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神に捧げる奉納舞

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神に捧げる奉納舞

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ドタバタ逮捕劇

 会場の警護に当たっている真人、セルファ、トマスの組は首からカメラを提げているオタクっぽい集団を見つけた。
 集団の視線の先には色っぽい巫子と可愛らしい小さな巫子が出店の前で接客をしている。

「……次はあそこの……にしませんかね?」
「良いですな……には目が無くて」

 真人たちはそっと気配を消しながらオタクの集団に近づいて行く。
 集団のすぐそばまで来たトマスはスッと足を出して集団の一人を引っ掛けた。

「な、なにをするのだ。キミたちは……」
「すみません。友達がこのようないたずらをしてしまって」
「怪我があっちゃ大変だよ! すぐ手当てしなくちゃ」

 爽やかな笑顔であれよあれよと言う間に集団を会場の外へと連れて行ってしまう真人たち三人。
 会場の外まで連れてきた三人。真っ先にオタクたちの首に下げていたカメラを取り上げ破壊する。

「ぼ、僕の大事なメラ子ちゃんを〜!」

 カメラを壊された怒りで突進してくる集団。

「すみません、これも巫子さまを守る為です。サンダーブラスト!」

 一言謝罪をし、真人は集団に向けてサンダーブラストを放つ。
 それに続きセルファもランスバレストを決め、誰も動けるオタクの集団がいなくなる。
 トマスは動けなくなった集団を縄で縛りあげ、真人たちは集団を放置して会場の警護に戻って行った。

「あの方々、容赦ありませんでしたわね……」

 真人たちの襲撃の一部始終を見ていたクレア・シルフィアミッド(くれあ・しるふぃあみっど)は携帯を取り出しいじくりだす。
 画面には『怪しげな集団を、三名の警護者が収束』と打ち込められている。

「送信、と。稔の方はなにか手掛かりは掴めたでしょうか……」

 不安げに会場の方を見ているクレア。
 その時、ひと風の風が吹きクレアの髪を扇いでいく。

 神社の境内を芦原 郁乃(あはら・いくの)秋月 桃花(あきづき・とうか)が辺りに不審者はいないかときょろきょろしながら歩いている。

「不審者、変質者はいないかなー?」
「今の所大丈夫そうですわね」

 桃花の近くにある篝火の火が揺れた時、郁乃の視界に紫音たちに話しかけている青年、草薙 武尊(くさなぎ・たける)が入ってくる。
 武尊の隣には朱濱 ゆうこ(あけはま・ゆうこ)が立っている。

「変質者はっけーん! 女の子の憧れである職業の巫子さまを汚してたまるかー!」
「えっ郁乃様!? あれは……」

 桃花の制止の声より早く、郁乃は素早く針を武尊目がけて投擲した。

「ぐふっ」
「え!? た、武尊さん?」

 郁乃の投げた針は見事武尊に当たり、武尊はばたりと倒れる。ゆうこは倒れた武尊にあたふたと変な動きをしてしまった。

「どうだ! あっ巫子さまたち大丈夫ですかー?」

 郁乃と桃花が駆け寄る。倒れた武尊をアストレイヤが自らの太ももに乗せていた。

「これはお前が?」
「もちろん! 怪しいやつだったんで、私の針で」
「あなた、もう少しちゃんと考えてから投げぇや」
「えーと。ということは……」
「武尊は会場の警護をしていた者じゃ。わらわたちは巫子の護衛をしていてな」
「情報交換を我らとしていただけじゃよ」
「えぇ!?」
「郁乃様、ですから桃花が止めようとしましたのに……」

 郁乃の早とちりによる犠牲者、武尊に解毒を施し平謝りする郁乃と桃花を武尊は勘違いは誰にでもあると許した。

「では、我はりんご飴でも探しがてら警護に戻るとするか。郁乃殿、これからはもっと慎重に事を進めるのだよ」

 武尊が去り、郁乃と桃花も紫音たちと別れた。

「あ、待って下さいよ。私を置いて行かないでください!」

 慌てて武尊を追いかけて行くゆうこ。
 紫音たちも巫子を追って人ごみに消えていく。

「あんな早とちりをする子も珍しいな」

 紫音は先ほど起こった郁乃の早とちりを思い出し、喉を震わせた。

「そうどすなぁ」
「おもろい子やったのぉ」

 四人が四人ともくすくすと笑っている。笑いが収まり、七ッ音の方を見ると和輝とスノーがわたあめとラムネを七ッ音に渡していた。
 そこにじりじりと近づいてくる不気味なアンデッド。

