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ぶーとれぐ 愚者の花嫁

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序章 イーストエンドの少女占い師

私は思うんです。人は誰だって休日を求めているって。
だから奉先。女王候補のミルザム・ツァンダとしてでも、踊り子のシリウスとしてでもなく、敢えて1人の普通の女の子として彼女と接してあげて欲しいんです。 シャーロット・モリアーティ(しゃーろっと・もりあーてぃ)(踊り子の願い・星の願い)


 オカルト大好きのシャンバラ人たちの住む(その数およそ四万戸に六万人)、このマジェスティックで、タロット占いが廃れ、忌み嫌われているのは、行方不明になってしなったメロン・ブラックこと大魔術師アレイスタ・クロウリーの責任です。
 遥か昔に地球で彼がカードを考案したタロット占いなんて、ここの住人は誰もして欲しくない気分みたい。
 アレイスタのたくらみに端を発した、地底湖の古代遺跡の急浮上で、壊れかけてしまった虚偽の都マジェスティック。
 でも、そのおかげで私、シェリル・マジェスティック(しぇりる・まじぇすてぃっく)は、地祇として数千年ぶり? に地上にでてこられたのだし、また以前と同じようにこの地で占いをしていられるのだから、悪いことばかりでもないのだけど。
 こんなに腕のいい占い師をスルーしまくるなんて、みんなアレイスタによっぽどひどいめにあったのね。彼を連想させるこのタロットカードは、私の大事な商売道具なのですが、しばらく手相か水晶占いに商売替えしようかな。
 みんなが足早に過ぎ去るイーストエンドの街角で、私の前で足をとめた年配の御婦人が一人。
 あれ。
 彼女は一昨日の。

「よかった。
あなた、まだここにいたのね。
この間、あなたに占ってもらった探し物の帽子、見つかったわ。
言われた通り、前に住んでいた屋敷にそのまま置いてきてしまっていたの。
連絡したら、住人の方が大切に預かってくれていて。
本当にあなたの占いのままよ。
お礼を言いたくて、ここへきてみたの」

先日、たまたま私の前を暗い顔で通りかかったこの御婦人を、私は親切心で占ってあげました。
サービスと宣伝とヒマつぶしをかねて無料でね。

「ありがとう。
あなた、すごい占い師なのね。小さい、いえまだ若い女の子なのに」

たしかに私の外見は、金色の髪、青い目をした背の小さな痩せっぽちの女の子。
けれど。

「私は、シェリル・マジェスティック。
世界の誰よりもマジェスティックにくわしい占い師。
この街の過去も未来も現在も、私に視えないものはありません」

「たいした自信ね。
私、あなたに会えてよかったわ。
あの帽子はお婆様から頂いた大事なものなの。で、それでね」
 
彼女は、私に顔を寄せてきたの。

「あなた、ずっとここにいると危ないわよ。
噂になってるわ。
イーストエンドにすごく当たるタロット占いの女の子がいるって。
その子は、メロン・ブラック博士の弟子で、その子の体を借りて占いをしながら、博士が街を見張ってる。
博士は帰還の時を待っている」

「そんなのでたらめ。
メロン・ブラックは死んではいないかもしれないけれど、もうここには気配も残っていないわ。
私には、わかるんだから」

「しっ。
博士の名前を大声で言ってはダメ。
それだけでも、危ない目にあうかもしれなくてよ。
あなた、ここから離れたほうが身のためよ。空京の市内へでも行ったらどう。
あなたぐらい力があれば」

 彼女は、真剣に私の身を心配してくれているらしくて、目をみて懸命に話してくれます。

「お気持ちはありがたいけれど、私はここを離れるわけにはいかないの」

「どうして、なにか、事情があるの?
さしでがましいようだけれど、私でよかったら相談に」

「いいえ。そうではなくて」

私は彼女から離れて、台にカードを広げて両手でシャッフルしたわ。
混ぜた後、七枚のカードを台に並べる。
対人関係を占うのにむいているセブン・テーリングのスプレッド(展開法)よ。
七枚のカードを順に表にむける。
絵柄はそれぞれ、

「太陽。
戦車。
星。
力。
世界。
女教皇。
吊るされた男。
すべて正ね」


「なにを占ったの。このカードにどんな意味が」

「私にとってのあなたの忠告の意味を確認したの」

「それで、結果は」

心配げにたずねてくる彼女に、私は微笑みかけた。

「あなたは、私に運命への旅立ちを告げにきた人。
私は幸福(太陽)を手にするために、援軍(戦車)を得に希望(星)と勇気(力)を持って約束された成功への旅(世界)へと行かなければならないわ。
そこには、秘密と神秘(女教皇)と英知(吊るされた男)を持った人が私を待っているわ」

「いったい、どこへ行くつもり」

「さあ、わからないわ。
とりあえず、こうして、ここにいるわけにはいかないのは間違いないわね」