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第2章 そこは夢のような・・・仮初の町

「この衣装が役に立つなんて思わなかったね」
 清泉 北都(いずみ・ほくと)はオメガのハロウィンパーティーで仮装した魔女のを着て、町の中へ潜入する。
 長い黒髪のかつらをつけてとんがり帽子を被り、黒いローブを纏った姿だ。
「仮初の町なんだよな?排気ガスのイヤな匂いとかはしないけど、全部・・・偽者なのか?」
 狼変身した白銀 昶(しろがね・あきら)が鼻をひくつかせる。
「町の中心の通りも、一応見ておこうか」
「そうだな」
 城への進入口がないか探しに向かう。



「やっぱりそう簡単に突破できそうにないわね。崩落する空で狙われたらルカでも痛いもん」
 光学モザイクで姿を見えにくくして双眼鏡を覗き込み、城の周辺を見たルカルカ・ルー(るかるか・るー)はふぅと息をつく。
 怪しまれないように偵察用の薄型な鎧を、ふんわりした魔女服の下に着込んでいる。
「特に違和感を感じるような場所や、変わったところはないな。外から見える進入口は中央扉くらいだ」
 魔女に扮した夏侯 淵(かこう・えん)が空飛ぶ魔法で城の様子を見る。
「どうだった?」
「入れそうなところはなかったな。無理やり乗り込もうなら、ディテクトエビルで察知されて魔法の餌食になるだろう」
「姿を見えづらくしても、どかどか撃たれたら当たっちゃうよね」
「こういう状況だと広範囲の魔法が恐ろしく感じるな」
「頑張ろうね、淵ちゃん」
「あぁ・・・って、“ちゃん”!?」
 聞きなれない言葉に思わずすっとんきょうな声を上げる。
「ふりふりスカート可愛いよ?」
 そんな彼の表情を見てルカルカはにまっと笑う。
「魔女に扮する必要があるから、恥ずかしいのを堪えておるというに」
 淵は自分の女装姿に今更ながら恥ずかしくなり赤面する。
「・・・!だから背後から胸を掴むな。男だから胸など無っ。やめぬか、この馬鹿力」
 背後から突然ルカルカに捕まり、じたばたと暴れる。
「ほらコントなんてやってないで早く進入口を探そう」
 2人の様子を見ていたエース・ラグランツ(えーす・らぐらんつ)は疲れたようにため息をついて強制終了させる。
「はぁ〜い、おもしろかったのに♪」
「姿が見えにくくして騒ぐと余計怪しまれるって」
「うっ、確かにそうね」
 騒ぎ声を聞いた魔女たちの刺さるような視線を感じ、ルカルカはしゅんとする。



「さすがに他の者とは協力出来そうにないか」
 グレン・アディール(ぐれん・あでぃーる)は十天君の1人を逃がしてしまったことで、生徒たちに警戒されてしまっている。
「そうですね。これだけ大変だと、今までどれだけ助けられていたか実感しますよね」
 彼と同じく魔女に扮装しているソニア・アディール(そにあ・あでぃーる)が、悲しそうにため息をつく。
「今更嘆いても始まらないからな。城の周囲を調べようぜ」
 李 ナタは元気づけようと、ぽんっと軽く彼女の背中を叩く。
「うーん、あの人数を相手ではちょっと厳しそうですね」
 城の周りを警備している魔女たちを見て、そこから侵入は無理そうだとソニアは首を左右に振る。
「十天君に関わっている深く関わっているやつといっても、ハツネたちはすでに城の中だし。他を当たろうにも、生徒たちが傍にいるからな・・・」
「黒琵琶を持っている方のお兄さんはどうでしょうか?」
「あぁ〜それこそ危険だな。あの何を考えてるかわんねー笑顔の裏で、俺らを取り押さえようとするかもしねぇ」
