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【カナン再生記】風に舞いし鎮魂歌 ~彷徨える魂を救え~

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【カナン再生記】風に舞いし鎮魂歌 ~彷徨える魂を救え~
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第5章「『正義』と『悪』と」
 
 
「北都、あっちに何かあるぜ。ザワザワっとした変な感じ……さっきの札があるんじゃないか?」
「幽霊さんの言ってた通り、貯蔵庫みたいだねぇ。とりあえず行ってみようか」
 疫病対策に布で口元を覆いながら村を素早く駆ける白銀 昶(しろがね・あきら)清泉 北都(いずみ・ほくと)。二人は札を探索する一組として貯蔵庫に当たりをつけ、ここまでやって来ていた。
 村の外れの方、畑のそばに木造の貯蔵庫が立ち並んでいる。その一つ一つを調べていくが、中には食料の一つも無く、がらんとした空間が広がるだけの物がほとんどだった。
「酷いな……食べ物が何も無いじゃないか」
「それだけ砂漠化の影響が大きかったって事だね。生きている間に散々苦しめたのに、死んでからもその身体に鞭打つ行為をするなんて……ネルガル達が何を考えているか分からないけど、許せないよね。こういうの」
「あぁ。でもあの大将の周囲から変なオーラみたいなのを感じたからな。沢山のアンデッド達を操ってたのも気になるし、戦う奴らには気を付けて欲しいぜ」
 話をする間も空の貯蔵庫が続き、とうとう最後の一棟を残すのみとなった。開けるとそこにはいくつかの食料が。だが、それすらも僅かな物で、如何にこの村に危機が迫っていたのかをまざまざと見せ付けられる形となった。
「この中からさっきの感じが強くしてくるな。最後の食料を持ち運ぶ体力も無かったのか……」
 皆の推測通りであるのなら、札のある場所は村人たちが最期を迎えた場所を意味する。この場所にその反応がある理由を考え、昶と北都は彼らの無念さを心に思い浮かべた。
「待ってろよ。すぐに終わらせて、静かに眠らせてやるから……」
 昶が札を探すべく、貯蔵庫の中に足を踏み入れようとする。その直前、北都の禁猟区が危険を察知した。
「――! 危ない!」
 咄嗟に昶の手を掴み、その場から引き寄せる。次の瞬間、樽の後ろに隠れていたアンデッドの一撃が先ほどまで立っていた場所に叩き込まれた。
「なっ!? 待ち伏せかよ!」
 素早さに優れる二人では貯蔵庫の中での戦闘は不利。そう考え、すぐに後方の開けた場所へと移動した。
「くそっ、アンデッドとはいえ、村の奴らを傷付けたくは無いし……どうする?」
「僕が動きを止めてみるよ。――えいっ!」
 北都がサイコキネシスで相手の動きを抑制する。だが、アンデッドの力は強く、徐々にこちらへと接近して来た。
「くっ……僕だけじゃ抑えきれない……!」
「あの札のせいか! 待ってろ、北都! すぐに見つけてきてやるからな!」
 昶が急いで貯蔵庫へと向かう。そして、北都を援護すべく一つの銃声が響き渡った。
「こっちにもいるぞー! 我らが相手だー!」
 ショットガンを空へと構えた緋宿目 槙子(ひおるめ・てんこ)の肩に乗ったメルキオテ・サイクス(めるきおて・さいくす)が声をあげてアンデッドの注意を引き付ける。
 銃を持つ槙子を脅威と判断したのか、アンデッドは進路を変え、二人の方へと近づいてきた。
「ふむ、素直で宜しい。さ、こっちへおいで」
 槙子が後方へと下がる。サイコキネシスを振り切られた北都が急いでアンデッドを追いかけるが、進路の先に青年が立っているのが目に入った。
 彼は北都の方へ視線を向けると、大丈夫だとばかりに頷く。
「師匠、メルキオテさん、お疲れ様」
「この辺りで良いのだな? 永夜」
「お主の仕掛け、見せてもらうとするかの」
 おびき寄せて来た二人に代わり、冴弥 永夜(さえわたり・とおや)が前に出る。永夜は迫り来るアンデッドに対し何をする訳でも無く、ただその場に立っていた。
 永夜目掛けて襲い掛かるアンデッド。だが、彼に肉薄した瞬間、その姿が消えていた。
