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 賊の襲撃を超えたコンビニ。
 昨日休んだ店長が昼のちょっと前にやってくる。
「なななな……何ですかこれはーー!?」
 そこには店の業務をエプロンを付けて手伝う盗賊達の姿があり、黎明華とエステルがそれぞれ思い思いに指導をしていた。
「いらっしゃいませ〜、スマイル100Gなのだ〜♪ はい、復唱なのだ!!」
「いらっしゃいませ〜、スマイル100Gなのだ〜♪ はい、復唱なのだ!!」
「違うのだ〜。復唱なのだ、はいらないのだ〜!! まぁいっか。次は黎明華の動きをよく見ておくのだ!」
と、キマク随一の頭脳派を自称する黎明華が華麗にレジチェッカーを担当する。
 スキル『シャープシューター』の効果(?)か、予想を覆し、細かい手打ち作業も万全なのだ〜。
「おお、すげぇぜ、姐さん!!」
 流れるような美しい黎明華のレジ打ちする手つきを見た盗賊達からも歓声が上がる……が。
「……あれ、どこまで打ち込みしたか、忘れたのだ。まあ、スマイル代プラスで合計1000Gなのだ〜? ……ってあれ、どこまでスキャンしたっけ?」
「……姐さん」
「黎明華ったらドジッ娘なのだ〜テヘッ」
「……」


 一方、隣でレジを打つエステルは盗賊達に開口一番こう言った。
向こうは向こう。私達は私達です?
 盗賊たちが何らかの決意を持って頷く。
「レジ打ちと、は基本はレジで接客を行います。どんなお客さんにも、たとえ相手が人間でなくとも、笑顔で応対をして下さい。また、お金を扱う仕事なので慎重に……」
 エステルがそう説明する間も、「一桁くらいの間違いは、黎明華のサービスなのだ〜!!」「姐さん!! いいんですかい!?」という危険なやり取りが聞こえてくる。
「……コホン、レジの打ち間違いやお釣りの渡し間違いをしないよう注意ですね? そして、お弁当を温めている際は、温め終わるまで次のお客さんの相手をします。温まったら、その次の人を相手する前に、お弁当をお待ちのお客さんにお渡しします。お客さんが続いて疲れてきても、笑顔だけは絶やさないよう努めて下さいね?」
「疲れた時は、こっそり裏でジュースを飲むのだ〜!」
「……『気持ちよく家にお帰りいただくまでがお買い物』ですから」
「ひゃっはあっ♪ 家で勝利の美酒を味わうのはこの黎明華なのだ〜!」
「……」
 おしとやかで礼儀正しく、気はあまり強くない。そんな、およそ戦いには向かない性格のエステルは、全く正反対の性格の自由人、黎明華にこの先も悩まされ続ける事になる。



 店長は慌てて警備員達の控え室へと駆けこんでいく。
「な、何ですか、アレはー?」
「あ、本物の店長だ」
 テーブルに座って、まったりくつろいでいた裁が顔をあげる。
 裁の普段着兼パイロットスーツの魔鎧のドールは翔と何やら熱く語り合っている。
「そういえば〜、翔さんも〜イコバトをやってるのでしたよね〜?」
「ああ」
「稼動部の強度がどうしてもでないのですよね〜?」
「いや、俺はこうやった方がいいと思うぜ」
 ドールがイコバトの話を始めたらそこにまざる山田。
「お、山田」
「やまだじゃねぇー! 俺の名はサンダーだぁぁぁ!」
 その後も彼ら三名は、
「ほー、そんなやり方もあんのか。俺はこういう風にやってんだけどよー」
「やるなぁ。俺はこうだぜ?」
「ああ、なるほど〜、そうすれば問題が解決するのですね〜?」
「まてよ? だったらそこをどうにかすれば、もうちょい機動力が確保できるんじゃねーか?」
「あ〜、そこのプログラムはですね〜?」
 等と、エンドレスとも思える程話を続けていた。
 ドールの魔鎧を普段着にしてるから場所を移すわけにもいかない裁は、イコプラ談義中はぼーっとしていた。なぜなら話についていけないからである。
 ふと、隣を見るとアリサも似たような表情を浮かべていた。
「男子ってなんでこういうの好きなんだろうね?」
「それがわかれば苦労しない。そなたも、私も……」
と、読んでいた漫画のページを捲る。
「何を読んでるの?」
「漫画。めぞん夜露死苦の3巻」
「裁さんも読まれますか?」
 ベアトリーチェが漫画を差し出す。
「いいの?」
 パリッとポテトチップスをかじった美羽が、同じく漫画を読みながら呟く。
「セルシウスさんとも漫画を楽しめたら良かったのにねー」
「仕方ないよ。美羽ちゃん」
 同じく漫画を読む理知がそう言う。
「あの人はあの人でこれから大変そうな感じだったもん」
「うん。確かにそうかもね。理知ちゃん」
 テーブルの上に顎を乗せた智緒が美羽と理知を見比べて、
「そう言えば、二人ともさっきまで何か争ってなかったっけ?」
 智緒の問いかけに美羽と理知は顔を見合わせて笑う。
 実は同年齢だった二人の間には、何事かがあったらしいのだが、それはベアトリーチェも智緒も、そして渦中の翔すらも知らないものであり、ただ、二人の間には奇妙な友情が芽生えていた。



