうし、何より標的のすぐそばにいられては迂闊に手出しができない。
ロートラウトが攻撃を迷っていると、芽美はおもむろに顔を上げる。
「そろそろいいかしら」
それを見て透乃が肩を回した。
「水着溶けちゃうといけないし、そろそろ出ようかなっと」
「ええ、そうね」
そして、次の瞬間。
大きく振りかぶった透乃が思い切りクモサンマの口内を殴りつけた。
びくん、と揺れるクモサンマに構わずにもう一度。
ロートラウトが呆然として見ていると、芽美がぐっと釣り糸を引く。
それを合図とばかりに緋柱 陽子(ひばしら・ようこ)が強く竿を引いた。
「う、わわわわっ」
クモサンマごと釣りあげられる芽美、透乃、そしてロートラウト。
どさっ、と投げ出されクモサンマの口から転げ出たロートラウトを見て、ミュリエルとエヴァルトは瞬いた。
吐き出される芽美、透乃、そしてロートラウト。
「……ロートラウトちゃん?」
「ええっと……」
「アタリが来た気配がなかったが……何でまたお前はクモサンマから出てくるんだ」
「……ボクにも何て言ったらいいのか」
「きたわっ!!」
混乱するロートラウトをよそに、シオン・エヴァンジェリウス(しおん・えう゛ぁんじぇりうす)が、がっと竿を引く。
リールを巻き上げて力いっぱい釣りあげたのは大きなクモフグ。に頭を食まれた月詠 司(つくよみ・つかさ)だった。
「……ぶはっ!」
クモフグを外され、大きく息をついた司は、シオンに情けない顔を向けた。
「シオン君……せめて吊る位置を変えてくれませんか? 満足にエサ役も出来ませんし……」
「そう? なかなかいい感じじゃない」
「しかしこれでは頭に血がのぼります」
「そうかしら。でも、コツは掴んだわ! 任せて!」
「えっ、ちょ」
「次はいよいよヌシね。張り切って逝くわよ♪」
「人の話を聞いてください、ってうわあああぁぁぁぁ」
ヌシはどこかしら〜と釣った魚と司を引きずりながらシオンはその場を離れていく。
圧倒されつつ思わず見入っていたエヴァルト達は、去りゆく背中を見ながらぽつりと呟いた。
「……何だったんだ?」

「面白いことになってるなぁ……」
そんな面々の様子を遠目に見ながら風羽 斐(かざはね・あやる)はのんびりと竿を垂らしていた。
「クモサンマが釣れればそれでいい」という翠門 静玖(みかな・しずひさ)の言葉に、ヌシ釣りに意気込むミツエ達とは離れた場所にきた二人は、喧騒から離れてゆったりと釣りを楽しんでいた。
「ちゃんと釣ってくれよ」
「はいはい」
静玖に海中から釘を刺されるも、斐は軽く返事を返すにとどめる。
自分が下手に釣り竿を動かさずとも、静玖がクモサンマに食いつかれたら報せてくれるだろう、という腹だ。
それまではとにかく釣り竿をしっかり握ってのんびり待つより他にない。
幸いヌシに捕食されているとはいえ、クモサンマはいくらかいるようだ。
数匹くらいなら釣っても差支えないだろう。
(……ヌシ釣り隊もいるみたいだしな)
「――さぁ、着きました」
そんなことを考えていると、咲夜 由宇(さくや・ゆう)を伴ったアクア・アクア(あくあ・あくあ)が傍に現れた。
「ほら、こっに来て見てごらんなさい。水面が綺麗ですわよ」
「わぁ、よく見るとお魚さんが泳いでて楽しそうですねぇ」
「でしょう。さぁ、さっそくお昼ご飯を調達しましょう」
「はい! でも、どうするんですか?」
「まぁ、そう焦らないで。食事の前にダイエットに効果的なおまじないをしてから存分に食べましょう」
言うが早いか由宇の体に糸をぐるぐると巻きつけるアクア。
しっかりと何重にも括ると、よし、と頷いた。
「こんなにきつく縛られるとなんだか本当にダイエットのおまじない効果があるみたいなのです! って、ぴゃあああああ!!」
「由宇、あなたの犠牲は無駄にはしませんわ……」
