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第16章 乙女たちのアイス☆小作戦

 百合園女学院推理研究会。それはパラミタに潜む様々な謎を、冴えた推理で瞬時に解決する、灰色の脳細胞の持ち主の集団である。
 基本的に校外での活動を主体としているため、百合園女学院の名を冠してはいるが他校生及び男性でも入会可能な組織であり、その人数は地球人・パラミタ人を合わせて26人に及ぶ。
 そんな推理研メンバーが集まる部屋、テーブルの上に1台のオープンリールのカセットテープデッキが置かれていた。
 推理研の代表であるブリジット・パウエル(ぶりじっと・ぱうえる)がカセットテープを再生する。
『……おはようエンジェル諸君』
 デッキから聞こえてきたのは、カリギュラ・ネベンテス(かりぎゅら・ねぺんてす)の声だった。「パウエル君」と言わなかったのは、部屋に集まっているメンバーが女性のみと知ってのことだろう。
『この頃の暑さは地球人・パラミタ人を問わず熱中症に陥れるほどの強力なものだ。十分に体温の管理を行わなければ、どんなに体力に自信のある若者でもたちまち暑さにやられて倒れてしまうだろう。かく言う私もその1人になりかねない。
 そこで君たちの使命だが、私を涼しくするために、私がおいしいと思うアイスを今日の昼までに、ヴァイシャリーの高台にある公園に持ってくることにある。
 言うまでもないことと思うが、諸君らメンバーが暑さにやられ、熱中症で倒れたとしても、当局は一切関知しないからそのつもりで。
 その代わりと言っては何だが、特においしいものを持ってきた者にはご褒美を授けよう。
 なおこのテープは自動的に爆発する。諸君の健闘を祈る』

 どっか〜ん!!!

 カリギュラの声が聞こえなくなって数秒後、カセットテープデッキは派手な音を立てて爆発した。
「……カリギュラのくせに、味な真似をしてくれるじゃないのよ」
 最も近くにいたブリジットが爆発の恩恵を受け、全身を黒焦げにしていた……。

「これ知ってますよ『スパイ小作戦ごっこ』ですよね。私、1度やってみたかったんですよ。でもなかなか言い出せなくて……」
 ブリジットのパートナーである橘 舞(たちばな・まい)が爆発したデッキを見ながら実に楽しそうな声をあげる。
 誰が発案したのか、推理研のメンバーで「スパイ小作戦ごっこ」で遊ぶという話になり、その指令者役としてカリギュラが選ばれた。いつどのような時に指令が下されるのかは誰も知らず、特に舞はこのゲームで遊ぶことそれ自体を知らなかった。
「にしても、またおかしな遊びが流行っておるものじゃのう」
 そして金 仙姫(きむ・そに)に至ってはそもそもゲームの存在そのものを知らなかったらしい。
「ふん、カリギュラのくせに私に指令とか生意気だわ」
「あはは、まあいいじゃない。クジで決まっちゃったんだしさ」
 推理研代表たるブリジットとしては、他人にこのような指令を出されるということそれ自体が気に入らないらしいが、カリギュラのパートナーである霧島 春美(きりしま・はるみ)がそれを抑えにかかる。
「ニャニャ、それで兄貴の指令だけど、これどうやって遂行すればいいのかにゃ?」
 春美のパートナーである超 娘子(うるとら・にゃんこ)が疑問を投げかける。それに答えるのはやはり代表だった。
「この指令の内容から察するに、まず第1にカリギュラ好みのアイスを持ってくること。『作れ』とは言われてないから、市販品でも構わないみたいね。第2に『特においしいものを持ってきた者には』ってところから、多分みんなで協力して1つのアイスを、じゃなくて、それぞれが個別で持ち寄るといったところね」
 要するに、カリギュラからのご褒美を賭けた、アイス持ち込みによるバトルロワイヤルである。5人それぞれがアイスを持ってきて、審査員であるカリギュラに食べさせ、それを評価してもらうという、いわば「争奪戦」だ。