「やっぱり十天君を逃がしてしまったことを知っているでしょうからね」
「しかたねぇな、地下水路から行けるか試してみるか?」
 地下から侵入出来ないかと、ナタクたちは水路を探し始める。



「うーん、魔女の格好ってこんな感じかしら?」
 十天君が術で作った仮初の町に潜入しようと、遠野 歌菜(とおの・かな)は髪を黒く染めてその色のつけ毛で三つ編みに結い、ヘアースタイルを変えている。
 瞳に黒色のカラーコンタクトをつけ、顔には伊達メガネをかけている。
「へぇ〜思っていたより広いのね。あっ・・・、あんなところに。何話してるのかな」
 町の様子を見回すとガラスのような大きな灯りの傍に、数人の魔女たちが集まって談笑している。
「こんにちはーっ!何を話しているんですか♪」
「あら・・・見かけない人ね。魔法学校から来たの?」
「えぇ、そうです!」
「えーーっ、こんな子いたっけ」
 他の魔女が眉を顰めて歌菜を訝しげに見つめる。
「うぅ・・・こんな格好だし、私って目立たないから皆さんの記憶にないのかもしれません」
「確かにその姿じゃ印象にないかもね」
「そうなんですよー。仲良くなりたくって、ここに集まってることを知ってきたんです。魔女が全ての種族の上に立つ、なんて素敵なんでしょうっ。魔女最高ー☆」
 はしゃぐように飛び跳ねた歌菜は、自分たちの種族こそ最高と笑顔で言う。
「ただ、魔女になりたてで未熟者の私が・・・仲間に入れて貰えるでしょうか?」
 歌菜は不安そうに涙を潤ませて魔女たちを見つめる。
「―・・・は、なりたてって何?」
「えっ・・・?」
 またもや訝しげな眼差しを向けられ、思わず彼女は首を傾げて聞き返してしまう。
「種族はなろうと思ってなれるものじゃないわよ。それと同様、いくら魔女になるために学んだからといって、種族そのものにはなれないの」
「あぁっ、あの・・・えーっと。(うあぁんどうしようっ、疑われちゃったよ)」
 じりじりと魔女たちに詰め寄られ、どうしたら友好的に見てもらえるか思考を巡らせる。
「この娘、魔女じゃないわね」
「あわわっごめんなさい!実は違う種族なんですっ。で、でも・・・ずっと皆さんに憧れてて、あんなふうになれたらいいなぁって魔女っ子の姿をしているんです!」
「やっぱり・・・!他のやつが何しに来た!?」
 怒気を含んだ口調で言い放ち、カツンッとブーツを踏み鳴らして彼女を警戒する。
「魔科学の実験をやってるって聞いて、協力させてもらいたくって来たんですっ。私の種族なんて皆さんに比べたらそれはもう・・・下の下なんですよ」
「へぇ〜。じゃあ、あんたの種族が私たちに逆らったらどうするつもりなの」
「そんなことしたらこの私がギタギタにしてあげますよ!はっきりいって皆さん以外のやつは、どうでもいい存在ですし♪」
 クスクスッと笑い、歌菜は地球人であることを隠しつつ、同属がどう扱われようと関係ないという態度をとってみせる。
「私、ちゃんとお役に立てるでしょうか?仲間になれるでしょうか?」
「どうする?」
「何か怪しい感じがするんだけど。同じ種族じゃないしー、実験道具にでもしちゃおうか」
「こんな私じゃ、信用してもらえないんですか・・・っ」
 なんだか信じられないというふうに魔女たちから怪しむように睨まれ、ぶるぶると震えながら歌菜はぽろぽろと涙を流す。
「ありゃりゃ、この娘泣いちゃったよ」
「とりあえず監視しておけばいいじゃない?」
「そうね・・・。娘、そんなに一緒にいたければ町の中にいてもいいわよ。ただし、ちゃんということを聞いて裏切らなければね」
「―・・・あ、ありがとうございます!それで・・・私は何をすればいいんですか!?」
