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貴女に贈る白き花 ~日常と戦いと~

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貴女に贈る白き花 ~日常と戦いと~
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第2章「それぞれの思惑、それぞれの考え」
 
 
 シャンバラ大荒野を通る街道。襲撃事件が起きた場所から少し離れた地点に、事件を解決する為に来た者達が集まっていた。
 ――その数、およそ八十名。
 
「輝、お前も来てくれたんだな」
 大勢が集まる中、篁 大樹神崎 輝(かんざき・ひかる)の姿を見つけた。二人は友人で、高等部に進学した四月からもクラスメートとして仲良くしている間柄だった。
「大樹君に頼まれたら放っておけないからね。それに捕まった人もいるんでしょ? なら急いで助けないと」
「あぁ、一緒に頑張ろうぜ! どうやって動くかは兄貴達次第になるけど……」
 二人が篁 透矢(たかむら・とうや)の方を見る。その周囲にも、彼から連絡を受けてやって来た者達が集まっていた。
「皆、有り難う。特に朝斗は遠くから来てくれて、助かるよ」
「いえ、元々ツァンダに行くつもりでしたから。盗賊達が見境無く襲い始めているのかも気になりますし、僕達で何とかしましょう」
 天御柱学院に所属している榊 朝斗(さかき・あさと)が透矢に答える。その隣にいた大谷地 康之(おおやち・やすゆき)が元気良く朝斗と肩を組んだ。
「その意気だぜ朝斗! 俺達でふてぇ野郎共をぶっ飛ばそうぜ!」
「わっ!? ず、随分気合入ってるね、康之さん」
「当然! 皆の大事な日を台無しにするなんて許せないからな!」
 気合十分な康之。そんな彼が気付かないほど僅かな素振りで、朝斗は心の中でつぶやいていた。
(皆の大事な日……母親へ、か……)
 
「それでとーくん、呼ばれたのはいいけど、どう動くつもりなの?」
「人質がいるなら……迂闊な行動は取れないわね……」
 寿 司(ことぶき・つかさ)リネン・エルフト(りねん・えるふと)が尋ねる。予想以上に人数が集まっている事もあり、組織だった動きをしないと捕まった者達の安全は保証出来ないだろう。
「それに関しては俺よりも頭が回る奴を呼んであるよ……という訳で真人、そっちはどうなってる?」
 透矢が視線を向けた先には御凪 真人(みなぎ・まこと)がいた。声を掛けられ、話し合っていた二人の男と一緒にこちらへとやって来る。
「まだ決定打が無くて作戦として決まりかねている状態ですね……とりあえず、こちらで分かった事だけでも皆さんに伝えておきましょう」
 最初に源 鉄心(みなもと・てっしん)が口を開く。彼は教導団と連絡を取り、盗賊達の情報について調べていた。
「残念ながら現時点では盗賊達の正体は不明。ただ、キマクがエリュシオン帝国に占領された関係で、その周辺を縄張りとしていた盗賊団の一部が姿を消しているという情報もあったよ」
 それと、と鉄心が付け足す。
「今回の襲撃時にたまたま近くにいて、運良く逃げ切れた人がいたらしい。その人によると、トラックを襲っていた盗賊達の中に契約者の姿があった、という事だよ。最低でも二人」
 非契約者達だけならまだ人質の救出に注力出来るが、契約者がいるとなるとその対処にも気を配らないといけないだろう。
 更に肝心な問題があった。ユビキタスでこの付近の地形を調べていた匿名 某(とくな・なにがし)が頭を掻きながら報告する。
「トラックがどこに連れて行かれたのか、その手掛かりが今の所どこにも無いな。蒼空学園のコンピューターにアクセスしてみたが、街道の地図は入手出来たがその周辺まではデータが存在していなかった」
「目撃者もトラックが襲われた所までしか見ていないらしい。仮に相手が身代金も目的とするなら今日にでも犯行声明があるだろうけど、それを待っている暇は無いね」
 鉄心の言葉に皆が考えを巡らせる。
 ――その時、話を聞いていた者達の中から携帯電話の呼び出し音が鳴り響いた。その主である男はディスプレイに表示されている名前を見て、意外な顔をする。
「あれ、これって――」
 