「あ――落とし穴?」
 北都が見た物は、永夜の前に空いた穴だった。どうやら元々畑だった部分を利用し、柔らかい地面に穴を開けておいたらしい。更に目の細かい網を投げ入れ、アンデッドを一時的に拘束状態にした。そこから加えられた北都のサイコキネシスが網からの脱出を困難にする。
「どうやらまだ力が強い状態みたいだからな……これも使わせて貰おう。今、お前の連れが札の破壊に向かってるんだろう?」
「あ、はい。多分もうそろそろ――」
 北都の言葉と時を同じくして、昶が札を発見していた。彼がそれを破り捨てた事により、アンデッドの力が弱体化する。
「ふむ、抵抗が弱まったようだな。なら、これで束の間の眠りについていてくれ。……本当の眠りを与えられるように、あの少年を止めるまでの間、な……」
 ラウディによって与えられた仮初めの生命に干渉したのだろうか、永夜のヒプノシスを受けてアンデッドの動きが鈍くなる。そのうち、北都がサイコキネシスを解除しても抵抗は見られなくなっていった。
「北都! 大丈夫か!?」
 戻って来た昶が開口一番、そう叫ぶ。
「大丈夫だよ、昶。このお兄さん達が手伝ってくれたからね」
「そっか。ありがとな、三人とも」
「気にするでない。我はただ、あの亡者をおびき寄せただけであるからな」
「メルキオテの言う通りだ。それよりも、まだ札は残っているだろう。永夜、それにそっちの二人も。すぐに次の札に向かうとしよう」
「了解だ、師匠。お前達も一緒に行動した方が良いだろう」
 永夜が北都達を見る。二人としても異論は無かった。
「よし、それじゃあ札探しはオレ達に任せてくれ! な、北都!」
「うん。じゃあ早速行くとしようかねぇ」
 北都と昶が超感覚で札の方向を探る。犬と狼、二人を先頭にして、薔薇の学舎の一行は次なる札を目指して進んで行くのだった。
 
 
「輝お兄ちゃん、もう一枚見つけました〜」
 神崎 輝(かんざき・ひかる)達は村人達の家を一軒一軒回っていた。一番勘の働く神崎 瑠奈(かんざき・るな)が中心となって札を探し、次々と破壊して行く。今探索している家でも瑠奈が新しい札を見つけたようだった。
「お手柄、瑠奈。これも……燃えちゃえ!」
 輝の爆炎波が札を焼却する。それと同時に遠くのどこかで紫色の瘴気が立ち上るのが見えた。
「よし、皆! 次に行くよ! 瑠奈ちゃん、怪しい気を感知したら教えてね!」
 処理の完了を確認し、シエル・セアーズ(しえる・せあーず)が素早く家を飛び出す。それに続くように輝と一瀬 瑞樹(いちのせ・みずき)も駆け出した。
 三人とも隠しているつもりではあるものの、内心にある怒りが瑠奈にははっきりと感じられていた。
(はや〜、皆マジで怒っちゃってて怖いにゃ〜。ま、ボクも頑張ってお兄ちゃん達のお手伝いをしま〜す)
 
「次はここだね。大きい家……この村の村長さんかな」
「輝、気を付けて。中に何かいるみたい」
 シエルの禁猟区が脅威を知らせる。警戒しながら扉を開けると、そこから三体のアンデッド達が飛び出してきた。
「マスター!」
 瑞樹が輝を庇い、扉の前から離れる。飛び出してきたアンデッドは素早く散り、輝達四人と対峙した。
「お、お兄ちゃん。どうするの〜?」
「……瑠奈は家の中に。ここはボク達が抑えるから、急いで札を見つけて」
「は、は〜い!」
 瑠奈が慌てて室内に入る。残った三人は油断せずに周囲のアンデッドを見回した。
「一人一体……って言いたいけど、今のままじゃそれも難しいかな」
「それもあるけど、輝。この人達相手に本気で戦える?」
「出来れば戦いたく無いよね、シエル。でも、ボク達がここで止めないと」
 強力な力を持った状態のアンデッド三体を前に緊迫した空気が流れる。そこに、どこからともなく歌声が聴こえてきた。
「? この歌……」
「どうしました? マスター」
「うん……どこかで聴いた事ある気がするんだけど……シエルは分かる?」
「ん〜、私は聴いた事無いなぁ」
「そっか。じゃあどこで――あ!」
 歌声の主を捜していた輝の視線がある場所で止まる。そこには中性的な外見をした人物が歌いながら立っていた。
