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『ナイトサバゲーnight』

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『ナイトサバゲーnight』
『ナイトサバゲーnight』 『ナイトサバゲーnight』

リアクション

 源 鉄心(みなもと・てっしん)は茂みの中に身を隠しながら乙陣営の本陣を見つめみた。
 『旗』の前では七那 禰子(ななな・ねね)七那 勿希(ななな・のんの)が瞳を光らせて警戒していたが、どうやら気付かれてはいないようだった。
 と、思っていたのに。それは上空からやってきた。月明かりの光が生んだ僅かな影が上空から落ちていた。
「あっ、ちょっとやっぱり見えちゃう……」
 空飛ぶ箒で跨り飛んでおきながら何を言っているのか。七那 夏菜(ななな・なな)がスカートの裾を押さえているうちに鉄心は意を決して飛び出した。
 頭上後方で何かが光ると、禰子が振り向いて鉄心を視界に捉えた。
 「くそっ」と言ってエアガンを撃つ鉄心に向かって一直線に。禰子は『スウェー』で弾を避けながら間合いを詰めゆくと、すれ違い様に鉄心のエアガンを『光条兵器』で叩き斬った。
「うそっ!!」
 目を丸く開く鉄心の後方からパートナーのティー・ティー(てぃー・てぃー)が駆け尾いて来ていた。
「油断しているからです」
「えぇっ、これ油断ゆえに?」
「いいから貸して下さい」
 ティー鉄心の手に握られたままの発煙手榴弾をもぎ取ると、大きく前方に投げた。
 間髪入れずに次弾も投げ込むと、『旗』の周囲はあっと言う間にカラフルな煙に包まれた。
「チャンス!」
 はるか上空から、ナナ・ノルデン(なな・のるでん)が一気に下降した。彼女が跨る光る箒の軌道はまさに、乙の『旗』元へ光閃が降射しているようだった。
 周囲が煙に包まれても七那 勿希(ななな・のんの)は冷静だった。
 体を回転させながらに『火術』を放つ。そうしているうちに上空から迫る光閃に気付いた。
 放たれた『雷術』をナナがどうにか避けるのを見て、ズィーベン・ズューデン(ずぃーべん・ずゅーでん)は拳を強く握った。
「一気に行くよっ!」
 『旗』元めがけて『氷術』を放つ。『旗』にぶつけて倒れたならば甲陣営の勝利、敵兵に勝たずとも勝利をおさめる事ができる。
「ひゃぅっ」
 勿希は向かい来る『氷術』に『氷術』をぶつけて何とか防いでいた。氷塊が衝突する度に『シャウラロリィタ』の裾が激しく波打った。
 目視で捉えてから『氷術』を唱えている為、どうしても後手に回ってしまう。しかもズィーベンは『氷術』を放っては駆け、駆けては放つを繰り返している為、標的を捉えることもできない、このままでは。いずれ押し切られてしまう。
 勿希は右瞳の『ゴスロリ眼帯』に手をやった。パッフェルと同じ服が着たかったパッフェルに近づきたかったパッフェルに『似合ってる』って言って貰えた。それでも……。
「パッフェルさん、ごめんなさい」
 勿希は眼帯を外して右瞳を見開いた。開けた視界の中に、駆けるズィーベンの影をどうにか捉える事が出来た。
 走路を予測して『氷術』を放つと、ズィーベンは光と共に空へと昇っていった。どうやら間一髪で『光る箒』を使ったようだ。
 空には夏菜が待ち受けている。高度を下げれば、すぐに禰子が向かってきた。
「その箒を壊せば、地に下りてくるって事だよなぁ!」
「下りるっていうか……墜落するよっ!」
 人数的には、ほぼ互角。しかし夏菜たちは互いに『光術』で合図を送り連携している。全ては『旗』を守る為に。
 攻め側は陽動とかく乱を狙い、守り手は無理に攻める事はせず堅守を貫いている。
 乙陣営の本陣前。一進一退の攻防に決着がつくのは、もうしばらくかかりそうであった。



