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クリスマス…雪景色の町で過ごすひととき…

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第9章 可愛いエリザベートちゃんとならどこへでも

「夜になるとアトラクションがこんなに、キレイに輝くんですね」
 日が沈み始めた頃、神代 明日香(かみしろ・あすか)は一緒に遊ぼうと誘ったエリザベート・ワルプルギス(えりざべーと・わるぷるぎす)と遊園地の中へ入った。
 花の形をした鮮やかなコーヒーカップや、ブライトからライトへ色味を変えていくブルーカラーのミラーハウスなどがライトアップされ、クリスマスイブの夜を照らす。
「わぁ〜キレイですねぇ。誘ってくれてありがとうございますぅ、明日香♪」
 太陽がすぅー・・・と沈みきり、アトラクションの灯りがキラキラと輝く宝石箱のように、夜を艶やかに染まる。
「喜んでくれて嬉しいです」
「フフッ。夜景もいいですけど、早くアトラクション周りしたいですぅ」
「(本当は町の夜景を楽しんだり、シュヴール橋の下で誓いを立てたかったですけど。やっぱりエリザベートちゃんはこっちの方が好きみだいっですね)」
 遊びたそうにはしゃぐ彼女の姿を見て、こっちに来てよかったと微笑む。
「これだけいっぱいあると迷いますね。エリザベートちゃん、どの乗り物に乗りたいですか?」
 エリザベートに選ばせてあげようとマップをぱさっと広げて見せる。
「雪の聖霊さんが脅かしてくるところがいいですぅ」
「えーっと、私たちがいるのが今ここですから。あのフードショックマンションを通り過ぎた辺りですね」
「そんなに歩かないところにあるんですねぇ。人がいっぱいいますから手をつなぎましょう」
 逸れないように明日香と手をつなぐ。
「お祭りとかでは私の方からつなぎましたよね」
「いつも明日香からじゃ、先生の面目丸潰れちゃいますよぉ」
「校外なのにここでも先生ですか?」
「そうですぅっ、今まで甘えてばっかりでしたから校長先生するんですぅ〜」
「(何だか何をやってもエリザベートちゃんは可愛く見えちゃいますね♪)」
 背伸びするように威厳を保とうとする少女の姿が、なんだか愛らしく見えた。
「髪の毛が乗り物にからまっちゃうかもしれませんから束ねてあげますね」
 邪魔にならないように長い髪を、明日香の髪を結っているのと同じ赤いリボンで束ねてあげる。
「ありがとうですぅ〜」
「手をつないでいきましょうか。エリザベートちゃん」
「はいですぅ〜」
 先生オーラはふっと消え去り、結局またもや彼女に甘える方になってしまった。
 彼女たちは手をつないで氷雪の宮殿へ向かう。



「おや・・・しばらく休憩のはずなんですが、仕方ありませんね」
 モニターを覗き込み緋桜 遙遠(ひざくら・ようえん)は明日香たちがやってくるのを確認し、大慌てでメンテナンスを始める。
「このノートにやり方が書いてあるんでしたっけ」
 ペラペラとめくって調べながらパソコンを操作する。
「まずはデバックを取らなければいけませんね。ミスしてしまったら1からデータを作り直さなきゃいけなくなりますし」
 サーバーからデスクの画面へ、別々のフォルダーの中へ落とす。
「窓の近くにある外の灯りから聖霊が現れて、乗り物に乗っている人にいたずらをするんですか。ではもうちょっと出方を変えてみましょうか」
 ソフトを操作してカチッとマウスを左クリックし、出現ポイントを変更する。
「乗り物の中にいる人の位置を考えると、座標位置はこんなもんでしょうね。もう少し工夫した方が楽しそうかもしれません・・・。まぁ、怪我したりしなければいいわけですから」
 遙遠の企みによって大人しいアトラクションが、絶叫系へ変貌させられていく。
「これであとはレンダリングするだけですね」
 ポチッとクリックをしてしまい、荘厳な宮殿内は世にも恐ろしい空間と化した。
「庭は全部雪で出来ているみたいですよ」
「キレイなお庭ですねぇ〜♪」
 そうとは知らず雪で作られた庭を通り、明日香とエリザベートは入口へ入って行く。
 概観や内装こそ変わってないが、魔の空間と化している。
「可愛い乗り物ですぅ」
「大人しそうなアトラクションですね」
 ファンシーなゴーストの乗り物に乗り、通路を進み始める。
「床から何か出てきましたよ!」
「私たちの周りを飛んでますよぉ〜、聖霊さんでしょうかぁ。あれ?消えちゃいましたねぇ」
「エリザベートちゃんの後ろにいますっ」
 チカチカと光る丸い球体が現れ、それは明日香たちの周りをくるくると飛び回っていたかと思うと、突然ぱっと消えたり背後から飛び出て彼女たちを驚かす。
