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うそ~

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    ★    ★    ★
 
「ふふふふふ、これまでは実現不可能と言われ続けてきたが、今こそ究極合体を実現するとき!」
 全身をハイパーアーマーにかためた蒼空の騎士パラミティール・ネクサーことエヴァルト・マルトリッツ(えう゛ぁると・まるとりっつ)が指揮官然として叫んだ。その肩には、マスコットのように鷽が留まっている。
「了解したわ。おいで、ランダアァァァァ!!」
 がしょこんがしょこんと走ってきたロートラウト・エッカート(ろーとらうと・えっかーと)が、合身戦車 ローランダー(がっしんせんしゃ・ろーらんだー)を呼んだ。
「ラーサ」
 周囲の木々を薙ぎ倒すようにして、合身戦車ローランダーが飛び出してきた。
 併走するロートラウト・エッカートを追い越すと、前方でターンして待ち構える。
「合身せよ、キングロートラウト!」
 腕を突き出して、エヴァルト・マルトリッツが叫んだ。
「ロォォォランダァーッ!! ライジングフォーム!」
 走るロートラウト・エッカートが叫んだ。
 車両型の合身戦車ローランダーが、くの字に折れて車体を起きあがらせる。胴体部が二つに割れて開き、受け入れ態勢を整えた。
「合身!!」
 空洞となった合身戦車ローランダーの胴体部分に、ロートラウト・エッカートが身体を捻って背中から飛び込んでいく。カチャリと、肩のフックと腰部のジョイントがロートラウト・エッカートのボディを固定した。同時に合身戦車ローランダーの装甲が閉じる。胴体の左右が、プシュンというエアーの音と共に関節が自由になって腕となった。上部から、ど派手な頭がせり上がってくる。
「キングロートラウトッ!!」
 ポーズを決めて、ロートラウト・エッカートと合身戦車ローランダーが声を合わせて叫んだ。
「うむ。合体は大成功だ」
 満足気に、エヴァルト・マルトリッツがうなずく。
「うん。この方法なら、合体は可能なようだね。たとえ嘘空間でなくてもいけそうだもん。でも……」
「でも?」
 エヴァルト・マルトリッツがロートラウト・エッカートに聞き返した。
「どうやって動けばいいんでしょうか?」
「いや、合体したら、制御はロートラウトができるんじゃないのか?」
「あ、突然、なぜだか動けたよ。やったね」
 ロートラウト・エッカートが嬉しそうに言った。
「だが……」
 一方のエヴァルト・マルトリッツは浮かない顔だ。今の言葉で動けるようになったということは、動けるということ自体が嘘である。結局、合身戦車ローランダーの中にロートラウト・エッカートを収納したということにしかすぎない。中に入ったはいいが、何もできないというのであれば、大幅な戦力低下だ。せめて、合身戦車ローランダーが魔鎧であったら問題はなかったのだが、それを言っては無粋である。この常識を覆すことこそ、合体の真の醍醐味なのであるのだから。
「ええい、今はそのようなことは関係ない。要は、ランダーがレベルを究極まで上げれば問題はない!」
 エヴァルト・マルトリッツが言い切った。
「ちょっと待ってくださいであります。自分だけ特訓でありますか」
「任せたわよ」
 焦る合身戦車ローランダーの中で、ロートラウト・エッカートがお気楽に言った。
「ふっ、あちらも頑張っているようだが、まだまだでござるな」
 じっとエヴァルト・マルトリッツたちの特訓を見学していたクリムゾン・ゼロ(くりむぞん・ぜろ)が、不敵に言った。
「ちょっとどうしたのよ、ゼロのステイタスが変よ!?」
 銃型ハンドヘルドコンピュータでクリムゾン・ゼロの様子をモニタしていた葉月 エリィ(はづき・えりぃ)が、出てきた数値の急激な上昇を見て焦った。
「いいじゃない、どうなるか見ていましょうよ」
 あわててクリムゾン・ゼロを停止させようとする葉月エリィを、エレナ・フェンリル(えれな・ふぇんりる)が押し止めた。
「零システム・全リミッター解除。覚醒モードニ移項シマス」
 突然金色の輝きを放ち始めたクリムゾン・ゼロが、空中に飛びあがる。光がその姿をつつみ込んで膨れあがり、巨大なクリムゾン・ゼロの姿を空中に形作った。
「なによ、あれ。うちのトールマックのパクリよ、パクリ!」
 突然現れたイコンらしき物に、須藤雷華が叫んだ。
「なんでござる。まねっこのイコンごときが……。いいでござろう、ミーがその金メッキを剥がして御覧にいれるでござる」
 対抗意識をむきだしにしたクリムゾン・ゼロが言った。
 急加速でトールマックに突進しつつ、ミサイルポットからミサイルを振りまく。
 鱗粉のような光の残像を輝かせて、トールマックがスッと横に移動してそれを躱した。
「零システム・マジックモード起動……フリーズランサー発動」
 体を入れ替えるようになったところで、クリムゾン・ゼロが魔法で氷の槍を作りだして投擲する。かろうじて、トールマックがランスでそれを弾いた。
