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うそ~

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うそ~

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    ★    ★    ★
 
「鷽をやっつけてこいだなんて、校長もまた面倒なことを命令しますね。もうちょっと、報酬のしっかりした依頼をこなしたいものですよ」
 てくてくと森の中を歩きながらレーヴェ・アストレイ(れーう゛ぇ・あすとれい)が言った。
「うーん、何か落ちてるかもしれないよね。鷽の羽根とか、高く売れないのかなあ」
 道端をキョロキョロとしながら、如月 玲奈(きさらぎ・れいな)が何かいい物を探した。
「鷽の羽根など、価値はありませんね」
 レーヴェ・アストレイが肩をすくめる。
「そうなのかあ。あれ? 何か落ちてるよ」
 ポツンと道のど真ん中に何かが落ちているのを見つけて、如月玲奈が走りだした。
「なんだろこれ、魔道書みたいだけど、読めないやあ。ししょー、なんて書いてあるの?」
 ぼろぼろの魔道書らしき物を拾いあげて開いた如月玲奈が、それをレーヴェ・アストレイに渡した。
「レナったら、またそんな変な物を勝手に拾って。ばっちい物だったらどうするんで……こ、これは!」
 如月玲奈をたしなめながらパラパラとページをめくったレーヴェ・アストレイの顔が瞬時に変わった。
「これこそは、長年私が探し求めていた伝説の魔道書です。まさか、こんな道端に落ちていようとは。どうりで見つからなかったはずです!」
「へえ、そんな凄い本なんだ。それでそれで、何が書いてあるの?」
 横から魔道書をのぞき込んで、如月玲奈が訊ねた。
「ええと、どうやら火術系の禁呪のようですね」
「ためそためそ♪」
 如月玲奈にうながされて、レーヴェ・アストレイが魔道書を広げて人気のなさそうな空にむかって手を掲げた。
「古に封じられし焔よ、我が呼び声に応え、すべてを焼き尽くせ……エンシェントエクスプロージョンノヴァ!」
 呪文と共に、火球が空へと飛んでいく。中空へとあがった火球が四つに分裂し、さらに四つに分かれた直後に連鎖反応的に爆発する。十六色の火炎が複雑に混ざり合って空の一帯を焼き払った。
「すごーい!」
 パチパチと如月玲奈が手を叩いて喜ぶ。
「うう、魔道書が消えてしまいました。どうやら、蓄積されている魔力は一回限りだったようですね」
 まだ空で燃えている色とりどりの炎を見あげながら、レーヴェ・アストレイが残念そうに言った。
 そのとき、炎の一つが、スッと外れて地面に落ちた。
 ちゅどーん。
「うきゃあ〜」
 落ちた炎が爆発し、なんだか悲鳴が響いた。直後に、意味不明な水柱があがる。
「これは、魔法の別の効果でしょうか。行ってみましょう」
「うん、ししょー」
 如月玲奈をうながすと、レーヴェ・アストレイは水柱の方へとむかった。
 
