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リアクション
「草の根っこがまだ残ってるな。アニス、リオン頼んだぞ」
基礎部分から植物を顔を出さないように、と佐野 和輝(さの・かずき)はパートナーの2人に根を枯らせるように言う。
「はぁ〜い♪」
元気よく返事をするとアニス・パラス(あにす・ぱらす)はアシッドミストでジュゥゥウッと除草作業を始める。
「定期的に草を取り覗くべきだろうか?」
ふと心配になった禁書 『ダンタリオンの書』(きしょ・だんたりおんのしょ)が首を傾げる。
「中には建物を覆うように育つのもいるからな」
「ふむ…見栄えも悪くなってしまうな」
「えぇ〜っ!?そんのやだやだぁあ!こーんなきれーな駅が、草で隠れちゃうなんていやっ」
エースがプリントした完成予想図を和輝に見せ、瞳に涙をためて言う。
「定期的に除草してやるしかないか…」
ずいぶんと長く関わることになりそうだ、とリオンが嘆息する。
「店が出来たらその後で、ゆっくり買い物とかしような」
「いーっぱい知らない人がいるのに!?」
和輝の言葉にアニスが目をまん丸くして大きな声を上げる。
「女の店員もいるかもしれないし…。頑張ってるアニスにご褒美だってあげたいしな」
少しでも少女の人見知りを直そうと、不安がある彼女の頭を撫でる。
「んん〜、和輝がそう言うなら考えておくよー…」
お買い物もしてみたいし〜、と悩みながら小さな声音で言う。
「すでに刈られているのはどうする?」
「まだ残ってる雑草と一緒に燃やしてくれ」
「了解した」
リオンは和輝に頷くと、禁じられた言葉をつむぎ、ファイアストームでゴオォオオゥウッと盛大に燃やし尽くす。
「雑草といえど、他の場所に埋めておけば肥料にもなりそうだからな。ゴミに出す手間もなさそうだ」
「こういうもので一番困るのが、廃棄物だからな。元々自然のものだから問題ないだろ」
「うむ、余すことなく利用せねばな」
燃やして自然に返すだけだ、何も問題はないと言う。
除草作業に数時間かかり、気づくと時刻はお昼の12時になっている。
「もうそろそろ皆来しそうだしな」
「たくさん来るの?」
「まぁ、これから基礎工事を始めるわけだからな」
「じゃあ、じゃあ〜ゴハン食べにいこーっ」
「ここで食べないか?」
「うぅ…ヴァイシャリーの別邸に戻ってからがいいよー」
まだ慣れない人に囲まれちゃったら怖いよぅ〜と、彼の袖をぎゅーっと掴む。
「いったん戻るか…」
「うん、そうしよう!」
不安そうな顔からパッと元気な笑顔に変わると、和輝の手を引っ張り、ヴァイシャリーの別邸へ走る。
「この範囲を掘ればいいのね」
3人が戻った後、イコン用に手配してもらったシャベルで、祥子たちは図面を見つつ地面をザッザッと掘る。
「僕はたまったま、契約者やけどなー。世の中、きちんと地道に動かしていくんは、おっちゃんにーちゃんらみたいな、フツーの民衆なんやぞー。心して、かかれー!」
現場中に響き渡るくらいに泰輔が大声を上げる。
彼の言葉のどこが気に入らなかったのか、集まった労働者2・3人が彼をギロリと睨んだ。
「言われたから来たんじゃない!」
「うちらに命令すんな、このハゲーーー!!」
「まぁ、まだ泰輔はハゲじゃないけど。誰にでも言える未来の頭の悩みだから、ケアーは必要だよね」
フランツはうんうんと頷きながら、トレーラーのハンドルを握る。
「ハゲちゃうし、そもそも未来も絶対ハゲたりせんし!きっと、永遠にふさふさだから!!」
彼の言葉に反応した泰輔は怒ったように声のボリュームを上げた。
「さっき空き缶だとか投げられたじゃない?その辺りがもしかして将来的に…。なぁんちゃってね。あっははは!」
「フンッ、俺にバーコードとか似合うと思うんか?似合わけないやろ、だからそうなるわけがないんや」
「えー…もしかして気にしてる?気にすると毛がー…ってよくいうし」
「細かいことを気にしたら負けやし。そんなフラグはスルーだっ」
「まぁ、いいや冗談だし」
反応が面白かったから、からかってみただけーっとケラケラと笑う。
「酷っ、なんて酷い子や…!!」