「つまり、たった今、この瞬間から、私たちはライバルよ」
 ブリジットの宣言により、その場にいる全員の闘志に火がついた。
「そういえば、アレがまだ冷凍庫の奥にあったかのう。わらわはそれを持っていくか」
 早速とばかりに仙姫が立ち上がる。
「おおっと、おいしいアイスならニャンコも作って持っていくにゃ」
 負けてはいられないと娘子が勢いよく立ち上がる。
「では私も用意してきますね。自作は難しいので、買ってくることになりますけど」
 舞がのんびりと買い物の準備に取り掛かる。
「あらあら、そんな発想で大丈夫? 私は大丈夫、問題無いわ。ちょうど新作アイスの試作品があるのよ。あれならカリギュラも唸らせられるはずよ」
 自信たっぷりにブリジットが出かける用意をする。
「ふふ……、それこそそんなアイスで大丈夫?」
 だがさらに自信満々な人間がいた。春美である。
「お兄ちゃんの好みは私が一番よく知ってるのよ。つまり、その時点でこの勝負は私が有利……。舞さん、ブリジットさん、ソニさん、それにニャンコ」
 ゆったりと立ち上がり、春美はウィンクと共に、
「この勝負、もらったよ!」
「あら、これは負けていられませんね」
「ふん、マジカルホームズごときに何ができるってのよ」
「その自信がそなた自身を滅ぼさぬようにすることじゃな」
「にゃにゃにゃ、春美には負けないにゃ!」
 5人の乙女たちは、指令者からの褒美をかけて、今それぞれのアイスを求めて散らばった。

 水の町ヴァイシャリー。風光明媚なその土地には様々な観光名所とも言える場所が存在する。
 その場所は厳密には観光名所と言えるのかどうか難しいところではあったが、それでもそこから眺める景色は、まさに絶景と呼ぶにふさわしい。ヴァイシャリーの高台にある公園にて、日陰の下にあるベンチに座りながら、カリギュラは1人エンジェルたちの到着を心待ちにしていた。
(待つのは暇なもんやけど、やからこそこの時間が楽しみなんや。みんなどんなアイス持ってくるやろなー。あー、楽しみー!)
 期待のあまり、体が勝手に動いてしまう。幸いにして周囲に人はいなかったが、これを衆人環視のもとに行っていれば、その場で変人扱いされていたことだろう。高台に彼以外の客がいないことを、関西弁の守護天使は感謝した。
 そして待つこと数10分といったところか、ようやく最初のエンジェルが到着した。
「お、来た来た。一番乗りはブリジットやな」
 1位で到着したのはブリジット・パウエルだった。
「ふふん、わざわざパウエル商会の実家からいいのを持ってきてあげたのよ。感謝しなさい」
「おー、やけに自信たっぷりやないのー」
 ブリジットの実家である商家「パウエル商会」はヴァイシャリーの高級住宅地にある。そこでは彼女に従う者が、様々な商品を開発しているのだという。今回は新作アイスを開発していたらしく、その毒見、もとい味見役としてカリギュラを選んだのだ。
「聞いて驚け見て慄け、これがパウエル商会謹製の新作アイス、カエル肉粉末エキス配合カエル型アイスバー、その名も『ケロッPカエルアイスバー・スイカ味』よ!」
 そう言って取り出したのは、なぜかカエルの形をしたアイスバーだった。
「味は普通にスイカのアイスなんだけど、カエルの形をしているのと、カエル肉が入っているのがミソなのよね」
「……ちょっと待たんかい。何でカエルやねん」
 不穏な単語を耳にしたカリギュラが本当に慄く。
「うちがカエル商品出してるのは知ってるでしょ? だからよ」
「せやからってわざわざカエルの肉を放り込むか!?」
「別に問題無いわよ。そんじょそこらのカエルじゃなくて、ちゃんと食用に育てられたのを使ってるんだから」
「どっちにしたってカエル肉入れたアイスが売れる思とんのかいな!」
「つべこべ言わずにさっさと食べなさい!」
 食べる前に不平ばかり鳴らすカリギュラの口にブリジットがカエルバーを突っ込む。
