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雲のヌシ釣り~対決! ナラカのヌシ!~

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雲のヌシ釣り~対決! ナラカのヌシ!~

リアクション



第三章




「ふぅ……さて、そろそろ再開するですよぅ」
「そうね、今度こそ私が釣り上げてやるわよ」
「釣るのは私ですぅ」
休憩を終えたミツエたちは、場所を改めて再び竿を握った。
先ほどよりも強い意気込みを宿しながら、力いっぱいエサを投擲する。
それを見て他の皆も再び糸をその身に括り、雲海へ飛び込んだ。
「宴会の準備をしてたらすっかり遅くなっちゃいましたね」
「ああ、でもみんなちょうど休憩中だったみたいだな」
そこへ茅野瀬 衿栖(ちのせ・えりす)南大路 カイ(みなみおおじ・かい)も大荷物と共に駆けつける。
荷物を下ろすと、衿栖はおもむろに竿をとりだした。
「じゃあ、私たちもさっそく釣りましょうか」
「ん? だが衿栖よ、肝心なエサがないようだが……」
「えっ、それはもちろん……」
「……何だその目は。何故私を見る!?」
身を引こうとするカイの肩をぽん、と叩き、衿栖はにっこりとほほ笑んだ。
「よろしくね、カイ。食べられちゃっても釣った後に出してあげるから心配しないで!」
素早くカイを竿に括りつけた衿栖は、有無を言わさず雲海へ放り込んだ。
「楽しい宴会ができるといいですねぇ」
「エリザベートちゃんのためにクモサンマ頑張って釣りますね! あとヌシも!」
そう嬉々として言いながら雲海に飛びこんだのは神代 明日香(かみしろ・あすか)
パートナーであるノルニル 『運命の書』(のるにる・うんめいのしょ)は半ば戸惑いながら竿を握る。
「ええと、私エサかと思ったら釣り人なんですね。よろしくお願いします、エリザベート様」
「あの、エリザベート校長先生ですか?」
と、後ろから声をかけられてエリザベートとノルニルが振り返る。
「やっぱりそうです。ミーナは明倫館のミーナっていいます。釣り初めてでよくわからなくて困ってるんです。ご教授願えませんか? ぜひエリザベート校長先生に教えてもらいたいです」
ミーナ・リンドバーグ(みーな・りんどばーぐ)がエリザベータの傍へと座り込みながら身を乗り出してきた。
「やめましょーよ。別に釣らなくても魚屋にも売られてるんだから……」
高島 恵美(たかしま・えみ)が止めようとするが、新鮮なものがおいしいの! と押し切られた。
それどころか有無を言わさずぐるぐる巻きにされ、エサとして雲海に放られる。
「それで、クモサンマやヌシはどんなエサに食いつくんでしょうか……コツとかあるのかな?」
「エサや技術より、魚が食いついた時にすぐ引くことが大事ですぅ。じゃないとパートナーだけ食べられちゃいますからぁ」
「おいっ、物騒な話をするでない!」
「大丈夫ですよぅ。大ババ様はちょっとやそっとじゃ食べ終わりませんからぁ」
「どういう意味じゃっ!」
「ねぇ、これはなぁに? おさかな? そらとぶおさかな?」
「これはクモウナギですよぅ」
アーデルハイトの抗議をよそに、すでに釣り上げられた魚たちを指差して問うフランカ・マキャフリー(ふらんか・まきゃふりー)に楽しそうに答えるエリザベート。
「捌いてかば焼きにするとおいしいですぅ」
「かばやき?」
「そうですぅ、かば焼きって言うのは……」
「ここぞとばかりにお姉さん面ね」
フランカに教授するエリザベートに、ミツエが揶揄するように笑う。
「うっ、うるさいですよぅ! そっちこそこれぐらいいっぱい釣ってみるですぅ!」
「ふん、私の狙いはヌシ一択よ」
「むううううう〜……」
「何よ」
頬を膨らませたエリザベートに、アタリがないことに苛立ったようなミツエ。
二人は少しの間にらみ合うと、同時にふんっ、と顔を逸らすのだった。

