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衣替えパラノイア

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第一章 着せ替え狂想曲 5

 さらにジョージアを悩ませたのが、魔鎧とそのパートナーの存在である。
「主よ! 私を解除されるのですか!?」
 いきなりそんな声を上げたのは、アウレウス・アルゲンテウス(あうれうす・あるげんてうす)
「そんな顔するなアウレウス、このアルバイトの間だけだ。俺があなたを嫌うわけがないだろう」
 すぐにパートナーのグラキエス・エンドロア(ぐらきえす・えんどろあ)が彼を宥め、どうにかことなきを得る。
 とはいえ、アウレウスは一応素直に人型になってくれるだけまだまだマシな方であった。

「ほら〜? お仕事だから人型モードになってくれないかしら〜?」
「嫌だ」
「い、嫌って……即答で片付けないでよ〜!? 入る為には着ないといけないのぉ、ね?」
「着る位ならロボを倒せばいいんだ、できるだろちみっ子」
「ちみっ子!? 普通に呼びなさいよ〜!」
 自分が着ている魔鎧、ホープ・アトマイス(ほーぷ・あとまいす)と言い争っているのは師王 アスカ(しおう・あすか)
「自分が着用している魔鎧と言い争う」と文字で書いてもイマイチ把握しづらいかもしれないが、端から見ると声色を変えながら自分で自分と言い争っているようにしか見えず、滑稽なことこの上ない。
 この光景にあっけに取られているジョージアに、アスカは突然こんなことを言い出した。
「ジョージアちゃん! この中で一番可愛い衣装をちょうだい!!」
「はあ、ではこれを」
 ぽかーんとしたまま、言われるままに衣装を選ぶジョージア。
 彼女が選び出したのは、なんと見事に真ピンクの、大量のフリルのついたロリータ系の服だった。
(ぐ、まさかそのチョイスがこれとは……恐ろしい子!)
 さすがのアスカも一瞬固まりかけるが、すぐに気を取り直してこう言った。
「こんな服を魔鎧の上に着るなんてさぞや辛いでしょうね〜?」
 むろん、端から見ると独り言だが、実際にはホープへの強烈な牽制である。
「な!? こんなの上に着られたら俺まで辛い……! 正気か!? やめろ!?」
 辛いのは当の本人たちだけではなく、見ている方だって辛くなるような気がする。主に笑いを堪えるのが大変という意味で。
「さあ〜……これを着て欲しくなかったら大人しく人型になりなさ〜い!」
「この鬼! 魔鎧いじめー! 誰が言うことを聞くもんか!」
 再び言い争いを再開するアスカとホープ。
 お互いが全く譲らないのには、実はれっきとした理由があった。

 アスカのもう一人のパートナー、ルーツ・アトマイス(るーつ・あとまいす)
 姓を見ればわかる通り、実は彼はホープの双子の兄なのである。
 しかしながら、過去にいろいろあったこともあって、ホープはルーツに正体を明かすことを拒んでいる。
 そのために彼が取った手段が……「常に鎧形態のまま、アスカに着られていること」であった。
 ホープはそれでいいかもしれないが、着せられているアスカの方はたまったものではない。
 かくして、「どうにかしてこの機に人型をとらせたい」アスカと、「何が何でも人型になりたくない」ホープの熾烈な攻防が繰り広げられることとなってしまったのである。

 ……が。
 そんな事情を全く知らないルーツからすれば、この熾烈な争いもただの痛々しい一人芝居もどきにしか見えない。
「ジョージアさん」
「何でしょうか?」
 我に返ったジョージアに、ルーツは淡々とこう告げる。
「この二人の意見は無視していいから、さっさと着させてあげてくれないか? これじゃ仕事がはかどらない」
 そして、近くにあった衣装の中から二つほどを手にとると、アスカたちの前にそれを突きつけた。
「二人とも、そんなにその衣装が嫌ならこの中から選べばいいだろう?」
 その言葉に、アスカたち二人は(当たり前だが)同時に振り向き――そして、同時に固まった。

 ルーツが差し出した衣装の片方は、まさかの本格的な十二単。
 その重量は概算で約10kg強とも言われる、とてつもなく重い服装である。
 そしてもう片方は、なんと笹飾りの着ぐるみであった。
 中身のたっぷり詰まったもこもこの分厚い着ぐるみの中は、きっとそうとう暑いであろうと考えられる。

「る、ルーツがまた黒い……」
「ロリータを免れてもこの究極の選択って……」
 あまりのことにあぜんとする二人に、ルーツは笑顔でこう言い放ったのだった。
「さあ、好きなの選べ」