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リアクション
2.力強い仲間たち
公園の敷地内。不自然に人が集まる一角の中にいた結は、懸命に携帯電話を使ってメールや電話で友人に連絡を取っていた。数人は“協力する”と言う返事をくれたのでそれをウォウルに報告すると、再びその作業を繰り返している。
「さっきから携帯とにらめっこしてるけど、結ちゃん凄いねぇ……」
彼女の様子を見ていた鳳明は、感心した様に呟いた。と、戻ってきていたウォウルはそこで、突然声をあげた。
「あれは! あの子も知ってるぞ。うんうん、前、一緒に協力してくれた子だ。おーい!」
誰かを見つけたのか走り出すウォウルは、遠く一点を目指して走りだす。
「誰を見つけたんですか? 彼」
「さぁ……どうせ無理にでも引っ張ってくるんでしょうし、その答えは時間が解決してくれますわ」
直樹の質問に、ラナロックはやれやれ、と苦笑しながらどこからか持ってきた団扇で蛙を仰ぎながらに答える。
「私たち、これから何をするの?」
「それもわからないと思いますが?何せ此処にいる殆どの人が彼に理由も伝えられずに来てるわけですから」
セレアナの質問に答える真人と、木陰に座り、ぼんやりと辺りを見渡しているセレンフィリティ。セルファは何とかウォウルと接触しなくていいように木の陰に隠れていたが、ウォウルが去って行ったのを確認して木の陰から姿を現す。
「あの先輩、前もそうだったけど結局ギリギリまで勿体ぶんのよねぇ」
そんな事を呟いた彼女は、しかしすぐさま今までいた木の陰に再びその身を隠す。
「いやぁみんな、お待たせ。それにしても、本当にみんないい人たちだよねぇ」
「………」
どうやら直樹が先程出した質問の答えがわかる時が来たらしい。彼の隣には、ルクセン・レアム(るくせん・れあむ)の姿があった。彼女、何が何だかわからない表情を浮かべている辺り、また適当にウォウルに言われてこの話に乗せられた様である。
「えっと…事情がよく掴めないまま来たんだけど……結局何んだってのよ、先輩」
一応、程度に敬語で尋ねるルクセンだが、ウォウルは笑顔のまま何も返事をする事もなく、ただ彼女の横に立っているだけである。
「私たちもよくわからないで誘われた……みたいだから、わからないのよ」
「ウォウル君…」
直樹が思わず頭を抱えていたが、仕方がないとでも言いたげに立ち上がり、口を開いた。
「どうやらウォウル君、説明するのが面倒みたいだから僕が代わりに、わかっている範囲でみんなに説明するよ」
そう言って、彼は一同の顔を一度見まわすと、一度咳払いをしてから説明を始める。結と共に最初に聞いた話、何故ウォウルが人を集め、これから自分たちは何をするのか、その断片的な内容を。彼と同じ席で話を聞いていた結は、どうやら粗方友人に声をかけたらしく携帯を閉じていた。事情を知らない一同はその話を黙って聞いている。
それもあってか、彼の説明は順調だ。蛙とウォウルがあった時の事、そして彼が蛙に頼まれた内容。大まかではあるが概要を説明し終わった彼は、「ふぅ」とため息をついて話を区切った。
「なんだ、そう言う訳だったの。ま、なんだか面白そうな事だし――いいわ、協力してあげる」
直樹の説明でなんとなく事態を理解したルクセンがそう言うと、いつしか彼女の後ろに来ていたセレンフィリティとセレアナも頷きながらに口を開いた。
「要は、その祠にみんなで分担して行けば良いって事よね?」
「その程度で良いなら、協力してあげてもいいかしらね」
「全員此処に来た時点、協力しなきゃ、みたいな空気になってるけどね」
苦笑を浮かべる鳳明だが、今までと違い、大まかな目的を理解出来たらしく、その声は今までのそれとは違いってやや乗り気だ。
この時一同は概要を説明されたいた為に意識を直樹とウォウルに向けていた為に気付かなかったのだろう。急に、寝ている筈の蛙から声がした。
「かえうしゃん、だいじょううでうか……?」
「あら?」
突然の声だったからだろう、とは言えラナロックは別段驚いた様子もなく、声のする方へと向き直る。それに気づいた数名も、ラナロックが見た方向へと視線をやった。
