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太古の昔に埋没した魔列車…御神楽環菜&アゾート 後編

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太古の昔に埋没した魔列車…御神楽環菜&アゾート 後編
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 食事を済ませて風呂に入ってきた刹那は、設計の進み具合が気になり、静麻の様子を見に行く。
「よぉ、外壁の図面出来たか?」
「いや…まだだ。ひょっとして基礎工事はもう終わったのか?」
「駅舎の割栗地業・砕石地業は終わったけど、他はまだその途中みたいだぜ。コンクリを乾かす時間も含めると、まだかかりそうだな」
「あの人数でそこまで進んだのか…凄いな」
「祥子のインドラがいるしな」
 彼女のイコンのおかげでだいぶ進んだと静麻に報告する。
「これから発注するものもあるし、他の図面はまだ渡せそうにないな」
「そっちも大変そうだな。まぁ、お互い頑張ろうぜ!」
 そう言うと彼女は彼に背を向け、ふりふりと片手を振って部屋から出ていった。
 仮眠に近い睡眠を取った刹那たちは…。
「今日はコンクリ流すところまでやるぜっ」
 まったく疲れていない様子で、元気に基礎工事作業を始めた。
「捨てコンクリートの厚みは…5cmか。ん〜っ、よっと!」
「端を持ちますね」
 ひょいっと両手で持ち上げた刹那はクリュティ・ハードロック(くりゅてぃ・はーどろっく)と運び、割栗地業・砕石地業の上に敷く。
「1人だと持つのキツイか?」
「大きさによります」
「そっか…。軽そうヤツだけ運んでくれればいいぜ。思いのはあたしがやるからさ。2人で運ぶより、その方が早いしな」
「えぇ、そうさせてもらいます」
 重いものと軽いものを運ぶ担当を分けようと頷く。
「(イコンだと楽だけど、皆…大変そうね)」
 祥子は機体の手で捨てコンクリートを摘ませ、モニターで外の様子を見ながら敷き並べる。
「(今のところ大丈夫みたいだけど、頑張りすぎないか心配だわ…)」
 時々、工事現場にいる人々を画面に映し、無理していないか見る。
「ふぅ〜、やっと隙間の目潰しまで終わったかー」
「ずっと屈んでると腰にきそうだな…」
 よく頑張れるな…と、いつの間にやらやってきたラデルが、モーニングティーを飲みながら眺めている。
「ぜーんぜん平気だぜ。いざとなったら、湿布でもパーンッてはっときゃ直る!」
「湿布とかって、僕には縁のなさそうなものだな」
 フーチング基礎の型枠を組み立てに使う材料を、運んでいる光と詩穂を横目でちらりと見る。
 組み立て作業が終わる頃には日が昇りきり、じりじりと地上を照りつける。
「手で運ぶのはキツそうね、私がやるわ。先にお昼食べてていいわよ」
 熱くなっている鉄を持って火傷しないように、祥子がイコンでフーチング基礎と基礎立ち上がりの鉄筋を組む。
「気が利くじゃないか、百合園の校長!」
「うまそーっ、あぐっ!」
 光と刹那はタオルで手を拭くと、静香が用意しておいてくれたバーベキューの肉にかぶりつく。
「ナイフとフォークはないのか?」
「ちまちま食っても美味くないぜ、歯で噛み千切れよ」
「この僕がそんな品のないマネ出来るわけないだろ」
 パートナーの態度にラデルが顔を顰める。
「それならこにありますよ、どうぞ♪」
 テーブルに皿やフォークなどを詩穂が彼に渡してやる。
「ありがとう、これがないと食べられないからな」
 フォークとナイフで野菜や肉を串から外し、小さく切って口へ運ぶ。
「デザートまであるなんて幸せだわ♪」
 ふーふーと息で焼きフルーツを冷ましたラブが、はむっと食べる。
「こっち側に誰も食事を用意していないと思い、届けてくれたということか…?外で豪快にバーベキューとは、燃料補給にちょうどいいな」
