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『ナイトサバゲーnight』

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『ナイトサバゲーnight』
『ナイトサバゲーnight』 『ナイトサバゲーnight』

リアクション

 飛び抜けて高くもない樹木に、大量のモデルガンが磔にされている……もとい、ディスプレイされている。
 18時の間近、約束の時刻の目前。『モデルガンツリー』には多くの参加者たちが集まっていた。
 参加者の顔を見回す者や、武器の点検をする者の中に居て、一人、キレイな髪を結い直していた銀星 七緒(ぎんせい・ななお)は、パートナーたちから「ところで」という前置きの続きを問われていた。
「「サバゲとは何ですか?」」
 全く同じに完全に同調していた。細かくいえば「何ですか?」と訊いたビクティム・ヴァイパー(びくてぃむ・う゛ぁいぱー)に対し、ローダリア・ブリティッシュ(ろーだりあ・ぶりてぃっしゅ)は「何ですの?」と訊いたという違いはあるが、そのハモリも心地よい響きに聞こえた。
 澄んだ金色の瞳を向ける2人に、七緒はサバゲーの基本ルールを教えた。
 七緒の説明を、横目で何となく聞いていた緋山 政敏(ひやま・まさとし)は携帯が震えているのに気付いて服袋から取り出した。相手はパートナーのリーン・リリィーシア(りーん・りりぃーしあ)だった。
 リーンの声に政敏はすぐに笑みを消して眉を寄せた。
 電話を切ると政敏は静かに歩みだした。
「悪い、今回は不参加だ。見学だけにさせて貰うぜ」
 誰かが聞いていればよいといった投げやり加減で言ったのだが、トライブ・ロックスター(とらいぶ・ろっくすたー)がこれをしっかりと聞き拾って、訊いた。
「あん? 何だ? どうかしたか?」
「あぁ………………まぁ、良いか」
 パッフェルが傍に居ない事を確認してから、政敏ティセラがここに向かっている事を話した。
『パッフェルにサバゲーを楽しんでもらうためにも、この事は伏せておくべきだ』という意見には、近くにいた水橋 エリス(みずばし・えりす)グレン・アディール(ぐれん・あでぃーる)も同意した。
 パッフェルはというと、彼らが秘密裏に『ティセラを足止めしよう』という事を決意した事など全くに知らぬままに、ソワソワソワソワしていた。
 氷室 カイ(ひむろ・かい)は、そんな彼女の前に立つと、深々と頭を下げた。
「この間は、すまなかった。俺の案でお前を危険にさらしてしまって」
 イルミンスールの森で乙女攫いを誘き出すためにパッフェルに『囮役』になるように提案した。結果、彼女は全身を石化させられた。『イルミンスールのユニコーン』の力で石化を解除できたとはいえ、彼女を危険にさらした事をカイは悔いていた。
「……何のことか分からない。カイは何も悪くない」
「しかし―――」
「いいじゃない、パッフェルが『もういい』って言ってるんだから。ねぇ、そうだよね?」
 桐生 円(きりゅう・まどか)の笑みかけに、パッフェルはコクコクと首を振って応えた。本当に気にしていないようにも見えたのだが、サバゲーが出来る喜びが全身から溢れている状態の彼女からそれを汲み取って良いものかどうか、カイはいまいち迷わされていた。
「ボクがこんなこと言えた義理じゃないんだけどさ」カイの小脇に寄って小さく言った。
「パッフェルを守ってくれないかな、彼女はどうも子供っぽい所があるし、すぐに無茶するからさ」
 今回、はサバゲーには参加せずに、パッフェルのフォローを行うと決めていた。カイが謝罪する姿を見て、カイになら彼女のことを頼めると思ったようだ。
「それを彼女への償いとしろと?」
「そこまでは言ってないけど、そう思いたいならそれで良いんじゃない?」
「ふん」
 カイは僅かに顎をあげた。の挑戦的な物言いにも不思議と嫌な気はしなかった。
「いいだろう。俺は借りは返す主義だ」
「決まりだね」
 合っていた視線を外して、パッフェルに向けた。2人で抑えて話しているうちに、彼女は少しと離れて祠堂 朱音(しどう・あかね)と話していた。