「あの球体はやっぱり聖霊さんだったんですねぇ!またいなくなっちゃいましたぁ・・・壁から!?」
「天井にいますよ!」
 それはふよふよと飛びながら小さな雪の聖霊の姿へ変わり、消えたかと思うと突然壁や天井からにゅっと顔を出す。
「これからどうなるんでしょうね」
「どんなふうに脅かしてくれるんでしょうかぁ、わくわくしますねぇ♪」
 聖霊はステッキを振って球体を出現させると、それも聖霊へと姿を変えて彼女たちを宮殿から出してあげるか出さないか話し合い始めた。
 フッと照明が消えて、ゆっくり進んでいた乗り物がスピードを上げて進む。
 “こわぁ〜いおどかしをしてあそんじゃぉお♪”と1匹の聖霊が言い出すと、壁から鋭利な刃物の振り子が現れた。
「えっ、何ですかあれ!」
 明日香の持っているガイドブックにはそんなものが現れるなんて書いていない。
「場所を間違えたんでしょうか・・・。うーん、ここで間違いないみたいですけど、こんなの書いてませんね。バグでしょうか?」
 携帯の灯りを頼りに慌てて見てみるがやっぱり書いていないようだ。
「残念ながらバグじゃないんですよね」
 遙遠はモニターで焦る彼女たちの様子を眺めて言う。
「本当の恐怖はこれからですよ。だって、簡単に出たらつまらないでしょう?」
 パソコンを操作しながら黒い笑みを浮かべる。
「左側からハンマーがこっちに飛んできます!きゃぁあっ」
 キョロキョロと周囲を見回していると氷のハンマーがエリザベートへぶっとんできた。
 ガシャァアアンッ。
 とっさに明日香の懐へ飛び込んで避ける。
「何か壊れる音がしたですよぉ。えぇえん、怖いですぅ」
「大丈夫ですよ、エリザベートちゃんは私が守りますから!」
「効果音がきいているようですね。ではもうちょっと怖がってもらいましょうか」
 宮殿内の制御部屋にいる遙遠が新たな仕掛けを作る。
「乗り物スピードを上げてみましょう。時速はこれくらいにして・・・ぽちっと」
「いやぁあぁあ、速いですうぅ」
「私に掴まっていてください、エリザベートちゃん!」
「えぇえん、ツララが落ちてくるですよぉ。ぶつかりたくないですぅ」
 別の聖霊がステッキを振るうと、刺さったら痛いぞというのでは済まなそうなサイズのツララが乗り物の周囲にドスドスと落下する。
 話し合っていた聖霊たちが可哀想だから出してあげよぉ〜と言いだし、ようやくゴールへたどりつけた。
 粉雪がエリザベートの手に振り、雪の結晶の形をしたホワイトチョコをもらった。
「ぐすん、怖かったですぅ〜っ」
「あらら。お顔が涙で濡れちゃいましたね」
 明日香がエリザベートの涙をハンカチで拭いてやる。
「ずいぶんと楽しんでくれてなによりです。さて、少し休憩しますか」
 モニター越しで宮殿から外へ出て行く彼女たちを見送り、そう言うと遙遠はパソコンから離れた。



「アイスでも食べて落ち着きましょう?」
「はいですぅ・・・グレープがいいですぅ」
「すみません、グレープのアイスを1つください」
 めそめそと泣き止まないエリザベートのために明日香は、アイスの屋台へ行きカセイノ・リトルグレイ(かせいの・りとるぐれい)から買う。
「1つだな。はい、どうぞ。(このクソ寒いのに食べるやつがまさかいるなんてな)」
 心の中でそんなことを呟きながら明日香に渡す。
「ありがとうございます。エリザベートちゃん、アイスですよ」
「明日香〜、ありがとうですぅ♪」
 エリザベートは泣き顔から笑顔になり、アイスを受け取って食べる。
「アレンくん、アイス屋さんのところにお客さんがいますよ!いきましょう♪」
 遊園地でアルバイトしている咲夜 由宇(さくや・ゆう)たちは、来場した客にプレゼントを配ろうと、赤いスカートを揺らしながら明日香たちのところへ走る。
「(イブの日にここでバイトねぇ・・・。まぁ2人で働けばそれなりに給料をもらえるからいいか)」
 由宇も頑張っているから自分も頑張ろうと、トナカイの格好をしたアレン・フェリクス(あれん・ふぇりくす)は白い袋を抱えて心の中で呟く。
「モーントハナト・タウンの遊園地へようこそです♪ご来場いただいている方に、プレゼントをお配りしています!」
 アレンが運んでいる袋からキレイに包装した箱を彼女たちに渡す。
「私たちにくれるんですか?ありがとうございます。はい、エリザベートちゃんのぶんですよ」
「わぁ〜何が入っているんしょうね」
 箱を明日香から受け取り、中を見ようと包装紙を取る。
「それは開けてみてからのお楽しみです♪」
「手鏡ですかぁ」
 エリザベートが開けるとミラーハウスのモニュメントの魔法使いの形をした鏡が箱の中に入っている。
「私はエルフの家のクッキーですね」
「美味しそうですねぇ」
