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第17章 カノン、特攻する

 ブー、ブー!!
 海中に特攻し、大ボスの登場を待ち受ける生徒たちのコクピットで、探知機の警報は鳴り続けた。
 UNKNOWNの表示も出っぱなしだ。
 海底近くから浮上してくる、その大ボスとはどんな相手なのだろうか?
 どの生徒も、固唾をのんで成り行きを見守った。
 一人、カノンだけがゲラゲラ笑い続けている。
 そして。
「オラー! ちっぽけなイコンどもがよってたかって、プランクトンみてえにたむろしてっと波に流されっぞぉ!!」
 ついに姿を現した大ボスは、誰もの予想も裏切る外見だった。
 全身、筋肉質のボディに、毛むくじゃらの頭。
 その頭からは、特徴的な2本の角が生えている。
 その姿は、日本の神話や伝説に登場する「黒鬼」の姿を彷彿とさせた。
 ひと目それをみた生徒はみな、「全裸に近い姿だがパンツは履いてるんだろうか」と心配になったという。
 よくみると、巨大な黒鬼の頭部に御剣紫音(みつるぎ・しおん)のイコンがしがみついているのがみえた。
 御剣は、まだサイコダイブを行っているようである。
「特にそこの女! やせた身体して、1人でロボに乗って調子こいてんじゃねえぞ! どうせ彼氏はいねえんだろう!!」
 巨大な黒鬼は、カノンのイコンを睨みつけて怒鳴り声をあげる。
「はっ! 彼女いない暦1万年でもおかしくないマッチョだけが取り柄の野蛮な鬼野郎にいわれたくないですね! いっとくけど、私には、涼司くんというれっきとした彼氏がいますから!!」
 カノンは、負けじと怒鳴り返す。
 生徒たちの一部には、「涼司って本当にカノンの彼氏なの?」という疑問も湧いたが、誰も口には出さない。
「おお、いい度胸してんなコラァ! 年増女め、誰が1万年だ? オレは生まれてまだ1年も経ってねえんだよ! 少し頭がおかしいせいか、身体がやせてるだけじゃなく、胸も縮まってるようだぜぇ!!」
 黒鬼は、怒髪天をつく勢いでわめき散らす。
 胸のことをいわれて、カノンの顔色が変わった。
「何ですって!? あなたもしょせん、汚い男どもの1人なんですね!! 私に乱暴してイタズラすることしか考えてないんですね? 許せない、許せねえんだよ!! コロス、コロスコロス!!」
 過去のトラウマがよみがえったのか、カノンの目が裏返り、口からは泡が吹き出ている。
「カ、カノンさん、落ち着いて!」
 火村が慌てて、カノンの気を鎮めようとする。
「ぎ、ぎー!!」
 人ならざる声をあげてカノンが突進しようとしたとき、遥か上方の海面近くから、数十発の弾丸、そして爆雷が次々に黒鬼に撃ち込まれてくる。
 どごーん、どごーん!
「はーい、鬼さん、こちら! 手の鳴る方へ、ですわ!!」
 オリガ・カラーシュニコフ(おりが・からーしゅにこふ)が海中に突っ込んだ拡声器から大音響で自分の声を流す。
「カノン、陽動は予定どおりやってるわよ。闘うのは、敵が海上にきてからでいいんじゃないかしら?」
 天貴彩羽(あまむち・あやは)の通信がカノンに入る。
 爆雷は、天貴の機体から投擲されているようだ。
「が、がああ! てめえら、チクチク刺してんじゃねえよ! あまりナメてっとブッ殺すかんな! よし、全員、表へ出ろ!! まとめて食いちぎってやっかんなコラァ!!」
 ゴーストイコンの親玉である巨大な黒鬼は、オリガたちの陽動攻撃に顔を真っ赤にして怒って、カノンたちを尻目に、海上へと向かっていく。
「コロス、コロスコロス! 逃げんじゃねえよ! 首斬ってやっかんなー!!」
 カノンはしわがれた声で絶叫しながら、黒鬼を追って海上へ向かう。
 他の生徒も、カノンを追って海上へ向かった。