「言っとくけど、信用したわけじゃないから城へは連れて行かないよ」
「やっぱり・・・そうですよね」
 城へ入れてやらないとあっさり言われ、しょんぼりと沈んだ顔をする。
「じゃっ、じゃあ・・・皆さんがお話しやすいように、おすすめのカフェへ案内します!この町に来たとき、よさそうなところを見つけたんです」
「始めてここへ来たくせに、よくそんな場所を見つけられたわね」
「気に入っていただけるか分かりませんが、そこで一緒にお茶したいです」
「ふぅ〜ん、行ってみようかしら。ダサかったり不味かったら承知しないからね」
「は、はい!(はぁ〜なんだか怖いな。とりあえず皆がいるところへ連れて行こうっと)」
 まずは仲良くなろうと魔女たちを、椎名 真(しいな・まこと)たちがいるカフェへ連れて行く。



 歌菜が魔女たちをカフェへ連れて行く数十分前。
 フードショップの通りで情報を得ようと、真は魔女たちが集まりそうなカフェに入る。
「これって全部、術で作られた仮初の空間なんだよね?」
 ドアノブに手をかけると、本物の変わらない金属の冷たさに、例え仮初でも術だけで触れた感覚まで表現出来るのかと目を丸くする。
「―・・・あの人・・・イルミンスールでは見ない顔ね、本当に魔女かしら?」
 入るなり魔女たちに警戒の眼差しを向けられる。
「魔法を使うのがちょっと苦手で、まだ魔女の見習いなんだよ。今日は魔法の修行じゃないんだけど、自分の未熟な接客能力を磨き上げるのに、舌の肥えた高貴な魔女さんたちに鍛え上げてもらいたくて・・・。ここで働かせてもらいたいんだ」
「ふぅ〜ん・・・本当にそれだけかしら」
「ただ学ばせたいだけだよ!それ以外に何も望まないからね。接客修行のためのボランティアしてだし、同じ種族じゃないと・・・無理かな?」
 彼女たちに睨まれながらも、恐れて逃げ出しては何も聞き出せないと思い、必死に頼み込む。
「見習い・・・?それは勉強不足だからかしら。それともなりたくって学んでいるってこと?」
「もちろんまだまだ学び足りないってことだよ」
「まぁ考えておくわ。それまでこの町があるかどうか分からないけどね。フフフッ♪」
 信用出来ないというふうな態度を取り、真を冷たくあしらう。
「(なくなってからじゃ遅いよ・・・。うぅ・・・やっぱり無理なのかな。それとも入れてくれるかもしれないけど、ちょっと意地悪されてるとか?)」
 思いがけない新入りへの冷たい態度に諦めかけたその時、1人の幼い魔女がカフェの中へ入ってきた。
「あのー・・・カフェでバイトしてみたくってきたんですけど、・・・いいです?」
 星のついた大きな帽子のつばをくいっと掴んだ少女は、真の傍にいる魔女に働かせてもらえないかと訪ねる。
「―・・・あなた、私たちと同じかしら?」
「はいです!」
 同じ種族なのかというふうに聞かれ、ニコッと微笑んで答える。
「そうねぇ、あなたはいいけど。そっちのやつは残念だけどお断りを・・・」
「待ってくださいっ。しゅぞくは違うですけど、ボクの知っている人なんです。いっしょにはたらかせてあげてほしいです」
「へぇ〜そうなの?」
「とっても仲良しさんなんですよ。ボクからもおねがいするです!」
「仕方ないわね、あなたの知り合いならいいわよ」
「ありがとうですっ」
「―・・・あ、ありがとう!」
 少女のおかげで働けることになり、彼女と魔女に礼を言う。
「頼んでくれてよかったよ。服従するふりしても警戒されちゃってね」
「ボクでお役に立てたならうれしいですっ」
 魔女の格好をした少女のヴァーナー・ヴォネガット(う゛ぁーなー・う゛ぉねがっと)が、真を見上げて笑いかける。
