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リアクション
避けたというよりは外してくれたという方が正しいか。それでも一人生き残った者として佐野 亮司(さの・りょうじ)は即座にパッフェルへエアガンを向けた。
トリガーを引くより前に背中に斬撃を感じた。レイディスが大剣で一閃したのだった。
「俺を忘れるなよ!」
「ふっ」
背を切られ『脱退』したというのに亮司は口端を僅かに上げた。レイディスがこれを認識した時には脇腹を狙撃されていた。
振り向き見れば「カモノハシ」が立っていた。ゆる族のジュバル・シックルズ(じゅばる・しっくるず)である。その手で一体どうやって撃ったのだろうか、手にはエアガンを持ち携えていた。
「これが狙い……か?」
「へっ、ざまぁみやがれ」
レイディスと亮司が共に倒れゆく中、カモノハシはパッフェルへと銃口を向けた。
彼女の肩が動くのが見えた。とんでもない速度で狙撃される、そう察して彼は指への信号を早めた。パッフェルとの早撃ち勝負、それは彼のイメージのままに収束した。現実は氷室 カイ(ひむろ・かい)との早撃ちが展開していた。
『前回の借りを返す』、そして『負い目を感じさせる事なく彼女を守る』。2つの約束を守るべくカイは彼女の前に飛び出したのだ。
向かい合い撃ち合った2人の銃弾は、共に互いを撃ち抜いた。
「欲を張ると、ろくな事がねぇな」
首だけを返してカイはパッフェルに笑みを見せた。彼女は瞳を丸くしていたが、負い目を感じてはいないだろうか。精一杯に笑んで見せたんだ、自分を責めるような事はしてくれるなよ。
亮司がエアガンを構えてからカイとカモノハシが倒れ込むまでが、烈火の如くに展開した。遠巻きに見ていた比賀 一(ひが・はじめ)にもそれは同じに見えていた。
「うまいこと取り巻きが消えたな」
「分かってるよっ!」
一が続けるより先にクドは『バーストダッシュ』で飛び出していた。今なら狩れる……いや、サシで勝負ができる、そう思ったのだが……。
「ったく」
パッフェルの背方で棗 絃弥(なつめ・げんや)が嘆息を漏らした。
「退いてな!」
彼の立つ位置は戦場の風上、そこから彼は一気に『しびれ薬』を降り撒いた。
「クド! 戻れ!!」
散布物にいち早く気付いた藤堂 裄人(とうどう・ゆきと)は即座に思考を巡らせた。
「サイファス! 白滝!」
この手を成すのに必要なのは自分と、この2人の力だ。
「この粉、跳ね返すぞ!!」
この一言で理解した。3人は並んで同時に『サイコキネシス』を放った。
念力で壁を作るように風を遮り、『しびれ薬』の流布を食い止めた。無論、風の全てを防ぐことは出来ない、それでも仲間が風上に避難するまでの時間は十分に稼ぐことが出来る。
「おぃおぃマジか」
『サイコキネシス』に止められるとは思わなかった。絃弥は加えて『しびれ薬』を撒こうとしたが、その手を僅かに躊躇わせた。
―――当然そうすべきだ。だがそれはつまり……。
「ちっ」
悩みながらも両手を広げた、その瞬間―――
銃撃を受けた。放ったのは比賀 一(ひが・はじめ)。エアガンだというのに距離のある中、一撃で正確に絃弥の左胸を撃ち抜いていた。
「隙だらけだ」
「やかましい……わかってんだよ、んな事は」
両手を下ろしながら絃弥は考えた。左胸を撃たれたって事は実戦なら死亡だよな…てこたぁ、倒れ込むべきか……。
膝を着いて前のめりに倒れようとした時、後方右舷から雨宮 渚(あまみや・なぎさ)の声が突き刺さった。
「って、ちょっと! こっちにも『しびれ薬』来てるんだけど!」
渚は乙陣営の仲間数名の前に立ち、こちらも『サイコキネシス』で『しびれ薬』を防いでいた。急に風向きが変わってしまったのか、今度は彼女たちが『しびれ薬』に襲われていた。
「無茶を言うな。風の変化なんて想定外だ」
「そんな無責任な!」
「自然のきまぐれに腹を立てるな。共生共存、うまく折り合いをつけるしかねぇのさ」
「わけ分かんないわよ! 何とかしなさいよ!」
何とかと言われても絃弥はすでに『脱退』している…………自分で『死亡』と言っておきながら、だいぶ話していた気もするが。
渚の背中越しにレオナ・フォークナー(れおな・ふぉーくなー)は戦況をじっと見つめた。まだ戦える? いや、敵数を見ても優勢とは言えない。ここは退くべきだろう。
「渚、ここは一度、退きましょう」
レオナは対面を示して言った。『銃撃戦闘研究会』の他にも甲陣営と思われる人影が見える。一斉に仕掛けて来られたらと考えると、寒気がした。
渚を含めた乙陣営のメンバーに撤退する旨を伝えると、レオナは『煙幕ファンデーション』を使った。レオナがパッフェルの手を引いて撤退した。
甲陣営の面々はこれに追撃する事はなかった。張られた煙幕には『しびれ薬』が混ざっている可能性がある、迂闊に飛び込むのは危険だと判断したようだ。
去りゆく様を見つめながら、これまでの戦いを静観していた夜霧 朔(よぎり・さく)は素直な感想を述べた。
「苦手なはずの接近戦で来るなんて、彼女らしくないですね」
十二星華蠍座のパッフェルといえば『星剣パワーランチャー』の使い手。その力も狙撃力も何度か目の当たりにしているが、それらは狙撃手である彼女の姿に他ならない。
そんな彼女が見せた接近戦。エアガンを4丁使うという離れ業を見せた事には驚いたが、何よりもあの場面でそれを選択したという事実が朔を驚かせていた。
「ともあれ、やはりシンプルな銃撃戦では分が悪いですね」
結果として3人が一瞬で討ち取られたのだ。未だ、ぎこちないとは言っても十分に警戒する必要があるだろう。
「スキルを十分に活用して、討ち取るとしましょうか」
「あら、それなら、いよいよわたくし達の出番ですわ」
エレナ・フェンリル(えれな・ふぇんりる)が艶やかな笑みを浮かべて言った。
撤退を完遂した乙陣営の背を追うように見つめている彼女の瞳は、より金色に輝いているように見えた。
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