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魂の器・第1章~蒼と青 敵と仇~

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魂の器・第1章~蒼と青 敵と仇~
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 ヒラニプラ。モーナ・グラフトンの工房前。
 テレサは訊くだけ訊いて、さっさと通話を切ってしまった。隼人は訳が分からないままに携帯電話をポケットにしまう。
「優斗がキマクに行くって時にナンパ云々の話が出るなんて……何か、嫌な予感がしないでもないな……」
 そう呟きながら、彼は出発準備を進める皆の所へ戻っていく。そこでは、月夜と樹月 刀真(きづき・とうま)がモーナにお礼を言っていた。
「モーナ、月夜の話を受けてくれてありがとうございます」
「ん。少しでも目指す場所に近付ければいいね」
 魂に干渉できる機械や技術、方法があるなら是非学びたいというのが月夜の希望だった。今回の件に携わることで、日頃から考えている魔法と科学を一つの技術として扱うという事への手掛かりになるかもしれない、と。刀真は、彼女達と荷物の護衛をしよう、と同行を申し出ていた。ライナスという人物が、月夜の考えている事の参考になる技術を持っているのか、それについても気になる。
 月夜が言う。
「無理を言ってご免なさい、ありがとう」
「気にしないで。協力する理由なんてそれぞれでいいんだから。それが間接的なものであっても、良い結果が生まれればあたしは嬉しいよ。それに、そういう探究心は嫌いじゃない」
「錬金術との可能性について話した時には無茶苦茶だと言われた記憶があるのだが……」
 白砂 司(しらすな・つかさ)が言う。彼は錬金術や薬術を研究している。その自分が今、ファーシーに直接してやれることはない。だがモーナの手伝いくらいなら邪魔にもなるまいと、彼は研究所に同行することにしたのだ。ファーシーは、デパートで会った時に脚のことを深く気にしていた様子だった。あれから心配している司だったが、何も考えなしに素人が触れるべきではない、と彼女からは身を引いた。
 自分の持つ知識で、出来る事は――
 司の言葉に、モーナは少し唇を尖らせた。
「司君は、メンテナンス技術が知りたいって言ったでしょ。それは難しいからね。キメラや人体練成については門外漢だし、あたしじゃ役に立てない。だけど、彼女はテクノクラートだし、今回は移植じゃなくてエネルギーの充填について意見を聞きに行くわけだから。ライナスなら、何か知ってる可能性もあるしね」
「ふむ……?」
 司はそれを聞いて、何やら難しい顔をしながら準備に戻っていった。月夜は改めて、モーナに言う。
「この件が終わったら、残っている仕事を手伝うわ。機晶技術や先端テクノロジー、R&Dがあるし、足手まといにはならないはず」
「そうだね、お願いしようかな。納期は伸ばしてもらったけど、なるべく早く納品しないと先方に迷惑が掛かるからね」
 ……それは、どこかのMSに聞かせてみたい台詞である。
「何か積む荷物はありませんか?」
 刀真が聞くと、じゃあ……、とモーナは大きめの木箱を示す。
「あれ、載せてもらおっかな」
「分かりました」
 刀真はその箱を平然と持ち上げて月夜の飛空艇に乗せていく。モーナは感心した。
「さすがだね、結構重量あるんだけど」
「ライナスの所についてからも、力仕事で役に立てると思います」
 そこで、和原 樹(なぎはら・いつき)フォルクス・カーネリア(ふぉるくす・かーねりあ)セーフェル・ラジエール(せーふぇる・らじえーる)がモーナに近付いてきて自己紹介した。ファーシーと知り合いである事を告げ、樹は言う。
「機晶姫にはあんまり詳しくないんだけど、護衛や荷物運びくらいは頑張るからよろしく」
「うん、ありがとう。よろしくね」
「……モーナって人の護衛に来たんだけど……」
 工房に、紫月 唯斗(しづき・ゆいと)エクス・シュペルティア(えくす・しゅぺるてぃあ)紫月 睡蓮(しづき・すいれん)プラチナム・アイゼンシルト(ぷらちなむ・あいぜんしると)を連れてやってきた。
「ああ、あたしだよ!」
 モーナが声を掛けると、唯斗はやる気が無さそうな、だらりとした様子で歩いてきた。
「えーと、護衛で合ってるんだよな? いまいちその辺がハッキリしてないんだが……」
「そうだね。主には護衛をお願いすることになるかな」
「護衛か……まぁ、わらわは戦闘も回復も何でも出来るからの。任せるがよい」
「ま、荒事から家事まで幅広くカバー出来るから、適当に頼ってくれ」
 エクスが胸を張って言うと、唯斗も頭をかきながら付け加えた。
 そうして着々と準備が進む中、セシリア・ライト(せしりあ・らいと)は小型飛空艇に食料を積んでいた。野菜や卵、肉や魚などいろいろである。現地調達した新鮮なものだ。飛空艇の中には、調理器具も積まれている。ライナスに料理でも作ろうか、と用意したものだった。
「たまには文化的な生活を送るのもいいよね。料理なんてまともに作らないで、ただ携行食料とか食べてそうだし」
「ライナスさんに会うの、久しぶりですぅ」
 それを手伝いながら、メイベル・ポーター(めいべる・ぽーたー)が言う。彼女達とフィリッパ・アヴェーヌ(ふぃりっぱ・あべーぬ)は以前、奇病にかかった隆とソフィアの件でライナスと知り合いになっていた。
「相変わらず、あの場所にお1人でいらっしゃるのでしょうか〜」
「どんな方なのですか? 機晶姫研究において名前が知られているライナスさんに会えるなんて、わくわくします」
 ステラ・クリフトン(すてら・くりふとん)に聞かれ、フィリッパは、かつて会った時のライナスの様子を思い出す。
「そうですわね、研究熱心ですが、あまり自分の感情を外には出さず、それでいて優しい方でしたわね」
 そう答えつつフィリッパは、彼は会った時に内心で喜んでくれるだろうかと思っていた。孤独を好むようだったが、人は孤独な状態でいつまでも生きていけるものではない。これでまた、交流が広がればいいのだが。そして、吸血鬼であるライナスの永い研究生活で得た知識の中に、ファーシーのケースと類似するようなものがあれば、と思う。
「研究以外のことにかまける余裕とかはなさそうだよね。えっと……これは保存食だね。ついでに、簡単に調理できて日持ちのしそうなのを持っていこう」
 セシリアがそう言って、保存食を荷物に入れていく。
「なるほど……とにかく、研究がお好きな方なのですね。ますます楽しみになりました」
 彼女達の話を聞いて、ステラは笑う。
「やはり、こういう知識に関して先輩から直接知識を得る機会というのはなかなかに無いですからね」
 やがて準備が終わり、モーナは無事に届いたバズーカを持って刀真の飛空艇の後部座席に落ち着いた。バズーカには、布がぐるぐると巻かれている。
「じゃあ、そろそろ出発しよっか」
「研究所までの道中は何事も無いと思いますが、気をつけていきましょう〜」
 メイベルも自分の小型飛空艇に乗る。
(今回のことでファーシーさんの脚が完全に動くことが出来るようになれば、ファーシーさんとラスさんとの関係にも変化が出てくるかもしれません〜。そのことも気になりますぅ)
 飛空艇に箒、ワイバーンから機晶姫用フライトユニットまで様々な乗り物を使い、彼等はヒラニプラを出てライナスの研究所へ向かった。