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【蒼空のフロンティア秋祭】秋のSSシナリオ

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【蒼空のフロンティア秋祭】秋のSSシナリオ
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リアクション


chapter.2 漢コンテスト(2) 


 漢コンテスト。それは肉体審査と実技審査による二段階審査で、誰が最も漢かを決定する過酷な催しである。
 彼らが大声で騒ぎあっていたせいか、周囲にはギャラリーができ始め、それなりに催し物としての体を成していた。
「肉体審査だったら任せろ!」
 そうして盛り上がる雰囲気が生まれつつある中、コンテスト開始早々、積極的にアピールし、下半身も脱ぎだしたのはラルクだった。彼はふんどし一丁となり、その鍛えあげられた圧倒的な筋肉で衆目を集めた。そのたくましい肉体とどっしりとした体格は、漢という文字がとてもよく似合っていた。
「ほう……」
 これにはナガンも思わず声を漏らした。そして、そばで感心していた者がもうひとり。
「お兄さん以外にも、その領域にたどり着いた人がいたんですね……!」
 思わずそう呟いたのは、クド・ストレイフ(くど・すとれいふ)だった。そんな彼も、ラルク同様に衣服のほとんどを脱ぎ、パンツ一丁で立っていた。
 ラルクと比べるとややたくましさには欠けるが、その潔さはラルクに対抗意識を燃やさせた。
「お、いい脱ぎっぷりだな! でも負けねぇぜ!?」
「真理の扉を開けるのは、お兄さんひとりで充分ですよ!」
「真理……?」
 パンツ一丁で何を言ってんだこいつ。ヨサークは、当たり前の疑問を抱き、それを口にした。クドは、それを待っていたかのように自らの哲学を語りだす。
「世の中には、太極という概念があるじゃないっすか?」
 太極。それは、万物が陰陽ふたつの気に分かれる以前に存在する気であるという観念だ。もちろん、パンツとは一切関係ない。しかしそれは、我々一般的な思想からの判断である。クドにとっては、パンツしかはいていないこの状態も、大いなる宇宙観と密接な繋がりを持っているのだった。
 もうこのへんで既に何を言ってるか分かんないと思うが、今しばらく、クドの持論を見守っていこう。
「衣服を着用しているという状態は、陰と陽で言えば陽……着て当たり前、人前を堂々と歩けます。逆に全裸という状態は陰……通常なら羞恥心が生まれ、人前に出れば非難も浴びます」
 陰だの陽だのと言っているが、内容としては至極当然のことである。が、ここからがクドの到達した真理だった。
「そして、今お兄さんがなっているこのパンツ一丁という姿が、まさに陰と陽、その狭間の状態なのです! どちらに傾くでもなく、一枚の布切れで陽の要素を保ちつつ己が肉体を露出し陰の要素も併せ持つ……つまり、パンツ一丁は太極を体現せし姿ということ!」
 熱くなり、拳を握りながら力説するクド。彼がボルテージを上げ熱さのあまり汗を流す一方、周りも汗を流していた。「こいつやべえな」という冷や汗である。真理とか言い出した時点で怪しかったが、今の彼はすっかり心身ともに危ない状態である。色々な意味で。
「パンツとは! パンツ一丁とは!! 宇宙のエネルギーを包括しているんです!! 感じるでしょう? この、パンツ一丁の姿から、輝くコスモを!!」
 話が宗教チックな方向になってきたところで、さらに変な人が話に入ってきた。
「なるほど、それがあなたの漢ですか……お陰で知識の幅が広まりました。では次は、お返しに私の漢を見せましょう」
 何やら不敵な笑みを浮かべながらそう言い放ったのは、東園寺 雄軒(とうえんじ・ゆうけん)である。
 彼はゆっくりと自らの衣服に手をかけ、下半身を露出させていった。と言っても、勘違いしないでいただきたい。いわゆるアレを露出させたのではなく、むしろ反対、晒したのはお尻だ。意外にも綺麗なお尻が、露になった。
 が、その緩やかな曲線は漢を形容するには相応しくないものであった。肉体の9割を晒しているラルク、クドは雄軒を見て彼の敗北を確信する。
「なんだ? そんな中途半端で俺に挑むとはいい度胸だな!」
「もはや宇宙そのものとなったお兄さんは、そんなものではびくともしませんよ!」
