シャンバラ教導団へ

百合園女学院

校長室

薔薇の学舎へ

クリスマス…雪景色の町で過ごすひととき…

リアクション公開中!

クリスマス…雪景色の町で過ごすひととき…
クリスマス…雪景色の町で過ごすひととき… クリスマス…雪景色の町で過ごすひととき… クリスマス…雪景色の町で過ごすひととき…

リアクション


第14章 見つけた温かさ

「(やっぱり北斗は食事しないからケーキをあげてもなぁ)」
 天海 護(あまみ・まもる)はショップのウィンドを覗いて、天海 北斗(あまみ・ほくと)にあげるプレゼントを選んでいる。
「(んー・・・毎日いろんなところへ駆け回っているし。難しいな・・・)」
 何をあげたらいいのか悩み、考え込んでしまう。
「どうしたんだ、何か買いたいものでもあるのか?」
「あっ、見てるだけだよ」
 彼に気づかれないように、ただ見てるだけとごまかす。
 北斗の誕生日祝いをしようとイブの夜に誘ったのだ。
「この辺りの建物は全部、石造りみたいだね」
 セピアやモノクロといった落ち着いた雰囲気の町並みが、真っ白な雪化粧をされている。
 街灯の灯りを受けて薄っすらとオレンジ色に染まる。
「こっちに抜け道があるな、行ってみよう。―・・・なんだかえらく芸術感あふれるマンションだね」
 大通りから離れて少し狭い道へ入っていくと、水を吐き出すトランペットのような雨樋が氷つかないように町の住人が雪をかきだしている。
 一方では雨水を飲み込み、もう一方では吐き出す仕組みになっているようだ。
「ここはさっきの場所とはちょっと違う雰囲気だね」
 さきほどの陶器のような石造りの建物の雰囲気と異なり、それより少しだけ近代に近い雰囲気だ。
「どことなくメルヘンな感じだな」
 壁を覆った雪から薄っすらと見える動物の絵を北斗がじっと見つめる。
「ショプか・・・あの赤いドア枠の店に入ってもいい?」
 幼い少女が壁に絵の具の筆で、落書きをしているような絵が描かれている店を護が指差す。
「あぁ、いいぜ」
「じゃあちょっと見てみるかな」
 店に入るとショップの棚には色鉛筆や絵の具などの画材が納まっている。
「(これで北斗の絵を描いて渡そうかな)」
「へぇー、いろんなのがあるんだな?」
「そうだね。水彩画用や油絵用の絵の具とか、いろいろなサイズのカンバスもあるよ」
「―・・・・・・。(たしか趣味が絵画とかだったよな。まぁそれはそれとして、護から誘ってくるなんて珍しいこともあるもんだ)」
 普段あまり自分から誘ってこない護が出かけようと声をかけてくれただけでも嬉しく思い、画材を眺めている彼をじっと見つめる。
「うん?どうしたんだ」
「ぁっ・・・いや別に」
 彼の視線に気づき振り返る護から少しだけ視線を逸らす。
「(うーん・・・北斗の絵を描いて送っても、逆に恥ずかしがって受け取らないかもな)」
 やっぱり彼を書くのはやめようと、手にした絵の具を元の場所に戻した。
「もう見なくていいのか?」
「うん、ちょっとやめておくよ」
 まだ待っていてもいいというふうに言う北斗に護は首を左右に振り、ドアノブに手をかけて画材ショップを出る。
 大通りへ戻ると幸せそうな男女のカップルが往来している。
 遊園地の近くで町の様子も見える美しいアングルのデートスポットの場所で2人の男がぽつんといる。
 その光景を北斗はじっと眺めているが、カップルが羨ましいのではない。
 人のぬくもりってどんなものだろうと考えているのだ。
「・・・北斗。誕生日おめでとう」
 そんな北斗の様子を見て、誕生日プレゼントをやっと思いついた護が彼を抱きしめる。
「・・・えっ、あ、あぁ、おぅよ。ありがと・・・」
 はたから見たら寂しい2人がくっついているだけに思われるかもしれないのに、抱きしめてくれた護の兄貴を気恥ずかしそうに見る。
 ぎゅっと抱きしめられた彼は、鋼鉄の冷たい機体に護の暖かな体温を感じる。
「(こんな大勢人目がつくところでっ。でも・・・、なんだか凄く嬉しいかも)」
 なんだか照れくさく恥ずかしいのだが、人前でも気にせず自分を抱きしめる兄貴って意外と度胸あることするんだな、と心の中で呟く。
「絵本で見るような光景だね」
 そう言うと護は遊園地の近くにあるショッピングモールの石造りの建物を見上げる。
 視線の先には屋根や窓などに模様を細かく削り、優美な細工が施してある。
「まるで夢の世界に入り込んだようだな」
 クリスマスマーケットがある方へ視線を移す。
 屋根に飾りつけられたサンタやツリーのイルミネーションが鮮やかな光を放ち、てっぺんにプロペラがついたタワーが暖かなオレンジに輝く。
「起きていても見られる世界だよ」
「そうだな・・・」
 灯りの暖かさだけでなく、抱きしめてくれるぬくもりも感じられる。
 皆で集まって賑やかに楽しむでもなく決して派手でもないが、素朴で質素な2人でいるクリスマスこそ、北斗にとっての1番のプレゼントだ。