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第四章 ストアハウス・ファッションショー 1

 さて、もちろん服の種類によって多少のバラつきは生じるものの、「服を運ぶ」のと「服を着る」のではどちらが時間がかかるかというと、やはり圧倒的に後者である。
 そのため……かはどうかは定かではないが、仕事が始まってしばらくすると、次第に「ひたすら服の試着・着せ替えを繰り返す者」と「ときどき衣装を変えながら服を運び続ける者」、そして「最初に受け取った服のまま黙々と服の搬出に従事するもの」の三つのグループに分かれてきたのであった。





 倉庫内のあちこちに急遽設けられた着替え用のスペース。 
「〜♪」
 そのうちの一つをほぼ占拠する形で、嬉しそうに着替えを繰り返しているのはセレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)である。
「それにしても……あたしって、本当に何着ても似合っちゃって困るわよね」
 姿見に映った自分を眺める彼女が今身につけているのは、レースクイーンの衣装である。
 これで普段と露出度が大差ないか、あるいは普段よりもむしろ抑えめという辺りからも、彼女が自分の美貌にいかに自信を持っているかがうかがい知れるというものである。
 一応、最初に工場に入る際は百合園女学院の新制服を着てきたのだが、そんなものはすぐに脱いでしまった。
 何しろ、「一度は着用した服でなければ出荷は許さない」というのであるから、とにかくひたすら着替え続ける者も必要となってくるのである……という建前で、延々と試着を繰り返しているのだから。
 もっとも、セレンフリティの場合、一着着ては姿見を見て悦に入り、時にはデジカメで自分撮りを始めたりしているのだから、仕事の効率としてみれば必ずしもいいとは言えなかったが。
「各校の新旧制服、この秋の新作モデル、コスプレ衣装にアイドルのステージ衣装、フォーマルなドレスやお堅いスーツ、お店の制服にスポーツユニフォーム……やっぱりモデルがいいと服もますます輝くわよね」
「はいはい」
 ちょっと突き放し気味に対応するのは、彼女の相棒のセレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす)
「何よ。セレアナだって楽しんでるくせに」
「セレンほどじゃないけどね」
 最初は意図的にファッションモデルと勘違いしているかのようなセレンフィリティに呆れていたセレアナであったが、いくらクールな彼女とはいえ、やはり一人の年頃の女性である。
 こういう機会でもなければなかなか袖を通すチャンスなど回ってこないであろう服が手の届くところにあり、しかも「仕事」という建前でそれを試着できるというのは、やはり抗いがたい誘惑なのである。
「まあ、そうよね。セレアナ、あんまりチャレンジしてないもんね」
 セレンフィリティの言うように、彼女がよくも悪くもバラエティ豊かに、というかほとんど手当り次第に試着しているのに対して、セレアナは自分の路線をしっかり守っていた。
 具体的に言うと、比較的甘さ控えめの、落ち着いたものを中心に選んで着ていたのである。
「たまにはこういうのもいいと思うけどなぁ」
 そう言いながらセレンフィリティが持ってきたのは、ひらひらのたくさんついたゴスロリのワンピースであった。
「さ、ほら、着てみてよ」
「……仕方ないわね」
 そう言いながらも、何となくセレンフィリティに言われるままに袖を通してみると、これがまたなかなか似合う。
「ね、こういうのも似合うじゃない」
「そう? ありがとう」
 あくまでクールに対応するセレアナに、セレンフィリティは早速次の衣装を取り出した。
「それじゃ、次はこんなのはどう?」
 彼女が選んだのは……普通にはまずお目にかからないような、それこそグラビアなどでしか見ないような布地の少ない水着であった。
「……それはセレンが着たら? だいたい、それでちゃんと仕事になってるの?」
 さすがにこれは勢いでは着てくれず、逆に手痛いカウンターを食らう。
「ちゃんとしてるわよ。こうして着用済みにしなければジョージアちゃんが出荷を認めないっていうし」
 反論するセレンフィリティに、セレアナは一言こう続けた。
「で、調子に乗ってタダで服を貰おうなんて思わないでね」
 これにはさすがに痛いところを突かれたセレンフィリティ。
「か、買うに決まってるじゃない!」
 明らかに動揺しているとわかるその様子に、セレアナはやれやれとばかりに首を横に振った。
「はぁ……やっぱり図星ね」