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『スライムクライシス!』

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『スライムクライシス!』

リアクション

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「今回のこの騒ぎはね、ここの人たちがかっこよく解決するべきだと思うんだ」
 イルミンスールの峰谷 恵(みねたに・けい)は、三人のパートナー、エーファ・フトゥヌシエル(えーふぁ・ふとぅぬしえる)グライス著 始まりの一を克す試行(ぐらいすちょ・あんちでみうるごすとらいある)、魔鎧化しているレスフィナ・バークレイ(れすふぃな・ばーくれい)を連れながら百合園の廊下を進んでいた。
「百合園の事件は、百合園の人たちにキメさせるってことですか?」
 エーファが解釈を返すと恵はぴしっと彼女を指差した。
「そ! まさにそれ!」
「我が読み手が補助に徹すると言うのは、石化や睡眠状態の人たちを救うということか」
 グライスが魔道銃を撃ちながら合いの手を入れる。
『でも、行くとこ行くとこスライムばかりで、そんな人たちは全然見当たりませんねぇ』
「うるさいよレスフィナ! 困っている人たちなんかこれからいくらでも――あいたっ!?
 話ながら進んでいくと、恵は廊下の角で堅い何かとぶつかり尻餅をついた。
「大丈夫ですか!?」
 エーファが駆け寄ると、恵は腰をさすりながら見上げる。
「っつ〜……一体なぁに〜?」
「あっ、ごめんなさい! 美緒がそろそろ重くなってきてて……ボクの飛行魔法が解けかけてるみたいなんだ」
 石化した美緒を床に置いたサビクは、その場にふわりと足を下ろした。恵の進行が止まったため、グライスは周囲のスライム駆除に当たり始める。
「それより、誰か石化を回復できる? 美緒を助けて欲しいんだけど……」
「あ、それならボクに任せて!」
 恵は身を乗り出すと、すぐに『清浄化』を発動させ始めた。

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 百合園の階段付近では、蒼空学園生のレティシア・ブルーウォーター(れてぃしあ・ぶるーうぉーたー)とパートナーのミスティ・シューティス(みすてぃ・しゅーてぃす)がスライムを相手に奮闘していた。
 当初、二人は一網打尽を狙おうと落とし穴を発案したのだが、この百合園女学院校舎内にそんなものは存在しない。代案を考えながら階段を上っていくと、やがてレティシアがあることに気付く。
「上の階に行けば行くほど、スライムが少なくないですか?」
 先ほど葵たちも感づいたように、百合園は地上階に近付くほどスライムの量が多いのだ。
 それを聞いて閃いたミスティは、階段の中腹で立ち止まる。
「じゃあ、スライムたちを踊り場にまとめちゃうっていうのはどうです?」