「フフッ、後で学校か私の家で食べましょうか」
「はいですぅ」
「ではこれはしまっておきましょう」
 明日香はパコッと箱を閉じてカバンの中へしまう。
「次はどこへ行きたいですか?」
「それでは謎のアドベンチャーへ行くですぅ!」
「あぁっ、エリザベートちゃん。そんなに走ったら危ないですよっ」
 早くゴンドラに乗ろうとエリザベートに手を引っ張られて連れて行かれる。
「見てください、ゴンドラも氷で出来てますよぉ」
「魔法で解けないようになっているんですよね」
 ぷかぷかと水面に浮かぶゴンドラに乗り込み、川くだりの冒険の旅へ出発する。
「森も氷雪で出来るんですねぇ♪コマドリさん〜こっちに来てください〜」
「なっ、鳥が裂けて中から・・・っ。エリザベートちゃん、それから離れてください!」
 ソリッドビジョンのコマドリから大きな怪鳥が現れ、明日香たちを食べようと襲いかかる。
 化け物から逃げ切れるために、ゴンドラはドドドッと轟音を立てて流れる激流の川へ進んでいく。
「安全装置の縄じゃ落ちちゃいそうですぅっ」
 落ちそうになったら漕ぎ手が助けてくれるのだが、それを分かっててエリザベートは明日香にぎゅっとしがみついて甘える。
「うわぁん、食べられたくないですぅ」
「というかその前に、これってゴンドラというかジェットバイクに近い速さで進んでいませんか!?」
「さぁ、お嬢ちゃんたち。どっちに行く?」
「うーん、5つの分かれ道ですか。左から2つ目にします!」
 漕ぎ手に言われ、明日香は人指を指して道を選ぶ。
「そこはワニが狙う道だな。落ちたら食べられちまうから気をつけろんだっ」
「ここにどうしてワニがいるんですかっ」
 ソリットビジョンなのだが、いくら川といっても明らかに危険な生き物を発生させている謎に、明日香は目を丸くする。
「他にも川の中に何かいるですよぉ」
「あれってカンディルじゃないですかっ、アマゾンの魚までどうしているんですか!?」
「そいつがいるところに落ちたらアウトだな。喰い散らかされてジ・エンドだ」
 明日香の声に漕ぎ手が絶対に川へ落ちないようにと言う。
「うわぁんーっ、怖いですぅう。エサになりたくないですよぉ〜っ」
 いくら落ちる前に助けてもらえると分かっていても、それを聞いたエリザベートは明日香の懐でぶるぶると震える。
 川にはワニやカンディル、後ろからは怪鳥が迫っている恐怖に耐え切れるのだろうか。
「(フフッ、ソリッドビジョンだから大丈夫といっても、怖い〜怖い〜と泣いちゃうんでしょうね。こんなに怯えちゃって可愛いですね♪)」
 怯える少女の頭をよしよしと片手で撫でてやる。
「さぁもうそろそろ出口だ!右か左、どっちへ行く?片方はマシだが、もう片方はちょっと危険だ」
「えーっと、右にします。―・・・そこを流れるんですかっ!」
 左側の断崖絶壁のような滝ではないが、滝のように急斜面の川を流れていく。
「きゃぁああぁあああーっ!!」
 2人はしがみつき合い、思わず絶叫してしまう。
 ドバシャァアンッ。
 頭に被っているフードから水を被り、従業員から借りたレインコートがずぶ濡れになる。
 ゴンドラから降りると宮殿の時よりも、エリザベートはぐすぐすと泣いてしまう。
「明日香〜怖かったですぅ」
「もう大丈夫ですから泣かないでください」
 レインコートを返してきた明日香が、彼女の涙をまたハンカチで拭いてやる。
「ふぅ〜冷えてきましたね。寒くないですか、エリザベートちゃん」
「ちょっと寒いですねぇ」
「私の傍へ来てください、こうすれば暖かいですよ」
「わぁ〜本当ですねぇ、暖かいですぅ」
 明日香の傍へ寄り一緒にコートを羽織る。
「はい、これを飲んで温まりましょう」
 水筒に入れた甘いミルクティーをコップに注いでエリザベートに渡す。
「ありがとうございますぅ〜。ふぅ〜ふぅ〜、温かいですねぇ」
「エリザベートちゃんにクリスマスプレゼントがあるんです」
「わぁ〜ネックレスですかぁ?嬉しいですぅ」
 プレゼントのネックレスをさっそく首かけてもらう。
「よく似合ってますよ♪」
「でも困りましたねぇ、私からは何もあげるものがないですぅ」
「こうして一緒に過ごしてくれるだけでも嬉しいですから、気にしなくてもいいですよ」
「この遊園地で売ってる帽子をネットで見て、それを参考に私が作ったんですけど。もらってくれますかぁ?」
「うさぎさんの帽子ですか?エリザベートちゃんからもらえるなんて嬉しいです!」
 手編みの帽子には雪うさぎの顔や大きな長い耳、尻尾のような飾りがついてる。
「むぅ〜、眠くなってきちゃいましたぁ」
「それじゃそろそろ帰りましょうか。もう遅いですから、私の家に行きましょう」
 うつらうつらと眠りかけているエリザベートをおぶって明日香家へ帰っていった。