「何でオレはお前と一緒に括られてるんだか……」
日比谷 皐月(ひびや・さつき)はそう嘆くと、大きなため息をついた。
そう、皐月と一緒に括られているのはエッツェル・アザトース(えっつぇる・あざとーす)
一人ひとりではなく、何故か二人一緒くたに縛られているのだ。
「まぁまぁ〜、エサは大きい方が食いつきますよ」
「はあああ……あとから食べられるヌシのためだ……。これで釣れなかったらぶん殴ってやる……」
「物騒ですよー」
「さわるなっ」
「ちょっとくらいいいじゃないですか、減るもんじゃなし」
「減る! 少なくともオレの神経がすり減る!」
「――うわぁっ!」
二人が騒いでいる横に飛び込んできた如月 正悟(きさらぎ・しょうご)は、飛び込んだ先の異様な物体――天上天下唯我独尊 丸(てんじょうてんがゆいがどくそん・まる)に驚きの声を上げた。
「何だ、わたくしのこの素晴らしい魅力に驚いたのか?」
「いや……ナラカにでも落ちたかと思ったよ……」
「失礼な!」
「あ、ははは……」
(あー……これには負ける気がしないなぁ)
憤る丸に曖昧な笑みを返しながら、正悟は内心で苦笑した。
いくらナラカの主が雑食でも、真っ先に丸を食べる気にはならないだろう。
食べるとしたらせめて、自分のような人間か、目の前で魚を食べている少女のような――
「は?」
「魚ですーっ!」
そう、目の前にいる少女――杏奈・スターチス(あんな・すたーちす)はそこを泳いでいる魚を食べようとしていた。
よほどおなかがすいているのだろう、何故かナイフとフォークを持ってクモサンマを追いまわしている。
「うーん、ある意味勝てる気がしないな」
というか『釣り』の意味はあるのだろうか?
そんな考えが頭をよぎったが、特に追求はしなかった。
「おい、食べたら勝負にならないだろ!」
そんな杏奈に地上から声をかけたのは篠宮 悠(しのみや・ゆう)だった。
ヨハン・メンディリバル(よはん・めんでぃりばる)と釣り勝負を言い出したのはいいが、エサは素晴らしいシルエットのゆる族に、獲物をその場で食べようとする少女。
「どうした? いいんだぜ、降参しても」
ヨハンの挑発めいた言葉に悠は首を振る。
「それだけは御免だ。こうなったら杏奈も食えないくらいの大物を釣り上げる!」
「望むところだな。俺も一番の大物を釣ってみせるとしようか」
そう、ここで一番の大物、ナラカのヌシを。

「おーにぎやかだな!」
ラルク・クローディス(らるく・くろーでぃす)はゆったりと歩きながら、空いた場所に身を落ちつけた。
「だがまだまだヌシは釣れてないようだな。よーし、遅ればせながら俺たちも釣るぜ」
なっ、と秘伝 『闘神の書』(ひでん・とうじんのしょ)を振り返り体をほぐすように腕を回してみせる。
「おう、ナラカのヌシってぇのを食ってぇみてぇから、是非上手く食いつかれてくれよ」
「あ? 俺がエサ役なのか?」
「違うのか? 我ァ腕っ節を見込まれて釣り人として釣れてこられたと思ったんだが」
「あー……はいはい。今年も俺がエサなのかよ……」
いいけどな……とぼやきながら支度を整えたラルクは、気合いを入れ直して竿を『闘神の書』に預けた。
「うし、任せたぜ!」
「おう、大船に乗ったつもりでいろぃ!」
それに頷いたラルクが雲海に飛びこむと時を同じくして、ゾリア・グリンウォーター(ぞりあ・ぐりんうぉーたー)がパートナーを率いて現れた。
「さて、準備はできましたか二人とも? パワードスーツの耐久テストですよ!」
ゾリアはロビン・グッドフェロー(ろびん・ぐっどふぇろー)ザミエリア・グリンウォーター(ざみえりあ・ぐりんうぉーたー)の装いを確認すると、有無を言わさず雲海へ放り込んだ。
「くふふ、ヌシを独り占めするですよ!」
「ちょ、ちょっとマスター!! どういうことですの!」
「諦めろ、ザミエリア。お嬢は言い出したらきかねぇからな」
「な、何てことですの……」
「こうなったらせっつかれる前にヌシを釣るしかなさそうだな」
「せいぜい美味しそうに蠢くにょろよ〜!」
満足そうに竿を握りながらゾリアの高笑いする声が、ザミエリアの耳に悪魔的に響くのだった。