「ほむぐ!?」
 持ってくる前は冷やされていただろうが、今は表面が少々溶けてしまったカエルバー――本当は氷術で凍らせながら持ってくるつもりだったが、この日に限ってうっかり氷術の心得を忘れてしまったのである――を口に入れられ、無理矢理咀嚼させられる。確かに口の中にスイカの味が広がるが、それとば別に広がるカエル肉の味がスイカ味を打ち消してしまう。カエルとスイカの最悪のデュエットが演奏され、カリギュラはそれに対抗するべく喉の奥から叫びをミックスさせる。
「あら、そんなにおいしかったの? それなら遠慮しないで飲み込んじゃいなさいな」
「むぐー!」
 もちろんブリジットがカリギュラの叫びの意味を知ることは無く、そのままぐいぐいとアイスバーを押し込んでいく。
 そしてそんなブリジットの耳に、聞きなれた声が飛び込んできた。
「ニャンコ☆ファイヤーモード、ダーッシュ!」
 それは【空京百貨店認定・スーパーヒーロー】こと、超娘子だった。
「にゃにゃ、ブリジットが先に着いたのかにゃー」
 先着だったらしいブリジットを見て、娘子は悔しそうに地団太を踏む。
「あら娘子。今カリギュラは私のアイスを味わってるところだから、ちょっとだけ待ってあげてね」
「おおう、兄貴は代表のアイスを食べてるのかにゃ。それなら待つにゃ」
 カエル味とスイカ味のアイスに悪戦苦闘すること数分、ようやくカリギュラはブリジットのアイスを腹に収めることに成功した。
「は、はー……、死ぬかと思た……」
 アイスの味についての批評はしなかった。というよりも、するだけの元気が無かったのである。
「にゃにゃ、兄貴、ニャンコのも食べるにゃ」
 娘子が言って差し出したのは、大型のバケツにたっぷりと詰まった、赤い色をした氷状の何かだった。
「……ちょっと待ったれニャンコ。何なんやこの生臭い物体は?」
「物体とは失礼だにゃ! これはニャンコ手作りのマグロシャーベットにゃ!」
 マグロシャーベットの作り方は簡単だ。
 まず材料として冷凍マグロを用意する。そのマグロを凍っている内にまず粉砕。
「うおりゃあーっ! チェストー!」
 それも得意の手刀で大まかに砕き、細かい部分は右手に装備したクローで粉々に砕く。
 たったこれだけである。
 冷凍マグロを1匹分丸々使用したためかなりの量となったが、
「ま、兄貴は大食いだから大丈夫。これくらいペロリにゃ」
 と、人間の胃の許容量を無視して用意したのであった。
「きっとニャンコのアイスが一番だにゃ。これでご褒美はニャンコのものなのにゃー。さあさあ兄貴、待ってる間にちょっと溶けたけど食べてくれにゃ」
「……イタダキマス」
 用意されたスプーンでマグロシャーベット――という名のマグロ肉の粉末を無理矢理口の中に放り込む。その味たるや、
「どう味わってもマグロです……」
 シロップやリキュールよりも、どちらかといえば醤油をかけて食べたくなるような代物だった。
 さすがにその生臭さに耐え切れなくなったのか、途中で食べるのをやめ、カリギュラはバケツを娘子に返した。
「にゃ、兄貴、もういらないのかにゃ?」
「あー、そぉやな。今はもうええわ……」
「どうしてだにゃ、まだこんなに残ってるのにゃ」
 不満そうに唇を尖らせる娘子に、カリギュラはゆっくりと言い訳をする。
「いや、この後他にもアイスが来るやろ? それを食べる前にここで腹一杯にしてしもたら、それを食べられへんなってまうんや。そうなったら審査不可能や……。うまいことご褒美は出されへん」
「にゃるほど、それはよくわかるにゃ」
 何とか納得してもらったカリギュラは、マグロシャーベットの生臭さからようやく開放された。
 だが彼自身の受難はこれで終わったわけではない。3番手として仙姫が1つのアイスを持ってやってきたのである。
「いやはや見つかってよかったぞ。去年の夏に韓国旅行に行ったときにな、ネタで買ったのだが、処理に困って冷凍庫の奥底に封印されておった1品じゃ」