「それじゃボクはおくの方でスイーツを作っているです。何かあったらよんでくださいですっ」
「うん、分かったよ」
 厨房へ行く少女にふりふりと手を振る。



「ここのカフェですよ」
 魔女たちと仲良くなろうと、歌菜がお勧めの場所へ連れてきた。
「いらっしゃいませ、お嬢様!」
 店にやってきた彼女たちを真が席へ案内する。
「注文は決まっているかな?」
「ちょっと、客に向かってタメ口を利く気なの?敬語を使いなさいよ。はい、やり直し!」
「あぁ、すみませんっ。ご注文はお決まりでしょうか!」
 先輩に叱られた真が言い直す。
「私、プリンアラモードにするわ」
「じゃあ〜あたしは、チョコレートパフェ!」
「う〜ん。どれにしようかな・・・あたいもそれにするっ」
「えーっと・・・フルーツのロールケーキにします」
 話しやすいように一応、頼んでおいたほうがいいかと歌菜も注文する。
「プリンアラモードが・・・お1つで、チョコレートパフェを・・・お2つ。フルーツのロールケーキと・・・お1つ。以上でよろしいでしょうか?」
「はい、とりあえずそれだけでお願いします」
「かしこまりました。少々お待ちくださいませ」
 注文をメモした真はヴァーナーに作ってもらおうと厨房へ行く。
「あ、知ってる子を発見♪ちょうどいいから、隣の席に座らせてもらおうかな」
 レキ・フォートアウフ(れき・ふぉーとあうふ)はいつものポニーテールスタイルの髪を下ろて三つ編みに結い、頭にかぽっと帽子を被る。
 彼女が着ている魔女の衣装は、チムチム・リー(ちむちむ・りー)の手作りだ。
「(頑張るアルよ、レキ)」
 光学迷彩で姿を隠しているチムチムも、念のため魔女に見えるような衣装を着ている。
「またお客様が来た・・・。いらっしゃいませ、お嬢様!」
「メガネの女の子がいる席の隣にしてもらいたいんだけどいいかな?」
「お聞きしてきますので、椅子におかけになって少々お待ちください」
 そう言うと真は合席の許可をもらおうと歌菜のところへ行く。
「あのー・・・合席を希望しているお嬢様がいらっしゃるのですが、よろしいでしょうか?」
「はい、私は構いませんけど・・・皆さんは?」
「えぇえー。他にも席があるじゃない」
「実は彼女、私の知り合いなんです!たぶん、後から来たんだと思います」
「へぇ〜そうなの。じゃあいいわよ」
「ありがとうございます!」
「それではお呼びいたします。―・・・レキさん、許可もらえたよ」
 丁寧に言うと真はレキのところへ戻り、周りに聞かれないよう小声で言うと席まで案内する。
「ちょっと見かけたからさ。一緒にお茶したいなって思ってね、ボクも混ぜてもらうよ」
 ニコッと笑いかけるとレキは歌菜の傍へ行き、ふかふかのソファーにとすんと座る。
「ボクはザッハトルテとレモンティを頼もうかな」
「ご注文を繰り返させていただきます、ザッハトルテとレモンティでよろしいでしょうか」
「うん、それくらいでいいや」
「かしこまりました、少々お待ちくださいませ」
 注文内容をメモをすると真は厨房の方へ向かった。
 その頃、ヴァーナーは頼まれたスィーツを急いで作っている。
「ヴァーナーさん、これもお願いね」
「は、はいですっ」
 真に注文用紙を見せられ、大忙しの状況にパニック寸前だ。
「もう少しで先にたのまれたスィーツが出来るんで、ちょっと待っててください。ふぅ〜、やっと出来たです!」
 パフェグラスの中にチョコレートアイスを乗せ、トッピングのウェハースやメロンを添えて完成させる。
「ありがとう。じゃあ持って行くね」