 そうすることに決めてから数分。ミスティはスライムの少ないフロアを背に、踊り場を少し上がったところで待機していた。
 スライムたちは教室の扉を閉めてもにゅるにゅると侵入してきてしまうが、どうやら段差を上がるのは苦手なようである。粘液攻撃にさえ注意していれば、上方で待機しているのも容易なことだ。
 やがて、スライムたちをおびき寄せながらレティシアが階段を駆け上がってくる。レティシアは自分を囮に――時にはスライムを蹴り飛ばしながら――ミスティの前の踊り場にスライムを集めたのである。
「ミスティ、今ですよっ!」
 レティシアが踊り場を越えたと同時に、ミスティが『ファイヤーストーム』を唱える。燃え盛る炎が眼下のスライムたちを包むと、徐々にその数を減らしていった。
 その光景を眺めるレティシアが口を開く。
「あれ、赤いスライムが残ってますねぇ。なんだか火を食べてるみたいですぅ」
「きっとレッドスライムなんですね。じゃあこれでっ」
 ミスティがふっと手を上げると、『サンダーブラスト』が発動して辺りに雷が降り注いだ。その攻撃に、レッドスライムも形を保てず破裂していく。
「容赦ないですねぇ」
「王様になられたら手に負えないですからね」
 レティシアがすっかりスライムのいなくなってしまった踊り場に下りると、ミスティはそんな冗談を飛ばした。レティシアもそれに笑いながら、またわらわらと集まってくるスライムたちを見下ろす。
「それにしても色んな色のスライムがいますけど、服や鎧だけを溶かすエッチなスライムが居ないと良いですけどねぇ……」
 これだけいて、ここは男子禁制花の園。お約束だからいても不自然じゃないなとレティシアが思うと、彼女はそんな邪推をすぐに振り払った。
「変な事考えてると実現しちゃうから、考えるのは止めておきましょうねぇ」
 ミスティもそんな馬鹿なと笑ったその折である。彼女は背後に気配を感じて咄嗟に振り返った。
ひゃあっ!!
「ミスティ!」
 レティシアは焦りながらミスティに駆け寄る。ミスティは胸の辺りに思い切り粘液を浴びてしまった。
「大丈夫!? 見たところ石化は始まってないようだけど、眠気は――」
 ミスティが震える手で階上を指差したのを見て、レティシアは口を噤んだ。
「まさか――」
「えっ?」
 ミスティの視線を追うと、レティシアも目を見開いた。
「ももももしかして、あちきの言った通りの――」
「――ピンクの、スライム……?」
 レティシアがハッと気付いてもう一度ミスティの胸部を見ると、粘液のかかった部分の繊維が徐々に綻び始めていた。ミスティ自身もそれに気がついて飛び上がる。
「いっ、いやあああああああっ!
 半泣き状態のミスティが階段を下りてどこかへと走り去ると、レティシアも慌てて後を追う。
「大丈夫、ここは百合園ですよーーーっ!!」

 二人が見えなくなると、ミスティに攻撃したピンクのスライムは階段をぷるんぷるんと下り始める。その後ろから、何体ものピンクの群れが―――……

     #

「――で、蜂蜜や砂糖で味をつけながら煮詰めて、あとは冷蔵庫で冷やして固めればゼリーっぽくなるんじゃないかな?」
 明倫館は家庭科室。
 透乃は鍋でスライムを煮込みながらレシピを考えていた。
「透乃ちゃん、でもそれじゃあ――」
「溶かして戻しただけとかそういうことは気にしちゃ駄目だよ!」
 陽子が意見しようとすると、透乃は彼女の言葉を遮る。

 それから幾許かの時が経った。
 透乃が冷やしたゼリーのトレーをテーブルの上にどんと置く。陽子は横からそれを覗き込んだ。
「あら、思ったよりもいい感じにゼリーですね」
「でしょ〜? さーて、試食してみようか」
 透乃は色とりどりのスライムゼリーにスプーンを迷わせる。
「あ、これなんか美味しそう! 綺麗なピンク色だし」
「そういえば、結局それは何スライムなんでしょうね?」
 陽子は透き通った薄桃色のゼリーをまじまじと見る。着色料など一切使っていないが、元から綺麗な色をしていたピンクのスライムは、ゼリーに姿を変えた今、さらに美しく彩られていた。
「わっかんないけど、陽子ちゃんいるから大丈夫でしょ」
「あっ――」
 何かあったら『清浄化』かけてねという目をした透乃は、陽子が止める間もなくぱくりとやった。
「あ、美味しいし」
 透乃もまるで期待していなかっただけに、驚きの表情を隠せない。
 蜂蜜と砂糖の甘さがあるのはもちろんだが、それに加えて桃に近いフルーティーな風味も隠し味程度に効いている。お陰でさっぱりしていて、一度口に運んだらまた次が欲しくなる味だ。
「本当ですか?」
「ほんとほんと、ほら」
 もしかしたらピンクのスライムは生のままでも美味しいのかもしれないと思いながら透乃が陽子に勢いよく差し出すと、つるんと滑ったスライムゼリーが皿から飛び出した。
「うわっと」
「きゃっ!」
 ピンク色のゼリーは陽子の肩辺りに着弾すると、そこから胸元までをなぞるように落ちていく。
「あ、ごめんね陽子ちゃん。今拭くから――ん?」
 慌てた透乃が布巾を持って側によると、不思議な光景に声を上げた。
「ねぇ、陽子ちゃん?」
「はい?」
 何が起きているのかわからない陽子は、その透乃の反応にきょとんとする。透乃は自分の目を擦ると再度凝らした。
「服……着てたよね?」
「え? どういう――」
 言いながら、やけに胸の辺りの風通しが良くなったなと視線を下げると、陽子は硬直した。いつの間にか、育ちの良い胸が顕わになっている。
「うわわわっ、透乃ちゃんえっちですーッ!」
 顔を真っ赤にしながら慌てて胸を隠す陽子を見て、透乃にも異変が訪れる。
「あ、あれ……? なんだか火照ってきた……」
 それどころではないはずなのに、透乃の身体は熱を帯び始めていた。
「と、透乃ちゃん……?」
 そして若干のとろみを含んだ透乃の目が捉えたのは、大胆な姿で恥ずかしがる大好きな陽子。頭の中で理性とかなんとか言うあまりにも脆くなったシャボン玉がぱちんと弾けると、透乃は陽子に飛びかかっていた。
陽子ちゃああああああああんッ!!
今度は何ですかーーーっ!?

