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ぶーとれぐ 愚者の花嫁

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第三章 路地裏のアルビノ

にっしっし。さーて、どうしてやろうかねェ……? ヴェッセル・ハーミットフィールド(う゛ぇっせる・はーみっとふぃーるど)(ジャック・オ・ランタン襲撃!)

たいした事件じゃなさそうなんで、クロ子も仙桃さんも置いて一人できてみたんだが、それにしても、マジェスティック、派手に壊れてんな。
空襲と大地震と洪水が同時にきたようなもんだから、しかたないか。
龍にのってロンドン塔に襲撃した俺としては、責任をまったく感じないってわけでもないんだけど、修理にいくらぐらいかかるんだろうな。これ。
俺は、ヴェッセル・ハーミットフィールド。長いからベスでいいよ。
みなさんと一緒で、男爵とテレーズの結婚話の行く末を見届けにやってきたわけだけど、ダウンタウンで情報収集っても、することが他の人とかぶりまくってるし、俺としては、男爵よりもテレーズに否定的というか、こんだけ評判の悪い男にわざわざ近づくなんて、きみ、きみ、どうしたの?
ですよ。
んで、テレ自身と彼女の家の評判を収集してみたんだ。
あのぉ、みなさん、彼女は、怪しいぜ。
クロというかめちゃくちゃ濃いグレイといいますかね。
テレの家は、名家も名家、マジェでも歴史ある由緒正しきお家柄なんですけど、名家すぎて、一族企業も、資産もありすぎて実際、なにをしてんだかよくわかんねぇよ。
政治家。官公庁。公務員を筆頭に、建築。貿易。食品。医療。電化。
どこにでも手をのばしてやがる。
表でこんだけ勢力があるってことは、裏もすごいって話ですよ。
テレもさ、一見、虫も殺さないおとなしそうなお嬢様なんだけど、実は表にこそでてこないけど、テレの家のみならず一族の次期当主のとも目されるような女傑らしいな。
容姿端麗。
学力優秀。
運動万能。
おまけに人間性も素晴らしいとか。な、絶対、ヤな奴ぽいだろ。
男爵とテレは、テレの一族が持つ美術館での展覧会で知り合ったんだと。
これまで、浮いた話一つなかったテレが男爵にコロリとやられちまったって一族は大騒ぎだ。
そりゃそうなるよな。
が、待て。
俺にはパラミタ大陸でも有数の資産家である一族の次期当主候補が、そんなに心のかわいい女だとは思えない。
男爵に近づいたのは、きっと魂胆があるからだぜ。
情報を集めて、ここまでは固まったんだけど、こっからどうするかが問題で。
俺の悪友のファタ・オルガナ(ふぁた・おるがな)は、年齢的にあいつの守備範囲外のテレには興味がないだろうし、テレを説得して結婚つぶすって動いてる神父はアテになんのかねえ。
次の一手を考えながら、ぼけっと歩いていた俺は、いつの間にか、行列に並んでしまっていた。
しかも、俺の後ろにもすでに何十人も続いてるなかなかの行列だ。
ニンジャなんだけど、生まれつきトラップにかかりやすい体質の俺は、どこにいてもこういうめにあう。
感電。
落とし穴。
毒針。
回転床。
ワープゾーン。
警報等々だいたい経験したな。
ぞれでもピンピンしてんのが我ながら不思議だよ。

