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 店の裏口では、店員の鳳明が輸送用トラックによる配送を行っていた橘 恭司(たちばな・きょうじ)と店員で搬入作業に従事していた。
「毎度【ゆる猫パラミタ】ですお届け物に上がりました!」
 トラックから荷物を降ろした恭司が、いつも眠そうな顔をキリッと引き締めて裏口の扉を開く。
「はーい」
 裏口を開け出てきた鳳明が素早く恭司から荷物を受取る。
「えーと今回は通販会社からの荷物ですね。ここにサインをお願いします」
「道中大変だったんじゃない? 今も店の前では警備員と盗賊が睨みあってるし」
と、サインをしながら恭司に話す。
「ええ。でもそれは深夜にバイトに入ってるキミも同じでしょう?」
「育ての親に仕送りしてる身としては、こっそりアルバイトもしてないとお金が……ね」
と、サインした書類を恭司に渡す。
「では確かにお渡ししました」
 ぺこりと頭を下げ、トラックに戻ろうとした恭司。
 だが、その付近で爆発音が起き、足が止まる。
「……」
「空京まで戻るのは大変だと思うけど、今は出て行かない方がいいと思うよ?」
 荷物を抱えた鳳明が呟く。
「そうだね。眠気覚ましのコーヒーでも買っていくかな」
「この状況でも寝れるんだ……」
「運転手やってれば賊くらいではビビってられませんよ?」
 以前にも配送中を賊に狙われた事があった恭司は、さも当たり前、といった顔をする。
「しかし、今度のは長引きそうだ。配達もこの店で終わりだし、週刊誌でも読んで時間潰すか」
「うん。そうした方がいいと思うよ? ……あれ? セルシウスさんは何処に?」
 キョロキョロと鳳明が見渡すと、別のど派手なトラックの前に立つセルシウスが見える。

「素晴らしい……」
 セルシウスがそう呟く前には、弁天屋 菊(べんてんや・きく)のトラック、移動劇場が停車していた。
「おまえ、見る目あるじゃん?」
 菊が愉快そうに笑う。
「これも配送用トラックなのか?」
「ああ。だが、真の姿は秋葉原四十八星華の移動ステージ、出虎斗羅さ」
「出虎斗羅?」
「小型飛行ユニットが搭載されてて、悪路でもホバー状態で安定走行ができるのが自慢なのさ」
「装飾だけではなく、機能性も兼ね備えるとは……」
 ライブの資金を稼ぐ為にバイトは欠かせない菊は、このトラックを使い食料の配達作業に従事していた。また、そこには弁当屋や調理担当をやってるための使命感もある。
「この出虎斗羅は、小回りは効かないがハンドル操作がダイレクトに伝わる。別に、騎乗動物での牽引でもいいんだけど、それじゃあ咄嗟の反応に遅延がでたり、動物自体が予想外の動きをする事も有り得るからね。その点、出虎斗羅なら、大事な物を大量に運ぶのに適してるんだよ」
「ほう……」
 チラリと運転手を見たセルシウスが、運転席の後ろにある神棚に目をやる。
「!!!!!」
 その神棚には、元七龍騎士セリヌンティウスの首が祭ってある。
「あ、あああ、アレは?」
「ああ、特に御利益を期待して祭ってる訳じゃないよ、ただアイツの男気に惚れたからってだけさ」
「(元龍騎士の加護を受けている。そういう煌きもあるのか)」
 セルシウスが出虎斗羅について、更に菊に詳しく説明を求める。
 周囲には爆音が響くが、もはや二人には届いていない。
 店員の雅羅がセルシウスを探して外へと出てくる。
「セルシウス店長代理! 例のお客が来ま……ヘブッ!!」
 ドテンと、扉の段差で躓き、顔面から地面にダイブする雅羅。
「おいおい、おまえ、大丈夫かよ」
 菊が雅羅を引き起こす。
「あー……何故私ばかりこうも酷い目に合うのよ……乗った乗り物は事故り、旅行に行けば雨に降られ、挙句に誘拐される……扉から出たらコケて鼻血を……」
「まぁ、トラブルに見舞われる人間なんて良雄とか他にもいることだから、おまえがへこたれないかが大事じゃない?」
と、運転席に置いてあったティッシュを雅羅の鼻に詰めてやる。
「そ、そうかしら?」
「パートナーと一緒なら乗り越えられるよ。そういや相棒て誰?」
 雅羅と菊の会話にセルシウスが割り込む。
「それで、私に何か用か?」
「あぁ、そうだわ。昼間、コピー機に忘れ物をしたって言う漫画家が来たのよ」
「む……昼間、詩穂に渡された漫画原稿の忘れ物は事務室に保管してあるな?」
「はい」
 鼻にティッシュを詰めた雅羅が頷く。
「よし、私が直々に返してやろう」
と、セルシウスは裏口からバックヤードへと向かう。
 尚、彼の後ろからは盗賊の数名が侵入を試みていたのだが、
「でぇいやぁぁー!!」
「うぉ!?」
 掃除用のモップを持った鳳明の奮闘により、その撃退が行われたのであった。