「ごめん、パッフェルちゃん、やっぱり違ってるみたいなんだよね」
 朱音が差し出したのは森の地図だったが、『根回し』を駆使して手に入れた地図も役には立ちそうになかった。イルミンスールの森は日々日夜変化を遂げている為、概略図としても使えそうになかった。
「……やっぱり距離でやる。聞いて」
 パッフェルは皆を集めてルール説明とチーム分けを始めた。チームは『甲』と『乙』に分かれる。この地から東西に5km程の地点に『旗』を立て、そこをそれぞれの本陣とする。プレイヤー全員が『脱退』するか、この『旗』を倒された時点で敗北となる。
「ねぇねぇパッフェルちゃん。私でも使えそうなエアガン貸して♪」
 秋月 葵(あきづき・あおい)がツリーを見上げて言った。「好きなのを取って良いの?」
「……こっちにもある」
 パッフェルは茂みの中へ入ると、車輪付きの木箱を引いて戻ってきた。蓋を開けると、大量のモデルガンやら木刀やらの「ミリタリー武器」が入っていた。
「わぁ〜、いっぱいある〜」
「……体格や戦闘スタイルに合わせると良い」
「おっ、良いのがあるじゃねぇか」
 モデルガンに埋もれていた木製の大剣を見つけて、レイディス・アルフェイン(れいでぃす・あるふぇいん)はグイと引き上げた。グリップも重量も申し分ない、空を斬った時の分厚い音も合格点を超えていた。
「なぁ」レイディスパッフェルに訊いた。
「何人狩れるか競わねぇか?」
「…………」パッフェルに渡す小型のモデルガンを物色しながらに言った。
「……やる。でも、今回は攻めない」
「攻めない? どういうこった?」
「サバゲーの醍醐味を味わう。それが目的」
「醍醐味? 何だそりゃ」
 パッフェルのサバゲー、それは発見した敵を、そして姿を見せた敵を片っ端から狙撃、迎撃するスタイルだった。しかし『それはサバゲーではない、サバゲーの醍醐味は待つことだ』と教えられた事がある。極端に高い彼女の狙撃力がそうさせていたのだろうが、今回彼女はシューティングゲームではない、本当のサバゲーを体感したい、そう思っているようだった。
「訊いても良いだろうか?」
 控えめに訊いたルーツ・アトマイス(るーつ・あとまいす)は、手のひらに乗せたスーパーボールを見せて言った。
「こういった物を使う場合の『生死判定』はどうなるのか。攻撃を受けた者はどこまでいったら『脱退』と判断すれば良い?」
 ルール上、サバゲーでは『生死判定』は個人の判断に委ねられる。肩部に被弾したとしても本人が致死ではないと判断すれば『肩部以下を動かさない』という枷を自らに課して続けるも良し。被弾部の出血が多く、続行は不可能と判断して涙の『脱退』を選択するのも良し。『俺のプロテクターが守ってくれた』として無傷で続行する事もまた良しである。
「……武器の形状と速度、被弾箇所やその数によって判断するしかない。あくまで個人が判断する……それも楽しむ秘訣」
「なるほど」
 ルーツは改めて手の中のスーパーボールを見つめた。判定が個人に委ねられるということは、その辺に落ちている石であれ、とんでもない速度で当ててしまえば致死と判定される事もあるという事だ。逆に言えば致死と判定せざるを得ない方法で攻撃をすれば文句なしという事になる。相手の受け取り方まで考慮にいれた攻撃をしなければならないという点では、ゲームといえど意外に奥が深い。ゲームだからこその幅の広さとも言えるが。
 武器の貸し出しとチーム分けを終えた所でパッフェル長原 淳二(ながはら・じゅんじ)に声をかけた。
「……移動する時、後ろの狼煙と花火を持ってきて」
「狼煙?」
 振り向いて見れば、少しと離れた所に狼煙と打ち上げ花火が固めて置いてあった。
「……それが開始の合図。15分後に点火して」
「お、俺がか?」
「……そう。お願い」
 まぁ、持てない量ではないし、大した手間ではない。雑用感が漂ってはいるが、名指しで頼まれたのは悪い気がしなかった。
「まぁ。俺は俺のできることをするだけだ…」
 淳二が狼煙と花火を持ち、皆の準備が整った所で各陣営の本陣を目指しての移動を開始した。
 距離にして5km程の地点、『旗』を立てて戦いに備える。
 15分後の合図に向けて、各々に胸の高鳴りを秘めながら『モデルガンツリー』をあとにした。