 話はアポロトスが散ったその直後まで遡る。
 荒野をイコンのキングクラウンに乗ってコンビニから少し離れた場所をうろついていたのは、ナガン ウェルロッド(ながん・うぇるろっど)である。
「私腹を肥やせそうな機会がきたぜぇ!」
 ナガンのキングクラウンは妙なリヤカーをズルズルと引いており、その中には縄でグルグルに括られた盗賊の姿が見える。
 盗賊達はコンビニ攻防戦により傷ついた者達であった。中には、ナガンと戦おうとした者もいたが、そもそも一度は死力を尽くして戦い、そして負けた者たちなので、ナガン一人でも楽勝であった。
「お前らの敗因は動かないなら攻めより守りの方が強いって事を知らなかった事さ。つまり、次は自分達がコンビニを経営して間抜けな他の賊を誘い込んで襲えばいいんだよ?」
「俺達が店を……冗談じゃねぇ!」
「コンビニ自体が儲かったらそれでいいし、他の賊から金を巻きあげてもいい」
「うるせぇ! 俺達をどうするつもりだ?」
「さぁ……どうしよっかなぁ。しっかし、ナガンはてっきり蛮族と言えばパラ実だと思っていたがねぇ……」
 楽しそうに言ったナガンはキングクラウンを疾走させる。
 今、ナガンが向かっているのは、上空で散ったイコンから何か落ちていった場所である。
「お宝だったらいいけどなぁ」

「頭領!!」
「お頭ぁぁーッ!!」
 口々に叫ぶ盗賊たちを見て、ナガンが一言退屈そうに言った。
「なんだ。ジジイか……」
 そして、どうやらこの半分死にかけているジジイ(アポロトス)が、彼らの頭領だとわかった。
「(ならば、利用価値はあるな)」
 ただ、この怪我では放っておくと死にそうである。
「コンビニってのは、薬くらいあるかな?」
 ナガンはそう言って、アポロトスもリヤカーに放りこむため、イコンで彼を掴む。
と、そこに理知のグリフォンが上空から飛来する。
「アポロトス殿ーーーッ!!」
 グリフォンの掌に乗ったセルシウスが叫ぶ。
「(何だ? あのエリュシオン人は?)」
 ナガンのキングクラウンが持ったアポロトスに駆け寄るセルシウス。
「まだ、生きてる!」
「当たり前だ。死なせるか!」
「利用価値があるから」と、付け加えようとするより早く、セルシウスがナガンに頭を下げる。
「ありがとう!! 貴公は命の恩人だ!!」
「なっ……そ、そういう意味じゃねぇ!!」
「だが、これだけ盗賊達を捕らえて、貴公はどうするつもりだ?」
「ハッ……今度はこいつらにコンビニをやらせるのさ!!」
「他の賊をおびき寄せるために」と、付け加えようとするより早く、セルシウスが涙を流す。
「感動だ!! やはりこの地には蛮族などいなかった!!」
「……おい? そこのエリュシオン人。何か勘違いしていないか?」
 戸惑うナガンを尻目に、セルシウスはキングクラウンに何度も何度も頭を下げる。