「せーんろは つづくーよー」
ムッと睨む彼の視線をシカトし、気分を醸し出すアイテムとしてタバコを咥える。
ヘルメットを被り、作業員のツナギを着た姿だ。
陽気な歌を歌いながら、すでに掘られた場所をトレーラーで締め固めをする。
「うわ〜……めちゃくちゃ暑いね。エンジンの燃料を節約したいから、冷房きっちゃってるけど」
トレーラーの中は外と同じくらい暑く、首にかけたタオルで汗まみれの顔を拭き、スポーツドリンクを飲み干す。
泰輔が連れてきた従業員はというと…。
「暇すぎ…」
と言い、トレーラーの上で、ぼ〜っと突っ立っているだけだ。
それもそのはず、白竜が“基礎工事など重要な箇所は、部外者に作業をお任せすることは出来ません”、と言い放ったからだ。
素性や人格もあまり分からないから、という点もあってのことだろう。
“レンガ積み作業くらいは少しお手伝いさせましょうか”、というふうに言われ、彼は待機させられている。
「基礎工事以外ほぼ人力みたいだからな。完成まで10日以上かかりそうだぜ」
獅子神 刹那(ししがみ・せつな)は掘り出された土を一輪車に乗せて退かせる。
「退かないと怪我するぞーっ!」
「な…っ!?あまり無茶をすると転んでしまうぞ」
勢いよく土を運んでる彼女にぶつからないよう避けたものの、コアは自身の身よりも彼女が転んで怪我をしないか心配して注意する。
「あんた、次あたいにそんなこと言ったら、そのケツ蹴ってやるからな!」
「―…なんと、そのような言葉づかいは…っ」
「ぁあ゛?何か文句でもあるのかっ!?」
「いや、ないが…」
女の口からケツなどはしたない…と言おうとしたが、本当に蹴られると思い黙っておくことにした。
「それにしてもあっちーなぁ」
刹那は肩にかけたタオルで汗を拭き、並みの女の5倍ものスピードで働いている。
「しかしながら、このままでは掘るだけで時間を取られそうですよ」
私たちも手伝いましょうと言い、羅儀と黄山に乗り込む。
「な、何か掘り過ぎじゃない?」
穴の外に積まれていく土の山を、モニターで確認する。
「図面によるとかなり深くほらなくてはいけないようです」
「途中で水とか噴出したりしないよね…」
「一応調べておいたので。建てた時に建物が傾く心配はありませんよ」
「いつの間に…」
誰に言われるでもなく、当たり前のように地質検査をしていた彼を、“いったい何者…”というふうな眼差しを向ける。
「必ずやらなければいけないことですし。建設地として決まっているエリアなら、許可も必要ないでしょう」
緩い地盤でもないから掘り始めても大丈夫だと思い、言わなかっただけだ。
それよりも話している時間があるなら、さっさと基礎工事に入ってしまったほうが、時間の短縮にもなる。
軍人として時間を無駄にしないことは当たり前のことだが、この作業についても同じようなことが言えるわけだが…。
レールの設置や列車の修繕などが完了しても、駅がなければ乗車にも困難で、そのような未完成な状態で乗り込むのはかなり危険である。
この駅舎を建設するためには、かなりの時間が必要で1秒たりとも無駄に出来ない状況だ。
「ん〜…まだまだ深さがたりませんね」
詩穂もシャベルで一生懸命に土を掘っているが、まだ踝ほどの深さまでしか進んでいない。
「駅舎の敷地にはイコンの操縦者がいるし、待合所の方手伝うか」
「ずーっと1人作業で困っていたんです。こっちに来てくれると助かります♪」
「1人ぼっちで働かせるわけにもいかないしな!」
ツルハシを手に光は土を破壊するかのように掘り進める。
「で、どれくらいの深さが必要なんだ?」
「図面によると、待合室は2メートルくらいですね。噴水の方は4メートル程度です☆」
「まぁ、駅舎ほどの深さじゃないからなんとかなるか」
「はいっ、3人で頑張りましょう☆」
「僕は手伝えないな。なぜなら、光が僕の分まで働いてくれるからさ」
手伝えないというより、手伝わないという態度で、ラデルは優雅に紅茶を飲む。
「あぁー…。はいはい、そうだろうな。ていうか、鉄道を作る機会なんて滅多にないのにもったいない!」
