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五月のバカはただのバカ

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第7章


「くそっ!! ちょろちょろするんじゃねぇっ!!」
 ウィルネスト・アーカイヴス(うぃるねすと・あーかいう゛す)は悪態をついた。
 街に出てみたところ、フェイク騒動に巻き込まれてしまっただが、自分のフェイクが道行く女性を泣き落としでナンパしようとしていたのを見て逆上したのである。

「新しい恋とか、そういう意味じゃねーよっ!!」

 と、のらりくらりと逃げる自分のフェイクに向かって光術を連発する。

「へっへーんだ、当らねーよバーカ!!」
 と、フェイクもまた口が悪いようで、お尻を叩きながら逃げていく。

「のやろっ!!」
 業を煮やしたウィルネストはファイアストームを放つが、身の軽い普通紙フェイクはひらりと飛び上がってそれをかわしてしまう。

 だが、そのフェイクは空中で消えてしまった。
「――っ!?」


 驚いたウィルネストの前に、一人の男が現れた。
 レン・オズワルド(れん・おずわるど)だった。その傍らにはパートナーのノア・セイブレム(のあ・せいぶれむ)の姿。

「苦戦しているな」
 と、レンは声をかける。二人は同じ冒険屋ギルドのメンバーだ。
 ウィルネストのフェイクは、飛び上がった隙にレンの銃弾がヒットし、似顔絵に戻ったのだ。

「まったく、やっかいなモンが暴れてるもんだぜ。俺のはたいしたことなかったけど、結構面倒臭い奴もいるみたいだぜ?」
 と、ウィルネストは言った。
「そうだな……。余裕があるなら、他のフェイクを回収しに回ってくれないか?
 特に依頼があったわけじゃないが……まあ放っとくわけにもいかないしな」
 レンの言葉に頷き、ペーパーの回収に向かうウィルネスト。
「ああ、じゃあまた後でな!」

 その様子を見送ったレンは、後ろの路地に声をかけた。
「さあ……そこに隠れている奴。そろそろ出てきたらどうだ?」


 その声に応じて、路地から一人の男が姿を現した。
 すらりとした長身、赤いコート、シャギーの銀髪。
 そして、瞳を覆い隠すサングラス。
「――そんな、ここまでそっくりだなんて!!」
 ノアを驚いた。そこにいたのは、レン・オズワルドのフェイク。
 その姿は、まさに瓜二つだ。
 フェイク・レンは、静かに口を開いた。
「――貴様、俺の名を言ってみろ」
 その言葉に、レンは応えた。
「俺のフェイクだろう、ならば名前はレン・オズワルド。それ以外にはありえない」

 だが、その言葉に反応したフェイク・レンはサングラスからサンダークラップを発動させた!!

「目からビィィーーームッ!!!」

「何っ!?」
 突然の攻撃を受け、レンはノアを庇って一歩引いた。
 どうやら普通紙のフェイクのようで、威力は大したことはない。
 だが、そのフェイク・レンは激昂した様子で叫んだ。

「違うッ!! そのような名前ではないわッ!!
 忘れたとは言わせない、この俺の名前をッ!!
 貴様が地球に捨ててきたその名前ッ!!
 このサングラスパワー100万の、サングラス強度は10、ダイヤモンド・サングラスのこの俺の名前をッ!!」
 どうやら色々おかしな設定が混在しているらしく、フェイク・レンは変なテンションで叫び続けた。
 だが、レンはその言葉の中に聞き逃せない単語があることに気付いた。

「レンさん?」
 ノアが見ると、いつも冷静なレンの手が震えている。
「バカな……地球に捨てて来た俺の名前だと……お前、まさかっ!!」
 レンの言葉に、フェイク・レンは叫ぶ。