 トレイに歌菜たちが注文したスィーツを乗せた真は、彼女たちがいるテーブルの方へ行く。
「んーっと。たしかバターをクリーム状になるまでねって、溶かしたチョコと混ぜるんですよね」
 ヴァーナーは作り方を思い出しながら、レキの注文したザッハトルテを作り始める。
 その頃、レキたちは魔女から城の様子を聞きだそうと会話をしている。
「城の西塔の方で魔力を増幅させる武器が作られているんだよね?ボクも欲しいな、力があれば何でも出来るじゃない?そんなボクでも何か手伝えることがあったらいいなって思って来てみたんだよ」
「そうよね!力で屈服させて、他の種族なんて適当にこき使ってやればいいのよ♪あぁそうだ。ねぇ、歌菜の知り合いなら、魔法使えるんでしょ。何系が得意なの?それによって役割を割り振ってもらうように言ってあげるからさ」
「あーごめん。ボクは駆け出しの魔女だからさ、魔力が安定しないって言うか、上手く使えないんだよね、だから何が得意っていうのはないんだよ」
「駆け出しって・・・どういうことなの?」
「(あ、何か不味いこと言っちゃったかな。ん・・・あぁ、それじゃやばいだね?確かに学んだだけで、その種族にはなれないからね)」
 隣にいる歌菜に肘で軽く突っつかれ、こっそりソファーに置かれた紙を読む。
「うーんとね。つまり、生まれたて・・・みたいなものかな?よっぽど天才じゃなきゃ、ゼロ歳からなんて上手く使えないと思うんだよね。言葉を覚えるのにいっぱいいっぱいで、魔法まではちょっとね」
 信用させるために年を偽り、言語を覚えるだけで大変だからというふうに言う。
「なぁんだ、そうだったの」
「でも・・・早く上手く魔法を使えるようになりたいじゃない?訓練で失敗しても死なない身体とかあれば、使えるようになるかなって思ったりもするんだ。死ななければ少しくらい痛くても苦しくても我慢するし、生体実験されてもそんな身体なれるなら、ぜひ協力させてもらいたいね」
「そんなに不死が欲しいなら、東の塔に連れてってあげようか」
「え、いいの?嬉しいなぁ。ボクの隣にいる子も連れて行っていい?」
 私も城の中に入れてもらえるように頼んで欲しいと歌菜に視線を送られ、軽く頷くような仕草をしたレキは魔女たちに頼んでみる。
「他の種族の子はちょっと〜」
「ザッハトルテとレモンティ、お待ちどうさまですっ」
 話の中に入ろうと注文されたケーキと紅茶を、ヴァーナーがテーブルの上へことっと置く。
「お話はずんでますね。何を話しているんです?」
「いろいろ話したけど今は不死の実験についてかしら」
「ボク、お城の中に連れていってもらえることになったんだよ」
「あの中に行けるなんて、すごいですっ!」
 レキが城へ入れることを知った少女は、瞳をキラキラと輝かせて言う。
「(美味しそうアル・・・。チムチムも食べたいアル)」
 ふわんと漂う甘い香りが、近くにいるチムチムの鼻をくすぐる。 
「(食べ物に気を取られている場合じゃないアル。メモをとる用紙しておくアルよ)」
 ペンを手にメモを取る準備をする。
「うぅ・・・私も行きたかったです。せめて中の様子を少しだけでも教えてくれませんか?」
 歌菜はしくしくと涙目になりながら、魔女たちを見つめる。
「中にいる研究者たちの魔力を貯めて、それを使うものが東西それぞれの塔の実験室にあるわ」
「俺にも詳しく聞かせていただけないでしょうか、お嬢様」
 他のテーブルで接客をしていた真が彼女たちの話し声を聞き、傍へ寄ってきた。
「あまり詳しい構造はここじゃ教えられないけど。そうね・・・東の開発室の話の続きをしようかしら。そこで実験が成功すれば、私たちも不老不死の体にしてくれるの」