「ちょっと、ゼロ、やめなさい!」
 設定無視の戦いを繰り広げるクリムゾン・ゼロとトールマックに、葉月エリィが叫んだ。
「うーん、こうなったらもっと強力なイコンが必要ですわ。そうそう、この間最後の女王器として、巨大イコンが見つかったというではありませんか。わたくし、あれを乗りこなせますのよ」
 エレナ・フェンリルが、自慢げに言った。
「さあ、来るのですわ。古の巨大イコンよ!」
 エレナ・フェンリルが叫んだ。そのとたん、空の一画がキラリと光った。疾風怒濤の勢いで、何かが降りてくる。
 ドカドカドカと音をたてて、エレナ・フェンリルの回りに「イコン」という文字形をした三つの物体が地面に突き刺さった。
「おのれ、あくまでもネタバレはさせないつもりですのね。覚えてらっしゃい!」
 どこかにむかって、エレナ・フェンリルが怒鳴った。
 そのとき、戦うクリムゾン・ゼロとトールマックを遠くからじっと見つめるイコンの姿があった。
 ジュレール・リーヴェンディ(じゅれーる・りーべんでぃ)の乗るアルマイン型の深き森に棲むものだ。
「面白い。ユグドラシルに一発叩き込もうと思っていたところであるのだが、その前に予行演習をさせてもらうのだよ」
 ひらひらのレオタードに、背中にちっちゃな羽根飾りをつけたジュレール・リーヴェンディが、戦いを続けているトールマックたちをモニタ越しに見つめながら言った。
 一応むっちゃ恥ずかしい格好をしているのだが、イコンから降りなければ誰に見られるということもない。
「機晶ビームキャノン展開……」
 ジュレール・リーヴェンディの操作で、深き森に棲むものが背中に背負った機晶キャノンを取り外した。二つ折りになっていた砲身がゆっくりと回転し、カチンと合わさった上に伸びて長砲身の機晶キャノンとなる。アルマインの倍以上もある巨大なランチャーだ。エネルギーバイパスを機体に接続すると、深き森に棲むものが腰撓めに構えた機晶キャノンをクリムゾン・ゼロたちの方へとむけた。
 チャージされるエネルギーに、砲身が基部が赤熱する。放熱で、イコンの周囲に陽炎が立った。
「機晶石エネルギー充填、ファイヤー!」(V)
 ジュレール・リーヴェンディがトリガーを引いた。激しい閃光と共に、周囲の風景がモノトーンになる。保護装置が働いて、コックピット内のモニタが瞬間カットされた。
 光の奔流が、トールマックとクリムゾン・ゼロの間を通りすぎていった。余波を受けたトールマックの装甲が一部溶解し、クリムゾン・ゼロのエネルギー体の機体が一部吹き飛んで形を失った。弾道上の大気がプラズマ化して、突風となって周囲へと広がる。
「うむ、やはりカレンがいないと、照準性能はいまいち落ちるようであるな」
 今のデータを記録しつつ、ジュレール・リーヴェンディがつぶやいた。
「何、今の攻撃は?」
「どこから撃ってきたでござる?」
 なんとか体勢を立てなおしつつ、トールマックたちが周囲を索敵した。
「そこでござるか!」
 クリムゾン・ゼロがフリーズ・ランサーを投げた。とっさに上昇回避したアルマインが、上空で黒いアゲハのような翅を広げる。
「ふふふ、よく俺様のアルマイン・デッドを見つけたものだね」
 イコンのコックピットの中で、ゲドー・ジャドウ(げどー・じゃどう)がつぶやいた。ネクロマンサーとしての彼の身体は、コックピットの操縦槽の中に有機的に張りつくようにして収まっている。
「よくもまあ、そこまでイコンの嘘能力を実行できるものだよ。どこのパイロットかはしらないけど、目障りなんだよお。いいかよく聞け、すべての嘘は俺様の物。他の奴らが嘘でいい目を見たりかっこつけるんじゃないんだよ。ゆえに、すべて滅ぼす! ぽちっとな」
 ゲドー・ジャドウが、カバーに被われていたボタンを、カバーを叩き割って押した。
 額の部分にちょこんと嘘を載せたアルマイン・デッドの翼が巨大化していった。いや、翼状に何かを散布しているようだ。それに触れた地上の木々や岩があっという間に腐食して砂と化す。
「はははははは! 我が世の春が来たぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
 その威力に、ゲドー・ジャドウが驚喜した。
「黒歴史の嘘しかを知らない愚か者は、地に這いつくばって消えてもらう! すなわち、月光蝶である!!」
 もうノリノリのゲドー・ジャドウが、無差別破壊を広げていく。
「だ〜ひゃっはっは、消えろすべてのウソ、いっそ世界樹ごとなぁ!!」
 そう叫んだとき、アルマイン・デッドの頭部が鷽ごと吹っ飛ばされた。ジュレール・リーヴェンディの機晶キャノンの直撃だ。
「あっ!?」
 鷽が吹き飛んだとたん、アルマイン・デッドとトールマックがただのアルマインになって墜落した。クリムゾン・ゼロもただの機晶姫に戻って墜落する。
 少し離れた丘の上では、過負荷で灼熱した機晶キャノンが爆発して、深き森に棲むものが大破して擱坐していた。