「それじゃ、みんなが大ボスと闘っている間に!」
 誰もが黒鬼を追って海上へ向かったかと思えたが、十七夜リオ(かなき・りお)は海上に向かわず、機体をさらなる深みへ、海底へと向けていた。
「何でマイナスエネルギーがここまで膨らんだのか、誰かが原因をよく調査しないとね。それにしても、設楽くん、あの下品極まりない黒鬼を倒すために本当に生命を賭ける気かな? 敵の姿がみえた後だと、マジギレするのがアホらしくなるよね」
 十七夜は、海上での闘いを思って、首を傾げた。
「でも、ああなってよかったよね。みんな、イコンの潜航時間の限界が近づいてたし。カノンは機体が機能停止してもサイコキネシスでもたせる気だったようだけど、それで大ボスとのバトルまでこなすのは無理があるもんね」
 十七夜とともにイコン、イーグリット【シュヴァルベ】を操縦するフェルクレールト・フリューゲル(ふぇるくれーると・ふりゅーげる)がいった。
「こっちも潜航時間はあと少ししか残ってない。早く原因をみつけないとね。おや、あれは?」
 十七夜は、海底近くまできて、イコンを静止させた。
 目の前に広がる海底に、不気味に光り輝く宝石の姿がみえていた。
「リオ。探知機をみて! 凝縮されたマイナスエネルギーが、あの宝石から放射されているようだよ! どうやら、あれが人間の恨みや憎しみといった負の感情を増幅している元凶らしいね」
 フェルクレールトがいった。
「とりあえず、エネルギーは残り少ないけど、学院に直接通信して、報告してみるよ」
 十七夜は、簡単なレポートとともに、イコンが撮影した海底の光景を学院に送信した。
 学院からの返事は、すぐにきた。
「コリマ校長直々の指令。発見された物質はマイナスエネルギーを増幅する宝石ウォーマインドと思われ、学術研究の貴重な資料であるため慎重に回収し学院に持ち帰るべし、だって。こんな危険なもの、持ち帰っていいのか? 破壊した方がいいと思うけど」
 十七夜は、校長の指令とはいえ、判断に迷いが生じるのを覚えた。
 そのとき。
(ただちに破壊すべきだ。僕もそのつもりでいる)
 光も射さない海底に聞こえるはずのない声が聞こえて、十七夜は心底驚いた。
「だ、誰!?」
 精神に直接呼びかけるようだったその声の主を捜して、十七夜はさらに目を丸くする。
「こ、これは!? 僕は夢をみているのか?」
 十七夜は、この海底で車椅子に乗っている男性を目撃したなどという事実は全く信じられず、幻覚か妄想の類と思われたため、学院に報告する気さえ起きなかった。
「嘘。あの人、どうやって動いてるの?」
 だが、フェルクレールトの言葉は、彼女もまた十七夜と同じ光景を目撃していることを物語っていた。
(驚くのも無理はないが、海底は、僕の得意領域だ。なぜ得意なのかはわからないが、そんな気がする。その物質は、今後も海京に災いをもたらしかねない。ただちに破壊するんだ)
 またしても声が聞こえてきたときには、十七夜も頭を抱えて、発狂するのではないかと思った。
 だが、その声のいっていることは、正しいように思えた。
「よし。攻撃しよう。破壊できるかどうかわからないけど!」
 その瞬間、十七夜は校長の言葉を忘れていた。
 【シュヴァルベ】がアサルトライフルを構え、弾丸を発射。
 ドキューン!!
 かなり近い距離から発射した弾丸は、不気味な宝石の表面をかすったように思えた。
 すると。
 ピカアアアアアア
 突如、宝石は不気味な輝きを強め、ひとりでに浮き上がって、海上へと向かっていく。
「あっ、失敗しちゃった!? どこにいくんだろう? ま、まさか!!」
 十七夜は不吉な予感が当たらないようにと必死で願いながら、宝石を追って、【シュヴァルベ】を全速で浮上させていた。

