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神に捧げる奉納舞

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神に捧げる奉納舞

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迫りくる陰の者

 ツタに絡まっていたローゼを、レティーシアは頑丈なロープへ巻き直して詩穂にロープの端を持たせた。

「さぁ、七ッ音さん」

 七ッ音を御神木の前へ導くレティーシア。
 カチカチに緊張している七ッ音にさゆみとアデリーヌは笑顔でリラックスするよう言って背中を押した。
 七ッ音は息を深く吐きだして祈りを捧げようとした時、絵梨奈が箱を片手に森から出てくる。

「ま、待って下さい……」
「あら、あなたはどちら様でしょうか?」
「えと……巫子さまが祈りを捧げる時に必要なモノを届けるように頼まれた絵梨奈と申します」

 おとおどと俯いたまま絵梨奈はそう答える。

「あら。祈りに必要なモノがあったとしてもそれを他者が持って来るなんて聞いたことないわ」

 警戒心をあらわにして絵梨奈を七ッ音の所へ行くのを防ぐレティーシア。

「でも……この箱を渡してきた人には、これがないと巫子はこの地の守護地祇に祈りを捧げる事はできない。と言っていました」
「それは誰かしら?」
「漆黒のローブを被った人にです」

 さらに追及して聞こうとしたレティーシアの後ろから七ッ音が出てきて、絵梨奈の傍にとととっと近づいていった。

「あの、これがあればきっと守護地祇に届くのですよね?」
「はい……そのように聞いています」
「わざわざ届けてくれるなんて、絵梨奈さんとオスクロさんにどのように礼を言えばいいのでしょうか……」
「いえ、お礼なんて……僕はただ届けるように言われただけですので」
「それでもお礼を言いたいです。ありがとうございます」

 絵梨奈が七ッ音に手にしていた箱を差し出す。その箱に不穏なモノを感じた詩穂は思わず大声で叫んでしまう。

「その箱にさわっちゃだめ!」

 叫んだ詩穂は袖に隠していた袖箭からサイドワインダーを発動する。
 放たれた矢が箱をかすり、詩穂の手からこぼれ落ちた。
 軽い音と共に箱のふたが弾みで外れる。中身は空っぽであったが、開けられた箱に触れている地面は不気味な音を鳴らして腐食していく。
 腐食していく地面を見て、レティーシアは七ッ音の傍に駆け寄る。七ッ音を後ろに庇い、敵意をむき出しに絵梨奈を睨む。

「やはりあなたが妨害者ではありませんか!」
「えっそ、そんな……僕はただ」
「ごめんね! おとなしくしててちょうだい」

 さゆみが驚いた表情の絵梨奈を取り押さえる。傍にいたアデリーヌは絵梨奈を軽蔑したような表情で見下ろす。

「……正直、あなたの濁りきって不味すぎる血を吸うのは気が進みませんが……仕方がありません」

 アデリーヌは不味そうな顔で絵梨奈の血を吸っていく。

「これだけ吸えば動けませんわね」

 ちらりとさゆみを見るが、頭を振って絵梨奈から離れる。
 アデリーヌの吸血行為により動けない絵梨奈に真剣な目を向けるレティーシア。

「あなた……巫子の七ッ音を襲ってまで何をしたいのです」
「ち、違います! 僕は巫子さまに必要だから渡してほしいとお願いされただけです」
「それは誰に?」

 絵梨奈はそれに口ごもるも、意志を決めたような表情でレティーシアを真っ直ぐ見る。

「それは……」
「死にやがれ!」

 絵梨奈の言葉にかぶさるようにオスクロが七ッ音めがけて突っ込んできた。オスクロのの手が七ッ音に届く前に、どこからともなくオカリナの音が聴こえてくる。

「……『信じる者は救われる』、と言う言葉を知っているか?」

 どこからともなく聞こえてきた声に、思わず突っ込んで来ていたオスクロも七ッ音を守ろうとしていたレティーシアたちも動きを止めてしまう。

 月に照らされ、サラブレッタ・スタリオン(さらぶれった・すたりおん)の背に乗っていた銀星 七緒(ぎんせい・ななお)が飛び降りてくる。
 七緒に続いてアインケル・シスパーダ(あいんける・しすぱーだ)ツヴァイリス・システイター(つう゛ぁいりす・しすていたー)も飛び降りる。