「――ええい! くどいわさっさと行けっ!」
「うわっ!」
一喝の元に最上 歩(もかみ・あゆむ)を曹操たちの元に突き落としたマリー・フランシス(まりー・ふらんしす)は、ふうと息をついた。
「互いの利害は一致していると言うのだからさっさと飛び込めばいいものを……。朕は横山ミツエに、汝は憧れの偉人とやらに近付けるのじゃ。何を躊躇うことがあろうか」
「それと俺がエサになることは話が別でしょう!」
「くどいと言っておろうが! おかげで他の輩に先手を取られてしまったではないか」
そういいながら、マリーはミツエの傍に身を割り込ませる。
「どうじゃ? ヌシの影は見えたか?」
「……あれ以来さっぱりだわ」
マリーの姿を横目で認め、ミツエはそっけなく答えた。
「そうか、だがこのあたりに来るのは確かだ、もうしばらくの我慢だの」
「曹孟徳はこの下か?」
確信めいた問いを投げながら足早に寄ってきたのは夏候惇・元譲(かこうとん・げんじょう)
曹操がエサにされている、と聞きつけてきたのだろう。ミツエの返事を待つこともなく、ばっと飛び込んだ。
「我らが家名と曹孟徳の名に賭けて、絶対にヌシを釣り上げる!!」
そんな夏候惇の繋がった竿を支えているのは、リッシュ・アーク(りっしゅ・あーく)だ。
いくら忠誠心以外のなにものでもないと言っても、やはり恋人のそんな姿を見るのはつまらないもの。
むっとしながら夏候惇を支えている間にも、彼女は動き回っているらしくふと糸の引かれる感触に目を向ければ見事に糸が絡まっていた。
「うわ……」
「おい、汝の竿が絡んできておるぞ」
「これじゃあ満足に釣りができないじゃない」
「ああ、ああもう。人が目を離したすきに……! すみません、すみません」
マリーやミツエの非難を受けて、水橋 エリス(みずばし・えりす)が頭を下げる。
自分は望んでいないというのに、まったく……とため息をついていると、
「お、クモエビがいる。食べたいなぁ」
ニーナ・フェアリーテイルズ(にーな・ふぇありーているず)がまるで我関せず、といった様子で雲海を覗きこんでいた。
頭痛すら覚え始めたエリスががっくりと肩を落とすと、肩をそっとたたかれ緩慢な動作で振り返った。
「エリスちゃんエリスちゃん。みんな言い出したら聞かないからさっさとヌシとやらを釣っちゃうのが一番いいわ」
ルカルカ・ルー(るかるか・るー)にそう耳打ちされ、ちらりと背後を見やったエリスはひとつ頷いた。
「そうですね……」
「私の方でも色々準備をしてきたの。備えは万全だから、今度こそ釣り上げましょ」
言うが早いかルカルカは夏侯 淵(かこう・えん)をエサにザイルにカラビナ、飛空挺までを駆使して仕掛けをつくった。
「ヌシがかかったら私が飛空挺で引き上げるから、上手く食いつかれてね!」
「ふむ、そう簡単にかかるとは思えないが……元譲でもからかって待つとしようか」
「オーケー決まり! それじゃ、エリスちゃんも、頑張ってね!」
「は、はい……」
もう一度励ますようにぽん、とエリスの肩をたたくと、雲海に飛びこむ淵を見送ってルカルカは颯爽と飛空挺に乗るのだった。