「紫音、あそこを見るのじゃ」

 ディクトエビルに感知したアンデッドを指さしたアルス。

「あれは……」
「いくぞよ、わらわに続くのじゃ」

 アンデッドに近づき、神の目を使うアルス。

「神の目は欺けないのじゃ」

 神の目でアンデッドに気付いたレティーシア一同。

「この場は我らが引き受けるのじゃ。貴公らは急ぎこの場を離れるのじゃな」
「わかりましたわ。すみませんが、この場はお任せします」

 レティーシアに連れられ、七ッ音は無事にこの場を離れる。
 周囲にいた一般人も慌てて散らばって行く。

「そんじゃ、行くぜ? 火之迦具土神の炎を喰らうがいい」
「火之迦具土神の炎を喰いなさいぇ」

 紫音と風花が同時にパイロキネシス使用し、アンデッドが炎に包みこまれる。
 炎に呑まれているアンデッドにアルスは止めとして天のいかづちを落とした。

「建御雷之男神の神鳴りを喰うのじゃ」

 落雷の光が収まるとそこには焦げ跡を残してなにも残っていなかった。

「アルス、若干威力が強くはなかったかのう」
「いいんじゃよ。巫子を守れたのじゃから」
「それもそうじゃな」
「さぁ、私たちは巫子を追いかけましょうかぇ」

 紫音たちはこの場を離れていた七ッ音を探しに人ごみに紛れていく。

 郁乃たちの暴動などが起きている時、オタク集団を成敗してきた真人たちが本部に戻ってくる。

「遅くなりました」
「僕たちが今度は本部からの警護になるから」
「変な人とかいたから、美緒さんたちも気を付けて警護に行ってね!」

 それぞれ思う事を言って美緒たちと入れ替わる。

「それでは参りますわよ」
「おう!」
「頑張っちゃうよー」
「頑張って来いよ。本部の方はこっちにまかせろ」

 美緒たちを見送った正悟だが、どこか気分が晴れない感じで会場を見渡す。

「このまま何も起こらずに守護地祇が降りてくれば良いんだけどな……」

 本部から見える位置にあるステージの上でルクセン・レアム(るくせん・れあむ)が舞を披露している。

 ステージから離れた、連なる屋台の一角。そこでレティシア・ブルーウォーター(れてぃしあ・ぶるーうぉーたー)ミスティ・シューティス(みすてぃ・しゅーてぃす)がモチーフのアクセサリーやりんご飴、かき氷といったモノを販売している。

「すみませーん。りんご飴ひとつください!」
「はい。どうぞ」

 ローゼ・シアメール(ろーぜ・しあめーる)がミスティにそう声をかけ、りんご飴を購入する。

「ありがと!」
「ありがとうございましたぁ」

 りんご飴を貰うと嬉しそうな表情でレティシアたちの屋台を去って行く。

「可愛い子だったねぇ」
「そうね。さ、レティ」
「なぁに?」
「もっともっと稼ぐよ! 売り子はレティなんだからしっかり客寄せをしないとだからね」
「わかってるよぉ〜」