 念のため断っておくとこれは脱いだもの勝ちの試合ではないのだが、ともあれふたりは、雄軒よりは上だろうと思って疑わなかった。
 しかし、雄軒は特に慌てた様子もなく、不気味な言葉だけを残した。
「今はこれで良いんですよ。今は、ね……」
 もちろん、お尻はオープンなままだ。
「真理とかどこまで脱いだとかいいから、ほら、誰が一番男らしいかさっさと判定を」
 一連の流れに溜め息を吐きつつ、虚雲がさりげなく自分の上半身を披露した。なんだかんだ言ってちゃんと参加はしている虚雲の体は、以前水泳か何かをやっていたのだろうか、痩せ型ながらも筋肉質だった。たぶん一番女の子にモテるタイプの体つきだ。羨ましい。
「どれも五分五分だな……」
 ラルク、クド、雄軒のお尻、虚雲を見渡し、ナガンが甲乙付け難いといった表情を浮かべる。それを見ていたヨサークは、また疑問を口にした。
「つうか、おめえが判定すんなら俺いらねえんじゃねえのか」
「いやっ、イケメンヨサークさんにはちゃんと最終的に審査を……というわけで、次、実技へ移るぞ!」
「今のもよく分かんねえけど、実技ってなんだ、何すんだ」
「これは、各々が漢だと思う行動を取ってもらって、それを審査する感じで」
 掻い摘んだ説明をヨサークにした後、ナガンは早速参加者たちに実技を求めた。が、いきなりそう言われても取っ掛かりがないと動きづらいのも事実。そこでナガンは、手始めにラルクを煽ることにした。
「その股間の膨らみって、パッドでも入れてるんスカ?」
「ああ? パッドじゃねぇよ! だったら見せてやるよ!」
 気持ち良いくらいナガンの言葉に食いついたラルクは、ふんどしに手をかけた。まさか、この人だかりの中、脱ごうというのだろうか。
「せっかくの宇宙エネルギーを、手放すんですか? ならその隙に、お兄さんがエネルギーを開放しましょう!」
 その動きを止めたのは、クドだった。そう、彼の中では、下着一枚の姿は宇宙なのだ。彼の中では。
「お兄さんなら、この宇宙の如き広い懐で、ありとあらゆる暴力すべてを抱擁してみせます!」
 そう言うとクドはギャラリーの中にいたパートナー、ハンニバル・バルカ(はんにばる・ばるか)に目配せした。
「……クド公、何がそこまで駆り立てるのだ。とりあえずアシスタントとしてやるべきことはやっておくのだ」
 クドの送った目配せは、ハンニバルへの合図だった。クドが実技に選んだのは、彼の言葉通り、暴力を包みこむパフォーマンスだった。ハンニバルは合図を受け取ると、おもむろにクドに向かって歩み寄り、そのまま軽やかに飛び跳ねた。そして。
「とうっ、なのだ」
 宙に舞った状態で体を捻りつつの、回し蹴り。ハンニバルの膝が、クドの頭にジャストミートした。
「ぶふぁ……っ! まだまだ、もっとください!」
「こんな感じか? なのだ」
「ぶっふぉ」
「いや、もうちょっと助走をつけて……こうなのだ」
「ぶべらっ」
 そこに広がった光景は、なんとも恐ろしいものだった。クドはハンニバルに数えきれないほど殴られ、蹴られ、鉄球を当てられ、関節技をきめられていた。
「いてて、いてっ……ど、どうですか皆さん、この包容力! これがコスモです!」
 これだけボロボロにされているのに、クドはどこか満足気な表情だ。
 まだ足りないかもしれない、と判断したハンニバルは「ついでにストレスが溜まってる女性は、サンドバッグ代わりにするのだ」とギャラリーから人を募りだした。が。
「女が男を数でいじめようとしてんじゃねえ! 減点だ!」
 そこに、審査員ヨサークの声が飛ぶ。そう、彼はその性格上、明らかな男性びいきの審査員であり、このジャッジは至極当然な流れなのだ。
「お、お兄さんなら大丈夫です! いやむしろもっと多くの女性にやってほしかったというかそれが気持ち良いというか……」
 腫れ上がった顔面で、クドが力説するがあまりにも言い分が常軌を逸していたため取り合ってもらえなかった。
「……クド公、これ以上恥を晒すのはやめるのだ。せめてボクが、その思いを成仏させてやるのだ」
「え、成仏ってぐぶあっ!」
 ある意味優しさという感情で、ハンニバルはクドの顔面に正拳突きを見舞った。クドは満面の笑みを浮かべながら、ぐらりと白目をむいて仰向けにダウンした。
 倒れる寸前、彼が抱いた感情は感謝であった。自分をここまで高みへと押し上げてくれた宇宙への感謝。この正拳突きは、その証書代わりなのだろう。まさに感謝の正拳突きだ。