 
 話は僅かに巻き戻る。
 トラックを襲撃した盗賊達が根城にしている廃神殿。その入り口では盗賊の頭領が、今回の為に雇った契約者達を前に笑みを浮かべていた。
「へへっ、さすがは辿楼院 刹那(てんろういん・せつな)イェガー・ローエンフランム(いぇがー・ろーえんふらんむ)達だ。こうもあっさりと成功するとはな」
「あの程度、造作も無い事じゃ。それより、きちんと契約は果たして貰うぞ」
「分かってるぜ。金はもう手下が用意済みだ」
「ならば良い。では、これで依頼は完了じゃな」
 刹那とイェガーの二人に報酬が渡される。その時、トラックから略奪品を運び出していた者から声が上がった。
「頭ぁ! 花に紛れて小っこい奴が隠れてやしたぜ!」
 盗賊の一人がラルム・リースフラワー(らるむ・りーすふらわー)の首根っこを掴んで連れて来る。ラルムは輸送中に荷台で花と会話をしていたのだが、いつの間にか眠ってしまっていた。丁度そこを見つかったらしい。
「……いぢめる?」
 宙ぶらりんの状態で身動きが取れないラルムが怯えながらそれだけを口にする。
「けっ、ガキの一人なんざどうだっていい。あいつらと同じ場所に放り込んどけ。それよりテメェらも準備しろ、もう一度獲物を探しに行くぞ」
「へいっ」
 積荷を運んでいた盗賊達が急いで神殿の中に入って行く。ラルムをぶら下げた盗賊もそれに続こうとしたが、イェガーそれを制した。
「私が連れて行こう。依頼は完了したのだから、後は神殿で好きにさせて貰う」
「お、おう……頭、宜しいんで?」
「あぁ、別に構わねぇさ。あの道を通るのは俺達を追う事も出来ない間抜け共だ。契約者の力が無くてもヘマはしねぇよ」
 
「あぁ〜ん、もう最悪! いくらベルでも多勢に無勢よ! おまけに契約者までいるし……」
 牢屋代わりに使われている部屋の中でオルベール・ルシフェリア(おるべーる・るしふぇりあ)が愚痴を零す。
 彼女はとある事情でトラックに同乗していたのだが、多くの盗賊、更に刹那とイェガー達との戦いに巻き込まれてしまい、こうして運転手と共に囚われの身となっていた。
「おにょれ盗賊共め……よりにもよってこんな日にっ」
 後ろ手に縛られ、身動きもとれずに悔しがる。そこに扉を開けて、イェガー達が入ってきた。彼女が連れている相手の姿を見て、オルベールが目を丸くする。
「ラ、ラルム!? いつの間について来てたの?」
「花に紛れて眠ってたんだってよ。抜けてんのか肝が据わってんのか、分からねぇ奴だねぇ」
 火天 アグニ(かてん・あぐに)が笑いながら言う。その間にイェガーはラルムをオルベールの方に放り投げていた。ただし、縛ったりはせず。
「……? この子を縛らなくてもいいの? ベル達の縄を解いて反撃するかもしれないわよ」
「貴様達二人だけで運転手を護りきる自信があるなら好きにするがいい。そうでなければ大人しくしている事だ」
「ちなみに盗賊達の半分はまた街道に行くつもりだが、もう半分は神殿に残ってるぜ」
「う……」
 自分達が脱出するだけなら不可能では無いだろうが、非契約者である運転手を連れて逃げるとなると話は別だ。特にイェガー達は炎使い。自分達が盾になったとしても、運転手への影響をゼロにする事は出来ないだろう。
「もっとも、縄を解く真似をしなければ私は関知しないがな」
 最後にそう言い残し、部屋の外に出て扉を閉める。歩き始めたイェガーの横で、アグニは軽薄な笑みを浮かべた。
「『縄を解く真似をしなければ』ねぇ。あいつら、電話でお仲間を呼んじまうんじゃねぇの?」
「そうなった所で私は構わんよ。それに……既に契約は完了しているからな」
「後は自分の楽しみの為に、ってか。ハハッ、いやー、俺らってば実に不誠実な傭兵さんだなぁオイ。んじゃま、オレと紅蓮道はちょっくら街道の方でも見に行くとするかね」
 
 
「おかしいわね〜。トラックはまだ来ないのかしら〜」
 ツァンダのとある広場。そこで師王 アスカ(しおう・あすか)はトラックの到着を待ち続けていた。
 目的は沢山のシルフィスの花。芸術家である彼女は広場や花屋の協力を取り付け、ここでフラワーアートの展示会を開く予定だった。
 既に他の花の設置は終わっているものの、母の日をメインテーマにしている以上シルフィスの花は欠かせない。その為の花が今日届く予定だったのだが……
「ったく、あの女悪魔……わざわざ運ぶのに同行しておきながら何をしてやがる」
 隣に立つ蒼灯 鴉(そうひ・からす)が舌打ちをする。確認の為の電話をかけようとした時、その張本人から電話がかかってきた。
「おい、女悪魔! お前何をやって――」
『何をも何も、大変なのよ〜!』
 
「えぇっ!? ベルに、ラルムまで捕まってるの? だ、大丈夫かしら〜」
「助けに行くにしても、今からだと時間が掛かり過ぎるな……っと、これか」
 オルベールから事件について連絡を受け、彼女達の身を案じるアスカ。鴉は既に各学校から救出の依頼が出ている事を確認すると、少し考えた末に、最近知り合ったある人物へと電話をかけた。
「アイツが依頼を受けてるかは分からねぇが……駄目元だ」