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貴女に贈る白き花 ~日常と戦いと~

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貴女に贈る白き花 ~日常と戦いと~
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第4章「獲物という名の狩人、狩人という名の獲物」
 
 
「頭! 丁度いい具合に獲物がいやがりやすぜ!」
 シャンバラ大荒野の街道付近。神殿から再び略奪の為に出て来た盗賊達の頭領の下に、偵察に向かっていた賊の一人が走って来た。
「一人でフラフラ歩き回ってる野郎と荷物を抱えたジジィ、それから商人の物っぽい馬車がいやしたぜ」
「ほぅ……トラックに比べりゃ小物だが、商人ならそれなりの物を持っていそうだな……丁度良い、全部纏めて頂くぞ!」
「おう!!」
 
「今、盗賊が走って行く気配がしたわね……そろそろ来るかしら?」
 手綱を握りながら、月美 芽美(つきみ・めいみ)が岩陰の向こうに消えた気配を追う。彼女と霧雨 透乃(きりさめ・とうの)はチャリオットを商人風に偽装し、盗賊達を誘き寄せる為の囮を買って出ていた。
「餌は十分、護衛も向こうにいる二人だけ。釣れる要素は十分だからね。よっぽど頭の良い奴が一緒じゃなければ食い付いて来るんじゃないかな」
「それで、来たらどうする? やっぱり最初はこのまま囮を続けるの? 透乃ちゃん」
「そうだね。後続が来るまで手加減しなきゃならないんじゃ面白くないし、それまでは他の人任せでいいんじゃないかな」
 盗賊達が来る方向とは反対側の岩場を見る。そちらには囮に食い付いた時に援護に入れるように、既に何人かが待機していた。
 その近くで和泉 猛(いずみ・たける)は一人、周囲の地質調査を行っていた。もっとも、これも盗賊達を誘き寄せる為の芝居ではあったが。
 岩や砂を調べ、何かをノートに書く。そうやってただの研究者に見せかける事で、こちらが無力な存在であると思わせようとしていた。
(……来たか。ルネ、後は他の者達と連携を。任せたぞ)
(はい、猛さん)
 精神感応で隠れているルネ・トワイライト(るね・とわいらいと)に連絡を取り、自身は向かってくる盗賊達を見据える。
(さて、まずは第一段階か)
 
「ヒャハハハ! ジジィ、そいつを寄越しやがれ!」
 荷物を大事そうに抱えて歩いていた老人、クライファー・ネル・アログリエ(くらいふぁーねる・あろぐりえ)目掛けて数人の盗賊達が襲い掛かってくる。クライファーはそのままいかにも重要な物を運んでいるかのように、護衛役である冴弥 永夜(さえわたり・とおや)凪百鬼 白影(なぎなきり・あきかず)の後ろに隠れる。
「おぉ、忍ぶ姿で来たというのに何と言う事じゃ……じゃが、これは大事な物。渡す訳にはいかんのじゃ」
「そんな上等な物なら尚更頂かねぇとなぁ!」
「やらせる訳にはいかぬ。その為にわざわざ護衛まで連れて来ているのじゃ。坊や達、頼んだぞぃ」
「任せてくれ爺様。……白影、手筈通りに」
「えぇ、分かっていますよ」
 永夜が刀を、白影が銃を抜いて構える。そして襲い来る盗賊の一人を弾き飛ばし、地面に倒れた所にライトニングブラストを撃ち込んだ。
「あ゛だだだだ」
 電撃を受けて痺れる盗賊。それを見た他の盗賊達は、数で圧倒しようと一斉に囮となった者達に襲い掛かった。
「オラァ! 生意気な事してんじゃねぇ!」
 
「よし。第一陣、行くとしよう」
 戦闘が始まったのを確認し、朝倉 千歳(あさくら・ちとせ)が小型飛空艇ユースティティアに乗り込んだ。日本の白バイを模した機体がサイレンを鳴らしながら浮上し、盗賊達の注意を引く。
「な、何だありゃ?」
「そこまでだ。強盗の現行犯、判官として見過ごす訳には行かない」
「チッ、ジャスティシアか。丁度パトロールに当たっちまうとはな。まぁいい、一人くらい増えた所でどうって事はねぇ」
 一瞬立ち止まったものの、再び動き出す盗賊達。そこに、サイレンの音を聞いて駆け付けたと見せかけて織田 信長(おだ・のぶなが)達が戦場に飛び込んできた。
「むむ、何事かと思えば賊が暴れておるわ。忍、我らで打ち払うぞ!」
「あぁ、行くぞ信長!」
 信長がバイク、ビッグバンダッシャーで駆け抜けながら炎を纏った剣を振り、桜葉 忍(さくらば・しのぶ)が天馬オーロラハーフで駆けながら片刃の大剣型光条兵器、ブレイブハートを取り出す。
「火龍の咆哮……受けてみよ!」
「勇敢な心……その名は伊達じゃ無い!」
 二人はそれぞれ一人だけを打ち倒して反対側へと駆け抜ける。まだ全力を出す時では無い。倒すのは少しずつで十分だ。
 