 さて、クドが失神したことで他の参加者は優勝の可能性がグッと高くなったわけだが、同時に彼のパフォーマンスは方向性を間違った方へと変えてしまった。
 まあ、そもそもこのコンテストが開かれていることがもう間違いじゃねえかという話だがそこは触れないでおこう。
 自らの肉体を虐げ、それを実技として披露したクドを見ていたラルクは、大きな勘違いをしていた。
「なるほど、実技ってのはこういうことか。なら、これでどうだ!!」
 ラルクは自らの肉体を隠すものすべてを取り払い、その姿のままどこからか縄を取り出した。
 そしてなんと、あろうことかその縄できつく自分の体を縛り始めたのだ。それも、ただ縛っているだけではない。俗にいう、亀甲縛りというヤツだ。一体彼は、何を思ってこの奇行に走ったのだろう。ここで、ラルクの脳内を覗いてみたいと思う。
 肉体を見せるだけじゃダメなのか。
 実技? 実技ってなんだ、何すればいいんだ。
 なんだ、アレ? 自分の肉体をああやって技を食らうことでアピールしてるのか?
 なるほどな、つまり、実技ってのはどれだけ自分の肉体に無茶できるかってことか!

 以上が、ラルクの心理である。
 突然あられもない姿になったラルク――コンテスト開始時から割とあられもなかったが――に、ギャラリーからは悲鳴にも似た声が上がる。それを歓声と受け取ったのか、ラルクの行動はエスカレートしていった。
「俺の本気は、こんなもんじゃねぇぜ!?」
 言って、ラルクは下半身に意識を集中させると、その一部分に血液を凝縮させた。具体的な場所はちょっと書けないが、いわゆる光条兵器である。
 露出し尽くした肉体と、それを官能的に縛る縄。そして下半身は威力を増した光条兵器。完全に通報されるレベルだ。
「なんだったら、縄じゃなくて有刺鉄線とかでもいけるぜ!?」
 いけるぜ、じゃねえよと心の中で人々がつっこんだ。もはや警察が駆けつけるのも時間の問題ではないかと思われるこの戦場は、さらに熱を帯びていく。
「漢は、ただ考えなしに肉体を見せびらかせば良いというものではありませんよ」
 暴走しかけていたラルクの独壇場を破ったのは、お尻を出しっ放しの雄軒だった。雄軒は、ようやく自分の出番が来た、とでも言いたげな表情で熱く語る。
「目だけでは見えないものもあるでしょう。いいですか、よく聴いていてください。この筋肉が生み出すリズムを!」
 言うと、雄軒は露出しているお尻を突き出し、そこにすっと手を添えた。高級レストランの料理風に言えば、「パラ実産東園寺雄軒のぷりぷりヒップ〜右手添え」である。
 そして、次の瞬間。
 パン、パパン、と小気味良い音が軽快なリズムで辺りに響いた。それは、言わなくても分かると思うが雄軒が自らのお尻を叩いている音だった。
「これぞ知識のリズム! 震えますよハートッ!! 刻みますよビート!!」
 パン、パン、スパパン。パン、パン、スパパン。
 あたかも打楽器を奏でるアーティストのように、雄軒は己のお尻を叩き続けた。知識のリズムとか言いながらひたすら尻を殴打するその様は、まごうことなき奇人のそれであった。
「な、なんだこれ」
 これには思わずヨサークも開いた口が塞がらない。周囲の者もそれは同じだ。雄軒はこの芸術が理解を得ていないと察し、仕方なく自分で解説をした。
「よく、ケツは知識の打楽器って言うでしょう。つまりはそういうことです。一発一発に、魂を込めるんです」
 その間ももちろん、パンパンと珍妙な音は鳴り続けている。ラルクの場合はまだ心理が理解できたが、彼に至っては言ってることもやってることもまったく常人には理解できなかった。だが、得てして芸術家というのはそんなものなのかもしれない。
「セイッ、ハイッ、ハイッ!」
 一心不乱に尻を叩き続ける雄軒。もしこの世にお尻が楽器として認められていたならば、彼の演奏は高く評価され、音楽界にその名を残したことだろう。まあ、認められてないけど。
「まだまだいきますよ!」
 さらに雄軒は、なんと鉄のフラワシを出現させると、お尻やその他諸々が丸出しなラルク、そして失神しているクドのお尻もそれで叩き始めた。彼にとって、目に見えるお尻はすべて打楽器なのだ。もう病気だ。
「そこのあなたも! さあ!」
 雄軒の手は、ついに虚雲にまで伸びた。が、そこはこの中でまだ常識がありそうな虚雲。断固として拒否する。
「俺は一般人なんだッ! コイツらのよーな変態じゃない!」
「大丈夫です、叩き過ぎて腫れたら慈悲のフラワシで癒しますから。その後もう一度叩きますから」
「じゃあ大丈夫じゃねーじゃん!」
 必死に常識を守ろうとする虚雲だったが、追い打ちをかけるようにナガンが煽った。
「そんな当たり前のことを言って、親に恥ずかしくないのか!」
「それおかしいし! 恥ずかしいのはコイツらの方!」
「いいや、そのびびってる感じは充分恥ずかしいぞ!」
「び、びびってなんか……!」
「本当に? だったらこれを着て、びびってないことを証明するんだ!」
「おう……って、え!?」
 見事な誘導で、虚雲はナガンからある衣装を手渡された。それは、どこからどう見ても女物の下着……ビスチェだった。ナガンは、してやったりといった顔をしている。それが妙に悔しくて、口車に乗せられたと分かりつつも虚雲は威勢よく言い放った。
「着ればいいんだろ着れば! 俺とか、女物の下着ちょーぴったり似合うし!」
 おあつらえ向きに、虚雲は肉体審査を終えたばかりで上半身が裸だ。当然、その場で虚雲の着衣ショーが始まる。
 そして、着替え終わった虚雲の姿は、周囲の者たちの眉を一気に潜ませた。
 虚雲が身につけた黒のビスチェは、なまじセクシーさを強調するため、かなり透けていた。先ほども述べた通り、虚雲は上半身裸でこれを身につけている。
 となれば、必然的に発生する状況として、乳首透けというものが考えられる。考えられるというか、実際透けていた。この時点で男らしさのおの字も見えなかったが、ヤケになった虚雲は体を派手に動かし、存在をアピールし始めた。
「ほらっ、こんだけやったら充分だろっ!」
 なぜかチョイスがレゲエダンスという官能チックな踊りなのはご愛嬌だ。
「いいぞ、やればできるじゃないか! お前らのポテンシャル、もっと見せてくれ!」
 亀甲縛りのラルク、お尻奏者の雄軒、乳首透けの虚雲。そして失神していたクドもようやく目を覚まし、また宇宙宇宙とうつろな目で呟いている。
 もうお分かりかと思うが、ここにきてコンテストの趣旨は、漢を決めるものではなく最も危険な人物を選ぶというものに変わっていた。
「これなら、誰が優勝しても納得だ……!」
 彼らを眺めるナガンは、すっかり満足しきっている。
 が、ここで4人はナガンに違和感を覚えた。それは、単純で当たり前のものだった。