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「ここに、入るの……?」
 百合園・家庭科室の前に立ったレキは、思わず真奈の顔を見た。家庭科室のスライムは先ほどよりも量が増したように思える。
「もちろん、レキ様方に付き合って頂く義理はありませんわ。ですがわたくしは、わたくしのパートナーと、彼女が助けようとした方を助けねばなりませんから」
 既に意志を固めている真奈がレキを見つめ返すと、ミアが溜め息をついて扉に手をかける。
「やれやれ、仕方ないのぅ。レキ、覚悟を決めるんじゃな」
「まぁ、頑張ってはみるよ」
「お二人とも……」
 レキがぐっとラスターハンドガンを握り直すのを見ると、真奈は感謝のあまり言葉を失った。
「よいか? さぁ、始めるぞ!」
 ミアが激しく扉を開くと、途端に中からスライムが押し出てくる。
 レキが『光条兵器』で、ミアが魔法でスライムの道を切り拓くと、真奈は隙間を縫ってミルディアの元を目指す。これだけの数から繰り出される数多の粘液攻撃は、避けるには中々一筋縄ではいかない。
「うわーん、多いよぅ〜!」
 泣き言を言うレキは、それでも器用に攻撃をかわしつつ反撃に転じている。スリープスライムやライムスライムの粘液が何度か袖を掠めたりしているが、睡眠や石化効果は、粘液が直接肌に触れない限り効能を発しない。レキは普段は着ない制服に文句を言っていたが、結果的には功を奏していた。
 されど、この渦中では一刻の猶予もない。せっかく作ったスライムの道筋もすぐに埋められてしまう。三人はもはやお互いをカバーし合う余裕もなかった。
「ミルディ!」
 真奈は一直線に石化したパートナーの元に駆け寄ると、すぐさま『清浄化』を構えた。
「くあっ、周りを守れってことか……」
「でも今はそれが一番効率的じゃっ」
 石化した人間を抱えて隙だらけのまま半透明の海を行くよりは、ここで回復して戦力を増やしたほうが賢明だ。とはいえ、レキとミアの防衛線もスライムたちの圧倒的な数にじりじりと面積を狭める。
「ミイラ取りじゃな!」
「真奈、早くっ……」
 レキが銃弾を撃ち出しながらちらりと振り返ったその瞬間に、真奈の手によってミルディアの石化が解かれた。
「――っとぉ、お?」
「ミルディ! 良かった!」
 突然意識の戻ったミルディアに、真奈は抱きついていた。ミルディアはそのまま辺りを見る。
「ま、真奈! まだスライムだらけじゃない!」
「そうじゃ、喜んでる場合か!」
「あっと、そうですわ……!」
 ミアからの喝で我に返ると、真奈は慌てて手を離した。
「では、一旦引きましょう――」
 そう言って真奈が立ち上がると、辺りの光景に気圧されて思わず立ち尽くす。レキとミアはなんとかその場を守っていたが、もう元来た道などなく、代わりに押し寄せるのはスライムの波ばかりだった。
「ぜ、絶望的状況じゃな……」
「うわーん、どうするのミアーっ!」
 二人は嘆きながらもギリギリのところでスライムたちを押しのける。しかし新手が次々と飛びかかってきては、二人の防衛ももう限界だ。このままでは戻るどころか、全員まとめてリタイアだ。
 呆然としていたミルディアが手をつくと、彼女の手はすっかり忘れていたそれに触れる。ミルディアは反射的にそれを確認すると、すぐに『ナーシング』を使用する。
「こうなったら一か八かよ!」
 ミルディアはそもそもの目的だった『塩眠り姫』を回復させることに全てを賭けた。
「お願い、起きてっ……!」
「もうダメじゃっ!」
 ミアの『ファイヤーストーム』がレッドスライムに突破されると、それを皮切りに続々とスライムが押し寄せる。レキも近付くスライムを必死に打ち抜くが、一箇所が崩れた防衛陣は脆いものだ。
「きゃああっ!」
 ついにその攻勢の手がミルディアにまで伸びようとすると、突如空中に大量の粉が飛散した。その粉をもろに受け止めたスライムたちは、見る間もなくしおしおと小さくなっていく。
 ミルディアは立ち上がったその人を見た。
「し、『塩眠り姫』……?」
「それ私のことですか!? 私は野々ですよっ!」
 高らかと名乗った高務野々は手持ちの塩を手近なスライムにばら撒くと、新しい袋を手にとって怒りのままに開封した。
「覚悟して下さいよスライムたち! 貴方たちの水分は……この『塩眠り姫』が頂きますッ!」