 1串分食べきったコアは、スポーツドリンクを飲み干す。
「はぁ〜、もう腹いっぱいだーっ!おっ、鉄筋を組むところまで終わったみたいだぜ」
「これを流し込めばいいのか?」
 そろそろ生コンクリートでも用意するかと光と刹那がタンクいっぱいに詰める。
「駅舎以外の箇所も進めておいたから、よろしくね」
「おうっ、昼メシ食ってこい!」
 祥子にそう言うと刹那はホースを握り、フーチング基礎の型枠へドバババッと生コンクリートを流し込む。
 あっとゆう間にタンクの中が減っていき、作業が止らないように光が満タンにしてやる。
「建物というのは、正確に作らなければいけませんからね」
 白竜は型枠の上を歩き、手にしているアンカーボルトを図面を見ながら差し込む。
 メジャーで間隔を確認し、1mmも誤差を出さない。
「感でやれるのって、何度も建築経験のある職人とかだし」
 適当にやったら倒れちゃうから、というふうに言いながら羅儀がボルトを渡してやる。
「私たちはライブと待合室の方を進めよう!」
「はい♪」
 ラブと詩穂は2人でホースを持ち、型枠の中に生コンクリートを流し込む。
 コアの方はというと、タンクにコンクリを入れる役目を担当している。
「(溢してしまっては、破棄するのに困ってしまうからな…)」
 地面に溢れたそれが固まり、処理するものが増えてしまうからからだ。
 型枠に流し込んだコンクリが少し固まるのを待ってから、アンカーボルトの差込みを始める。
「コンクリが乾いたら、撹拌して空気を抜く作業な」
「この黒い点がある箇所ですよね?」
 つんと用紙を指差した白竜が静麻に聞く。
「俺がチョークで目印をつけておこうか?」
「そうしてくれると手間が省けそうですね。流れ作業でいきましょう」
 その工程まで進んだ頃には、薄っすらと見え始めていた月の顔が、しっかりと見えるようになっていた。
 担当者たちはライトを手に夜間工事を続ける。
 静麻がつけた目印を頼りに、頑丈な基礎にするために撹拌して空気を抜く。
「なんと…もうこのような時間になっているとは!」
 型枠の組み立てが終わる頃には、携帯の時間が深夜23時の時刻を告げようとしていた。
 コアたちが型枠はずしと埋め戻しの工程まで進むのに、真夜中の22時すぎまでかかってしまった。
 基礎工事の時に掘り返した土で丁寧に埋める。
「粘土になる成分とかあればよかったんやけどなぁ」
「リサイクルが難しいよね、土って。元素に分解しちゃえば何かに使えそうだから。とりあえずとーくに置いておくように、百合園の出資者に言われたんだけどね」
 余った土は泰輔とフランツが吉野丸に乗せ、駅舎のエリアから離れた場所へ置きに向う。
 結局、深夜3じ過ぎまでかかり、さすがに眠くなったのかヴァイシャリーの別邸で仮眠することにした。






「基礎工事が終わったから、いよいよライブステージを…私好みに!」
「(はっ、またラブが暴走を!?)」
 ギラリと目を輝かせてニヤつく彼女に気づき、ぱっと振り返る。

 そして翌朝…。

 いよいよ外壁の建築作業が始まった。

「静麻!設計終わったのか?」
「あぁ。何とか間に合ったみたいだな」
「大丈夫か?なんかすげー眠そうだけど」
「あはは…まぁ、まだ平気だ」
 仮眠が2時間だったりと、かなり過酷な作業をこなしたわけだが、皆のために現場監督しにやってきた。
「ていってもフラフラじゃないか…」
「和輝、俺が眠ったら図面の読み方を教えるやつがいなくなるから。その間、現場監督を代わりにやってくれないか?」
「出来る範囲ならな」
「この緑の線が電気コードの配線なんだ。見やすいように、だいたい色づけはしたんだけどさ」
 図面を広げると静麻は指を指しながら、どれが何の指示なのか教える。
「照明の位置は天伏の方に書いておいたぞ」
「こっちの平面図にはないんだな?」
「あまり書き込むとゴチャゴチャするし、そっちは色づけして何の什器を置くかとか、寸法を入れなきゃいけないからな」