小さな蛙が――また一匹。 林田 コタロー(はやしだ・こたろう)。
「あら、可愛らしい蛙さん。この子のお友達ですか?」
「こ、こた、かえうしゃんらけろ、かえうしゃんじゃ、ないれすお。こた、ゆうぞく」
ラナロックの質問に答えるコタローだったが、どうにも舌っ足らずの為に彼女は首を傾げた。どうやらコタローの言葉を殆ど聞き取れていない様である。
「……ところどころ聞き取れない箇所があるんだけど……」
「それもまた可愛らしいじゃないですか」
コタローの姿を見たセルファと真人がそう呟くと、結がコタローの前にしゃがんでにっこり笑う。
「もう一回、言ってもらってもいいかな」
「こた、ゆうぞく」
何故だか背伸びをするような動きで持って、コタローは懸命にそう言った。
「ゆう、ぞく?もしかして、ユル族の事かな?」
様子を見に来た鳳明が中腰の姿勢で覗き込みながらそう言うと、コタローは数回ほど、肯定しているのだろう、首を縦に振る。
「そっか、ユル族だったんだ。えっと、お名前は?」
「こた。こたのおにゃまえ、こた」
「こ、こたちゃん?」
「こらこらコタロー、あんまりお邪魔しちゃあ駄目だろう」
コタローの言葉をなんとなく理解し、名前を確認する為にと呟くルクセンを余所に、新しい声が一同の元にやってきた。コタローのパートナーである林田 樹(はやしだ・いつき)である。彼女が一同の元にいるコタローのすぐ傍まで来ると、コタローは彼女を見上げて何かを述べ始める。
「かえうしゃん、くうしそー……。こた、たすけてあげたいろ」
「うん?……なんだ?お前いつからそんな友達出来た」
「まだ、おろもだちじゃないれう。でも、くうしそうだかあ、こた、たすけてあげたいろ」
樹とコタローのやり取りを面白そうに見ていたウォウルが、そこで二人の会話に割って入った。
「お姉さんたち、こちらとしては人手が欲しいんですよ。協力してくれるとありがたいんですけどねぇ」
「……あんたは?」
「僕ですか?ウォウルと申します。どうです、此処は一つ、人助けならぬ蛙助けと思って、この蛙を助ける手伝いをしてはいただけないでしょうか?」
相も変わらずにやにやと、にへつらいながらに一気にそう言ったウォウルは、以降彼女の答えを待った。樹は暫く考えるが、コタローも手伝いたそうな表情で彼女を見上げている。「仕方がないか」と、区切りをつけて、彼女は頷いた。
「良いよ。協力しよう」
「わぁ、こた、がんばう!」
目の前の蛙を助ける手伝いが出来るのがよほど嬉しかったのか、コタローがそう言って飛び跳ねた。そしてそのまま樹に飛びつき、彼女が持っていた袋の中に入って行く。
暫くその袋ががさがさと動き、思わず一同が不思議そうな顔で袋を見つめた。
ひょっこりと顔をだし、再び袋から飛び出たコタローの手には、ゾウさん如雨露が握られている。
「こた、おみじゅ、いれてくうでう」
それを手に、コタローは近くの蛇口へとかけていく。
「おーい、一人じゃ水出せないんだろ?待ちな」
慌てて後を追う樹を見送った一同の顔には、思わず笑みがこぼれている。と、遠くから数名の塊が、彼らの方目掛けてやってきた。
「あれ、あれって……」
結が指を指してそう言うと、一同が一拍遅れてそちらを向いた。歩いてきていたのは、エヴァルト、豊和、柚、三月、美羽と雅羅を背負っているベアトリーチェ。
「ヤッホー、みんな!」
相変わらず元気な様子で声を上げる美羽と、笑顔で会釈をするベアトリーチェ。エヴァルトは別段表情を緩める事はなく、ただただ会釈をするだけだ。彼らの後ろに控える柚、三月、豊和は、予想以上に集まっている人だかりを見て言葉を呑み、恐る恐る近づいてくる。
「うーん? これはまた、お久しぶりな人たちだけど……」
「何で雅羅、ベアトリーチェにおんぶされてんのよ」
ウォウルが首を傾げ、その続きをルクセンが呟いた。
「向こうの方で、『美の伝道師』って言う方が突然現れて――その……」
ベアトリーチェが説明をしようとして口ごもり、故にエヴァルトがその言葉の続きを述べる。