由宇を括った紐をそっと雲海に落としながら、アクアは申し訳なさそうにそう言った。

「ひゃあああああおっきいですううううう!」
雲海に落とされた由宇は、近づいてくる影を見ながらバタバタと身をよじった。
けれどしっかりと結ばれたその糸がそう簡単にほどけるはずもなく、焦りからますますパニックになる。
「来た!」
隣で静玖の声が聞こえてハッとすると、クモサンマが大きな口を開けてこちらへ向かってくるところだった。
「たったった、食べられちゃいます……!」
ぐばあ、と口を開けたクモサンマを見てパニックが限界に達した由宇は。
「きゃー!!」
ぎゅうっと目を閉じて悲鳴を上げながら、――渾身の則天去私をお見舞いした。
「流石ですわっ、由宇!」
それを見逃さなかったアクアは、由宇を傷付けないように慎重に、けれど強く糸を引いた。
再び上がる何度目かの由宇の悲鳴とともに、クモサンマが釣り上げられる。
「流石ですわ、由宇。これでおなかいっぱい食べられますわね」
「うう……ひどいですよぅ!!」
「だましたことは謝りますわ。でも、こうでもしないと釣れなかったでしょう」
「だからって……っ」
「おや、お嬢さん何をそんなに怒っているんだい? せっかくの可愛い顔が台無しだよ?」
きゃんきゃんとアクアに噛みつこうとした由宇に、声がかけられた。
不束 奏戯(ふつつか・かなぎ)だ。
「えっ」
奏戯の突然の登場に戸惑う由宇。けれどリアクションを返す前に、
「ほーら不束様早く飛びこんでください」
とこれまた突然現れたミリオン・アインカノック(みりおん・あいんかのっく)に奏戯が蹴落とされた。
「ミリオン……そんなに手荒にしては……」
心配するオルフェリア・クインレイナー(おるふぇりあ・くいんれいなー)に問題ないと言うミリオン。
「大丈夫ですよ、オルフェ様。不束様は丈夫な方ですから。釣れたらおいしく頂きましょうね」
にっこりと笑いながらミリオンは『ブラックボックス』 アンノーン(ぶらっくぼっくす・あんのーん)を振り返る。
「料理は頼みましたよ、アンノーン」
「……不束が落とされ……いや自分は何も見なかった」
「え、ええと。由宇。本当にすみませんでしたわ。ピクニックの続きをしましょうか、ほら、あちらで飲み物を配っています」
「う、うん……」
アクアはひきつった笑みを浮かべると、そそくさとその場を離れようとする。
由宇も戸惑いながらも異論は唱えなかった。かかわらないのが吉と感じたようだ。
そして二人が向かったのはアクアの指し示した先、御剣 紫音(みつるぎ・しおん)たちが設けてくれた休憩所だった。
声をかけるとにこやかに紫音や綾小路 風花(あやのこうじ・ふうか)が迎えてくれる。
「疲れただろう。晴れてるとはいえ肌寒い時期だからな」
「温かいお飲み物も用意しとりますさかい、ゆっくりしていってくださいね」
「ありがとうございますぅ」
「お言葉に甘えますわ」
「主様。飲み物の用意が終わったがどうするといいかのぅ?」
「あ、じゃあみんなのところに届けてくれないか。数が多いからアストレイアも一緒に」
「うむ」
紫音に言われて頷いたアルス・ノトリア(あるす・のとりあ)アストレイア・ロストチャイルド(あすとれいあ・ろすとちゃいるど)は大きなバスケットをそれぞれ持って、紫音に言われた場所へ向かおうと踵を返した。
「重いと思うから気をつけてな!」
「任せるがよい、わらわたちなら少しくらい平気じゃ」
「うん、任せたよ、二人とも」
「うむ、では、行ってくるかのう」
アストレイアもそっと微笑むとひらりと手を振ってその場を離れた。
「さて、あなたがたはどうしはります?」
「釣りをしてきた後だろう? 望むならそのクモサンマも捌くけど」
「本当ですの?」
「ぜひ、お願いしますぅ」
「ああ、任せてくれ!」
由宇たちの頼みに紫音は張り切って腕まくりをしながら、笑顔で頷くのだった。