「あの人……そっか、髪型が変わってるからさっきは気付かなかったけど、テスラ・マグメル(てすら・まぐめる)さんだ」
「テスラさん? 知り合いなの? 輝」
「知り合いって訳じゃないけど、あの人は有名だよ。地球ではプロとして活動していた歌手なんだ」
 輝の言葉を理解した訳では無いだろうが、アンデッド達がテスラの方を向く。歌声で引き付けられた事を確認すると、テスラは輝達へと呼びかけた。
「皆さん、ご無事ですか?」
「は、はい! ボク達は大丈夫です」
「そうですか、それは良かった。私達もこちらのお手伝いを致します」
「ま、俺がいれば大丈夫だ。テスラの嬢にも、嬢ちゃん達にも、指一本触れさせねぇぜ!」
 その言葉と同時に屋根からウルス・アヴァローン(うるす・あばろーん)が飛び降りて来た。輝達三人を護るようにアンデッド達の正面に立つ。
「……マスター、シエルさん。あちらからも誰かが来ます」
 瑞樹の声に遠くを見る輝達。その方向からレオポルディナ・フラウィウス(れおぽるでぃな・ふらうぃうす)道明寺 玲(どうみょうじ・れい)が走ってきていた。
「玲さん、あちらです!」
「えぇ、確認しました。急いで助け出しましょう。お二人も宜しくお願い致します」
 玲が視線を後方に移す。二人から遅れる事少し、蓮見 朱里(はすみ・しゅり)アイン・ブラウ(あいん・ぶらう)もこちらへと駆けつけていた。
「分かりました、玲さん。アイン、行きましょう!」
「ああ。子供達を傷付ける訳にはいかない!」
 四人が速度を上げる。最初に到達した玲が実力行使でアンデッドの一体を吹き飛ばした。
(村の方々を相手にするのは申し訳無いが……他の方を護る為には仕方ありませんな)
 反撃として別のアンデッドが玲を狙う。だが、その攻撃はレオポルディナとアインが防いで見せた。
「きゃっ!? つ、強いです〜」
「だが……二人掛かりなら止められない事も無い。朱里!」
「任せて、アイン! ……助けられなくてごめんなさい。せめて、今は安らかに……!」
 二人が相手の動きを止めている隙を狙い、朱里がバニッシュを放った。光が亡者を浄化するかのように、アンデッドが動きを止め、崩れ落ちる。
 それと時を同じくして他の二体からも紫色の瘴気が抜け出てきた。
「! 瑠奈が札を見つけたんだ。瑞樹、あっちの人を抑えるよ!」
「はい、マスター」
 残った一体のアンデッドに対し、輝がグレートソードを持って肉薄する。瑞樹の弾幕援護を受けながら剣に炎を纏い、一閃した。そこにトドメとしてウルスが鳳凰の拳を叩き込む。
「……済まねぇな、皆……でも、こいつらを護る為なんだ。許してくれよ……」
 かつての知り合いの成れの果て。そしてそんな彼らに拳をぶつける事に心が痛む。だが、知り合いであるからこそこの役目は自分が負うべきだと思っていた。
「後はこちらの方だけですね。申し訳ありません、これで浄化して下さいです!」
 残った最後の一体、先ほど玲が吹き飛ばしたアンデッドに向かってレオポルディナが剣を振るう。
 光条兵器に武器の聖化を行い、その上で放つ破邪の刃。それによって、先ほどの朱里の攻撃のようにアンデッドが崩れ落ちていった。
「皆さん、ご無事で何よりです。この辺りの札は全て破壊されたようですね」
 玲が一同の様子を確認する。幸い札の破壊に向かった瑠奈も含め、怪我を負った者はいないようだった。
「怪しい気配はもう感じませんね。他の所には別の方々が行っていますが、念の為私達も向かうとしましょう」
 テスラの意見に皆が頷く。そして次の場所を目指し、移動を開始した。
「あ、あの。テスラ・マグメルさんですよね?」
「えぇ、そうですが。私の事をご存知なのですか?」
「はい! 地球に居た時に歌を聴いた事があります。凄く良い歌で、大好きでした!」
「それは嬉しいですね。では今回の件が終わったら、ゆっくり歌を楽しむとしましょう。その時は……あなた達『Sailing』の歌も聴かせて下さいね」
「は……はい!」
 輝とシエルは846プロダクションという芸能プロダクションで活動を行っているアイドルだった。輝は歌い手としての名声があるテスラが自分達を知っていた事に驚いたが、すぐに喜びへと表情を変え、速やかにこの事件を解決する為に皆の後を追うのだった。