「通りすがりの……退魔師。銀星 七緒」
「アインケル!」
「ツヴァイリス……ふぁ〜……」

 華麗に着地すると格好付けて名を名乗る七緒たち。

「二人揃って……機晶双姫シーマイン! お呼びでなくても即参上!!」
「参、上……zzz」
「奉納祭を荒らす悪党共、あたし達が来たからには……って寝るなー!」

 アインケルが立ったまま寝ているツヴァイリスを叩き起こす。漫才じみた事していると、正気に戻ったオスクロが七ッ音に迫っていった。

「巫子には死んでもらう。地祇に祈りを捧げられては困るんだ」
「きゃっ……」

 立ちすくんで動けない七ッ音をすばやくサレブレッタは自分の背に乗せてオスクロから離した。

「巫女さん、しっかり私の背に捕まってて下さいね!」
「わ、分かりました……」

 七ッ音はぎゅっとサレブレッタにしがみつく。しがみついたのが分かったサレブレッタは一気に木の上まで登って行った。

「邪魔をしやがって……。巫子をこちらに渡してもらおうか」
「そうはさせるか!」

 サラブレッタを追おうとしたオスクロを、七緒たちが木の前に立つことで進路を防いだ。

「そこをどいてもらおうか」
「断る」
「なら力づくで行かせてもらうだけだ」

 一気に間合いを詰めたオスクロはアインケルとツヴァイリスをまとめて吹き飛ばした。

「アインケル! ツヴァイリス!!」
「俺は巫子を殺す為に生きてきた……今度こそ確実に息の根を止めてやる。そして地祇を」
「奉納祭や神を気に入らないのは、お前達の勝手だ」

 まるで呪詛を唱えるかのような話し方を遮り、七緒は超感覚発動させる。

「だが、罪無き者の『何かを信じる心』を踏み躙ろうとするお前達の行為を……」

 今度は七緒がオスクロに迫り、掴み掛かると真上に蹴り上げた。

「……俺は決して許さない。喰らいな! 『レンコルトルメンタ』」

 宙を飛んでいるオスクロに向かって鞭で竜巻のように滅多打ちにしていった。
 地面にたたきつけられたオスクロ。

「ぐっ……」
「追撃いくよー!」
「ボクの眠りを邪魔した事、後悔させてあげるんだから」

 叩きつけられた衝撃で起き上がっていないオスクロへ向かって、吹き飛ばされていたアインケルとツヴァイリスがライトブレードと機関銃で追撃をかまそうと迫りくる。
 そこへコトノハと夜魅がオスクロとアインケルたちの間に入って制止をかけた。

「待って下さーい!!」
「ちょっとどいてー!」
「ぶつかるー」

 勢いよく迫っていたアインケルとツヴァイリスはむりやり方向を変え、森の木々に突っ込んでいった。

「あいたた〜」
「痛みで眠気が飛んだ……」

 ぼろぼろになった状態でアインケルとツヴァイリスは戻ってくる。

「なぜ間に立つのです! 危ないですわよ」

 レティーシアがコトノハと夜魅を心配して怒った。それを笑って流してしまうコトノハと夜魅。

「大丈夫、ママに任せて」
「本当に大丈夫なんですか?」
「あ、玄さん久しぶりだね。うん大丈夫だよ」

 玄秀も若干不安げに夜魅に尋ねると、夜魅は自信に満ちた表情でコトノハを見ていた。

「ねぇ、巫子に選ばれなかったからこんなことをしているの?」

 起き上がったオスクロにそっと優しくコトノハは尋ねる。しかし、オスクロは何も話さず、サラブレッタの背に乗っている七ッ音を睨む。

「うちの子も選ばれなくて落ち込んでいるの。でも、祭式を成功させようと頑張っているのよ」

 聞く耳を持たなそうなオスクロに向かってなおもコトノハは優しく諭すように話を続ける。

「だから、あなたも巫子の奉納舞で与えられるご加護を感じればきっと……」
「勝手に守護地祇として奉っただけで加護を得る事が出来ると思ってるのか!?」

 今まで黙っていたオスクロが、言葉を荒げてコトノハを吹き飛ばした。
 風圧で被っていたローブが外れ、長い黒髪が露わになる。

「俺のかあさまを勝手に奉って拘束したのに貴様らは……なおもかあさまからモノを貰うのか」