「で…側面図の方に、エレベーターとか設置する部品の詳細が書いてあるのか」
「納品書に使うものが書いてあるいてるから、それを見ながら頼む。とりあえず、噴水と待合室の方を見てやってくれないか?」
「あぁ、任せろ。行くぞ、アニス」
 自分の後ろに隠れている少女の手を引き、図面を抱えてそこへ向かう。
「ふぅ…電力装置を置かなきゃいけないから、結局3階分か…」
 気が遠くなりそうだな…と静麻はため息をつく。
「まずは床部分から造るぞ」
「板を並べたり接着剤を使うとか…、面倒なことが多いんだな」
 パートナーの指示通りに刹那は床材を運び、図面を見ながら作業をする。
「そのまま石のタイルを敷くわけにもいかないからな」
「ん〜まぁ、そりゃそうだけどな」
「で、それが終わったら外壁部分を造りながら配電も頼む。その後、内壁の作業だからな」
「げっ!?なんか急に人使いが荒くなってないか…」
「―…え、何か聞こえた気がするんだけど」
 刹那に限ってこれくらいでボヤくはずないよな、と爽やかな笑みを浮かべる。
「あははっ。気のせいだ、気のせい!さぁ〜て…仕事しなきゃなー」
 ひゅーひゅ〜♪と口笛を吹いてごまかし、地面に板を並べていく。
「凄いですね…これだけの人数で、基礎工事が3日で終わってしまうものなんですか?」
 環菜と視察に来た陽太が、感歎の息を漏らす。
「イコンでやってもらった部分もあるけど、後は…皆のチームワークのよさだな」
 夫婦の存在に気づいた静麻は図面から2人へ視線を移す。
「(とはいっても、労働時間がすごそうだわ。当初のプランよりも規模を小さくして設計したみたいだけど)」
 気を利かせて咲は少し離れたところでスケジュール表を見る。
「それだけじゃ厳しいように思えますが…。体力もそうですが、気力もかなり必要でしょうし」
「どれくらいかかりそうかしら」
「うーん…レールが完成する頃に合わせて、なんとかしなきゃな…」
 静麻はパートナーの傍にしゃがみこみ、教えながら進めるしかない、と困り顔をしつつ言う。
「ちょっと気になったんだけど、湖が近いから水力発電にするの?」
「いや、明らかに人数が足りないというころもあるけど、周辺の外観を損ねないか心配だし。電線を使うのも見た目的にもな…。今はビリジアン・アルジーから抽出した熱量を、少し使わせてもらう感じにしようかと思ってるんだ」
「なるほどね。でも、ずっとそれを使うわけにはいかないわよね?」
「微量でも当分持ちそうなんだ。環菜の言う通り、それだけっていうわけにもな。駅舎に店なんかが入ったら、その廃熱の熱発電を利用したいと考えている」
「それでも多少、二酸化炭素が出てしまいますけど、その辺は考えてありますか」
 運営していくために大きな課題を残さないよう、陽太が静麻に質問する。
「アダマンタイトの加工に使われたっていう道具の機能を応用して、循環浄水器を発注してるんだ。炭素と酸素に分解して排出してやればいいかと思ってさ。固体化させた炭素は、予備電力に貯蓄しておく感じだ」
「建築ってそこまで考える必要があるんですね」
「完成してから付け加える方が大変だったりするしな」
「確かに…搬入のこともありますからね。忙しいのに、状況説明してくださってありがとうございます!」
 なるほど…と頷き、ぺこりと丁寧に頭を下げて礼を言い、別の建設現場へ移動する。






 陽太と環菜が待合室と噴水を建設しているところへ行くと、光がノコギリでギコギコとレンガに切れ目に入れている。
 切れ目にタガネを当てた詩穂は、それをハンマーで叩いて割る。
「これも随分と地道な作業ですね…」
「大きな工作を造っている気分です☆循環浄水器も届いたので、粗方造ったら配管をつなげたりしていくんですよ♪」
「皆さんにばかり任せて申し訳ないんですし…。今日のお昼と晩ごはんは俺が手配しますよ」
「あぁ、それならアニスが用意したから。昼は大丈夫だ」