 一方、海上では、ついに浮上してきた大ボス・黒鬼とカノンたちとが、最後の大決戦に突入していた。
「コロス! 絶対に! 死ねー!!」
 目を血走らせて、機体を黒鬼に突進させ、大鉈を振るうカノン。
 だが、黒鬼の頭部には御剣のイコンがしがみついていて、思うように攻撃できないという事実があった。
 御剣のサイコダイブはいつ終わるのであろうか?
「ああっ、カノン、下がって、美羽がやるよ!」
 小鳥遊美羽(たかなし・みわ)は、自機をカノンの機体より前へ出させて、カノンよりも先に黒鬼を撃墜しようと猛攻をかける。
「【グラディウス】特攻します。カノンさん、私たちがボスを弱らせたところをカノンさんがトドメを刺すようにしてはどうでしょうか?」
 小鳥遊とともにイコン、イーグリット・アサルト【グラディウス】を操縦するベアトリーチェ・アイブリンガー(べあとりーちぇ・あいぶりんがー)がいった。
「あっ、ダメだよ、トドメを刺すのは美羽なんだから!」
 小鳥遊は、思わず本音をいってしまう。
「美羽さん!」
 ベアトリーチェはパートナーをたしなめた。
「なるほど、そういうことですか。じゃ、手柄はあなたのものにしてもいいですけど、親玉を倒すのはあくまで私です!! もう自分の手で倒さないと気がすまないんです!!」
 カノンは小鳥遊の機体を追い抜いて、自分の攻撃を黒鬼に決めながらいう。
「じゃ、競争だよ、カノン! 先に黒鬼を倒した方が手柄も自分のものにすればいい! シンプルにいこうよ。もちろん、やるからには本気でいくからね!」
 小鳥遊が明るい口調でいった。
「そうですね、それが一番いいとは思いますよ! 競争するのは楽しいですからね! アハハハハハハ!」
 カノンは、笑顔を取り戻していた。
 カノンは、自分とはタイプの違う、至って明るい雰囲気の小鳥遊と、不思議と気の通じ合うものを感じていた。
 小鳥遊の「とにかく目立ちたい」という気持ちに他意はなく、ひたむきな純粋さそのものを示していたことが、ひたすら「涼司くんのため」というカノン自身の純粋さとどこかで共鳴するからかもしれない。
 と、そのとき。
 ザバアッ
 海面が盛り上がったかと思うと、波の合間から顔を出した光り輝く宝石がひとりでに宙を飛んで、巨大な黒鬼の体内に吸い込まれていった。
 直後。
「オ、オワアアアアアアア! たまんねえぞコラァ! 大虐殺やってやんからな、クソ人間どもぉ!!」
 黒鬼の身体がひときわ大きく膨れあがり、その表情がいっそうの険しさを増した。
 振りあげた黒鬼の右腕が変形して、巨大な鎌になってしまう。
 さらに、黒鬼の左腕が巨大な大砲へと姿を変えてしまった。
 マイナスエネルギーのさらなる増大によって凶暴化した黒鬼は、みるからにいびつな外見となってしまった。
 全身からはすさまじいプレッシャーが放たれ、超能力を使える生徒はみな背筋が凍るほどの緊張を覚えた。
「アハハハハハ! 何だかわからないけど、盛り上がってきましたね!」
 カノンは事態の展開にも動じた様子をみせず、ハイパー化した黒鬼に機体を突進させる。
「あっ、負けないぞ、美羽がやるんだ!」
 小鳥遊の【グラディウス】が、強引な加速でカノンより前に出て、黒鬼の頭部に飛び上がった。
 大鉈を構えて、黒鬼の頭部に振り下ろす小鳥遊。
「これで終わりよ、カノンはやらせないんだから! ポックリ倒れて私のスカートの中身でも拝んでなさーい!!!」
 小鳥遊は、裂帛の気合でプレッシャーをはね返し、絶叫する。
 だが。
「美羽さん、御剣さんがいます!」
 ベアトリーチェの鋭い指摘が、一瞬小鳥遊の理性をよみがえらせ、攻撃に若干の調整を加えさせた。
 ぐさっ
 【グラディウス】の鉈は、いまだに黒鬼の頭部に張りついている御剣の機体を避けて、斜めに敵の脳天に突き立った。
 だが、傷は思ったより浅く、黒鬼は倒れない。
「オラァ! 眠い攻撃してんじゃねえよ! もっとビビらせてくれよ! 殺しちまうぞコラァ!!」
 黒鬼は脳天から血をたらしながら、右腕の鎌を思いきり振りあげて、鉈を手にして静止していた【グラディウス】を斬り払った。
「う、うわあああああ!」
 小鳥遊は悲鳴をあげる。
 煙を上げながら、【グラディウス】は海面へ落下していった。

「美羽さん、勇敢ですね、気に入りましたよ! 私もすぐに後を追います!!」
 カノンは、小鳥遊を撃墜した黒鬼にいよいよ怒りを募らせて、特攻する。
 黒鬼は、すさまじいプレッシャーなど存在しないかのように急迫するカノンの機体にフンと鼻を鳴らし、左腕の大砲をカノン機に向けた。
「覚悟せい! 地獄と極楽を万回往復できるほどの破壊をもたらす呪いのスーパー弾丸必殺乱射じゃあ!!」
 大砲から放たれた無数の弾丸が、カノンを襲う。
「弾幕、突破します! くう!」
 カノンは、歯をくいしばる。
 脳裏に、山葉涼司の姿が一瞬浮かんで、消えた。

「カノンさーん! 守ります!! ああ!!」
 火村加夜(ひむら・かや)の【アクア・スノー】が弾丸のひとつをくらいそうになったカノンの機体をかばって、代わりに攻撃を受けた。
 ちゅどーん!
 爆発とともに、火村の機体が海面へ。

