シャンバラ教導団へ

百合園女学院

校長室

薔薇の学舎へ

衣替えパラノイア

リアクション公開中!

衣替えパラノイア
衣替えパラノイア 衣替えパラノイア 衣替えパラノイア

リアクション


第一章 着せ替え狂想曲 4

 とはいえ、皆が皆ジョージアの指示に完全に従っていたわけではない。
「ねえジョージアちゃん、私に似合うのはロイヤルガード制服ですよね、ね?」
 顔にはにこやかな笑みを浮かべながら、周囲を圧倒する修羅の闘気を放ちつつ、服装を「逆指名」しているのは、志方 綾乃(しかた・あやの)である。
「ね?」
 戸惑うジョージアに、あくまで友好的な表情を作りつつ、さらに一歩詰め寄る。
 そこへ警備ロボットの一機が東ロイヤルガードの制服を大急ぎで運んできたのは、実に空気の読める行動であると賞賛せざるを得ない。
 ジョージアとしてもこの助け船に乗らない手はなく、結果的に制服はジョージアを介して直ちに綾乃の手に渡る。
「ま、就業規則で決まってるなら役畜はそれに従わなきゃいけない訳で。これも明日のおまんまのためです、志方ないね〜」
 そんなことを言いながら着替えに向かう綾乃の様子は、もちろん、全然「規則だから」という感じではなかったのだった。
(んふふ。これ一度着たかったんですよねー、これ着て権力をカサに偉そうにふんぞり返りたかったんだよねー)





 そしてさらに面倒なのが、「そもそも指示の出しようがない」相手である。
「ところでジョージア、これはちょっとした疑問なのだが……私に合うようなサイズの服もあるのだろうか?」
 普通の相手にこう尋ねられたならば、ジョージアは嬉々としてその相手にあったサイズの服を差し出したことだろう。
 ところが、質問の主が身長280cmもあるメタルボディのロボット、コア・ハーティオン(こあ・はーてぃおん)となると話は違ってくる。
「い、いや! 私のような巨体を持つ者も服を着なければいけないのならば、外でただ待っているよりは、何か着られる物があるならば洋服という物を着て、皆と一緒に働きたいかな〜……などと……」
 ロボットなのであまり表情はよくわからないのだが、照れたような様子でそう言っているハーティオンを見ていると、「服を着てみたい!」と思っていることが痛いくらいに伝わってくる。
 服を着たがらない相手にも着せるくらいなのだから、服を着たがる相手にはぜひ着てほしいものなのだが、さすがにこのサイズの服などそうそう見つかるものではない。

 しかも、ジョージアの悩みの種はハーティオンだけではないのである。
「わ゛た゛し゛も゛、か゛わ゛い゛い゛ふ゛く゛が゛き゛た゛い゛な゛」
 ハーティオンの隣で明らかに無茶なリクエストをしているのは、これまた身長約250cmの筋骨隆々の巨体をもつ仲良 いちご(なかよし・いちご)
 服があるかどうかだけならハーティオンよりは多少可能性がありそうだが、「かわいい服」となるとさすがに期待薄である。
 さらに、その様子を見てやってきたのは身長約220cmの……というとプロバスケットボール選手か何かならどうにかありえる身長の範囲だが、この人物――ゴルガイス・アラバンディット(ごるがいす・あらばんでぃっと)はドラゴニュートなのだ。
「ふむ……我の体格と形状で着られる服などないかと思ったが、この二人が大丈夫なのだとすれば、我も着られるものがあるやも知れんな」
 もうこれ以上ないジェットストリーム無茶振りに、さすがのジョージアも一瞬思考がフリーズしかかる。
 かといって、「見つかりません」などと答えようものなら、ハーティオンやゴルガイスはともかく、「見た目はともかく中身は純粋無垢な女の子」ないちごなどは泣き出してしまうかもしれない。
 そんないろんな意味での地獄絵図は、なんとしてでも回避したいところだったが……さすがにそのサイズの、しかも「かわいい服」など、さすがのジョージアにもすぐには思い浮かばなかった。

 救いの手は、思わぬところから差し伸べられた。
「はいはーい! ジョージアジョージア! あたしも服ちょーだい!」
 空気を一切読まずにやってきたのは、ハーティオンのパートナーでもあるラブ・リトル(らぶ・りとる)だった。
「ええと、少し待ってください」
 どうにか思考を再起動させたジョージア。
 そんな彼女の様子と、目の前のハーティオンを見比べて、ラブは呆れたようにこう言った。
「ん? ハーティオン? 着られるなら制服とか着たいんだろうけど、そんなのあるわけないし。とりあえずぬいぐるみでも着せとけばいいんじゃない?」
 その言葉で、ジョージアの目がきらりと輝く。
「皆さん、ちょっとだけ待っていてください」
 そう言うと、ジョージアはすぐにてきぱきと指示を出し……その十数分後には、ゴルガイスやいちごはもちろん、ハーティオンにも合うサイズの「服」が届けられたのであった。

「……って、それよりあたし! あたしの服の方が重要!」
「あ、すみません、忘れてました」
 この扱いにラブが思いっきりむくれたのは言うまでもない。