「はっ!」
 猛を護るようにして、ルネがサイコキネシスを使う。周囲の岩を飛ばす事で盗賊を牽制し、こちらへと近づけないようにしていた。
「くそっ、近寄らせねぇつもりなら、これでどうだ!」
 接近を試みていた盗賊の一人が業を煮やし、銃を構える。少し距離があるが、当たる危険性を考えさせる事で相手の攻撃を抑えるつもりらしかった。
「おっと、やらせる訳にはいかないな」
 猛とルネの前に無限 大吾(むげん・だいご)が飛び出し、龍鱗の盾を構えて銃弾を防ぐ。普段から盾による防御重視の戦いをする大吾にとって、誰かを庇いながらの戦いはお手の物だった。
「すまんな、助かる」
「いえいえ、せっかく囮を買って出てくれたんですからちゃんと護りきらないと」
「ならばその役割は果たさんとな……ルネ」
「任せて下さい。これで!」
 大吾の陰に隠れたまま、サイコキネシスで飛ばした岩で相手の銃を弾く。そのタイミングに併せ、今度は大吾が巨大なハンドガン、インフィニットヴァリスタを構えた。
「銃での牽制は……こうやるんだ!」
 盗賊達の足下に銃弾が降り注ぐ。行動を制限された隙を突くように、大剣を構えた篁 大樹セイル・ウィルテンバーグ(せいる・うぃるてんばーぐ)が飛び出した。
「よし……行くぜ!」
「さぁ、新調したこの剣の威力、試させて貰います」
 セイルが加速ブースターを使用して奥へと突撃する。それを支援する為に近くの敵を弾き飛ばした大樹に、銃による援護を終えた大吾が走り寄ってきた。
「結構敵を引き付けられているみたいだね。このまま足止めを続けよう」
「あぁ……でも、加減って難しいな。手を抜いてるのがバレバレだと警戒されちまうだろうし……」
「細かい事は気にしない方がいいぞ、大樹君。下手に考えすぎて相手に感付かれるより、普段通りの戦い方をした方が――」
「私は大吾みたいに甘くはありませんよ……クククッ、虫けら共、貴様らに生き地獄を味わわせてやるぜぇ! ハハハハッ!!」
 戦闘モードに入ったセイルの人格が豹変し、大剣を思い切り振り回す。その一撃によって数人の盗賊が纏めて吹き飛ばされて行った。
「……大吾兄ぃ。本当に普段通りでいいのか?」
「ごめん……少しは考えて戦った方がいいと思う」
 
「メ、メイちゃん、瑠璃ちゃん……本当にやるの?」
「当ったり前だろ。あいつらが花を持って行ったなんて許せないし、ボク達も戦えば早く取り返せるかも知れないんだ」
「そうなの〜、悪い人は瑠璃が懲らしめるの〜」
 少し離れた岩場の陰。そこに隠れたメイ・アドネラ(めい・あどねら)紫桜 瑠璃(しざくら・るり)が遠くで戦う盗賊の武器に狙いをつけ、射撃のタイミングを計っていた。その隣にいるアレクサンダー・ブレイロック(あれくさんだー・ぶれいろっく)は禁猟区を使って周囲を警戒しているが、元々戦いが苦手なのでメイの裾を掴んでぶるぶると震えている。
「花はすぐに返して貰うぞ……当たれっ!」
「よ〜くねらって、どーん! なの〜♪」
 相手が止まった瞬間を狙い、銃から弾丸が放たれる。狙い澄ました一撃は相手の剣に命中し、その勢いで弾き飛ばす事に成功した。
「くそっ、どこから撃って来やがった……!」
 手の痺れを押さえながら盗賊が周囲を見回す。メイ達から注意を逸らす為、シエル・セアーズ(しえる・せあーず)がわざと言葉を投げかけて挑発を始めた。
「やーいやーい。私達みたいな女の子もまともに倒せないなんて、情けないわね〜♪ 盗賊団って、赤ん坊しか相手にした事無いのかしら?」
「なっ……!? このガキ、ふざけやがって!」
 弾き飛ばされた剣の代わりに懐からナイフを取り出し、シエルへと突撃する。
 次の瞬間、まるでアイドル達がステージ上で踊るかのような自然さでシエルと背中の神崎 輝(かんざき・ひかる)が位置を入れ替えた。そのまま輝が盗賊と交錯し、ソードブレイカーでナイフをへし折る。
「油断大敵、と。シエル!」
「うん! これで痺れちゃえ!」
 攻撃手段を失った盗賊に向けて雷術を放つ。感電した相手は走り込んだ勢いのまま地面に転がり、手足を微妙に痙攣させていた。
 