「おーい、カノン、先走るんじゃないよぉ!! うわー!!!」
 七刀切(しちとう・きり)のイーグリットも、カノンを守ろうと空中をダッシュする途中で弾丸をくらった。
 ちゅどーん!
 七刀の機体、炎上しながら海面へ。

「みなさん! くっ、まだまだ! 接近戦に持ち込まなければ!!」
 カノンは、護衛役が撃墜されたと知っても、突進を続けた。
 またしても、弾丸のひとつがカノンをとらえるかと思えた。
「カノン、ダメだ! 蒼空学園の山葉校長が待っている!!」
 榊孝明(さかき・たかあき)益田椿(ますだ・つばき)の搭乗するイーグリットが、カノンをかばって弾丸を受けた。
 ちゅどーん!
「カノン、必ず生きて戻ってきなよ。あたしたちもアンタが戻ってくるのを待っているから!!」
 海面へ落下する機体から、益田が通信をカノンに送る。
 他の生徒も、黒鬼の放った弾幕からカノンをかばって、次々に撃墜されていった。

「被害が拡大してますね! でも、何とか近づかなければ、勝機は!」
 カノンは、もはや笑う余裕もなく、眼前に迫る黒鬼を倒すことだけに特化した戦闘マシーンへと自分を変貌させようとした。
 だが、マイナスエネルギーを増幅させる宝石ウォーマインドと一体化した黒鬼の力は、強大すぎた。
「はっ! オレはバカじゃねえ証拠をみせてやっぞ!! てめぇら自慢のサイコキネシスがどれだけ戦場で脅威となるのか、知らねえのか、ガキが! オラァ!」
 黒鬼は、発射されて着弾しない全ての弾丸をサイコキネシスで操り、いっせいにカノンの機体に叩きつけようとした。
「くっ、ふはあ!」
 カノンが声にならない叫びをあげる。
 同じくサイコキネシスで対抗して全ての弾丸を押し返そうとするが、間に合わない。

 誰もが、カノンの撃墜を確信した、そのとき。
 1機のイコンが、カノンをかばって、全ての弾丸の前に身をさらした。
「カノン、後で涼司くんの話、しようね。友達だから!」
 その機体は、ルカルカ・ルー(るかるか・るー)の【レイ】だった。
 ルカルカは、自身のサイコキネシスを弾丸を押し返すのではなく、弾丸を自分に引きつけるように作用させた。
 すると、いとも簡単に全弾丸が【レイ】に集まってきた!
「監視終了。全レポートをコリマ校長へ自動送信」
 ダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)がいった。
「じゃあ、がんばって!!!」
 ニヤッと笑ったルカルカの機体に、無数の弾丸が襲いかかる。
 ちゅどどどどどーん!
 海上に、すさまじい炎の華が咲いた。
「ルカさん!? あ、ああああああ!」
 カノンは、隊員の撃墜にはじめて動揺を覚えていた。