「その通り、俺こそ貴様が地球に捨ててきた本当のお前、その名も『憂内 干斗(うれない・ほすと)』だあああぁぁぁっ!!!」


 その名前、本当に本名なのか。
 本人に罪はない。親出て来い、親。



「何と言うことだ……忌まわしい俺の過去が、まさかこんな形で……」
 レンが隣を見ると、ノアがいかにも笑いを堪えていますという顔をしていた。
「う……売れない……ホスト……」
「……ノア、言いたいことがあったらこっちを見て言ったらどうだ」
「……い、いえ……私は何も……」
 もうノアはレンの顔を直視できない。

「俺を無視するなぁっ!!」
 その様子が気に入らないのか、フェイク・レン――いや、憂内干斗――は曙光銃エルドリッジを乱射した。
「――おっと」
 さすがにフェイクと言えども、装備した銃の威力は変わらない。レンとノアは銃弾を辛うじて回避し、憂内 干斗と対峙した。
 昂ぶる憂内 干斗と対照的に、レンは静かな口調で語った。

「そうか……お前が、過去の俺だというのか……。
 ……すまない。だが、俺も最近までその記憶を失っていた。
 だが、見ればお前は普通紙のフェイク。まともにやればいくらなんでも俺たちが勝つだろう」
 その言葉は真実だ。憂内 干斗は、技術の面では確かにレン・オズワルドと同等のものを持っているが、所詮は普通紙で作られたフェイク。
 まともにやりあえば勝てる本物に道理はない。
「ふ……覚悟のうえだ。だが、俺はお前に一矢報いることができるなら……」
 しかし、その覚悟の言葉はレンによって遮られた。

「いいや……お前が俺だと言うならば、俺もまたお前。俺ならばそんなことでは満足できはしない――違うか。
 どうやらお前のサングラスパワーは100万パワーで、サングラス強度は10のダイヤモンド・サングラスらしいじゃないか。
 言葉の意味はよく分からないが、とにかくすごい自信だ。
 ならば俺と組め。俺と組んで街で暴れるフェイク回収に協力しろ。
 どうせ手に入れた力なら、その力……自分のためではなく人々のために使えばいい。
 今日は――俺とお前でダブルサングラサーだ」
 そう言って、右手を差し出すレン。憂内 干斗もまた、その手を取った。


「ちっ……仕方がないな。不甲斐ない俺を手伝ってやるとするか」


                              ☆


「あらライザ、そんなところで何をしているの? ――探したのよ」
 ローザマリア・クライツァール(ろーざまりあ・くらいつぁーる)は、保育園の庭で子供たちに囲まれている自分のパートナー、グロリアーナ・ライザ・ブーリン・テューダー(ぐろりあーならいざ・ぶーりんてゅーだー)を見つけて、声をかけた。
 グロリアーナは誰かと話していたのか、その相手を自分の背中に隠すようにして、ローザマリアを振り返った。

「い、いや別に? ここの子供達が外に出て行こうとしていたので――たまたま通りがかった妾が手伝っていただけだ」
 それを聞いたローザマリアもまた保育園の庭へと入る。
「ふうん? そんなに子供好きだったっけ? ――ってその人……」
 そこにいたのは、メガネを掛けて髪を下ろした自分だった。
「私そっくり……? いや、ライザそっくりというべき……?」
 もともと、ローザマリアとグロリアーナは瓜二つの顔をしたパートナー。その保育園の先生っぽい女性は、ローザマリアとグロリアーナにそっくりだったのだ。
 微妙に気まずそうに、グロリアーナは言った。
「ふ、ふうん……他人の空似、であろ。ほれ、世の中には自分に良く似た者が2〜3人はいるというではないか。現に妾とローザはそっくりなわけだし……それに、そんなに似てはおらぬよ」
 ローザマリアは、そんなグロリアーナと保母さんの様子を見比べて、聞いた。
「ねぇ、保母さん――お名前は?」
 その保母は言った。


「あ、はいっ! 今日だけ臨時で入ってる、ベス、です、よろしくっ!」
 と。


                              ☆