「随分と子供達が活躍してるな。俺達も負けてはいられないか……白河、そろそろやるとするか。『適度』にな」
「えぇ。見た目は派手に、実力は抑え目に行かせて貰いましょう」
 三船 敬一(みふね・けいいち)が銃を抜いたのに併せ、白河 淋(しらかわ・りん)が大きく跳躍する。そして頂点で栄光の杖を構えると、地面に向けて電撃を撃ち出した。
「どわっ!?」
 着弾点の近くにいた盗賊達が散る。更に淋は杖から炎を出し、盗賊の行く手を遮るように連続で放って行った。
「確かにこいつは派手だな。それじゃ、無力化させて貰おうか」
 敬一の二丁拳銃が火を吹き、逃げ惑う盗賊達の武器を次々と弾き飛ばす。二人の大立ち回りは相手の武器を失わせるだけに留まっていたものの、その勢いに騙された盗賊達はこちらの思惑通り、一人が携帯電話を取り出して神殿へと掛けようとしていた。
「おい! ジャスティシアののせいで余計な奴らが集まって来やがった。そっちにいる奴らを半分回――」
「ビンゴ、狙い通り!」
 相手の行動を予測していたルカルカ・ルー(るかるか・るー)が肉薄し、携帯電話を蹴り上げる。それを空中でキャッチしたカルキノス・シュトロエンデ(かるきのす・しゅとろえんで)が盗賊の声色を真似、少し慌てたふりをして続けた。
「い、いや、全部だ! こっちに来られる奴は全員連れて来い! あの馬車、凄ぇ物を積んでいやがる! 周りの奴らをぶっ潰せば丸ごと頂きだ。いいか、出来るだけ早く来るんだぞ!」
「な!? わざわざ向こうの奴を呼びやがる……って事はてめぇら、まさかあのトラックの仲間か!」
「さて、何の事だかな。それよりお前ら、俺達の庭で随分好き勝手してくれるじゃないか。荒野の掟……教えてやるぜ!」
 光翼を纏ったカルキノスが降下しながら如意棒を振り回す。更に地上にいたルカルカが双剣から光の刃を飛ばして次々と武器を吹き飛ばして行った。
「くそっ、てめぇらいい気になってんじゃねぇ! こっちには人質がいるんだ、また神殿の奴らを呼び出せばてめぇらなんて――」
 盗賊の一人が近くの小岩に隠れ、携帯電話を耳に当てる。神殿にいる者達が先ほどの言葉を真に受けたとしても、見張りすらいない状態にするほど馬鹿では無い。ならば見張りの者にさえ連絡がつけばこちらの勝ちだ。
 
 ――つけば、だが。

「な、何だ……!? 繋がらねぇ?」
 もう一度掛け直す。しかし繋がらない。もう一度掛けても、何度掛けても。ふと顔を上げると、二人の青年が目の前に立っていた。どうやら連絡を取るのに夢中になり過ぎて接近に気付いていなかったようだ。
「悪いが無駄な事だ。この辺りの通信網は掌握済みだからな」
 青年の一人、永夜が微笑を浮かべる。突如連絡が取れなくなったのは彼の情報攪乱によるものだった。
「増援を呼んで頂けたのなら、もう貴方達に手加減をする必要はありませんね。さぁ、このまま眠って貰いましょうか」
 もう一人、白影が銃を構える。この至近距離では逃げ場は無い。盗賊は携帯電話を取り落とすと尻餅をつき、そのまま後退りし始めた。
「ひっ!? た、助けてくれ……」
「すみませんね。自分は心が壊れていますから、貴方達が死んだ所で何とも思わないんですよ」
「やっ、止め――ぎゃっ!?」
 怯える盗賊に発砲する――が、それは先ほどと同じくライトニングブラストだった。電撃を喰らった相手はそのまま崩れ落ちるが、痺れているだけで命に別状は無い。
「……これで良いのですか? 永夜。随分と甘い気もしますけどね」
「そう言うな、白影。母の日のプレゼントを取り返すのに、血生臭い事は似合わないだろ?」
 戦っている中には、親と慕う者や世話になっている者に花をあげる為に頑張っている者達がいる。彼らが胸を張って花を贈れるようにと、永夜達は陰から支えて行くのであった。
 
 
(なるほどね、神殿の奴らを引っ張り出すって事は、今頃別働隊があっちに向かってるって所か)
 両者の戦いを見ていた火天 アグニ(かてん・あぐに)が相手の思惑に気付く。彼は他の盗賊達と一緒に街道までやって来たものの、戦いには加わらずにこっそり岩陰から見物をするに留まっていた。
(わざわざ通信にまで手を加えるとは、敵さんも中々やるねぇ。さて、本当なら一旦離れて神殿に連絡を取って別働隊の存在を伝えるべきなんだろうが……イェガーの望みはそいつらと戦う事だからな)
 情報攪乱の影響が無い所まで行くか、或いは直接神殿から出てくるであろう盗賊達と接触して向こうの思惑を伝えれば、神殿の守りを固める事で逆に相手を封じ込める事が可能だろう。
 だが、それではパートナーが満足出来る戦いを行えない。その為アグニは神殿に連絡を取る事はせず、自身もこちらでの戦いに適当に参戦する事を決めた。
(いやー、本当に俺らってば不誠実だねぇ)