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 エースとクマラが去った後、セルシウスはクロセルから説明を受けつつ、電子マネーの装置を見つめる。
「(それにしても、なんと高度な取引方法か。蛮族どもめ……やはり侮れん! ただの視察と考えていたが、こうなればエリュシオン帝国の更なる発展のために、ここの技術や手法を盗めるだけ盗んでやる!)……む!?」
「セルシウスさん、どうしました?」
 クロセルがセルシウスの視線の先に目をやる。
「あの女性は何をしているのだ?」
 セルシウスが指差した先には、小型の端末を持って商品の棚を回るセレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)とそのパートナーのセレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす) の姿があった。
「ああ、PoSシステムですね」
「ポス? 何だそれは?」
 首を傾げるセルシウス。クロセルは彼の胸に輝く若葉マークと、黙々とレジ打ちする小次郎を見比べる。
「(説明、お任せします)」
「(おk)」
と、即座にアイコンタクトを交わす両者。
「あれは商品の販売情報を記録し、集計結果を在庫管理やマーケティング材料として用いるシステムです。顧客のニーズに合った商品展開や複数店舗の管理を容易にするチェーン店には必須の技術ですね」
「どういうことだ?」
「昨日までの売上げや在庫を出し、商品の在庫を過剰にしないように発注する、というものです」
「……そうか。だが、それでは説明がつかない事があるな」
「と、言いますと?」
 セルシウスがおにぎりコーナーの傍のラックを指差すと、『シャケ』のおにぎりが山積みになっている。
「あれの説明がつかない。在庫過多の典型ではないか」
「……確かに」
 セルシウスとクロセルの会話を小耳に挟んだ、発注作業をするセレンフィリティが小声で愚痴る。
「だから、あたしがやってんのよ」
「セレン、イラついたらミスするわよ?」
と、棚の整理をしていたセレアナがセレンフィリティに声をかける。
「大雑把なあたしは、こういうチマチマした作業が苦手なの知ってるでしょう? セレアナ」
「それでも、ななな少尉よりマシだわ」
「そこと比べないでよ。あー、もう! 荒野のコンビニだから楽勝だなんて言ったのは誰よ! よりによって、あのデムパ少尉殿とは……」
 そう、今や電波系として周知の事実となったなななの面倒を見ているのはルカルカ達だけではなかった。店員のセレンフィリティとそのパートナーのセレアナ・ミアキスも同様であった。
 教導団でコンビニのバイト店員募集記事を見て、「荒野のど真ン中でコンビニって需要あるのかしら?」との好奇心からセレンフィリティ達は応募したのだが、すぐに頭を抱える事態に陥いっていた。シフトでの同僚があの「デムパ系」のなななだったからである。新入生でありながら階級だけは少尉殿のなななには、教導団の生徒たちからも「あの階級は賄賂?」「実は、やれば出来る子?」「そのうち治るよ!」等、大半の不安と若干の期待に満ちた憶測が飛んでいた事が思い出される。
「あちゃー、ついてねえ……」と心の中で呟きつつ、なななが変な事をやらかさないように警戒するセレンフィリティは、店の掃除やら商品の補充やら在庫の確認など、新入生でありながら階級だけは少尉殿のななながやったら絶対にミスしそうな細かい仕事を必死になってこなしていた。
 現在はなななのお守りはルカルカ達に任せているものの、レジでの接客でもなななが妙な事を言ったりして客とのトラブルになりかけた事もあった。勿論、彼女がさっと間に割り込んで未然にトラブルを防いだのだが、その裏では「客商売だから覚悟してたけど、どんな相手にも笑顔を浮かべるのがこんなに苦痛だとは思わなかったわ」と嘆いた事も当然忘れてはいない。
 既にお気づきかと思うが、『シャケおにぎり大量誤発注事件』の犯人はなななである。彼女は発注において『10』と押すところを、『100』と押してしまっていた。
 そのため本日は予め強引になななからセレンフィリティが発注業務を奪っていた。彼女は端末を捜査しながら溜息をつく。
「あーもう、荒野のコンビニだから客も少ないから仕事も楽だし退屈しのぎに強盗にやってくる盗賊やらパラ実生相手に大暴れできると思ってたのに! これじゃ全然楽できないじゃないの!」
「セレン、それはある意味、なななより酷いわよ?」
 パートナーに付き合わされる形でバイトを始めたセレアナが苦笑する。
 本来のセレアナのポジションはレジであるが、現在はセルシウスの登場により『避難と休息を兼ねて』商品の前出し(棚から補充する業務)に従事していた。突拍子もないことをする人間への対策は、パートナーのお守りですっかり慣れているはずのセレアナだが、なななはセレンフィリティとは別な意味でブッ飛んでいるので気苦労が絶えず。レジを打たせたら絶対に打ち間違いとか釣り銭の払い間違いとかありそうなので、なるべくなななにレジを打たせないようにしていたのであった。
「あ、チョコチップアイスが減ってるなぁ。あたし、これ好きなのよねぇ。50個頼んじゃおっか?」
「……セレン。バックヤードを無闇に埋めないでよ?」
 セレアナはやや疲弊した笑顔をパートナーに向けるのであった。