「もしそうなったら、お嬢様たちはまず何をするんですか?」
「この地の変革に反対するやつらを服従させに行こうかなってね。のーんびりと平和ボケしているやつらには、丁度いい刺激になったりして?クスッ♪」
「こわいです・・・。ほかの人たちをいじめるなんて、やめてほしいです」
「いいじゃない、あなたが傷つくわけじゃないんだから」
 めそめそと泣くヴァーナーに冷酷な口調で言い放つ。
「それでも・・・みんな、なかよくがいいんです・・・。いくらくらしが良くしたいからって、きょうふでみんなをおさえつけるなんていけないですっ」
「悪いけど、ここにいる魔女はあなたみたいにいい子ばかりじゃないの。1人くらい放っておいても害はなさそうだけど、野放しにしてると何をしでかすか分からないから牢屋に入れてやるわ」
「えぇえ〜。そんなぁっ、きゃう!」
 魔女たちにロープと鎖で簀巻きにされてしまったヴァーナーは、目隠しをされて牢屋へ連れて行かれてしまう。
「(―・・・あぁー、不味いなぁどうしよう。そうだっ)」
 さらさらっと文章を紙に書き、歌菜がレキに渡す。
「ねぇー、牢屋の見張りとかって退屈だよね。この子にやらせたら?」
「どうしても皆さんのお役に立ちたくって。私・・・それくらいしか出来なさそうですし」
「ふぅん・・・知り合いじゃないみたいだからいいけどさぁ。だけど・・・鍵は渡さないわよ。それと妙な真似をしたら、見張りをしてる魔女があなたを牢屋に入れちゃうからね?」
「はっはい!頑張って見張りをしますっ」
「あぁ〜後、そこ以外うろつかせないからね」
「うぅ・・・はいっ」
 レキのおかげで城へ入れることになったが、見張りの場所から絶対に動くなと言われ、歌菜はしょんぼりとしてしまう。
「(あわわ、まずいアル!予想に反してヴァーナーさんが捕まってしまったアルよ。ごめんアル〜ッ)」
 チムチムは連れて行かれる少女を見るものの、今助けに行くと自分の位置がばれてしまうと思い心の中で謝る。
「誰かさっそく捕まってしまったようですね。ともあれ、情報の収穫はありましたね。生物の魔科学は東の塔ですか」
 カフェで彼女たちの話を聞いていた緋桜 遙遠(ひざくら・ようえん)は、塔へ行こうと店内から出る。
「ちょっとハルカちゃん、喋り方〜っ!もう町の中なのですから、気をつけなきゃいけないのですよ〜」
 ちぎのたくらみで11歳の姿になっている遙遠に、子供用サイズのゴスロリの魔鎧となって彼に装着しているリフィリス・エタニティア(りふぃりす・えたにてぃあ)が、小さな声音で注意する。
「話している相手がわたくしだけだからって、近くに魔女たちがいるのですよ」
「あっ!いっけなーい、ごめんなさいです」
 慌てて口調を直し、てへっと笑う。
「この乗り物に乗っていけば、迷わず行けるんですね。目の前に表示されたタッチパネルで選べばいいんです?」
 丸い椅子のような乗り物に乗ると、それはふよっと宙に浮かんだ。
 行き先を城の近くの通りへ設定し、淡い光に包まれ時速50kmほどのスピードで進む。
「わぁ〜凄いです。まったくGを感じない上に、この光のおかげで地面に落ちたりしないのですね」
 ぺたぺたと不思議そうに光の壁に降れ、町の景色を見下ろす。
 城がはっきりと見える通りまでくると、彼を乗せた椅子は道路の上へふよっと降りる。
「ここが魔科学の研究をしているお城なのですね」
 乗り物からゆっくりと降り、西洋風の城を見上げる。
「それでは中央の扉へ行きましょう〜」
 魔女たちが守るその扉の傍へぱたぱたと走る。