 『イルミンスールのユニコーン』の縄張り内。
 その森の南から中央へと向かう道中に身を潜める水橋 エリス(みずばし・えりす)は、仕掛けた罠の一帯に何者かが近づいてくる気配を感じて身構えた。
 付近では戦闘が起こっている気配も音も聞こえていない。気配の主は進撃中の甲乙陣営のどちらか、はたまた森に向かっているというティセラの一行か。
 ティセラが来れば、当たり。パッフェルが最後までサバゲーを楽しむためにも彼女に邪魔をさせるわけにはいかない。『必ずここで足止めする』、それはつまりあのティセラと戦うという事だ。まともに戦えば不利なのは明らか、だからこそに罠を張ったのだ。
さぁ来なさい、ティセラ
―――とんでもなく楽しそうだな……
 夏候惇・元譲(かこうとん・げんじょう)エリスの横顔を見ながらにそう思った。子供のように瞳を輝かせる様は、かつての曹魏の軍師達の姿が重なって見えた。戦場では表情の変化を抑えていた彼らもまた、エリスと同じような心境だったのではないかと思い馳せると、懐かしき空気を感じると共にどこか彼らに近づけたような、そんな気がした。
 ふとエリスが身を乗り出した。
 罠に近づく歩み寄る、一歩二歩に、あと三歩。歩み寄る気配の主の足に、ロープがかかった! そこに上空から蜘蛛やら蜥蜴やらの玩具が落ちてきて精神的なダメージを与えようというものだったが−−−。
 足を取られて転んだのは『オリヴィ工博士改造ゴーレム』だった。
「うわっ!」
 『ゴーレム』が倒れ込むと、その背に隠れていたコハク・ソーロッド(こはく・そーろっど)の姿が露わになってしまった。
 即座にグレン・アディール(ぐれん・あでぃーる)が『ショットガン(ゴム弾)』で狙撃したが、コハクは慌てて『ゴーレム』の影にしゃがみ込んだ。
「ふぅ〜、よかったぁ、ゴーレムに先行させといて」
 エアガンを握って顔を上げた時、グレンが「居たぞ! ティセラだ!」と叫ぶのが聞こえた。
―――マズイ、もう見つかった?!!
 そう思った時には頭上を李 なた(り・なた)が跳び越えていた。
 は二刀の『木刀』を振りかぶったが、これ降ろすより前に小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)の銃撃を感知して跳び退けた。それでも視線はティセラから外さなかった。
「十二星華の大将ともあろうお方が、こんな所にまで出向くなんてなぁ!!」
 地が爆ぜたように蹴りて駆けだした。
「パッフェルに仲間外れにされて寂しかったか? あ゛ぁ?!!」
 美羽の銃口が見えるより先に『煙幕ファンデーション』を投げつけた。
「ソニア!!」
 その言葉を待っていたようにソニア・アディール(そにあ・あでぃーる)は手早く『メモリープロジェクター』を発すると、ティセラの周りにの姿を投影して見せた。
「まかせてっ!!」
 ノーン・クリスタリア(のーん・くりすたりあ)が影にめがけて『氷術』を放つ。影は本人の姿を投影したものであるのだが、本人に直撃したとしても何ら問題はない、むしろ積極的にぶつけるべき状況である。ノーンは一切に遠慮することなく『氷術』を放っては次々に影を消していった。
 駆ける『馬』の蹄の音。元譲は『馬』を操りて美羽の銃撃を避けていった。
 グレンが飛び込む、その一瞬の為に、守撃の目を外に散らせた。
 開いた道を一気に駆け抜けて、グレンティセラに飛びかかる。
 グレンがティセラを地に組み伏せた。
 あっさりと。銃を使うことなく、スキルを使うことなく。
 純白のドレスに身を包むその肢体は抵抗さえしなかった。
「い、痛い、ですわ」
 その声がグレンに全てを諭した。声質も似ている、しかし声に独特のハリがなかった。
 捕らえたティセラの顔を寄せ上げる。
 捕らえたティセラティセラに化けたリーブラ・オルタナティヴ(りーぶら・おるたなてぃぶ)だった。



「まさか本当に迂回ルートで来るなんてな」
 駆け抜けようとする一行に、木の上から投げかけた。トライブ・ロックスター(とらいぶ・ろっくすたー)シリウス・バイナリスタ(しりうす・ばいなりすた)の姿をその目に捉えていた。
「あんたには確か、ティセラそっくりのパートナーが居たよなぁ。そいつが軍用服なんか着てるって事は―――」
 言い終える前にロートラウト・エッカート(ろーとらうと・えっかーと)の『ランス』が襲いかかってきた。思わず二刀の『木刀』でこれを防いだが、バランスを崩して木から落ちてしまった。
「ちょっと待てコラ、まだ話は終わってねぇ―――ってオイ!!」
「大丈夫! 穂先は木製になってるからサバゲーのルールには則ってるよ」
「んなこと聞いてねぇ! つーか話を聞きやがれ!!」
 息もつかせずにロートラウトは『ランス』を振るった。彼女がトライブの足を止めているうちに、エヴァルト・マルトリッツ(えう゛ぁると・まるとりっつ)ティセラたちに先に行くよう促した。
「あ゛ぁ〜コラ! 待ちやがれ!!」
「行かせんっ!!」
 エヴァルトが『ショットガン(ゴム弾)』を撃ちてロートラウトを援護した。
「ティセラさんは、このサバゲーをさっさと終わらせて、明日に備えなければならないんだ!」
「知るか!! 姫さんはサバゲーをやるのを楽しみにしてたんだ、ティセラだろうと邪魔する権利はねぇはずだ!!」
「無許可の外出は規律違反だ! 夜を通しての活動はロイヤルガードの仕事に支障を来す! 夜の森は危険がいっぱい! どうだ、悪いことばかりだろう!!」
「黙れ! 退きやがれっ!!」
 トライブの足止めが足止めされている隙にティセラたちは森の中を駆け進んでいった。
 遠くに微かにエアガンの銃撃音が聞こえてきた。手の鳴る方へ、いや音の鳴る方へ。一行は戦場を目指して駆けた。