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リアクション
■プロローグ
母さん、泣かないで。約束する。
俺が必ず、1つ残らず集めてくるから。
「月が赤いなぁ…」
はるか上空、雲の上。
ツァンダに向かう死龍の上で、巨大な赤い月を見上げながらドゥルジはぽつりと呟いた。
かつて、幾度も見上げた空。
窓の形で切り抜かれた夜空に浮かぶ月。
あのときは白い月だったように思う。
よく思い出せないが、白かったはずだ。
「クール!」
白い月の下、ターゲットを殲滅した彼を見て、喝采の手を叩いた科学者。
彼らに眠ることを指示される前の記憶は、あまりに遠く、擦り切れてしまっていた。
これもまた、想定外の長期の眠りによるミスリードの1つか。
「獣人100体以上を相手にしながら思考波形にいささかの乱れもない」
「バッククラッシュ20%減成功。頭部や腕の破損も完全修復40秒後には60%まで出力を回復している」
「やはりアエーシュマ(凶暴なる神)は威力に特化しすぎていたんだ。いくら能力値が高くともバランスが狂っては元も子もない」
「中・近接戦闘における、われらがドゥルジ(禍を為す神)はほぼ完成体に近いぞ」
興奮して話す科学者たちの声は、なぜか昨日のことのようにまだ耳に新しい。
「だが長距離型のアストー(死を司る神)は駄目だ。能力値も思考波も不安定すぎる。体組織結合も完璧にはほど遠い。
一度完全にばらすか、それとも廃棄して新しく作り直すか…」
違う。
これは自分の記憶ではない。おそらくは母のもの。
もし自分のものであったなら、彼らは生きてはいなかった。
たとえ創造主であろうとも。母に害を為そうとする者は生かしておかない。
今から殺しに行こうか?
「……ああ、死んでいるのか、もう」
何百年――もしかしたら何千年?――も前に。
ドゥルジは両手に顔を伏せた。
目覚めて以来、全てが混濁している。
S&R(Search&Restoration)プログラムを走らせれば、きっと、いくつか死滅しかけているシノプスが見つかるだろう。
チカチカと、星のようにまたたく途切れ途切れのパルス。
自分もまた、壊れかけているのかもしれない。
アエーシュマのように…。
「その前に、なんとしても石を集めないと」
自我が崩壊する前に。
瓦礫と化し、完全に機能を停止してしまう前に。
優しい母の涙を止めなくては。
「アエーシュマ、アストー、ドゥルジ!
もうすぐだ。もうすぐ完成するぞ!
われらのディーバ(悪神の軍団)よ!」
赤い月から、熱に浮かされたような科学者の空疎な言葉が、聞こえた気がした。
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