「ナガン殿の慈悲深きアイデアが無ければ……私はアポロトス殿や諸君の処刑を即刻を帝国に働きかけていた事だろう!」
 コンビニの駐車場にて、セルシウスはエプロンを身に纏わせた盗賊達を前にそう声を張り上げた。
「ここで諸君は研修受ける。文字通り、生まれ変わったつもりで働いて欲しい!」


 話を聞いた店長は、白髪の随分混じった髪をかき上げて、引きつった笑いを見せる。
「つ……つまり、昨晩から今朝にかけて店を襲った盗賊を働かせている、と?」
「そうだよ!」
 裁が明るく元気に答え、青い顔をした店長はそのまま床に倒れていく。
 店長の苦悩の日々はここから数年間に渡って続いていく……。




エピローグ
 昨日に引き続いて再度店を訪れた祥子やアスカ、種モミじいさんからのコンビニ出店の誘いを「良い方向で考えさせてくれ」と笑ったセルシウスは皆に見送られ、アポロトスを抱えてエリュシオンへと戻って行った。
 セルシウスの力かどうかは定かではないが、彼の去った後、ピタリとシャンバラ国境店を襲う賊はいなくなったそうである。

 その後、エリュシオンの都市ユグドラシルに『クランマートユグドラシル1号店』が初出店。
 セルシウスはその店のオーナーとして、「皆が安心出来る店を目指す」と宣言。
 その店の店員には、シャンバラ国境店で修行を積んだ元盗賊達が入り、また技術指導としてシャンバラ国境店のアルバイト達が数名派遣され「国家間交流開始か!」として話題になったそうである。
 尚、1号店より半年後、賛否両論あった末、『クランマートユグドラシル2号店』は種モミの塔の1階にオープンし、その店のオーナーにはエリュシオンの土地権利書を持っていた祥子、店の内装をアスカが担当した事から、またも文化の違いで何か起きたらしいが、それはまた別の機会に……。

(終わり)

担当マスターより

▼担当マスター

深池豪

▼マスターコメント

 こんにちわ! 深池豪です。先ず、公開日が一日遅れました事をお詫び致します。ごめんなさい!
 二度目に満員御礼となったシナリオで、じっくり描こうと思ったら……気付けばまた結構なボリュームとなりました。
 皆さん、いかがだったでしょうか? 
 
 さて、今回のお話は、『クランマートシャンバラ国境店』を舞台に、エリュシオン人設計士のセルシウスと共にコンビニで働いたり、お買い物をしたりするというお話でした。
 私自身、コンビニで2年間バイトをした事があったため、懐かしい気持ちで執筆致しました。
 皆さんのアクションの方も、実にバラエティに富んだものでした。
 ここで、少しアクション判定についてお話しますと、
 私の場合、ダブルアクションまでは描写量及び時系列上でおかしくない限りは拾います。
 が、トリプル以上は流石に描写量の公平さから見ても拾う事はせず「無作為に二つ程選ばせて頂く」という手法を取っています。
 また、安易に『殺す』というアクションは基本採用しません(その場合は「気絶した」に置き換えられるか、無効化されます)。やはり、無名のキャラ相手でも「殺っちゃう」のはマズイというのが理由です。

 皆さんのアクションはそれぞれ個性的なものばかりでしたが、上記の理由からその一部を泣く泣く不採用とさせて頂きました。ごめんなさい!!
 ですが、私個人としては今回もまた皆さんのアクションに助けられて、楽しくリアクションを書くことができたと思います。

 今回の称号は、印象に残る活躍をしたキャラを中心に付けさせて頂きました。
 付いてないよ、と言う方は、私がいいネーミングが浮かばなかっただけです。すいません……。 
 それでは、またお会いできる時を楽しみにしております。
※7月1日 一部修正を加え、リアクションを再提出しました

▼マスター個別コメント