 屋台の傍に置いてあるカートに屋台に並んでいる商品を乗せていくレティシア。

「じゃあ、行ってきまぁす」
「変な人に襲われないようにね!」
「はいはぁい」

 カートを押していくレティシア。

「りんご飴はどこなのだよ」

 りんご飴を探している武尊とゆうこが嬉しそうな表情のローゼとすれ違う。
 ローゼはチラリと武尊とゆうこを見るがそのまま歩を進めて行く。

「あ! あそこのカートでりんご飴が売られていますよ」
「売り切れる前に行くぞ!」
「はい!」

 レティシアの移動販売を見つけたゆうこがそう言うと、目を輝かせた武尊が駆け足でそちらへ向かう。
 ゆうこもそれに続くように走って行く。

「りんご飴はあるかね!?」
「え? あ、ありますよぉ」

 若干険しくなっていた武尊の表情に驚くレティシア。

「すみません、二つください」

 後から来たゆうこがそう言ってりんご飴を二個購入する。

「ありがとうございます。どうぞ、武尊さん」
「良いのか?」
「はい」
「ありがとな」

 ゆうこからりんご飴を受け取り、一口舐める。

「やっぱうまいの」
「そうですね」

 武尊とゆうこのあいだにほんわかとした空気が漂った。


 りんご飴を貰っていた時に見せたような表情とは打って変わって暗い笑みを浮かべたローゼはぽつりと呟く。

「そろそろ動き出す時、かな……」

 コーティングしていた飴から覗いているりんごをしゃくりとかじった。
 暗い笑みからまたすぐに愛らしい表情で歩くローゼは、祭りのガイドに見せかけた警護中の美緒の横を通り過ぎて行く。
 微かにモチーフの説明をしている話し声が聴こえてきた。

「丁寧な説明ありがとー! とっても興味深かったよ」
「そう言って下さって嬉しいですわ」
「ガイドしてくださってありがとうございます」

 美緒たちに頭を下げて人ごみに消えて行く母親とちいさな子供。

「さて、まだ警護の交代時間にはなっていませんし、もうひと頑張りですわよ」
「はーい」

 気合を入れ直し、次のターゲットを探していると、シリウスが老婆を連れてこちらにやってくる。

「美緒。悪いがこのおばぁさんが祭りについて聞きたい事があるんだと」
「わかりましたわ。連れて来てくださりありがとうございます」
「じゃ、リーブラの所に戻るから」

 シリウスを見送り、老婆の質問に丁寧に答えて行く美緒。美緒が説明している間、エースとクマラは周囲を隈なく見渡して警護に当たっている。
 説明が終わり、本部に戻ろうとした美緒たちに杜守 柚(ともり・ゆず)が声をかけてくる。柚の傍には杜守 三月(ともり・みつき)が立っていた。

「こんばんは、美緒先輩」
「あら、柚さんと三月くんではありませんこと」
「どうも、美緒先輩。会場の警備かなんか?」
「そうですわ」
「警護、大変そうですね。私たちもなにかお手伝いできませんか?」

 柚の尋ねに答えるのは美緒ではなくエースだった。
 クマラもそれに乗り、柚と三月を本部に連れて行く。美緒はその後をゆっくり進んで行った。

 美緒たちが本部に戻っている時、安芸宮 和輝(あきみや・かずき)安芸宮 稔(あきみや・みのる)は人ごみの中を歩いていた。

「稔、ここの地祇ってあなたの子供達の一人ってことはありえません?」
「どうでしょうか……私の正体と今後にも関わるのでしっかりと目に焼き付けたいとは思っていますが」
「それを知る為にも巫子の奉納舞は成功してもらわないといけませんね」

 こくりと稔は頷き、二人は人ごみに紛れた。

 美緒が幾人かの人々に祭りのあれこれを説明していくのに感心している柚と三月。

「美緒先輩、ずっと話しっぱなしでのど渇きません?」
「そうですわね。確かに少々喉が渇いてきたような」
「なんか適当に買ってきますよ。ついでにナルシとちびっこにも」

 三月がそう言うと、顔をひきつらせるエースと頬を膨らませるクマラ。

「オイラちびじゃないよー」
「ま、まぁ。ついででも買ってきてくれるなら良いか……」
「ごめんなさい。三月ちゃんが変なこと言って」
「いーって。柚ちゃんが誤る事じゃないから」

 エースが柚の頭を撫でると、三月はその手を払って柚を連れていった。
 十分も経たないうちに三月と柚がラムネとわたあめを手にして戻ってくる。
 三月がラムネを各々に渡した。ちなみに買ってきたわたあめは柚が食べている。

「柚、一口ちょうだい」

 柚の返事がくる前に三月は柚のわたあめを食べてしまう。

「三月ちゃん、聞いたからには相手の返事を待たないと」
「別に良いじゃん、柚なんだし」
「私だから良いとはどういう事よ」

 柚と三月の可愛らしいやり取りをほほえましく、美緒たちは見ていた。