「あああああああ! 負けない、絶対に負けません! みんなのためにも、私はあああああ!」
 カノンは、はじめて『みんなのため』という言葉を使っていた。
 既に、黒鬼の至近距離に到達している。
「ハッハッハ! カノン、どうする、カノン!」
 ふと気づくと天空寺鬼羅(てんくうじ・きら)の【アモン】がカノンの機体に並んでいて、豪快な笑い声が通信に入ってきていた。
「天空寺さん、シミュレーターと、同じような展開になってしまいましたね」
 まだ一緒に闘える仲間がいると知ったとき、カノンは、不思議な余裕が自分に生じるのを感じていた。
「ああ。だが、やっぱり、シミュレーションより現実の方が面白いな!!」
 鬼羅がいった。
「面白い。そうですね。確かに、最高に面白くて顔がひきつりそうな状況になってきました」
 カノンはいった。
「カノン、オレの生命を半分くれてやる! だから、カノンはここで負けたとしても、半分の生命を落とすだけですむわけだ。運命なんてそんなもんさ。どうだい、安心したか? 気合ひとつで、カノンもオレも生き残る、そんなハッピーエンドが実現できちまうんだよ」
 鬼羅の言葉は、カノンの心に響いた様子だった。
「天空寺さん、わかりました。一緒にやりましょう」
 カノンはうなずく。
「ちょっと鬼羅ちゃん、カノンちゃんをわけわかんない理屈で丸め込まないで下さいね。信じちゃったらどうするんですか? えっ、もう遅い? って、聞いてるんですか? ああもう、すっかり熱くなってますね。じゃ、サキも一緒に地獄をみてあげるとしましょう! カノンちゃん、3人ですよ、3人!! 3人でバカやりましょうよ!!」
 天空寺サキ(てんくうじ・さき)が呆れたような口調でいった。
「さあ、カノン印の大鉈を構えてー!!」
 鬼羅の合図で、カノンの機体と、【アモン】の双方が大鉈を構える。
「ところで、天空寺さんの策は、何でしょうか?」
 カノンは、尋ねた。
「策か? ハッハッハ! いっただろ、策は気合だって! もう気づいてるだろ、マイナスエネルギーには、その逆のプラスのエネルギーをぶつければいいのさ! だから、この状況で簡単にしょげるような奴はダメなのさ!! オレとてめえのように、狂った奴同士が連携して攻めないとダメなんだよ! さあ、カノン! プラスだよ、プラス! ドライバーじゃねえからな!」
 鬼羅の言葉の終わりの方を聞いて、サキはまたため息をついた。
「プラスのエネルギー? そうか、そうですね、それがポイントだったんですね。アハハハハ、御免なさい、私、マイナスエネルギーに馴染むタイプだったので気づきませんでした! じゃ、私も、プラスでいきます!」
 鬼羅の鮮やかで鋭い指摘に、カノンは、心の底から愉快な気持ちになった。
 カノンにしては珍しく、健康的な笑みがもれていた。
 カノンは、山葉涼司の姿を想い浮かべた。
 それだけではない。
 今回の作戦に参加した仲間全員の姿を脳裏に浮かべて、決意の拳をかためる。
 キーワードは、みんなのために!
 それが、プラスだ!
 たとえ一時的ではあれ、カノンは、プラスの精神エネルギーが自分を満たすのを感じた。
「いままでの私の力とは違う!? いきますよ!」
 カノンと鬼羅は、同時に自機を特攻させる。
「ああ!? チンケな理屈をグタグタ並べてんじゃねえよ!! プラスでいくだと? 面白ぇ、オレのマイナスエネルギーとどっちが勝つか勝負だコラァ!!!」
 黒鬼は絶叫して、2機に右腕の鎌を振り上げる。
「チンケはてめえだよ、ドアホが!! マイナスエネルギーの力をちょっともらえたからって、調子に乗るんじゃねえよ!! さっきから聞いてりゃ、てめえの魂はしょせんただのチンピラじゃねえか!!! 滅びろよバカ野郎! その顔みてっと虫酸がはしるんだよ!!!!」
 鬼羅の啖呵が、黒鬼のマイナスエネルギーを打ち消し、はね返した。
「みんな! 今回だけいいます、本当にありがとう!! 涼司くん、みていて下さい! 設楽カノン、全身全霊の大特攻! いっけぇぇぇぇぇ!!!」
 がきっ、がきっ!
 カノンと鬼羅、2人の機体の振り上げた大鉈が、それぞれ逆方向から、黒鬼の首に食い込んだ。
「開けゴマァ!!! まわれコマァ!!!!」
 2機がサイコキネシスの力も借りて思いきり鉈を引くと、黒鬼の巨大な頭部がコマのようにくるくるとまわり、ついに、首がねじ切れてしまった!!!
「やったぞぉぉぉぉぉ!!!」
 鬼羅は絶叫した。

「やりました! 大ボス撃墜です!! 本作戦は成功ですね!!! 涼司くん、私をほめて下さい!!! アハハハハハ!!!」
 カノンが勝利を確信して笑い声をあげた、そのとき。
 空中を高速回転しながら海面へ落下するかと思われた黒鬼の首が、カノンの機体に向かって飛翔を始めた。
「う、うぎゃああ! やるな! だが、こいつに限って、エネルギーの『核』は首ではなく、この頭部にあるのだ! そのことが貴様らの誤算だ!!」
 頭だけになった黒鬼の口から、先ほどとは違った、しわがれた声がもれる。
 みると、頭部にしがみついていた御剣の機体は、どこかに振り落とされたようだった。
「な、そうだったか! おい、カノン、回避しろ!!」
 鬼羅は驚いて通信を送るが、カノンからの返答はない。
「どうしたんだ? まさか、力を使い果たして失神したか?」
 鬼羅は、背筋に冷たいものがはしるのを覚えた。
 どごーん!!!
 すさまじい勢いで宙を旋回した黒鬼の頭部がカノンの機体にモロにぶつかり、その鋭い角が、機体のコクピットを貫いていた。
「あ! バ、バカな、嘘だろ、おい!!!」
 煙を上げながら海面に落下していくカノンの機体を、鬼羅は茫然とみつめていた。
「カノーン!!!!」
 鬼羅は、血の涙を流して絶叫した。