 ――そういえば、この人だけ煽ってるだけで何もしてなくない?

「そうだよな、俺たちだけ羞恥プレイなんて不公平だし!」
 虚雲がどこからか、自分が着ている黒のビスチェと対照的な白のビスチェを取り出すと、ナガンの服を無理やり脱がし、ギャラリーの前で生着替えショーを始めた。
「そういや縄がもう一丁あったな……うっし、お前も縛ってやるよ! おらぁ!!」
 ラルクは、勢い良くナガンの体に縄を巻く。そのまま彼はぎゅうっと締め付け、ナガンは声にならない声を上げた。
「そういえばそのお尻は叩き忘れていました……君がッ、泣くまでッ! ケツパンするのを止めないッ!!」
 乱暴に女性下着を着せられ、その上から亀甲縛りにされたナガンの尻をめくると、雄軒はパンパンスパパンとお馴染みのリズムでそれを叩いた。
「……この場合、きっとこれが正しい判断なのだ」
 すっかりお尻が赤くなったナガンに向かって、ハンニバルがげしげしと何度もお尻を踏みつける。
「んっほー!」
 歓喜とも悲鳴ともとれる声を上げたナガンに、クドが顔を近づけ耳元で囁く。
「宇宙のエネルギーが発生してますねえ。コスモを感じますよ」
「……なんだこれ」
 その様子を見せられたヨサークは、すべての人たちの気持ちを代弁した。しかしそんな彼にも、魔の手が迫る。
「頭領頭領、俺は頭領の漢らしいとこも見せてほしいな!」
 ラルクがヨサークのコートの裾を掴んで、目を輝かせながらそう言った。彼の返事を待たずしてラルクは衣服を脱がせると、ヨサークのたくましい肉体が露になった。
「おいおめえ……っ」
 ちょうどその時だっただろうか。サイレンが大きく鳴り、警察が駆けつけたのは。
「警察です! ここで変質者が騒いでいると通報がありました!」
 現場を見渡し、彼らが誰ひとりまともな格好をしていないのを確認した警察は、とりあえず交番へ一同を連行することにした。
「いや、俺は今脱がされたばっかだっつうの! 審査しろって頼まれてここに来ただけだ!」
 ヨサークの抵抗する声が虚しく響く。確かに、今回一番の被害者は彼だったのかもしれない。いや、被害者という言葉を使うのであれば、このコンテストに参加した彼ら全員だろう。
 そう、彼らもまた、この窮屈な現代社会という闇によってつくりだされてしまった被害者なのである。