 仙姫の手にあったアイスのパッケージには「キムチアイス『麻婆』」と銘打たれていた。キムチなのに麻婆である点についてはツッコんではいけない。
「待てい! そんなヤバいモン食えるんか!?」
 仙姫の解説に戦慄したカリギュラが思わず叫ぶ。
「市販されてるぐらいじゃし、食べられないことはないと思うんじゃが、わらわも舞も辛い物が苦手なので試食はしておらん。このあほぶりでさえも手をつけんかったな」
「さすがにそんな辛そうなアイスはいただきたくないわ……」
「いや、そぉゆう問題やのうてやな――」
「捨てるのもあれじゃし、カリギュラがぜひ食べたいというのなら喜んで進呈しよう。ちょうどよかったの」
 パッケージを開けながら仙姫はいかにも辛そうな、それでいて腐っていそうなアイスを差し出す。
「いやいやいやいやそれはさすがにやめとこうや! そらまあ市販品やから食えんことはないんやろうけど、1年も経っとるんやから、そぉゆうのを他人に食べさすのはいかがなもんかとボクはそう愚考する次第でございましてえええええええぇぇぇぇぇぇ!?」
 カリギュラの必死の弁解を聞かず、仙姫はそのよく動く口の中にアイスを突っ込んだ。
 そしてブリジットのアイスに続き、口の中の不協和音第2楽章が全力で奏でられた。
(か、辛い……! これは辛い……! アイスの甘さとキムチの辛さが変にケンカしとる……! っていうかこれ去年のやろ!? ナンボなんでも無茶が過ぎるで! つーかそれが原因やからこんな変な味になっとるんとちゃうやろな!? いや、それ以前に、何でみんな、こんな特殊なモンばっかり揃えるの……?)
 口の中でアイスの甘さとキムチの辛さと腐敗の酸っぱさとが最悪の不協和音をかき鳴らし、カリギュラはそれを腹の中に放り込まれることを強要された。
(こ、こらアカン。これはさすがに危なすぎる……!)
 少なくともこの3人にご褒美を発表するわけにはいかない、と決意するだけの威力を3人のアイスは持っていた。
 ここである意味救いになるかもしれない人物が到着した。春美である。
「お兄ちゃーん! お兄ちゃんの大好きなシロクマ持ってきたよー!」
 シロクマとは、彼女の地元名物のアイス「ポーラスターアイス」の俗称である。
「おー、春美―、よくぞ持って来てくれ……、いやちょっと待て、何やねんその量は!?」
 確かにカリギュラはこのポーラスターアイスが非常に好きであり、春美はそれを十分に理解していた。だが春美が持ってきたのは市販されているものではなく、大型バケツで作ったオリジナルだった。
 オリジナルといっても製法は市販のものと大して変わらない。新鮮な果物に水と練乳その他諸々、これらを適度に混ぜ、氷術で凍らせ、バケツから外したアイスを真空波で適当に削り、大型洗面器に乗せる。市販品の50倍はあろうかというそのサイズは、それを好物とするカリギュラを戦慄させた。
「だってお兄ちゃん大食いだし、これぐらいあった方がいいでしょ?」
「いや、さすがにアイスの審査という名目上その大きさは反則――」
「兄貴、まさか春美のは食べられてニャンコのは食べられないということはないよにゃ?」
 同じくバケツにアイス――というかマグロを詰め込んだ娘子も迫ってくる。先ほどは「食べ過ぎると審査ができないから後で」と言われて残されていたのだ。好物であるシロクマバケツサイズを食べるということは、カリギュラは自分の発言に嘘をついたということになる。
「……いた、だ、きま、す……」
 結局食べなければならないのか。カリギュラはそれらを地道に口に放り込むことにした。1つ助かった点があるとすれば、マグロの生臭さがポーラスターのおかげで多少は軽減されるということだろうか。
(確かに味はええ、せやけど多すぎる……! あー、それ以上に生臭いのもまだこんなに仰山……! こ、こらアカン……! 色んな意味でまずい!)