     #

 同じく百合園女学院。
 廊下にいるヴァーナーは『シーリングランス』で粘液攻撃を封じながら、石化中のシリウスへと足を運ぶ。だが、いくら『シーリングランス』で攻撃を封じているとは言え油断は出来ない。続々と刷新されるスライムの群れから、いつ粘液が飛んでくるのかわからないのだ。
「さぁっ、石化には石化解除薬ですね!」
 そんな緊張感の中を物怖じもせず、彼女はシリウスの元へと辿り着いていた。ヴァーナーはもう一度『シーリングランス』で辺りのスライムに念押しをすると、シリウスの前にしゃがみ込んで青い液体の入った小瓶を取り出す。
「大丈夫、ちょうどありますですよ〜」
 ヴァーナーが石化解除薬を使用していると、シリウスの隣で寝ている人にも気が付いた。
「お? こっちはラナおねえちゃんじゃないですか。見たところ睡眠だから、『ナーシング』で回復ですっ」
 そうヴァーナーが気張った時だった。彼女の腹部に何かがべちゃりと飛びつく。
「べちゃり?」
 その擬音を復唱しながら見てみると、いつの間にか下腹部にピンク色のスライムがぷるぷるしていた。
「うわぁっ! あっち行ってです!」
 驚いたヴァーナーは慌ててスライムを叩き飛ばすが、くっついていた部分の服が見る見るうちに溶けていく。
「えっ、わわっ、なにこれっ!?」
 僅かに素肌が見えたかと思うと、粘液が染みてしまった部分にもじわじわとその穴が拡がっていく。なんとか自分を落ち着かせようと冷静さを取り繕うヴァーナーは、深呼吸をして一旦目を閉じた。
「ま、まぁ、人が来なければ大丈夫ですよね――」
「う、んん……」
 そう言いかけた矢先、『ナーシング』で目を覚まし始めたラナと石化の解けかけているシリウスに気付く。反して洋服の溶解は進行が止まらない。
「わわわわッ! て、撤退ですっ!」
 止むを得ず駆け出したヴァーナーは、『シーリングランス』を乱発しながらスライムで埋め尽くされた廊下を奥へと消えていった。