    ★    ★    ★
 
「鷽って言う鳥をなんとかすればいいんですよね」
「大丈夫。いざとなったら、アルマインを呼んでなんとかするからね」
 須藤 雷華(すとう・らいか)が、メトゥス・テルティウス(めとぅす・てるてぃうす)の質問に答えた。
「うーん、俺の嘘感知では、こっちに鷽がいそうなんだがなあ」
 北久慈 啓(きたくじ・けい)が、軽く手を翳して近くの高台の上を指した。ちょっと切り立った丘になっている場所だ。
「ねえ、でも、ケイ君、嘘感知って、嘘の感知であって、鷽の感知じゃないんじゃないの?」
 須藤雷華が素朴な突っ込みを入れる。
「ええっと……」
 手帳を取り出した北久慈啓が、「うそかんち」と書いてしばし悩む。
「ま、まずいわ。なんだかケイ君がおかしくなっちゃってる。もしかして、もうここは鷽時空の中なの?」
 須藤雷華が引きつった。
「くそう、漢字が……どうしてもフランス語になる。トマス・マロリーのせいか、そうなのか!?」
 『アーサー王の死』の作者を八つ当たり的に呪いながら北久慈啓が叫んだ。矢継ぎ早に、関連する作品を次々に呪っていく。
「は、早く鷽を退治しないと大変なことに……」
「ねえねえ、あそこに何か生えてるよ?」
 焦る須藤雷華を、メトゥス・テルティウスが手招きした。
 なんと、崖の上の地面から機晶姫が二つ生えている。
「あら、テルティウスだわ」
「うん、テルティウスよね」
 メトゥス・テルティウスそっくりの機晶姫たちが、声をそろえるようにしてささやき合った。その足は膝まで地面に埋まっており、まさに生えているといった状態だ。
「あなたたちは?」
「プリムス・テルティウスよ」
「セクナドゥス・テルティウスよ」
 メトゥス・テルティウスの問いに、二人のテルティウスがそう答えた。
「プリムス姉さんにセクナドゥス姉さん!? 記憶にないけど、会いたかったわ、姉さん」
「あなたは三番目だから」
「あなたは三番目だから」
 なんだかよく分からないテルティウスたちの会話に、須藤雷華が頭をかかえる。
 そのとき、プリムス・テルティウスの頭に、ポンと花が咲いた。
「うそだも〜ん」
 飛んできた鷽がそこに止まり、美味しそうに蜜を啜る。
「いたっ! ケイ君、鷽よ、鷽!」
「まかせろ!」
 須藤雷華に指さされて、北久慈啓がスタンスタッフでプリムス・テルティウスを叩いた。
「しびびび……」
 プリムス・テルティウスが痺れるが、鷽は難なく空に飛びあがって逃げてしまった。
「おのれ……」
 北久慈啓が悪態をつく。
 そこへ、空から何かが近づいてきた。大きな火球だ。
「ちょっと、なんであんな物が……」
 避ける間もなく、火球がプリムスとセクナドゥスを直撃した。
「うきゃあ」
 あっけなく二人が消滅し、爆風で須藤雷華たちが崖から空中へと吹っ飛ばされる。
「今こそ……。トォォォールマァァァァックゥ!!」
 パチンと空中で指を鳴らして、須藤雷華が叫んだ。ゴゴゴゴと大気を震わせて、アルマインのトールマックが水平飛行で現れた。
 ポトンと、広げられた翅の上に須藤雷華たちが落ちて難を逃れる。
「すぐに地上に降ろすから、ちょっと待っててね」
 トールマックのコックピットに滑り込んで須藤雷華が言った。ギター型のコントローラーを手にすると、ジャンとそれをかき鳴らす。パイロットを得たトールマックが金色の輝きを放ち始めた。
 そのままゆっくりと進んで行き、広い場所を見つけて水平姿勢のまま軟着陸する。背中に乗っていた北久慈啓をかかえて、メトゥス・テルティウスがふわりと地上に降り立った。
 須藤雷華たちが立ち去った丘の上では、メトゥス・テルティウスの姉妹らしき者たちが生えていた穴から不気味な音がわきあがっていた。次の瞬間、穴の中から勢いよく温泉が噴き出したのだった。
 
    ★    ★    ★
 
「ふう、鷽の奴いったいどこにいるんだ。こんなに探してるっていうのによお」
 コキコキと肩のあたりを回して筋肉をほぐしながらラルク・クローディス(らるく・くろーでぃす)が言った。
「あーっ、まったく疲れるぜ。おっさんヘトヘトだぁ……。おっさんもひ弱になったもんだな……」(V)
 言ったとたん、突然ラルク・クローディスの全身がだるくなった。
「あっ、くそ。なんか鷽の術中にハマった気がする。ええい、いっそ温泉でリフレッシュしたいぜ」
 ちょっと小高い崖の下で、ラルク・クローディスが軽く悪態をついた。
 そのとき、突然日が翳る。
 頭上を、イコンが通りすぎていった。
「なんでこんな所にイコンが……」
 言ったとたん、空から雨が降り注いできた。いや雨ではない……。
「あちちちち、何だこれ、お湯じゃねえか!」
 あわてて物陰に避難すると、ラルク・クローディスは何が起きたのか冷静に観察してみた。
 最初雨のように降り注いできたお湯はすぐに落ち着いて、今では崖の上から滝のようにして壁面を流れ落ちて来ている。下の地面に達したお湯は、近くのくぼみにたまって池を作り始めていた。
「こいつは……、温泉だ!」
 ラルク・クローディスが歓声をあげた。
「こいつは、入るっきゃねえな」
 どうせ、さっき頭からお湯を被ってずぶ濡れになったばかりだ。このまま風邪をひくよりは万倍もましだろう。
 ぽいぽいと着ている物を脱いで褌一丁になると、ラルク・クローディスは湯煙のたちこめる温泉にザンブと飛び込んだ。
「ふいいっ〜。いい湯だ。生き返るぜ」
 ラルク・クローディスがくつろいでいると、がさがさと草をかき分けて近づいてくる者たちがあった。
「ああー、変態だあ!」
 褌一丁の男を見つけて、如月玲奈がキャッキャッと騒いで指をさす。
「ああん、なんだってえ」
 そういうことを言われるのはゴチメイたちだけでたくさんだとばかりに、ラルク・クローディスが浅いお湯の中で立ちあがって叫んだ。
「これ、レナ、見ちゃいけません!」
 あわてて、レーヴェ・アストレイが如月玲奈の目を隠す。
「うそっそ、そんそんそん。うそっそ、そんそんそん♪」
 そのとき、頭に手ぬぐいを乗せた鷽が、プカプカと湯船に浮かびながらラルク・クローディスの前を流れていった。
「見つけたぜ、逃がすかあ!」
 ラルク・クローディスが、渾身の一撃を鷽に叩きつけた。激しい水飛沫があがる、と、次の瞬間、鷽の消滅と共に温泉が綺麗さっぱりと消え去る。
「ぶわっくしょい!」
 吹きつける寒風に、ラルク・クローディスが大きなくしゃみをした。