「後ろに隠れてる女の子のことですね?」
 和輝の後ろにサッと隠れてしまった少女をちらりと見る。
「じゃあ…夕飯はここに持ってきますか?」
「そうだな。今日も22時くらいまで作業してると思うからな」
「毎日、そんな時間まで!?」
 ありえない労働時間に陽太は驚きのあまり声を上げる。
「人手が足りないってこともあるが。かといって、まったく知らない外部のヤツに任せるたくないしな」
 理王たちが設置するセキュリティのこともあるし、ただの一般の外部の人々を手伝わせるわけにもいかないからだ。
「さっきの不穏な動きや、万が一のこともありますからね」
「不穏な動きって、何かあったのか?」
「いえ…ちょっと。でも、解決しましたから大丈夫ですよ」
 いたずらに不安を煽るだけだし、猛たちと話したことは伏せておこうと、笑顔でごまかした。
「妙なことになってなきゃ、深く聞かないでおくが…」
「はい、その件はこっちで片付けましたからね。それはそうと、余ったレンガはどうしましょうか」
 中途半端なサイズじゃ、使い道がないしゴミになってしまうのか、と首を傾げる。
「また別の機会に建設作業でもあった時、建物の角に使おうかとな」
「それでも余りそうな気がしますね。こうやって…お土産用の小物に作り変えて、売るのもいいかもしれませんよ」
 陽太はそれに相応しい物を試しに作ってみようと、タガネでレンガをガリガリと削る。
「へぇー…噴水の完成イメージをベースにしたのか。真ん中にいる女神っぽいのは…何だ?設計図にはないんだが」
「―…えっ?」
「あらら〜、誰かに似てますね☆」
 その女神のイメージが誰なのかピンときた詩穂がにんまりと笑みを浮かべる。
「この暑さは気温のせいだけじゃないってか?」
「あわわわっ、こ…これは…そのっ」
 光にまで見られ、陽太は慌ててそれを背の後ろへ隠す。
 隠したものは玄関にありそうなちょっとした飾りのような感じだが、問題は噴水の中央にいる女神の姿だ。
「きゃぁあ〜♪見ましたかーっ!?これは大スクープですよ!」
 建設現場の状況を撮影しにきたオルフェリア・アリス(おるふぇりあ・ありす)が、思いがけないシーンを目撃し、その光景をさっそくレンズを向ける。
「刀真、大変よ。ライバルが現れたわ」
 むむっと眉を潜めた漆髪 月夜(うるしがみ・つくよ)は自分たちも撮ろうと交渉に向かう。
「堂々と撮影するとアレを隠されてしまうかもしれないわね…」
 彼女たち同様、こっそり映すか彼に聞く。
「いえ、ここは交渉しましょう!そして記録するんです」
「フフフ…。それに今更恥ずかしがることもないはずよ」
「えっ、やけに楽しそうですね」
 カバンに隠される前に撮ろうと走る彼女の姿に目を丸くする。
「建設現場の撮影をさせてもらってもいいですか?」
 月夜に目配せされ、まずはその光景を映そうと、光と交渉する。
「構わないぜ!」
「あらっ、それはレンガで造ったのね?」
 陽太の後ろにカメラのレンズを向けた月夜がわざとらしく言う。
「はわわわっ、ここここれはそのっ」
「キレイ〜、噴水の中央に女神がいるわ。テーブルの飾りとかによさそうね」
「それは観光地のお土産品のサンプルなのですか?」
「えぇ〜!?い、いけませんっ。環菜のは売物じゃありませんから!!ていうか、絶対販売しないですよっ」
 さっとカバンの中にしまい込み、彼女の手を引いてその場から逃げるように走る。
「ちょっと!何もそんなにムキにならなくてもっ」
「売物にしたくなかったんです…。はっ!!いえ…俺としたことがつい…」
「最初のサンプルとしては、上出来なほうかしら?」
 自分そっくりの女神がいるそれを、彼のカバンの中から奪い取る。
「これ、私がもらっておくわ。モデル料としてね」
 世界にたった1つしかない夫の手作りのものを、大事そうに抱える。
「は…はい!」
「ただし、量産は禁止よ?」
 ニッと美しく笑って見せると、次なる現場へ夫と共に視察へ向かった。