「これ、なんの行列。もしかして幸福の壺の街頭販売?」

後の男に聞いてみた。

「手相占いだよ。
すごく当たるって評判だ。
あんた、やらないならどいてくれよ」

「いやいや、俺もちょうど迷ってたし」

「旅の占い師の小さな女の子なんだ。
かわいいらしいぜ」

「ほう。
こわいお兄さんが背中についてなきゃいいけどな」

役に立つとは思えねぇが、子供はきらいじゃないので、募金でもするつもりで会ってみるか。
前の客がさばけて、彼女がみえてきた。
金髪の青い目の痩せた女の子だ。
年は、十歳くらいか。
まさか、この間の騒ぎの戦災孤児じゃないだろうな。
俺の前にはあと一人先客がいる。
俺はそいつと彼女のやりとりを眺めてから、彼女になにを話すか決めよう。
先客は、ニメートルは優にある長身の獣人だった。
背は高いがひょろりとしていてスタイルは悪くない。
耳と尻尾がなければ、普通の青年紳士にみえる。

「やあ。趣味で占いもしているベスティエ・メソニクス(べすてぃえ・めそにくす)だよ。
今朝、占いをしてみたら、きみたちの運命がでていたので会いにきたのさ。
きみは、シェリル・マジェスティックだろ。
運命の人と出会うためにマジェをさまよっている。
間違いないね。
僕の占いでは、きみは、マジェを騒がしているトラブル、そう、アンベール男爵とテレーズ嬢の結婚に一枚噛んだ方がいいようだ。
彼のまわりには、たくさんの人が集まっている、その中できみがピンときた人と一緒に行動していれば、運命は訪れると思うな」

客の獣人紳士がいきなり、一気にそれだけしゃべったので、俺も、占い師の女の子もあっけにとられた。
そして、ベスティは、俺の方へむき直り、

「ヴェッセル・ハーミットフィールド。
きみの未来も僕は少しだけみてしまったんだ。
きみは、シェリルに手相占いではなく、彼女が本来の力を発揮できるタロット占いをしてもらうべきだよ。
そうすれば、きみの行き先は示される」

「おお、おう。
俺は、おまえを信用してもいいのかよ」

「それはわからないな。
信じたくば信じてくれたまえ。
それじゃ」

言いたいことを言うとベスティは、ひらりと手を振り、歩いていってしまった。
ほえ?
首をひねる俺に、シェリー(名前がシェリルなら俺はシェリーって呼ぶぜ)が問いかけてくる。

「お客さん。いまの人と知り合い」

「知らね。
俺は、おまえに占ってもらおうと思って並んでただけだ」

「うーん。
どうしようかな。
私がタロットが得意なのは、本当なんだけど、あらぬ疑いをかけられそうなので、自粛してたの」

「シェリー。
どうせなら、おまえの得意なのでやってくれよ。
どんな結果でも俺は文句は言わないよ。
俺は、謎の答えを知るためにどう動けばいいか占ってくれ」

「そうね。
では」

懐から大判カードを一組取りだすと、シェリーはそれを台に置いた。
カードを裏返しにしたままシャッフルする。
V字型に七枚、谷間の三枚のカードを並べてゆく。
シェリーはそれらのカードを一枚ずつめくった。

「フォーチュン・オラクルのスプレッド。
絵柄は」

「悪りぃな、くわしい説明はいいから、結果だけズバっと教えてくれ。
シェリーがカードをだしたら、俺の後ろに並んでた連中がなんか騒いで逃げちまったし、手短にすました方がいいんだろ」

「あなたは、解答を得るために、先端が示された謎の根源、住処、家へむかう必要があります。
そこには、必要とされる犠牲があなたを待つでしょう」

テレーズの実家、いや違うな。一族の党首の家に行けって意味だろうな。これは。
必要とされる犠牲ってなんだろうな。
とりたてて予定も計画もないし、シェリーの占いにのってみるかね。

「サンキュ。参考になった。
礼を払うよ。
そういや余計なことだけど、シェリーは一人で旅してるのか」

「私は、マジェスティックの精霊なの。
地上にでてきたのは久しぶり。
運命の人を探してるんだ。
さっきの人に言われたように、私も動かなくちゃ」

シェリーは、地祇か。
外見はお子様でも、中身は俺よりしっかりしてるかもな。
戦災孤児じゃないんだ。
なんだか俺は、少しほっとした。