働かないなんてもったいないぞ!と、じりじりと照りつける太陽の下で、光はせっせと掘り進める。
ぽたぽたと腕から垂れる汗が土に染み込む。
「フフフ……もし将来子供が出来たら…」
「―…お子さんが出来たら、とは?」
怪しい笑みを漏らす光に、詩穂は興味津々な顔を向ける。
「もちろん、パパはこの鉄道作りに参加したんだぞー!って自慢出来るような、立派な鉄道を目指すんだぜ!」
「皆の“足”になるわけですからね☆」
「ああ……鉄道……開通したら、絶対乗りに来るんだ。ウフフアハハ!」
「鉄道大好きなんですね?」
「そう見えるか?」
「えぇ、見えます☆」
徐々に“鉄っちゃん”になりつつある光に笑顔で言う。
駅舎の敷地の方はというと…。
「ふぅ…インドラで来たのは正解だったわね」
祥子の働きもあってか祥子たちは、あっとゆう間に根切りを終えた。
「次は床付けか?」
ぺらっと図面を広げた刹那は手順を確認すると、大きなローラーを手にする。
「んんん〜っ、持ち上がらねぇぞ!」
「私が運ぶから一緒にやらない?」
「頼むぜっ」
「フフフッ、頼もしいわね」
人手が足りないのもあるが、率先して働く彼女の姿に、思わずそんな言葉が出てしまった。
「あぁ、もっと頼っていいんだぜ!掘った場所を締め固めすればいいんだよな?」
「えぇ、そうよ」
「よーし…きっちり真っ平に締めてやる、おりゃぁあああっ!!」
刹那はローラーをごろごろと転がし、根きり底を平滑にする。
「もうそれくらいでよさそうよ、割栗石と砕石を並べましょう」
作業しやすいように祥子がインドラで石をそこへ運んでやる。
「あたいが並べてやるから、祥子はイコンでこっちに持ってきてくれよ」
「えっ…そっちの方が大変じゃないの?」
「問題ねぇえ!あたいをその辺のか弱いのと一緒にすんなっ」
屈んでやらなきゃいけないし、疲労しやすいんじゃ…と言う彼女に、体力仕事なら任せろ!とてきぱきと並べる。
「向こうは気合が入りすぎというか…」
「えー?そうかしら。工事現場にいるんだし、当たり前じゃないの?」
2人が割栗地業・砕石地業を行っていると、コアとラブもライブの敷地へ石を敷き並べ始める。
「ふむ…そういうものだろうか」
パラミタ内海にいる女子といい、根性ある者たちが集結しているように思える。
「まぁ確かにちょっと大変だけど、こういう作業もたまにはいいわね♪私たちも負けていられないわよ、コア!」
「それはいいが…、なるべく隙間をつくらなように気をつけるんだぞ」
「私好みのライブ会場を造るんだもの!ミスなんかしないわ」
「(―……他の者が気軽に使えるものが出来ればよいが…)」
ラブの口から飛び出した“私好み”という単語に、また暴走して大変な造形物にならないか不安になってしまう。
石を敷き詰め、ようやく目潰し砂をその隙間に埋めるところまで進んだ頃…。
太陽がどっぷりと沈みかかっている。
「さぁーて、さっさと風呂入って晩飯食って寝るか!」
「今、20時か?よし、俺様は朝5時から始めるぜ!他の女子は無理しないで寝てていいからな」
ぐーっと刹那が背伸びをしていると、光は日が昇らないうちから作業を再開するぞ、と言い放つ。
「なにぃい!?だったらあたいは4時に起きるぞっ」
「フッ…。なら、俺様は3時に来るか」
「あたいだってまだまだ頑張れる!―…2時に」
「ストーップ!それ以上休み時間を減らしちゃうと倒れるわよっ。―…えっと、4時30分くらいに来ようね?別邸からここまで来るのに、時間もかかるから…」
ただの仮眠になっちゃうから!と、早起きしようとする2人を祥子が止める。
「仕方ねぇ…それくらいにしておいてやるっ」
チッと舌打すると刹那はヴァイシャリーの別邸へ戻る。
「はぁ〜…どうしてそんなに働くのが好きなんだ?僕にはまったく理解出来ないな」
「労働っていいものだぜ?」
「僕に似合うと思うか?汗まみれで働いてる姿なんて、想像つかないだろ。ていうか、絶対無理」
「―…ぁあ、知ってる」
当然のように言うラデルの姿に、どうせそう言うと思ったぜ、と光は嘆息した。
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