 美しい浜。
 白い砂浜は太陽に照らされてキラキラと輝き、寄せては引いていく波が心地よい音楽となってラナの気持ちを穏やかにしていく。
 気付くとここにいた。ラナはヤシの木陰でサンラウンジャーに身を委ね、ピンク色のトロピカルジュースを差し出される。
 持ってきたのはジュースと同じような透き通るピンクの……ピンクの……
「――スライム?」
 ラナがぱちっと目を開けると、目の前でピンク色のスライムが今にも粘液を吐き出さんとしていた。
う、わッ――!?
 突然のことに現状を把握できないラナが驚きの声も満足に出せずにいると、横から飛んできた『サンダーブラスト』がスライムを直撃した。
「寝起きのとこ悪いんだが!」
 ラナが顔を上げると、シリウスは二人の周りのスライムを『ファイヤーストーム』で焼き尽くしたところだった。すぐにレッドスライムが炎に飛びつく。
「手伝ってくれるか!」
「わ、わかりましたっ!」
 とりあえず剣を抜いたラナは、飛びかかるスライムを叩き落とす。
「貴女が助けて下さったんですか!?」
「いや、確かオレも石化してたはずだ! 誰が回復してくれたのかはわからねぇが、とにかく今はそれどころじゃねぇ!」
 二人は自分たちの周りを辛うじて確保しているが、廊下のど真ん中であるここは前後から次々とスライムが押し寄せる。
「確かに、逃げ場もなければ押し切られるのも時間の問題ですね……!」
「ったく、どうしろってんだ!」
 台詞を吐き捨てながらシリウスが『サンダーブラスト』を発動したその時である。

『アシッドミスト』!

 どこからともなくその声がすると二人の周囲を酸の霧が包んだ。倒せはしないものの、スライムたちを怯ませる。
 シリウスが見上げると、そこには光る箒に乗った恵がいた。
「大丈夫? お手伝いにきたよ!」
 『ディテクトエビル』を発動させている彼女は後ろからの粘液攻撃を意図も容易く避けると、二人の間に降り立った。
「すまん、助かる!」
「早く脱出しよう、あなたたちのパートナーが向こう側で待ってるよ!」
 それを聞いて、シリウスとラナは廊下の突き当たりを見た。向こう側から、サビクと美緒、そして恵のパートナーたちが道を作っている。

 サビクから事情を聞いた恵の一行は、美緒の石化を解除すると全員で行動することを決めた。
 シリウスたちを助けに戻ってきたのである。

『恵、酸はあまり効いてないみたいですよ! スライムは水分を多く含んでいますから――』
「これね!」
 レスフィナの助言に恵が『天のいかづち』を発動させると、不意に現れた稲妻がスライムを襲った。ぎゅうぎゅう詰めだったスライムたちは互いに感電していき、大多数が消滅する。
「さ、行くよ!」


 エーファは『則天去私』でスライムたちを突き飛ばすとレッサーワイバーンの炎で焼却する。その中を抜けてくるレッドスライムにグライスは『ヒプノシス』をかけ、追ってサビクと美緒の剣が切り裂く。
「もう少しね!」
 『破邪の刃』を飛ばすサビクが威勢よくそう言うと、美緒は攻撃しながら申し訳なさそうな顔をした。
「本当に、お二方にはなんとお礼をしたらいいのやら……」
「それを言うならエーファたちのお陰だよ!」
 サビクが名前を出すと、『ライトニングランス』でスライムを弾き飛ばしたエーファが振り返る。
「いえ、同じ戦場で戦う仲間がお互いを助け合うことは、いたって自然なことですよ」
 彼女がサビクと美緒に向かってにこりと微笑むと、グライスはサイコキネシスでスライムをひとまとめにする。
「これで開通だな」
「『天のいかづち』!」
 恵の声が響くと、グライスのまとめたスライムが一瞬にして葬られる。
「サビク!」
「シリウス! ちゃんと助けにきたよっ!」
 道が開かれると、サビクは真っ先にシリウスに駆け寄った。シリウスも嬉しそうに応える。
「すまん、助かったぞ」
 状況に構わず呑気にしている二人の背中を、後ろからやってきた恵が押した。
「ほら、感動の再会はあとあとっ! スライムたちが集まる前に逃げるよ!」
 恵が進んで前を行くと、一行も協力し合いながら後に続いた。