 マグロのまずさとアイスそれ自体の量により、カリギュラはだんだんと体力を奪われていく。それを示すサインとして彼の体は次第に震え、その目からは涙がこぼれ、守護天使が持つ羽が抜けていき、鼻血まで出るようになってきた。
「あれ、お兄ちゃん泣いてる? そんなにおいしかったんだー。私、一所懸命作った甲斐があったよー」
(ええ泣いていますとも。うまいから感動しているんですとも)
「あれ、震えてる? ああ、あまりのおいしさに感動してるんだねー」
(ええ震えていますとも。あまりの冷たさに体温が奪われているんですとも)
「って鼻血まで? まさに出血するほどおいしいってことなんだねー」
(ええ鼻血も出ますとも。文字通りの出血大サービスになっていますとも)
「ん、なんだか羽が抜けてるような……? 羽も月までぶっ飛ぶこの衝撃、ってやつなんだねー」
(ええ羽も抜け落ちますとも。どう考えても危険信号ですとも)
 もはや口に出してツッコむ気力は奪われ、カリギュラはひたすらアイスとマグロを口に放り込む機械と化していた。
「あら皆さん、早かったんですね」
 その声にブリジットたちが振り向くと、日傘を差してのんびりとやってくる舞の姿が見えた。
「って、すごい量のアイスですね。それだと同じ味しかしないんじゃないんですか?」
 舞のその質問にカリギュラは頷くだけで答える。確かにさっきからポーラスターとマグロしか食べていない。カエル&スイカアイスの味もキムチアイスの味も忘れてしまった。
「では私が持ってきたのも食べますか?」
 言って舞が差し出したのは、レディースハーケンというメーカーの作った抹茶アイスだった。
「私これが好きなんですよ。濃厚で、それでいて決して甘すぎず苦すぎない。この絶妙なバランスは誰にでもお勧めの1品ですよ」
 地元の京都に戻れば他のご当地アイスを勧めるところだったのだが、さすがにパラミタから京都にまで買いに行くわけにはいかない。
 舞はまずヴァイシャリーのアイス店に行き、カリギュラの分と、自分を含めた全員分のアイス――春美にはレディースハーケンではなくポーラスター――を購入し、袋にドライアイスを入れてもらってからこの高台にやってきた。到着が最後になったのは、道すがら馴染みの野良猫の相手をしていたのが原因である。
 カリギュラは何も言わずに舞のアイスに手を出した。だが今の彼の体調はほぼ最悪といってもいい。カエル肉を食わされるわ、マグロを食わされるわ、1年前のキムチを食わされるわ、大量のアイスを食わされるわと散々である。いくら契約者といえど、これで体調が崩れない方がおかしい。
 舞の持ってきたアイスはこれまでの中で最も「まとも」なものだった。市販品である分余計な細工がされておらず、また量もちょうどいいものだった。だが今のカリギュラにその味を理解することはできなかった。今の彼の状態を文字にするならば、まさに「満腹にうまいもの無し」といったところだったのである。
「はははー……。おいしいなー……」
 それがカリギュラの断末魔だった。
「あれ、お兄ちゃん倒れちゃった」
「さすがに、食べ過ぎたのでしょうか……」
「まあカリギュラのことだし、少ししたら元に戻るでしょ」
「そうだにゃ。兄貴は無敵なのだにゃ」
「……ところで、指令で言ってた褒美とは、一体なんだったんじゃろうな」
 当の指令者が倒れた今となっては、仙姫の質問に答えられる者はいなかった。
 カリギュラからの解答は「この高台からの景色」という、シチュエーションによってはとてもカッコいい内容だった。だがそれを言う前に倒れてしまっては意味が無い。
「まあせっかくですし、ここでティータイムにしましょうか。皆さんの分のアイスもありますよ?」
 舞のその一言により、アイスの食べすぎで再起不能(リタイア)となったカリギュラ以外のメンバーが、市販品のアイスを楽しむこととなった……。