「服を着ず、叢から突如としてサンダースさんの前へと現れた誰かを見て、彼女が失神してしまったんだ」
今まで公園にいた一同が思わず絶句し、ウォウルがケラケラと笑った。と、ようやく一同の近くに到着したベアトリーチェが背負っていた雅羅を蛙の横におろし、寝かせてやる。
「改めまして先輩、皆さん。お久しぶりです……あっと、初めましての方もいらっしゃいますね」
ほんわかと笑顔を浮かべたベアトリーチェが再び会釈して、挨拶をする。
「雅羅にも全然事情説明しなかったんでしょ、先輩。それじゃあ人集めるの、大変だよっ」
「あっはっは、ごめんね。僕とした事が、とんだうっかりさんだった様だね」
美羽の突っ込みにウォウルが笑う。
「えっと、随分慣れてるけど、数人は知り合いがいる、って事で良いのかな?」
様子を見て首を傾げる鳳明に、ラナが補足をする。
「前に一度、とある御嬢さんの為に皆さん集まって洞窟探検をした事があったんですの。その時にお知り合いになった方たちがですわ」
「へぇ、そうだったんだ。そりゃそうだよね。うぉうるさん……だっけ? あたしらも彼に声をかけられたけど、結構対応困るもん」
「そうよね、いきなりだったからね。でも慣れてる人たちもいるみたいだし……私たち以上に拒絶反応出てる子もいるし……」
セレンフィリティに続き、セレアナが木の陰に今もなお隠れようとしているセルファを見ながら苦笑した。
「……思ったよりたくさん人、いますねぇ」
「うん。結構ボクたちだけで多いと思ったけどね」
未だに人数の多さに驚きを持っている柚と三月はそんな事を言ってみる。と、笑いながら二人に近寄る真人。
「そんな事はないですよ。ウォウル先輩の持ってくる厄介事は結構人数が多くないと面倒ですからね。これだけ皆さんが集まれば何とか解決出来るでしょう」
「ホント厄介よ。寧ろ出来事よりも先輩が厄介だわ」
こっそりと真人に続いてセルファが呟く。一同はその様子を見て笑った。
「あの……貴方がウォウルさん、ですか?」
と、豊和が恐る恐るウォウルの近くにやってきて尋ねる。
「ああ、如何にも。僕がその、ウォウルさんだよ」
「いきなりで申し訳ないんですが、雅羅さんが困ってましたよ。何も事情を説明いただかないのは、やはり頼まれる側としても心配になりますし……」
「そうだね、それは反省しているよ。ごめんね」
「え、っと…僕に謝られても」
「ところで――」
あんまりに素直に謝るウォウルに困惑していた豊和の横から、今度は翔が顔を出す。
「人手がいる、と言う事で来たんですが、これから具体的に私たちは何をするんです?そこら辺を全く把握出来ていないのですが」
翔の言葉に思わず苦笑を浮かべるウォウルは、しかし参ったな、と言った具合に苦笑を浮かべた。暫く何かを考える様な仕草をした後、今来た面々、そしてこの場に集まっている一同に向けて、彼等、彼女等が聞こえる程度の大きな声で話を始める。
「皆が此処に集まってくれた事はとても嬉しいと思うよ、ありがとう。けど効率面を考えると、個別に説明する程に余裕はないと思うんだ」
「んー、確かにそうかも。今私たちに説明は出来るだろうけど……後からもし誰かが来るならその人に説明している時間、出遅れるよね」
「だったら一片に説明しちゃった方が、まぁ二度説明するよりは時間がかからなそうですよね。集まった後の話としては」
美羽とベアトリーチェが頷いた。
「私が呼んだ人たちが結構くるから、それまで待ってくれたら嬉しいかなぁ、って」
結はそう言うと、ちらりと携帯の画面を覗き込む。どうやらメールが届いていたらしく、すぐさま彼女は返事の作成に取り掛かった。
「ざっくりとだけ説明しておくと、すぐそこで横になっている蛙君の希望で、みんなには雨を降らせる手伝いをしてもらいたいんだ。雨が降る、と言う確証はないけど、それでも蛙君曰く、その方法がこの公園にあるらしい。細かい説明は、その後で」
どうやら彼の、そして彼女たちの言葉に多少なりとも納得したのか、一同は返事をすると、再び雑談を始めた。
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